概説
GX-Z7100、GX-Z7100EXと改良を続け、いよいよ赤井電機のカセットデッキで最終モデルとして1990年に登場したのが、このGX-Z7100EVです。
録音/再生ヘッドには、アカイ、A&Dで長らく採用されてきた、摩耗に非常に強いスーパーGXヘッドを引き続き採用していますが、GX-Z7100EVではさらに進化して、再生ヘッドと録音ヘッドが完全に分離されている構造になっています。このようなヘッドを「ディスクリートヘッド」と呼び、工場出荷前の調整でデッキの性能をより発揮させることができるようになりました。これまでは、2つのヘッドが一体型になっている「コンビネーションヘッド」では、録音ヘッドと再生ヘッドを別々には調整できず、妥協せざるを得ない部分があります。
15cmという厚みのあるボディが特徴ですが、これは電子回路基板1枚1枚に個室を設ける、「セパレートブロック・コンストラクション」という構造を採用しているためです。1988年のGX-Z7100から採用されています。この構造が効果をもたらすのは特にアンプ部分で、むき出し状態だと、外部から電磁波の影響を受けてノイズが混入します。カセットデッキは、磁気ヘッドで拾った微弱な信号を扱うので、ノイズ源となる電磁波は大敵です。
上位機種GX-Z9100EVに採用されているクォーツロックや銅メッキシャーシが省略されている分、1ランク下のモデルにはなりますが、基本機能として、録音レベル調整とバイアス調整を補助するキャリブレーション機能、複数曲のスキップ/頭出し、1/2の速度で再生する機能、A地点とB地点を指定して区間再生する機能など、十分な便利機能を搭載しています。
性能面では、メタルテープ使用時には23,000Hzまで信号を切り落とすことなく録音出来る性能を持っており、高級テープへの録音でも威力を発揮してくれる1台です。
アモルファスヘッドを採用したカセットデッキが多くを占めるこの頃でも、赤井のポリシーを貫き通したところに、テープデッキの老舗としての強い熱を感じます。
GX-Z7100EVの音質
メカニズムをぜんぶ分解するとこうなります。
この構造は1982年発売のモデルから採用されていて、ヘッドとテープが接した状態で待機することにより、再生ボタンを押すと静かに素早く再生されるという、独特のシステムになっています。GX-Z7100EVから、音揺れ(ワウ・フラッター)対策として、右側のリール台にバネを使った仕掛けを入れて改良しています。
また、共通であることを利用すれば、何か部品が壊れていたときなどのトラブルがあっても、部品を移し替えること簡単にできるので、修理が不可能になる心配も少なくなります。
不具合事例:キャリブレーションができない
ヘッドの調整を誤ると、キャリブレーションが出来なくなります。記録された信号を再生ヘッドで拾うことが不可能なためです。
GX-Z7100EVの録音/再生ヘッドは、それぞれのヘッドが分離している構造ですので、アジマス調整も別々に行えます。画像をご覧いただくと、録音ヘッド用の調整ねじと、再生ヘッド用の調整ねじがあります。2つとも確実に調整を合わせることで、正確な録音同時モニターやキャリブレーションが可能になります。
他にキャリブレーションができない原因としては、テスト信号が上手く記録されていないことや、バイアスが掛かっていないことも考えられます。この場合、録音自体が正常であれば前者、音が歪むようであれば後者の可能性が考えられます。
アジマスの調整ずれの場合、録音同時モニターの音が濁って聞こえます。
交換するゴムベルトとリング
GX-Z7100EVのゴムベルトは2本です。直径70mmはキャプスタン用、直径40mmはヘッドの上下作動や開閉作動を行うベルトです。
直径40mmのベルトは、実際に取り付けると少し窮屈ですが、これくらいがベストです。ベルトの張りが弱いと、モーターが所定の位置で止まれず、常に震えるような動作をしてしまいます。
小さなゴムリングは、テープを巻き取るためのもので、経年劣化でゴムが硬くなります。硬くなると、摩擦力が低下して巻取り力が落ちてしまいますので、交換が必要です。
電解コンデンサーの数は約80個。
GX-Z7100EVに使われる電解コンデンサーはやや少なめです。交換作業は基板取り外しから組み立てまで4時間程度で完了します。
カセットデッキは概ね100個は使われることが多く、中には150個以上使われているデッキも存在します。
GX-Z7100EVのプリント基板は熱で剥がれやすいため、特にはんだを吸い取る時には注意を払います。
GX-Z7100EVとGX-Z9100EVの違い その1<シャーシ>
GX-Z7100EVでは、上位機種のGX-Z9100EVで採用されているものが一部省略されています。まず1つ目は、本体の骨組みであるシャーシで、銅メッキの仕様になっているところ、GX-Z7100EVではメッキ無しのシャーシになっています。銅メッキにすると、外からの有害な電磁波を遮断する効果が高まり、テープ再生時におけるノイズの混入を抑制することができます。僅かなノイズまで気にならければ、メッキ無しのGX-Z7100EVでも十分楽しめます。
GX-Z7100EVとGX-Z9100EVの違い その2<アンプ>
外見はGX-Z7100EVも、上位機種のGX-Z9100EVも同じように見えますが、中の基板も大きく異なっています。違いを簡単に説明すると、コストが掛かっているか否かです。当然ながらコストが掛かっているのはGX-Z9100EVの方になります。
GX-Z710EVでは、再生ヘッドの信号をオペアンプというICで増幅させる方法をとっていて、どちらかというと簡単な構成でコストも安いというメリットがあります。
一方でGX-Z9100EVは、再生ヘッドの信号の増幅にオペアンプを使っていません。正確に表現すると、1段目の増幅ではオペアンプを使っていないという形になるのですが、では何を使って増幅しているのかというと、FET(電界効果トランジスタ)です。FETを使うと、入力インピーダンスを高く取ることができ、本当に微小な信号も取りこぼすことなく、僕たちの耳まで届けてくれます。ただし、GX-Z7100EVとは逆にコストが掛かるため、FETを使ったアンプは低価格のカセットデッキでは採用されません。
再生アンプの部分を拡大してみましょう。
(画像をクリックまたはタップすると拡大画像が表示されます)
GX-Z7100EVとGX-Z9100EVの違い その3<キャプスタン>
機械的な部分(メカニズム)は両者とも同じですが、キャプスタンの回し方が少し違います。以下の写真は、デッキの動きをコントロールする回路の基板を写したものです。赤丸、青丸の部分に着目していただくと、部品の取り付けられている場所が違うのが見て取れると思います。
GX-Z7100EVは、コンデンサと抵抗の組み合わせた回路で、回転スピードの基準信号となるパルスを作り出しています。このパルス信号とキャプスタンの回転速度を比較して、常に同じ回転数を保つように制御する仕組みです。
一方、上位のGX-Z9100EVは、パルス信号の生成にクォーツ(水晶発振器)を使っています。身近にあるクォーツ時計のクォーツです。温度などの外的環境が変化しても常に決まった周波数のパルスを作れるので、スピードの誤差が極めて少ないというメリットを持っています。
クォーツロックを使用したデッキは、いつでも正しい再生スピードで聴くことができるので安心です。特に録音するときは、スピードがずれていると他のデッキで再生した時に、音が高くなったり低くなったりする可能性もあるので、録音する時に正しいスピードであるかが大変重要です。