西村音響店

SONY TC-KA3ES の修理(フルオーバーホール)#2

 

 今回は、SONY TC-KA3ESのご紹介です。以前は1999年製のブラックカラーのKA3ESをフルオーバーホールしました。今回は兵庫県の方からご依頼をいただいた作業をレポートします。

 

 症状としては、扉があかず、早送りや再生などの動作ができないものです。これはメカを駆動するベルトの劣化によるもので、ESGシリーズから搭載されているメカニズムで多発する現象です。

 

 フルオーバーホールをご希望ということで、メカの整備、および電子部品の交換を行いました。

 

 先ずはキャビネットを開けます。KA3ESの整備は所有のデッキを含めると3台目になります。縦に3本のバーがあるのが特徴です。自動車で例えるとタワーバーになるかと思います。これによって、ボディの剛性が高まります。コストカットしようとするならば、この3本のバーを省略することも可能ですが、しっかり取り付けているところにはソニーの拘りを感じます。

 

 

 メカの取り外しをするため、中央のバーを外します。3本ともバーを外したとしても、真ん中にクッション用のウレタンが付いているのが中央のバーと分かります。

 

 続いては配線の取り外しです。システムコントロールに繋がるケーブルが3本、消去・録音・再生の各ヘッドの3本あります。前者の3本は、メカ側から、後者3本は基板側から取り外します。
 
 配線を外したら、メカを固定するネジを外して降ろします。

 

 ここからはメカ部分の分解です。ベーシックな222シリーズから、高級な555シリーズまで、それにESGシリーズからKAシリーズまで共通して採用されているメカですので、同機種同士であれば丸ごと移植も可能です。整備方法も共通です。

 

 前回に同じTC-KA3ESを整備した際のレポートでも、メカの整備について詳しく解説していますので、必要に応じてこちらもご覧ください。

 

 それでは、カセットホルダの取り外しから、メカ前面にある部品の取り外しです。

 

 カセットホルダはオープン状態で、メカ上部にある金属の黒い部品はクローズ状態で取り外します。
 

 金属の黒い部品とは、カセットのポジションやプロテクト(録音防止)がされているかを検出するスイッチを、オープン時にはスイッチを上に持ち上げ、カセットの取り出し/挿入をしやすくするためにあります。ちなみにAKAI・A&Dの3ヘッドデッキでは、これが無いために、カセットが入りにくいというトラブルが起きる原因になっています。
  

 続いてはメカの前面にある、リール関係の部品、ピンチローラー、ヘッドといった部品を取り外します。

 

 注意すべき点として、アイドラーギヤを軸に留めておくための、小さいストッパーのような部品があります。大変小さく、うっかり紛失してしまわないように慎重に取り外します。
 
 アイドラーギヤとは、モーターからリール台に動力を伝えるためにあるギヤで、遊星歯車(プラネタリギヤ)の構造を利用したものです。どちらのリールを回転させるかは、このギヤが決めています。

 

 続いては、キャプスタン、カムギヤ、DCモーターのある部分を分解していきます。

 この部分で注意する点としては、ギヤの軸においてグリースを塗る軸と塗らない軸があります。高速回転する部分にグリースを塗ると、回転抵抗が増えて負荷が増すためです。
 
 モーターに近いギヤは、比較的速い速度で回転しますが、遠いギヤになるにつれ減速されるため低速で回転します。自動車のトランスミッションが良い例えです。1速だと速度は出ませんが力は強く、逆に一番上の5速だとスピードは出ますが力は弱くなります。言い換えると、1速は減速比が高く、5速は低いという事になります。メカの動作にはある程度トルクが要りますが、減速比を高くすれば小さいモーターでも強い動力を得ることができます。モーターでメカの動作を行う構造では、この原理が利用されています。
 
 逆に利用されていない構造というのは、ESRシリーズ以前に採用されていたソレノイドを使用したタイプです。

 

 全分解が終わりました。構造が理解できると、より綺麗に分解することができるようになりますが、その為にはやはり回数をこなす他ありません。

 

 DCモーターの分解清掃です。ブラシと整流子に付着した汚れを拭き取ります。

 

 ヘッドを固定するためのベアリングなど、グリースが付着していて且つ細かい部品の脱脂洗浄です。パーツクリーナーに浸すと、グリースが溶けていきますので、溶け出してきたタイミングで、ウェスで吸い取ります。洗浄後のベアリングは、大変転がりやすいため紛失に注意です。僅か1mmの鉄球ですが、ヘッドの上下動作に欠かせない部品です。
 
 スプリングが1個ありますが、これは左側(供給側)のピンチローラーのもので、テープパスを調整するために必要な部品です。

 

 ピンチローラー、ヘッド、リール台の清掃を行いました。リール台周辺の部品は、細かい部品が多くありますので、確実に管理できるように必ず皿に入れ、必要ないときはチャック付きの袋へすぐ入れる事を習慣づけています。

