National Audio Companyのクロームテープは、ATRと一緒か?【検証】

こんにちは。西村音響店でございます。

今回は海外のカセットテープのネタでお送りします。

過去に、米国ATRmagneticsから発売されたクロームテープをご紹介しました。同社以外にも、クロームテープを販売していた企業があります。National Audio Campany(以下、NAC)です。

YouTube動画をご覧の方から「もしかしたら中身も同じ…?」という声を頂戴しましたので、今回は検証してみます。

 

 

結論は「全くの別モノ。」

残念ながら、NAC-771とATRのテープは似ているようで中身は違います。血縁関係はありません。

 

それでは早速、デッキを使って検証してみましょう。テープの特性を見るには、キャリブレーション機能を使うと簡単です。

使用するデッキは、TEAC V-8000S。このデッキはキャリブレーションのつまみを全て±0にすると、TDKのSAに合うようになっています。基準のテープとして、SAも交ぜて比較してみます。

録音感度

NAC-771はSAと比べると1目盛り低いです。ATRも同じ結果となりました。

▲から1目盛低いだけなら全く問題ありません。許容範囲です。音楽用のテープであれば概ね±1~2目盛で収まると思います。

中国製のテープみたいに3目盛以上下回ると、ちょっと難ありですね。場合によってはMAXにしても▲に合わないことも。

 

バイアス

NAC-771はレベルの時と同じく▲より1目盛り低い結果に。

レベルとバイアスの振れ方が同じということは、低音域から高音域まで平衡が取れていることを表しています。つまりレベルを少し上げてあげれば▲に調整が合います。

一方、ATRは▲を1目盛り上回る結果となりました。これでNAC-771とは別モノであることが証明されました。しかしATRのバイアスの振れ方は凄いです。バブル期のテープみたいです。

カセットテープがパソコンなどのデジタル機器にシェアを奪われてからは、最低限録音ができるテープのみしか電気屋さんに並んでいません。その類のテープは、大抵バイアスを浅めにする必要があります。

NAC-771は少し録音感度が低いものの音質の特性としてはSAに似ているものと考察します。ATRは時代に逆行してバイアスを深くするという、僕自身も驚きを隠せないくらいの性能です。

 

ホワイトノイズで周波数特性をチェック

グラフの傾き方から音質の傾向を読み取ります。例えば右肩上がりになっていれば「ハイ上がり」、1~10kHzの部分で凹んだようなグラフになっていれば「ドンシャリ」です。

SAとNAC-771を比べてみると、概ね同じ音質の傾向であることが推測されます。高音域の鳴り方も同じような感じであると予想します。後ほどの試聴コーナーで答え合わせをしましょう。

NAC-771の方がSAと比べて録音感度が少し低いだけですので、両者ともにグラフの傾き方に大差はありません。録音感度に少し差がある分、グラフ全体が上下するといった感じです。

ATRは一目瞭然です。右肩上がりになっているのは、「バイアスをもっと深くせよ」と言われているようなものです。高級グレードのテープではこのような傾向になることが多いです。

 

3つのチェックの結果から、NAC-771はSAに近い特性を持っていることが分かりました。

SAは様々なデッキの調整基準用テープに指定されていますから、余程デッキが具合悪くなければしっかりバイアスやレベルを調整できるはずです。そのようなテープに近い特性を持っているということは、安心して使えるテープだと思います。

 

 

気になる音質の差

3本で音質を比べてみましょう。難しい言葉で色々説明するよりも、実際に聴いていただいた方が分かりやすいと思います。

今回はキャリブレーションを行わず、バイアスとレベルのツマミを±0にしたまま録音しました。ノイズリダクションはOFFです。

3本それぞれ磁性体の違いますので、ヒスノイズの違いにも注目です。

使用音源:魔王魂 12345(編集済み) 40秒

【TDK SA】

【NAC-771】

【ATR Magnetics】

先ほどの3つの実験で考察したとおりに音質に違いが表れました。

SAとNAC-771は概ね音質の傾向は同じですが、771の方が録音感度が低い影響で音量が小さくなっています。ただこれくらいの差であれば、キャリブレーション機能が付いていないデッキでも普通に使えます。

