概説
世界最高峰のカセットデッキ、Nakamichi 1000ZXL。1980年の登場で、ナカミチの中では、コンピューティング・カセットデッキと称される。
外観はカセットデッキとは思えないほど、巨大な容姿である。本体重量は約20kg。前面には、いくつもの操作ツマミが並ぶ。一般的なカセットデッキにはない「素人お断り」というオーラを感じる。
取扱説明書がなければ操作方法の理解が難しいので、事前の勉強が必要だ。
録音キャリブレーションは全て自動。カセットテープの良質な録音に欠かせない、レベル・バイアス・イコライザーの3要素に加え、1000ZXLではアジマスも調整される。録音ヘッドと再生ヘッドのアジマスを合致させることで、正確な録音同時モニターを可能とする。
キャリブレーションを開始すると、アジマス⇒バイアス⇒イコライザー⇒レベルの順で調整が行われる。点滅中のインジケーターが、いま何の調整を行っているかを示している。およそ20~30秒くらい、インジケーターを眺めながら終了を待つ。
コンピューティング・カセットデッキという名前にあるように、これらの動作を専用のコンピューターが行う。究極のフルオートチューニングである。
再生関係では、好きな曲順で再生したり、繰り返し再生したりすることができる、『RAMM』機能を搭載。この機能を使うと、テープに特殊な信号が記録される。その信号には、曲番号、再生イコライザーの設定値、ノイズリダクションのON/OFFの情報が入っている。
この情報を使うことで、3曲目⇒1曲目⇒5曲目といった順不同の再生ができる。さらに、同時に再生イコライザーやノイズリダクションの設定も、特殊信号のデータから自動的に設定を行ってくれる。
音質は、他のデッキを圧倒するくらいパワー感のある音で、超高音域まで出しつつも太い低音を出してくる。かといって、ドンシャリかと思いきや、そのような印象は感じられない。
それよりも圧倒されるのが、録音性能の高さである。CDでは、20,000Hzまでしか忠実に録音できないのに対し、1000ZXLは25,000Hzまで録音可能。登場当時の1980年でも既にハイレゾ録音が可能だったことを思わせるスペックである。
まもなく登場から40年となるが、これからも伝説のカセットデッキとしてあり続けてほしいと願うばかりである。
Nakamichi 1000ZXL × マクセルURの音質
世界最高峰のデッキ×世界最高峰のテープ
1000ZXLの中身はどうなっている?
1000ZXLは、木製のケースに収められています。前面にある4本のボルトを外し、ケースから1000ZXLを引き抜くと、このようになっています。
アルミ箔のシールドで覆われており、回路基板は見えません。右側のアルミ箔のない部分には、再生ヘッドのアンプ、録音イコライザー回路など、4枚の基板があります。
アルミ箔を取り除くと、オートチューニング専用のコンピューター回路が現れます。
フロントパネルの裏側を見てみよう。
フロントパネル単体でも、片手では持ちにくいほど重量があります。そして、パネルの裏にはまた何枚もの基板が付いています。
ボリューム(フェーダー)、操作ボタン、オートチューニングのインジケーターとあります。
このようにパネルに基板が取り付けられている類は、大元の基板に繋がっている配線を上手く外すことがポイントです。ですが、1000ZXLの場合は外す配線が嫌というほどあります。
こちらがオートキャリブレーションの状態を表示する基板です。透明色の粒のようなものが沢山付いていますが、ぜんぶ電球です。
外して眺めるのはともかく、元に戻すときが大変です。電球をはめる穴がパネル側にあるのですが、1つ残さずきっちりはめ込んであげるのに苦労します。
LEDにすることも不可能ではなさそうですが、電球独特の光り方も1000ZXLの演出の1つです。恐らくLEDすると少し違和感が出るかもしれません。
フロントパネルを外す。
前面にはメカニズムだけが残りました。巨大な本体でメカニズムが一番したではなく、少し上に配置されているのが最初疑問に思いましたが、ほかのナカミチと同じく水平に固定されています。
メカニズムの取り外しは、フロントパネルの面倒な配線を攻略しなくてはならないため、一筋縄ではいきません。
メカニズムを取り外す。
メカニズムを外すと、このような状態です。普通のカセットデッキでは見られないような光景になります。
底部にあるのがメカニズム制御の回路、左側に垂直になっているのが『RAMM』機能の回路、そして奥になる中に浮いている基板が電源です。
1000ZXLの中はどこも基板だらけです。少なくとも15枚はあります。

動画モードのカメラを1000ZXLの中へ突っ込む。
1000ZXLだからと言って、分解に妥協はしません。
1000ZXLは定価50万円もする、モンスターカセットデッキです。分解することに結構な抵抗感があるかもしれませんが、やはり中が気になります。
しかし実際分解みると、メカニズムはそれ程でもありません。やはり凄いのは基板の枚数だと思います。今の技術だったら、同じ機能を何枚の基板で搭載できるのでしょうか。
下手すれば1枚で収まってしまうかもしれません。
最高峰のデッキであっても、すべて分解するポリシーは貫いています。
電解コンデンサー全交換+α
電解コンデンサーだけでも200個近くあります。
お客様からご依頼いただいた1000ZXLでは、フィルムコンデンサとオペアンプを高級品に交換するカスタムも行いました。
WIMA社製コンデンサ、アムトランス社製コンデンサ、新日本無線MUSES02など、ふんだんに搭載しました。
自動アジマス調整機構の仕組み
1000ZXLには録音ヘッドのアジマスを自動調整する機能があります。録音した信号と再生ヘッドで再生した信号を比較し、位相が合っていなければ調整を行うというものです。3ヘッド方式のデッキでは録音同時モニターが可能ですが、録音ヘッドと再生ヘッドのアジマスが合致してこそ、正確な録音同時モニターが可能となります。
さて、自動でアジマスを調整するという前代未聞の機能ですが、一体どのような仕組みになっているのでしょうか。分解して見てみましょう。
画像ギャラリー
外装の様子
回路基板