西村音響店

AKAI GX-F90

AKAI GX-F90

 

概説

1979~1980年ごろのダイレクトドライブを採用したAKAIの上位モデルです。

メカニズムは、後年のモデルやA&Dブランドの機種でお馴染みのサイレントメカではなく、ソレノイドを使った旧型。再生ボタンを押すと「ガシャンッ!」という大きな動作音を立てます。曲の頭出し(IPLS)機能にも対応します。

走行方式はシングルキャプスタンですが、ダイレクトドライブを搭載しているため、ワウフラッターは0.03%(WRMSのカタログ値)となかなか良好です。回転スピードの制御にはFGサーボが採用されています。ちなみにオートチューニングの怪物デッキであるGX-F95も同じ走行方式、ダイレクトドライブを搭載しますが、こちらはクォーツロックが採用されている点が異なります。

テープセレクターは手動式ですが、4つのポジションがあるのにフェリクロームポジションはありません。(CrO₂またはMETALポジションを使えば再生のみ可能)その代わり、ノーマルポジションが2種類あります。音楽用グレードのテープに使用する「LH」、汎用グレードのテープに使用する「LN」とあり、切り替えるとバイアスや録音イコライザーの特性が変わります。

録音面では、録音感度を補正するキャリブレーション機能が付いています。特にドルビーNRを使った録音の際には有効です。音の息継ぎ現象(ブリージング)を低減し、ドルビーNR有効時でもより忠実な音で録音できるようになります。しかし残念ながら、バイアス調整用のツマミは付いていません。

メーターはVUとPeakレベルの2つのモードを切り替えることができます。ただし、Peakレベルに切り替えてもメーターの目盛はVUのままで変わりません。このままでは目盛が足りなくなってしまいますが、Peakレベルではメーターを7dB低く表示させます。つまり「VUの0dB = Peakレベルの-7dB」ということになり、メーターの目盛を読み替える必要があります。取扱説明書によると、両モードでメーター表示(振れ方)に差が出ないように、このような設定になっているとのことです。後年の機種(GX-F91、GX-R99など)では、メーターのモードを切り替えると目盛も切り替わるようになりました。

音質はとにかく太く分厚く、低~中音域の主張が強い感じです。アナログレコードの録音(特に生演奏系の曲)にとても向いているような印象があります。シンセサイザーなど高音が強い電子音はぼんやりとした感じになって少々苦手のようです。

外観は次世代モデルであるGX-F91やGX-F71と比べると、こちらの方が高級感があります。特に前面パネルは次の世代からプラスチック製になり、金属風に塗装されたプラスチックと本物の金属製では、質感の違いは歴然です。後年のモデルもスタイリッシュで個人的にはとても気に入っていますが、高級感で比べるならGX-F90に軍配に挙げたいところです。電照式の操作ボタンも見逃せないチャームポイント。

 



 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

AKAI GX-F90 カセットホルダ
【カセットホルダ】
開閉は手動式。窓が大きくてテープが回る様子をしっかり眺めることができる。
AKAI GX-F90 メーター
【メーターと操作類】
メーターはFL管の中でも、メーターを表示するだけの初期タイプ。カウンターは機械式。
AKAI GX-F90 ボリューム
【ボリューム類】
出力レベルはボリュームで調整することができる。録音レベルは、ライン入力とマイク入力で別々にボリュームが設けられている。REC CALと書かれた部分はキャリブレーションの時に調整する。
AKAI GX-F90 デッキ背面
【デッキ背面】
出力端子は1系統。入出力端子は背面のライン入力と前面のマイク入力の2系統。蓮根のような形をした端子はリモコン用の端子。
AKAI GX-F90 製造番号と製造年
【製造番号と製造年】
画像にはハッキリ写っていないが、製造年は1979年。
AKAI GX-F90 スーパーGXヘッド
【録音/再生ヘッド】
スーパーGXヘッドを搭載。ただし後年のものとは少し形状が違う。キャプスタンが肉眼で判るくらい軸が太い。

 

