西村音響店

SONY TC-KA3ES

 

概説

 ドルビーノイズリダクションの中で最も効果の高い、ドルビーSを搭載した3ヘッド方式のカセットデッキです。

 これまで、ソニーのカセットデッキは1~2年おきに新しい機種を発売していました。しかし、TC-KA3ESになってからは、2000年代に突入してからも姿を変えることなく生産されました。

 TC-KA3ESは、1つ前の機種であるTC-K222ESJから大きく変更を加えてはいません。どちらかと言えば、改良に近いでしょう。アンプの回路に関しては、基板を眺めた限りでは、222ESJとKA3ESに大きな差はなさそうです。部品の配置などが両者でよく似ています。

 TC-KA3ESからは録音イコライザー調整が無段階で出来るようになりました。これまでは「LOW・NORMAL・HIGH」の3段階でしか調整できませんでした。

 ほかにも、曲のスキップと頭出しが複数曲できるようになったのもTC-KA3ESになってからです。3曲飛ばしたいのに、いちいち1曲ごとにボタンを押さなければならない面倒臭さが解消されました。

 当時のラインアップとしては、安いグレードにあたります。しかし嬉しいことに、安いTC-KA3ESにも、ゴールドとブラックの2色展開がなされました。6万円クラスではありますが、デザインに安っぽさは見当たりません。

 最も古かったものでは1994年製、最も新しいものでは2001年製のTC-KA3ESを確認しました。

 

 

 

TC-KA3ESの音質

 

よくある故障 <再生できない・扉が開かない>


 TC-KA3ESでよくある故障が、再生できない故障と、扉が開かない故障です。原因は、どちらもベルトが悪くなったことによるもので、ジャンク品の状態では多くあります。

 画像は伸びてしまったベルトです。このベルトは扉の開閉やヘッドの上昇など、カセットテープの動作全般を担っています。これが伸びてしまうと再生ができなくなり、切れてしまうと何も動作ができません。

 1989年のTC-K222ESGも、2000年のTC-KA3ESも、構造が同じであれば同じ故障をします。

 

 こんな珍しいケースもありました。ベルトは切れていないので、一見問題はなさそうです。

 どころが、このベルトは太すぎて空回りしてしまい、動かないというものでした。稀にですが、合わない部品を無理やり使って修理したデッキがあります。運が悪いと、こういったデッキに当たってしまうかもしれません。しかし音響店にとっては、むしろこのようなデッキに出会えた方がラッキーです。

 

ボタン交換中。


 ボタンが古くなると、押したボタンが反応しないという症状が出るようになります。

 まだTC-KA3ESでは確認していませんが、先輩の機種では症状が出ています。録音ボタンは押していないのに、音が消えるという悲惨なことにならないよう、早めにボタンを交換しましょう。

 

メカニズムをぜんぶ分解するとこうなります。


 1989年から使われているメカで、10年以上にわたって採用されました。途中でいくつか改良された部分もあります。

 TC-KA3ESでは、扉の開け閉めのスピードが、前の機種よりもゆっくりとなりました。

 

ピンチローラーを研磨してはなりません。


 無理にピンチローラーをヤスリなどで削ると、元々のきれいな円形が崩れてしまい、テープの再生に支障が出る恐れがあります。

 写真のピンチローラーは、縁の部分がざらざらとしており削られたことが見てとれます。研磨することによって、ゴムの摩擦力を回復させる効果はあります。しかし、形が崩れたローラーはテープにシワや傷をつける原因になりかねません。

 ローラーが劣化して使いものにならない時は、新品もしくは他のデッキのものとの交換が無難です。

TC-KA3ESのピンチローラーは、軸が圧入されているため簡単には外れません。また、新品に交換して軸を戻すときにも、ローラーが水平になるようにします。

 

交換する電解コンデンサーは120個以上。

 TC-KA3ESに使われる電解コンデンサーの数はやや多めです。中でも10uFと22uFは使う数が多く、それぞれ30個は使われています。

 数が多く、なお且つオーディオ用の部品を使うとなると、費用も嵩みます。音響店は一度に大量に部品を発注しているため、費用も抑えることができます。

 

