西村音響店

Nakamichi 680

ページ作成:2023/4/14

 

概説

1979年に発売された、Nakamichiの中堅シリーズである型番600番代を名乗る中の1台です。

600番代というと、本体が傾斜になっているデッキの『600』『600Ⅱ』がありますが、趣が大きく異なりますので今回は割愛します。正立透視型のみに絞るとなると、680番代と区別する方が良いかもしれません。この680はドルビーCがリリースされる前に発売された、前期後期で分けると前期にあたる世代のデッキです。

この680には、普通のカセットデッキには搭載されない珍しい装備が2つあります。

一つは、2つのスピードモードを搭載している点です。標準スピードの4.8cm/sのモードと、半分のスピードである2.4cm/sのモードがあります。カセットデッキの音質に拘りぬいているNakamichiが、なぜ音質が低下する機能を装備したのか?考えられる理由としては、エアチェックの流行があります。その頃、各社ではオートリバースデッキが次々と発売されていました。しかしNakamichiのデッキ群を見て分かる通り、ヘッドのアジマスに大変強い拘りがあります。オートリバースデッキが数少ないのも、これが理由です。

それでもエアチェックに対応するためには、連続で長時間の録音をしなくてはなりません。そこで、他社のデッキが到底敵わないような周波数特性を誇っていることを活かし、2.4cm/sでテープを走らせても実用可能な範囲内の音質を維持できたという事が考えられると思います。そのためオートリバースではなく、テープスピードを落とす選択をしたのではと考えられます。(後にカセット本体ごと回転させるオートリバースデッキが登場)

もう一つは、録音ヘッドのアジマス調整。ユーザーが調整できるように調整用のノブが飛び出している点が特徴です。しかも単に調整できるだけでなく、キャリブレーションモードにすることで、メーターが位相のずれ具合を表示してくれます。680のキャリブレーションは、バイアス調整ができない点が大変惜しいですが、録音感度だけでなくアジマスのキャリブレーションが行えるのは非常に珍しいです。

この680番代のファミリーは、系譜が若干複雑です。型番にZXが付いた『680ZX』では、アジマス調整が自動式となります。その他は同じで、型番のZXの有無はアジマス調整が自動か手動の違いと言っても良さそうです。

また下位機種の位置づけとして『670ZX』『660ZX』という機種も存在します。こちらはハーフスピードモード非搭載、アナログメーター仕様となっていますが、アジマス調整は680ZXと同じ自動式です。そのためアジマス調整が手動式であるのは、680番代のファミリーの中では『680』が唯一となります。

なお、これらの後継機種としては、ドルビーCを搭載し、ハーフスピードモードを完全に廃止した『682ZX』『681ZX』となります。

 

Nakamichi680の構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(ディスクリート型・クリスタロイヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール・カムモーター駆動
キャプスタンの回転 電子ガバナー式DCサーボモーター(ピッチコントロール付)
テープの走行方式 クローズドループデュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動式(たるみ取り機能あり)
スタビライザー なし
テープセレクター
手動(再生EQ切替は別スイッチ)
ノイズリダクション
ドルビーB
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 あり(Nakamichi独自のRAMMによる方式)
メーター ピークレベルメーター・VUメーター切替可(0dB=ドルビーレベル200nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統(可変・OUTPUTボリュームに連動)
キャリブレーション機能 録音感度補正・録音ヘッドアジマス(バイアスは調整不可)
カウンター 機械式3デジットカウンター
その他の機能
  • ハーフスピードモード
  • メモリーストップ機能

 

Nakamichi680の利点&欠点

◎ハーフスピードモード搭載
 (テープスピードを半分にして録音時間を倍にできる)
◎ハーフスピードモードでも~15kHz程度の周波数特性を維持
◎680番代のデッキで特徴的な力強い中高音域
◎手動の録音アジマス調整機構付き
 (正確な録音同時モニターに寄与)
○ピッチコントロール機能付き
○各テープポジションでキャリブレーションボリュームが分かれている
○1000ZXLでも使われているデジタルメーターを採用。
△バイアス調整が不可能
△ノイズリダクションはドルビーBのみ
 (ドルビーC登場前の機種)

 

Nakamichi680の関連機種

  • 680ZX
    アジマス調整が自動式のモデル
  • 670ZX
    針式メーター,ハーフスピードモード省略の機種
  • 660ZX
    670ZXから録音同時モニターを省略した機種

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

標準スピード(4.8cm/sec)モード

【フュージョン・ロック】容量53.6MB

【ファンキーポップ】容量58.5MB

【ジャズ・オーケストラ (ドルビーB録音)】容量27.5MB

 

ハーフスピード(2.4cm/sec)モード

【フュージョン・ロック】容量53.4MB

【ファンキーポップ】容量59.3MB

【ジャズ・オーケストラ (ドルビーB録音)】容量28.3MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【前面左側】
カセットホルダを開くときは、左側にあるレバーを下げる方法で、ちょっとユニークです。そしてその下には680の大きな特徴である録音ヘッドのアジマスを調整するツマミが。ヘッドの動きに連動して上下するという面白いギミックです。