安いテープのように、あまりにも録音感度が低い場合には、補正しないとノイズリダクションで影響が出ます。

ATRは高音域がかなり強めに出ました。バイアス調整必須です。個人的にはここまでハイ上がりになると、バイアスで補正したくなりますね。

ヒスノイズの差に関しては微々たるものですが、最も耳に触らないのはSAだと感じます。この辺りは、二酸化クロムとコバルトの差が出るところでもあります。

 

 

ぱっと見OEM。性能以外の相違点を見つける。

スズキの車にマツダのエンブレムを付けるように、外観がそっくりだと中身も同じじゃないか?となると思います。いわゆる、OEM品です。

ATRとNAC-771、ラベルを剥がしたらどっちがどっちか判らなくなってしまいます。加えてテープを巻き取るハブも同じ形です。

 

しかし、先ほど実験したようにNAC-771とATRは別モノであることが証明されました。では今度は、磁気テープの性能以外で相違点を見ていきましょう。

1つ見分けるポイントとして磁気テープの色があります。見比べてみましょう。参考として一昔前に100均のダ○ソーで販売されていたハイポジも交えてみます。

4本それぞれ色が違うのは当然かもしれませんが、ここでの大きな違いは磁性体です。

ハイポジに使われる磁性体は、酸化鉄とコバルトを混ぜたものです。色としては100均のように真っ黒、もしくはSAのように殆ど黒に近い焦げ茶色です。

一方、NAC-771とATRの方も同じような色をしていますが、肉眼で見てみると表面がザラザラしているように見えます。このザラザラから思い浮かぶのが、初期のハイポジに使われた二酸化クロムです。

ATRについては、メーカーのホームページに旧BASF社製テープを使用している旨が掲載されています。出典:https://www.atrtape.com/news

NAC-771は過去のモデルになってしまい、現在ホームページにも詳細が掲載されていません。しかし色々探してみた結果、海外のサイトで信憑性の高い情報を見つけました。

出典:http://www.valueyourmusic.com/items/232030669295-nac-771-chrome-plus-type-ii-cassettes-9-tapes

当時のNACのホームページから引用したと思われる文がありました。もしこの内容が本当であれば、NAC-771は二酸化クロムを使っていることになります。

さらにNACのfacebookにも、2012年と古いですがその旨の投稿がありました。旧BASF社製を使っている可能性が高いです。

ただ、色をよく見比べてみると、ATRは若干焦げ茶色、NAC-771は若干灰色になっています。先ほど実験したように、ATRとNAC-771は性能に差がありました。同じ旧BASF社製のテープであっても銘柄が違うと思われます。

 

決定的な証拠がもう1つあります。それはテープの薄さです。両社とも同じ60分テープですが、画像のようにノギスで測ってみると、テープの薄さの違いが明白です。

NAC-771は17.5mm、ATRは15.0mmです。別にノギスを使わなくとも薄さの違いは一目瞭然ですが、この長さを見てピンと閃くことがあります。

 

90分用の薄いテープを短くカットして60分にしているのでは?

 

確かに60分用と90分用を別々に製造するとコストが嵩むことは想像できます。実際ATRの方は90分テープもラインナップされていましたので、兼用している可能性は十分あると思います。

薄いテープほど伸びやすいので耐久性の面が少し気になるところですが、個人的には90分テープの薄さであれば許容範囲です。

ただ音質は非常に満足なので、テープの薄さは大した問題ではありません。

(テープの薄さ: 60分用⇒18μm 90分用⇒12μm 120分用⇒9μm)

 

 

まとめ

ATRとNAC-771は別モノでした。しかし、771もSAに近い能力を持っており捨てたものではありません。

音質まで重視したテープを製造していること自体、本当に希少です。電気屋さんに赴けば一目でわかるように、もう音楽用のテープは並んでいません。

カセットテープは完全な娯楽になったと言っても過言ではありません。しかし、完全に娯楽になったからこそ、娯楽を楽しむためのテープが必要です。

カセットテープを楽しんでいる人口が、他の娯楽と比べて圧倒的に少ないことを直感しているところですが、少しでも風化させないように情報発信をしていく必要があると改めて感じます。

今から10年後(2030年)、カセットテープがどんな存在になっているか気になるところです。

 

動画バージョン

動画では違うデッキ(TEAC V-8030S)で実験しています。

 

関連記事