TEAC A-170 の修理(旧型デッキのメンテナンス)


 

皆様こんにちは、西村音響店の西村です。

今回は’70sカセットデッキ・第二弾、TEAC A-170をご紹介いたします。県内の方より、押し入れから出てきた物をご依頼いただきました。製造年は1975年です。第一弾のYAMAHA TC-800GLは、1976年製でしたので、最古記録更新です。

 

動作状態としては、再生、巻戻し、早送りなど、メカの操作が出来ません。再生を押すと回転はしませんが、中から僅かに音がします。モーターが回転している音でしたので、ベルト切れの可能性が高いです。では、メカ部分を開けてみてみます。

 

 

 

本体底面の木製カバーを開けます。ベルト切れで正解でした。リールの回転も、1つのモーターで行うので、モーターの動力をキャプスタンに伝達できなければ動きません。

 

中から出てきた43年前の物と思われるキャプスタンベルトです。完全に硬化して、もはやゴムではなくなっています。

 

新品のベルトを掛けて、動作が出来るようになるか確認します。ベルトを掛ける時は、中間にある白いプーリーも回るように掛けます。

 

 

 

メカの動作が出来る事を確認しましたので、オーバーホールに入ります。メカを固定しているネジが、本体向かって手前側と奥側にあります。さらに、磁気ヘッド、キャプスタンモーターの配線を基板から外します。

 

こちらがキャプスタンモーターの配線です。どちらも青色で分からなくなってしまうので、マーキングします。油性マジックですと透明色ですので、ポスターカラーがお勧めです。

 

 

メカの取り外しに成功しました。重さは3kgぐらいでしょうか。もちろん完全な機械制御ですし、何より一つ一つの部品が重たいです。

 

こちらに、録再ヘッドと消去ヘッドの配線が接続されています。当然ですが、コネクタは一切ありませんので、半田を吸い取ります。どの配線かも分かるように、マーキングも必須です。

 

 

キャプスタンを取り外しました。メカの下側ですが、思ったほど複雑ではなさそうでした。ただやはり、バネの数は多いので、どのバネがどこに掛かっているのか、覚えておかなければならない部分です。

 

続いて、リール台を回すアイドラーを外しました。下側の作業は一旦区切って、上側に移ります。

 

操作レバーと、2つのリール台の間にあったブレーキを取り外しました。もう一度、下側へ移ります。もう少し効率の良い作業方法があったかもしれませんが、今回は新規機種で、あっち行ったり、こっち行ったりです。

 

真ん中にあったレバー部品を外しました。そのレバー部品の役割は、出力をON/OFFするためのもので、再生を押すと連動して動き、出力スイッチを物理的に押す仕組みです。

 

ヘッドを外すときは、録再ヘッドの下にある2つのEリングを外します。少し入入り組んで工具が入りづらいため、ヘッドに傷をつけないよう慎重に行います。

 

このように取り外すことができます。

 

こちらは一時停止の時に使用する部分で、ピンチローラーをキャプスタンから離して走行を止めます。ここも取り外します。

 

リール台を外しました。ここは、小さいEリングで留まっています。勢いよく飛ばさないように、片方を手で受け止めるようにします。万が一飛ばしてしまっても、新しいEリングを取り付ければ問題ありません。リール台の縁にはゴムリングが付いていますので、交換が必要です。

 

こちらは、イジェクトの部分と、録音プロテクト検出の部分です。爪が折れているテープは、物理的に録音レバーがロックされます。

 

メカの全分解が終わりました。マイコン制御のメカに多い歯車が一切無いのが特徴です。部品数は少ないですが、組立の難易度が高いのが、機械制御のメカです。

 

部品を固定する金具に、古いグリスが付着していますので、パーツクリーナーに浸して脱脂洗浄します。画像一番左の皿を見ていただくと、黒いグリスが溶けだしている様子が見て取れると思います。

 

ヘッド部分のグリスも落とさなければなりません。普通のパーツクリーナーよりも、電子部品洗浄剤の方が強力ですので、こちらを少しずつ垂らしてグリスを溶かしていきます。

 

裏側も同様に行います。

 

各部品の脱脂洗浄が完了したら、組み立てていきます。’70年代のデッキは、プラスチックよりも金属の部品が多いので、モリブテングリスなどの金属用グリスが使えます。もちろん、シリコーングリスも使えます。ただし、プラスチックの部品だった場合は、シリコーンしか使えません。

 

基本的には、取り外した時と逆の順で組み立てます。摺動部分にグリスを塗り忘れないようにします。この状態で、操作レバーを押してみて、部品動き、押した時の力加減を見ます。スムーズに操作できれば、潤滑が行えている証です。

 

 

本体にメカを取り付けて、第一段階の動作確認です。再生速度やヘッドアジマスの補正もここで済ませておきます。1週間程度、音出ししながら、ワウ・フラッターが出ないか、途中で停止しないかを、時間をかけて確認します。

 

続いては、電子部品交換です。40年前の電解コンデンサは、もうすでに寿命を迎えています。たとえ、長寿命のコンデンサーを使ったとしても、電解液の封をするゴムパッキンが劣化すれば、徐々にドライアップします。電解コンデンサーは化学物質を使っている理由もありますが、なによりゴムを使っている部品ですので、劣化は避けられないと思います。

 

電解コンデンサーは、すべて現行品に交換しました。音声信号が通る部分には音響用を使いましたが、標準品でも、今の製品は昔より性能も上がっています。サイズも小型になっています。

 

さて、ここで電解コンデンサーの新旧を比べてみましょう。左2つが「25V-470uF」、右2つが「25V-1000uF」です。一目瞭然だと思います。ちなみに、40年前の1000uFのサイズだと、今でしたら、6800uF~10000uFくらいの容量になると思います。それだけ小さいサイズで、大容量のコンデンサが製造できるようになった事が、この比較で分かります。

 

こちらにあるスイッチは、押すと録音モードに切り替わります。録音ボタンと連動するレバーがこのボタンを押します。マイコン制御であれば、制御用の信号がON/OFFしますが、機械制御は何とも原始的な方法が採られます。

 

 

フェーダーが、かなりの接点不良を起こしていましたので、分解して掃除します。相当汚れていますので、分解しないと落とせないと思います。

 

こちらが、抵抗体と接触する部分です。可変抵抗器の要となる重要な部分で、ここの接触が悪くなると、つまみを動かしたときに「ガリガリ」と音が入ったり、しまいには音が出なくなってしまいます。接触不良を起こしてしまう原因は、埃の混入のほか、多少なりとも電流が流れていますので、目に見えないほどのスパークが発生し、年月を経て接触面をカーボン化させていきます。ボタン(タクトスイッチ)の劣化も、同じ原理です。

 

 

最後の組み立て前に、内部の埃を掃除します。

 

以上で完成です。製造から43年前の製品ですが、現存しているだけでも希少です。この頃は、IC(集積回路)の技術も、あまり発展していないので、単体のトランジスタが多用されています。

マイコン制御は、メカが簡素化できる代わりに、電子回路が複雑になります。一方で機械制御ですと、メカの制御回路が無い分、電子回路も簡単になります。その代わり、メカの組み立てが少し難しくなる事もあると思います。

現存することに価値があるのが、’70sカセットデッキであると思います。