概説
1980年、カセットデッキの頂点に君臨したナカミチの1000ZXL。当時の定価は550,000円。現在の貨幣価値に換算すると、なんと約730,000円。ちなにみ1980年当時の大卒初任給は、114,500円だったそうです。(年次統計https://nenji-toukei.com/より)
外観はとにかく巨大。重量は19キログラムあります。カセットデッキのサイズとしては規格外どころか、2~3台分のサイズと重さです。ボタンやスイッチも多く、「素人お断り」であることを強調してきます。実際のところ、取扱説明書を読まないと使いこなせません。読むどころか勉強が必要なレベルです。
1000ZXLは『Computing Cassette Deck』の異名があるように、テープごとにバラつきがある録音感度の補正、バイアス調整、録音イコライザー調整は全自動で行われます。また、録音ヘッドのアジマスもテープに最適になるように自動調整するなど、磁気テープの性能をフルに活かすための機能が備わっています。
そして1000ZXLの録音性能の高さを証明するのが周波数特性。カタログ値では25kHzまで録音できるとされています。実際にスペクトルアナライザーで解析してみても、人間には聞こえない音域までしっかり録音されていることが確認できます。まさに、アナログのハイレゾ。CDが記録できる音域を凌駕します。
気になる音質ですが、1000ZXLはとにかくパワーで攻め立てるような音です。低音が強いのか高音が強いのかと言ったら両方とも強く、癖は少ないです。また、CDを凌駕する周波数特性と相まって、特にアナログレコードをメタルテープに録音したときの音は圧巻です。迫力に圧倒されます。「空気感まで録音する」といったら少々胡散臭く聞こえるかもしれませんが、状態がよいアナログ盤のオーケストラを録音してみると、臨場感までしっかりテープに記録されているように思いました。
再生面の機能では、好きな曲順で再生したり、特定の曲を複数回繰り返したりできる、RAMM(Random Access Music Memory)を搭載。スマートフォンなら簡単にプレイリストを作成して好きな曲順で聞けるのは当たり前ですが、それをカセットテープでやってしまうという滅茶苦茶区な機能です。さらにRAMMは超低周波の信号を使って、再生イコライザーの設定、ノイズリダクションの有無までもテープに記録する機能があります。再生時にはその信号を読み取って自動的に設定するというハイテクな機能です。
ノイズリダクションはドルビーのBタイプのみですが、別売りのユニットによりHigh-ComⅡが使用可能になります。ただ、1000ZXLの素の凄さを体感するのであればノイズリダクションOFFがおススメ。
発売から40年以上が経過しましたが、これからもカセットデッキの伝説を伝えるべく、現存していってほしいと思います。
なお、1000ZXLには黄金のボディを纏った希少種「1000ZXL Limited」が存在します。その姿はまさに、カセットデッキの仏壇です。
※ページの設定が原因で表示が乱れておりました。お騒がせして申し訳ありませんでした。(2021/03/17)
外観の詳細画像
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【カセットホルダと操作ボタン】 開閉は手動式。リッドは手で回せるネジを緩めることで外れる。ピッチコントロール機能も搭載。
【インジケーター】 オートチューニングとRAMMの動作状態を表示する。オートチューニング中は、それぞれの項目が点滅して、何の調整をしているかを知らせる。
【フェーダーとメーター】 出力・ライン入力・マイク入力は、左chと右ch独立して調整可能。メーターは0dBにドルビーレベルが設定されているタイプ。
【操作スイッチ類①】 Bias Setのスイッチはバイアスを補正するスイッチだが、音質を変えるものではない。
【RAMMの操作ボタン】 5つのボタンを使って操作するが、説明書を読まないとまったくわからない。
【操作スイッチ類②】 右側にはオートチューニング関係のボタンが並ぶ。録音とRunを押すとオートーチューニングが始まる。また調整状態を4つまでメモリーすることができる。
【デッキ背面】 本体が木製の箱に覆われているため、放熱のための通風孔はデッキ背面にある。
【入出力端子】 入出力端子はすべてデッキ背面に集約されている。外部ユニットのHigh-ComⅡに接続するための専用端子も装備。リモート操作用の端子は、メカニズムとRAMMで別になっているようだ。
【製造番号】 ほかのナカミチのデッキでも、1980年ごろに発売されたデッキは皆0から始まる番号である。全モデルとも00001から始まっているのだろうか。
【録音・再生ヘッド】 ヘッドは特殊なものではなく、ナカミチではお馴染みのものが使われている。ただし1000ZXLの録音ヘッドは、アジマスの自動調整機構によって動く。
