概説
1986年に登場した3ヘッド方式の中堅モデルです。上位モデルのGX-93に装備されている、dbxノイズリダクション、クォーツロック、サイドウッドが省略されています。
これまでのAKAIのカセットデッキは、薄型ボディに小さなボタンをやたら多く配置してハイテクさを強調するようなデザインでした。このGX-73は一転してボタンやスイッチが少なくなった分、見た目もすっきりとしています。特にテープを操作するボタンは大きくなって、とても操作しやすいです。
ところが、ボタンの数が減らされているということは、機能が減らされていることでもあります。積極的に搭載していたオートチューニング機能どころか、キャリブレーション機能自体も搭載されていません。録音レベル・バランス・バイアスの調整ができるだけの非常にオーソドックスな仕様になりました。
ノイズリダクションは、ドルビーのBタイプとCタイプを搭載。上位モデルのGX-93ではdbxも搭載されていますが、GX-73では省略されています。
1987年には三菱電機のダイアトーンブランドと手を組み、外観そのままにA&DブランドのGX-Z7000として再登場することになります。しかし、手を組んだのは業績が苦しかったことが理由とされており、GX-93とGX-73でなくなくコストダウンを余儀なくされたことと思います。
個人的にはシンプルなデザインのカセットデッキは好みですが、当時の赤井電機の苦しさも見て取れます。
メカニズムの分解
(画像が自動的に変わりますので、分解の様子をご覧下さい。)
1982年発売のGX-F71から採用され続けてきた、AKAIの3ヘッドデッキ用メカニズムです。停止状態では、常に磁気ヘッドがテープに接触した状態で待機するため、停止から再生までの時間差が少なく、機敏な動作が出来るという特徴があります。言い換えると、他社でいう一時停止の状態が常に維持されているということになります。これが、AKAI独自のメカニズム制御です。
グリースが固着して動かなくなる
GX-73に限らずAKAIの3ヘッドデッキで多い故障が、経年劣化でグリースが固まり、ピンチローラーが動かなくなってしまう症状です。このようになってしまうと、動きが鈍くなってモーターの力ではピンチローラーを上昇させることができなくなり、再生が出来ないという状態に陥ります。さらに劣化が進むと、びくともしない状態となり、扉を閉めても勝手に開いてしまうという症状が起きるようになります。
ピンチローラーの分解クリーニング
固着したグリースを落とすだけでなく、ローラーも取り外します。取り外すことで、より丁寧にクリーニングすることができる他、軸への注油も行います。
バックテンション用フェルト
GX-73のメカニズムには、左側(供給側)リールに抵抗を掛けるためのフェルトが付いています。このフェルトは粘着テープで固定されていますが、経年で剥がれてしまっている事例があります。無くても動かすことは可能ですが、フェルトを省略してしまうと、テープがローラーに巻き込まれてしまうなどの走行不良を引き起こしてしまうため、劣化している場合は新品のフェルトに交換します。
スーパーGXヘッド
AKAI独自のヘッドで、”GXヘッド=殆ど摩耗しないヘッド”という認知が広いですが、GXヘッドはフェライトをベース素材としているため、摩耗に非常に強いことが特徴です。GXヘッドのみならず、フェライトを採用しているヘッドは摩耗に強いですので、古いテープでも安心して再生できます。他社がアモルファスヘッドを採用する中、AKAIは自社開発のGXヘッドを貫き通しました。
カムモーターの交換
ヘッドの上昇動作、扉の開閉動作など、メカニズムの動作全般を行うのが小型のモーターで、カムモーターと呼ばれます。このモーターが経年劣化で動作音が大きくなってしまう事があります。元々動作音が静かなAKAIのメカニズムが、うるさいAKAIのメカニズムに変化してしまいますので、新品のモーターに交換して静粛性を取り戻します。
アイドラーゴムの劣化で巻取り力が低下する
GX-73では、リールの回転にゴムを使用しています。このゴムが劣化すると、滑って回転力が伝達できなくなって巻き取る力が弱くなります。ゴムを新品に交換することで巻取り力を取り戻します。
テープポジション検出スイッチ
テープの種類を自動的に検出するためのスイッチですが、ここの接点が汚れたり埃が混入すると、接触不良を起こして誤認識してしまうことがあります。接点を清掃することにより、正常に認識できるようにします。接点が銀色に光っている状態であれば正常に機能します。
本体内部
左側にメカニズム、右側に基板が2階建て構造になっています。上段の基板が動作の制御を行うシステムコントロール回路(通称シスコン)、下段が音を扱うプリアンプ回路です。
再生ヘッドアンプ
GX-73の再生ヘッドアンプは、三菱の”M5240P”という、高性能のJ-FETオペアンプが採用されています。スルーレートの値では、高性能なオペアンプが約20V/μsであるのに対し、M5240Pは40V/μsと、忠実な再生に特化したオペアンプです。
※スルーレートについて・・・オペアンプの動作速度を表すパラメーターで、値が高いほど高調波成分を歪ませることなく音を出すことができますので、高音質が期待できます。単位は〔V/μs〕ボルト毎マイクロセカンドです。
システムコントロール
GX-73の動作を制御する回路です。右側の大きいICが、制御の中枢であるマイコンです。中央には、キャプスタンの回転を制御するIC、2つのDCモーターを駆動するICがあります。
電解コンデンサの交換
フルメンテナンスのコースでは、寿命の短い電解コンデンサを新品に交換します。音を扱う部分については、音質を重視したコンデンサを選定しています。GX-73では両極性のコンデンサが多数あり、ニチコン製のMUSE-ESを中心としたセレクトです。
ご希望に応じて、お好みのコンデンサに交換することも可能です。画像は日本ケミコン製のKMGシリーズ、KMEシリーズを中心とした組み合わせです。高級コンデンサも、料金+αで交換できます。同じGX-73でも、電解コンデンサーを異なるものにして音の違いを見つけてみたりなど、奥深い楽しみ方もございます。
内部の清掃
GX-73のキャビネットには、放熱のための通気口があります。そのため、内部に埃がどうしても溜まってしまいます。フルメンテナンスでは、メカニズム、電源トランス、基板、全て取り外した状態で清掃を行います。外側は普段から綺麗にしておくことは難しくないと思いますが、内側は感電の危険もあってなかなか綺麗にすることができないものです。