デッキの内部

キャビネットオープン

画像にマウスオン(タップ)してください。

 


【再生アンプ】
アンプ基板の右半分に再生用のアンプ回路がある。再生ヘッドの配線までハンダ付けである。ドルビーNR用のICはNE545が使われている。(画像は電子部品交換後のため、純正状態とは違います)

【録音アンプ】
録音用再生用ともに、増幅にオペアンプが使われていない。画像左端の部分(OMRONの部品より左側)が交流バイアスを作り出す回路。(画像は電子部品交換後のため、純正状態とは違います)
AKAI GX-F90 D.D.モーター駆動回路
【D.D.モーター駆動回路】
回転制御はFGサーボ。半固定抵抗を回すとスピードを調整することができる。
AKAI GX-F90 電源回路
【電源回路】
デッキに向かって一番左側に電源回路がある。1カ所のハンダ付けから2本の配線が出ている部分もあり、油断して断線させると大変なことに…
AKAI GX-F90 メカニズム上部
【メカニズム部分】
中央に巻取り用モーターが見える。GX-F90のモーターは、一般的に使われるものより小型である。
AKAI GX-F90 制御系回路
【制御系回路】
アンプ基板の下には、デッキの動作関係を行う回路がある。メカニズムの配線はこの基板に集約されるが、例によってハンダ付けである。メカニズムの取り外しには大変苦労を伴う。
AKAI GX-F90 アンプ基板の裏側
【アンプ基板の裏側】
ノイズ対策のためか、アルミ箔と思われるシールドで覆われている。

 

デッキの分解画像

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AKAI GX-F90 メカニズムを外す前
【メカニズムを取り外す前】
これだけの配線を外す必要がある。この工程が最も難しく精神力を遣う。頭痛薬や必須だ。
AKAI GX-F90 メカニズム
【メカニズム】
殆どの部品が金属製であるため、片手で持つとずっしりと重い。
AKAI GX-F90 カセットホルダを外した状態
【カセットホルダを外した状態】
使われているゴムベルトは2本。左側と右側それぞれに掛かっている。左側は巻取り軸は回転センサー用、右側にゴムベルトがカウンター用である。
AKAI GX-F90 ダイレクトドライブモーター
【ダイレクトドライブ】
ユニットを分解するとキャプスタンホイールが見えてくる。他のダイレクトドライブ搭載デッキと比べると、径が一回り大きく見える。
AKAI GX-F90 メカニズム背面
【メカニズム背面】
ダイレクトドライブを外した状態。3つのソレノイドが見える。左から、再生用、早送り/巻戻し用、一時停止/曲頭出し用となっている。
AKAI GX-F90 リール回転機構
【テープ巻取り機構】
この部分はまとめて(アッセンブリー)で取り外すことができる。回転はゴムタイヤを使う方式。
AKAI GX-F90 メカニズム全分解
【メカニズム全分解】
メカニズムさえ取り外すことができれば、分解自体は滅茶苦茶難しいというわけではない。やはり一番の難関は配線の取り外しである。

 

その他の画像

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AKAI GX-F90 メーターが故障して振り切れっぱなし
【メーターが壊れた…】
左chのメーターが振り切れっぱなしになっている。こういった場合はもうメーターごと移植することになる。
AKAI GX-F90 メーター駆動用のIC
【メーター故障の原因はコイツ】
FL管の裏には光らせるためのICが実装されている。回路を辿っていくと、どうやらこのICが問題児のよう。当然ながら交換部品は無いうえに、細かすぎて交換作業すら困難である。
D.D.モーター回路のトランジスタ故障
【ダイレクトドライブが壊れた…】
このGX-F90は、再生速度が不安定になる症状が出ていた。犯人はどうやらトランジスタの模様。この基板のトランジスタを交換したことで無事に直った。
AKAI GX-F90 ボタン修理
【ボタンが壊れた…】
GX-F90のボタンは導電ゴムを使った方式。このゴムが経年でカッチカチに硬くなり、押せなくなってしまう。

 

撮影に協力してくださった方
・埼玉県 「まさ」さん

 

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