1000ZXLの基板
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【録音関係の基板】 木箱から本体を出し、電磁ノイズの影響を低減するためのアルミ箔シールドを外すと、まず録音関係の基板が見えてくる。
【録音ヘッド用アンプ・バイアス発振回路】 録音ヘッドと消去ヘッドの配線はここにつながっている。録音イコライザーから来た信号はここで増幅され、バイアスと一緒に録音ヘッドへと送られる。
【オートチューニング関係の回路】 この部分と、さらに裏にあるもう1枚基板がオートチューニングの回路である。
【RAMM基板】 本体の一番左側に垂直に設置されている基板。抵抗器やICがきれいに整列してるあたり、デジタル回路だと窺わせる。
【ラインアンプ・マイクアンプ】 本体右側の底にある基板である。フロントパネルを外すには、このような奥深い場所にある配線も抜かなくてはならず、とても苦労する。
【再生アンプ基板】 再生ヘッドの配線はここに繋がる。ICにマークがあるように、ノイズリダクションもここで行う。
【録音用ノイズリダクション基板】 半分はノイズリダクションの回路。もう半分は、RAMMの誤動作を防ぐために10Hz以下の音域をカットする回路。
【メーター用アンプ】 メーターにつながる配線はここに来ている。画像右側に垂直に実装された半固定抵抗で、メーターの調整ができる。
【録音イコライザー回路】 大きなICが並んでいる。1000ZXLのイコライザーの調整はオートチューニングで電子的に行われるので、いわゆる電子ボリュームのような形になっていると思われる。
【フェーダー基板】 スライド式のボリュームが付いているだけかと思いきや、コンデンサ、抵抗、トランジスタがぎっしり。
【電源回路】 1000ZXLの消費電力は65ワット。発熱対策のためか、通風孔のすぐ近くに設置されている。パワートランジスタも放熱板を本体のシャーシに固定されている。
【インジケーターの基板】 LEDではなく麦球を使っている。配線の多さからして、麦球1個1個に配線が与えられていると思われる。そもそもこれほどまでに配線が多いのは、点灯の制御をRAMM基板で行っているためである。
デッキの分解画像
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【フロントパネル取り外し】 メカニズムを降ろすには、十数個のコネクタを抜いてフロントパネルを外すところから始まる。
【フロントパネルの裏側】 操作ボタンとフェーダーはすべてフロントパネルにくっついている。フロントパネルだけでも、数キログラムあるほど重たい。
【メカニズムを取り外した状態】 中がよく見える。奥には電源回路の基板、左の壁にはRAMM基板、そして底にあるのはメカニズムを制御する基板。
【メカニズム】 最高峰のデッキではあるが、メカニズムの基本構造は他のナカミチでも使われているのもと同じ。ただ、唯一違うのが録音ヘッドを調整する機構。
【メカニズム全分解の途中】 1000ZXLで唯一の惜しい点はダイレクトドライブではないこと。数々の超ハイテク機能を搭載しているが、キャプスタンだけは普通のDCサーボモーターである。
【メカニズムを動かすカム部品】 ナカミチのメカは、比較的サイズが大きい部品ものが多く、分解はしやすい方である。ただし、部品の固定にはスナップリングが多様されているので、スナップリングプライヤは必須。
【自動アジマス調整機構】 ここが録音ヘッドを動かす中枢。モーターが回るとワイヤーに連動して録音ヘッドが僅かに動く。再生ヘッドを自動調整するDRAGONも同じ機構が搭載されている。
その他の画像
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【メーター振り切れっぱなし】 オートチューニングによって、メタルテープの本気の実力を体感することができる。Super Metal Masterではメーターの目盛が足りない。
【宅配便で送るにはどうするか?】 本体だけで約20kg、梱包材も含めると25kgを超えるため、通常の宅配便では送れない。(段ボール箱は危険)さらに1000ZXLは高額製品なので運送保険にも加入し、万全な状態で送る。この時はヤマト便を利用した。
1000ZXLに関する動画
動画モードのカメラを1000ZXLの中へ突っ込む。
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自動アジマス調整機構の仕組み
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撮影に協力してくださった方
・岐阜県 「Nakamichi Fun」さん
・埼玉県 「LuxFun」さん