 

 同時にTC-K555ESXの整備も進めていたため、一緒に脱脂洗浄を行いました。スプレーを噴射するので、屋外作業です。臭いもやや強いため、換気の悪い部屋では自分自身の身体がやられてしまいます。先ほどの細かい部品を洗浄する際は少しだけ液を出すだけですが、大きい部品に関しては強く噴射させて洗浄するので屋内では危険です。

 

 

 ここからは組み立てになります。分解と組立て、どちらにも言える注意点としては、力技厳禁です。部品を壊して修理不能になってしまったら取返しのつかない事になります。
 
 やむを得ない場合は部品を移植することもありますが、基本的にデッキの部品もお客様のものですから、例えば予め整備をしておいたメカに、ポンと載せ換えて完了という事はしたくありません。
 

 DCモーターを実装する際には、極性に注意します。間違えると早送りなのに巻戻るといった、あべこべの状態になりかねません。
 

 先ほど、グリースを塗る場所と塗らない場所があると解説しましたが、画像中のグリースが付着しているギヤは、軸やカムの部分に塗っています。塗っていない部分に関しては、オイルでの潤滑です。
 
 オイル潤滑ではグリースよりも回転抵抗が少ないという特徴がありますが、欠点として油切れで潤滑力が落ちやすいという点があります。

 
 

 続いてキャプスタン&D.D.ドライブの組立てです。

 


 
 電解液漏れが起きやすい表面実装型の電解コンデンサは、基板の腐食防止のため交換が必須です。今回はフルオーバーホールという事で電子部品の交換も含まれていますので、メカ部分にあるコンデンサはここで交換してしまいます。

 

 キャプスタン・D.D.モーター部分を組み立てます。この時は、新品ベルトの在庫を切らしていたため、ひとまず元のベルトを装着しました。

 

ヘッドやピンチローラーなど、メカ前面の部品を取り付け、手動でモーターを回して回転確認をします。リールモーターの確認はカセットを装着して回転時に異音を発しないか、メカ動作用のモーターはヘッドがスムーズに上下するかを確認します。

 

 最後にカセットホルダを取り付けて、メカのオーバーホールは完了です。違和感無く開閉出来るかを確認してから、本体に接続します。

 

 メカのオーバーホール後の動作確認です。テープパス、ヘッドアジマスの調整を終えてから行います。主に確認するのは、モーターの回転具合とテープの走行具合です。再生中に突然止まったりしないか、120分テープでも安定して再生できるかがポイントになります。

 

 機械的な動作の確認が問題なければ、電子部品の交換になります。メカ、基板、パネル等、あらゆる部品を外します。
 

 全て外せば、底部の鉄板だけが残ります。埃もかぶっているので、基板取り付け前に掃除します。

 

 フロントパネルにFLディスプレイ、リモコン受光素子のある基板、そしてヘッドホンアンプの基板がネジまたは爪で固定されているので取り外します。

 
 

 ボタン(タクトスイッチ)を全て交換しました。全部で15個あります。

 

 アンプ基板の電解コンデンサを交換しました。10uF、22uFのコンデンサが特に多く使われています。10uFだけでも39個あります。ニチコン製のFGを中心としたセレクトです。電源部分には最高グレードのmuse-KZを使用しました。

 残りキャリブレーション機能を持っている基板、ヘッドホンアンプの基板にも電解コンデンサーがありますので交換しました。

 

 メカの動作など制御を行うシステムコントロールです。先程のアンプ基板はオーディオ用の物を使用しましたが、こちらは標準品を使用しました。

 

 内部の清掃が終わると、いよいよ組立てになります。空っぽの状態からKA3ESを組み立てていきます。

 

 メカの作業の時に新品のベルトが無く交換できなかったので、ここで新品に交換してから取り付けます。

 

 組みあがったら、動作確認を行います。機械部分の確認は既に済んでいますので、音質の確認、調整、そしてコンデンサーのエージングを行います。朝から夜まで常時通電した状態にしておきます。

 

 残りキャビネットを被せるのみの状態になりました。キャビネットは全ての作業を終えてから取り付けます。

 

 リモコンも同梱されていましたので確認してみると、電池が物凄いことになっていました。

 綺麗に掃除をし、新しい電池で正常に動く事が確認できました。

 

 以上で終了です。TC-KA3ESのフルオーバーホールは2機目ということで、比較的スムーズな作業でした。TC-KA3ESのメンテナンスで苦労するところを挙げるとしたら、コンデンサーの数が多い事でしょうか。約120個ありますので、カセットデッキの中では多いです。部品代が嵩むところですが、当店は別途部品代頂くことはしておりませんので、同クラスのデッキと同じお値段で作業を実施いたします。

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