【前面右側】
青白いFLメーター、12個連なったキャリブレーション用のトリマー、縦一列に並んだスイッチ…680番代を象徴するレイアウトです。メーターやインジケーターの青白い光もチャームポイントです。

【背面】
入出力のRCA端子、有線リモコン用の接続口、「DC Output」と書かれたは別売のマイクミキサーなどのユニット向けに電源を取ることができるそうです。InputとOutputの間にある妙な空間ですが、どうやら個体によってDIN端子の有無があるそうです。前期後期の違いでしょうか…?

【製造番号】
電源コードには「1979」の西暦が印字されていました。この年は各社がメタルテープを発売した年でもあります。

【ヘッド周り】
この後の機種で定番となる内製のサイレントメカです。録音ヘッドおよび再生ヘッドはクリスタロイヘッド(P-8L型とR-8L型)です。
【】

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

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【電源・ロジック部】
ロジック制御ではありますが、まだこの頃は専用のマイコンは使用されていません。大きな百足のようなICが無いため、意外とすっきりしています。左端に見える大き目の電解コンデンサがある部分が電源回路です。

【メカニズムの上部】
Nakamichiの上級機種では定番のメカですが、後年に小改良が入って微妙な違いがあります。680に搭載されているのは改良前の初期型です。

【メカニズム背面】
キャプスタン用モーターは、電子ガバナー式のサーボモーターです。

【再生スピード調整用トリマー】
680は2つのスピードモードがあるため、調整用の半固定抵抗も2つに分かれています。類似例としては9.5cm/sモードを搭載するTEAC C-3Xが挙げられます。

【アンプ基板①】
黒くて平べったいケーブルは、スピードモードの切り替えに使用します。ケーブルと言ってもこれには電気が通るわけではなく、機構を動かすだけのワイヤーです。デッキ前面にあるスイッチを動かすと、先に繋がっている多極のスイッチを動かし、回路を切り替える仕組みです。

【メーターユニット】
がっちり金属のケースに封じ込められたユニットです。1000ZXLも同じ形のユニットが付いています。

【アンプ基板②】
デッキの右端にも基板が垂直に実装されています。

【バイアス調整トリマー】
デッキの外からは不可能でも、内部の基板にはバイアス調整用のトリマーがあります。もちろん、基本的には整備の時にしか触らない部分です。各テープポジションで左ch右ch別々に調整可能、さらにスピードモード別に調整が分けられており、12個もの半固定抵抗が並ぶ光景となっています。

【ドルビー回路】
680の発売当時はドルビーCは登場していません。ドルビーBのみの3ヘッド機なので、録音用と再生用に2つずつ使った合計4つの構成です。このUA7300PCというICは、ドルビーC登場前後の機種によく実装されています。

【各種切替スイッチの実装部分】

 



 

メカニズムの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【消去ヘッドの不良チェック①】
録音すると、反対の面の音まで消えかかる現象が出て、可能性は低いですが念のため、消去ヘッドを振替えて不良が無いか確認しているところです。

【消去ヘッドの不良チェック②】
振替えチェックをしても症状は変わらず、最悪の事態は避けられました。結局のところ、原因はテープパスと消去ヘッドの位置でした。

【メカニズムを二分割】
アイドラーゴムの交換のために分解しているところです。この個体ではオーバーホールは行いませんでした。

【アイドラーゴム交換中】
先にメカが小改良される話を述べましたが、その1つにこのアイドラーの部品があります。改良前は首振り部分が樹脂製のため負荷や劣化によって反りやすいためか、間もなくして金属製の対策品に変わったようです。

【ミラーカセットのチェック】
元々調整が弄られていたような個体で、最終的には再調整のみで修理できた形となりました。しかし誰しもが異常と分かるほど反対の面の音が消えるのは、少しイレギュラーなケースに思います。

【前面パネルを外した状態】
680のメカニズム脱着は思いのほか容易いという印象でした。メカの後ろ側に比較的スペースがあるため、知恵の輪をすることなく脱着ができました。ただしヘッドの配線は入り組んだ場所を通っているため、やや面倒です。

 

 

メカニズム動作音

  • カセットホルダ開閉
  • 停止→再生→停止
  • 停止→ポーズ→再生→ポーズ→停止
  • 停止→ポーズ→停止
  • 早送り・巻戻し

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

標準スピード(4.8cm/sec)モード

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1984年型)


【TYPEⅣ】TDK MA (1979年型・初代)


 

ハーフスピード(2.4cm/sec)モード

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1984年型)


【TYPEⅣ】TDK MA (1979年型・初代)


※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

撮影に協力してくださった方
・神奈川県 zontaさん(2023年2月~3月)

 

 

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