中まできれいに掃除。


 TC-KA3ESには、本体の上部に放熱のための穴があいており、そこから埃が浸入します。

 すると、中にある基板が埃まみれになってしまうので、分解するついでに掃除しておきましょう。画像は基板まで取り外した空っぽの状態ですが、ここにはあまり埃は溜まりません。

 

 溜まるのはこちらです。アンプの基板ですが、向かって奥の方が特に埃を被りやすいです。

 基板を外すとなれば、古い電解コンデンサーも交換することになります。しかし、これが結構な数があるのです。数量で言うと120個以上あります。

 TC-KA3ESは、どちらかというと新しい機種なので、’80年のデッキと比較したら古くはありません。交換せずとも使えますが、寿命とされる15年は過ぎているので、ぼちぼち交換しましょう。正直なところ、交換しなくともあと10年は大丈夫だと思います。30年選手で電解コンデンサーを変えなくとも、最低限修理するだけで元気に動いてくれることが殆どです。

 

「LOW・MID・HIGH」のキャリブレーション。


 TC-KA3ESから、キャリブレーション機能(※)も進化しました。

 今まで低音と高音の2つの音域で調整していましたが、新たに中音が追加されました。3つの音域のバランスをとれば、どんなテープでも同じ音質で録音することができるようになります。

キャリブレーションモードにすると、メーターが高音域、中音域の表示に変わります。低音域は△印でレベルが大きいか小さいかを表示してくれます。△印が消えたら調整が合ったサインです。

 多くの機種は、キャリブレーション機能でメーターを見ながら、低音と高音のバランスを合わせます。しかし、実はメーターでは表示されない中音域が、強かったり弱かったりしているのです。そのため、メーター上で調整を合わせたとしても、必ずしも同じ音質になるとは限りません。テープによって音質や癖が違うのは、調整が難しい中音域での差ではないかと考えています。

(※)キャリブレーション機能 = 簡単に言うとテープにある癖を直す機能で、例えば高音が出すぎてしまうテープであれば、デッキ側で高音を弱めてあげるという具合です。

 

組立て方も10年前のモデルと同じです。


 構造が同じということであれば、組み立て方も同じです。

 ということは、このメカを修理できれば、ソニーのカセットデッキのうち、1989年から2000年代の大半のデッキを修理することができます。いわゆる、汎用性が高いという事です。1つの方法で複数のデッキを修理できることから、手間があまり掛かりません。

 

 1989年からは、最上位モデルから廉価モデルまで、同じメカニズムが使われるようになります。

 例えば1989年で言うと、上のモデルにTC-K555ESESG、下のモデルにTC-K222ESGが発売されていました。分解して確認してみると、両者とも構造をしています。そして、1995年ごろから発売されたTC-KA3ESも、同様の方法がとられています。同年に最上位モデルのTC-KA7ESが展開されましたが、この機種もメカニズムは一緒です。

 ’80年前半のソニーは、最上位モデルに、スリーセブンと呼ばれるモデルを発売していました。1980年から発売されたTC-K777に始まるシリーズです。同じころ、TC-K555などのワンランク下の機種もありましたが、スリーセブンだけは専用の構造になっています。

 

この表示があったら2001年以降に作られています。


 こちらはPSEマークです。法律をご存知の方ならお分かりかと思います。

 2001年4月から電気用品安全法が施行されて、従来の〒マークからPSEマークに変わりました。そのため、2001年4月以降に製造されたデッキは、PSEマークが付いているはずです。改正前は電気用品取締法という名称でした。

 

年式によってヘッドが少し違う!?


 TC-KA3ESの録音/再生ヘッドは、引き続きコンビネーションヘッドです。

 それに加えて、ヘッドの表面に凸状の突起を設け、テープに当てる力を調整する仕掛けが付いています。録音ヘッドの再生ヘッドのちょうど境目に、青色の点々が確認できると思います。これがその仕掛けです。わずかにテープに当てる力を弱めることで、送り出しをしやすくするように工夫しているのだと思います。

 

 2001年製のTC-KA3ESも同じヘッドが使われているのですが、1カ所違う部分があります。

 仕掛けになっている点々の部分をご覧ください。赤色になっているのが分かりますでしょうか。とくに意味はありませんが、この色を見る事で、新しいヘッドか古いヘッドかを見分けることができそうです。マニアックなお話ですみません…

 



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