西村音響店

Nakamichi ZX-5

ページ作成:2022/10/22

 

概説

1984年に登場した、ナカミチのZXシリーズの末裔モデルにあたるカセットデッキです。

ナカミチの純粋な3ヘッド方式としては、入門モデル的な存在でもあると思います。ちなみにナカミチのデッキには、3ヘッドながら同時モニター機能がない、いわゆる「なんちゃって3ヘッド」の機種もあります。このZX-5は、同時モニター可能な純粋な3ヘッド方式です。

特徴と一言で表すと「小柄な筐体にナカミチの技術」。本体の奥行は25cmしかなく、他社の廉価モデルに多い小型のボディです。重量も5.6kgしかありません。それでもスペックは流石ナカミチ。妥協を許さず、ノーマルテープでも平然と20kHzまで録音を熟します。

ZXシリーズといえば、ZX-7とZX-9が高級機して知られています。このZX-5も同じシリーズではありますが、残念ながら質感は少しZXシリーズからは離れています。特にボタンの操作感や、ボリュームの操作感は少しチープ感が出てしまうポイントです。

メカニズムは社外製のものが搭載され、コストダウンを図っていることが伺えます。内製メカと比べると信頼性は少し劣りますが、スペックはそのままに上位機種よりも価格を抑えることが可能になっていると思います。メカの配置が中央であることも特徴の1つ。特段珍しくはありませんが、1984年当時はメカが左側に配置されているデッキがまだまだ主流だった頃です。センターメカの先駆けのような存在でもあると思います。

社外製のメカとはいえ、ヘッドはしっかりとナカミチお馴染みのクリスタロイヘッドをインストール。ダイレクトドライブにより、ワウフラッターも0.024%(WRMS)と文句なしの安定さです。おまけにピッチコントロール機能も付いており、こちらはZX-7,ZX-9には無いZX-5だけの装備です。

音質もこれまでのNakamichiサウンドとは一味違い、やや硬めの音に味付けされている印象があります。ここは好みが分かれるかもしれません。クリスタロイヘッドではありますが、従来とは少し異なる新しいものが採用されています。

なお、後継であるCRシリーズが登場するまでは、ナカミチの純粋な3ヘッド方式の機としては最も低価格な機種になるかと思います。それでも定価は128,000円。他社でいえばもはや最上級モデルの価格ですが、高級機としても申し分ない性能を持っています。そのさらに上を行くのが、カセットデッキの王様であるNakamichi。

 

ZX-5の構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(ディスクリート型・クリスタロイヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール・カムモーター駆動
キャプスタンの回転 ダイレクトドライブモーター(ピッチコントロール付)
テープの走行方式 クローズドループデュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動式(たるみ取り機能あり)
スタビライザー なし
テープセレクター
手動(再生EQ切替は別スイッチ)
ノイズリダクション
ドルビーB・C
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 なし
メーター ピークレベルメーター(0dB=ドルビーレベル)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統(可変・OUTPUTボリュームに連動)
キャリブレーション機能 なし(バイアス調整可)
カウンター 4デジットカウンター
その他の機能
  • オートフェード機能
  • オートリピート機能
  • メモリーストップ機能

 

ZX-5の利点&欠点

◎軽量コンパクトなのに高級機として申し分のないスペック
◎コンパクトなNakamichiのカセットデッキ
○Nakamichiの3ヘッド入門機(それでも定価128,000円)
○センターメカの先駆け
○ピッチコントロール機能付き
△同じZXシリーズでも上位機種と比べると質感の差が大きい
 (軽量な本体や樹脂製パーツの多用など)
△搭載メカが内製ではなく社外のサンキョー製

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

無圧縮音源はこちら

【フュージョン・ロック】容量53.5MB

【ファンキーポップ】容量58.8MB

【ジャズ (ドルビーC録音)】容量26.2MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【(前面左側)テープ操作ボタン・カウンター】
上級モデルのNakamichiと比べるとプラスチック感がやや強いボタンです。ヘッドホンボリュームと間違えそうな位置にあるのは、ピッチコントロール用のノブです。

【(前面中央)カセットホルダ】
メカは中央にあります。特に珍しくはありませんが、1984年当時はまだまだ左側の配置が主流でした。いわゆるセンターメカの先駆けのように思います。

【(前面右側)メーター・ボリューム類】
メーターは縦型。分解能が10しか無く、目盛がやや粗いです。スライドボリュームも動かす際に少し引っ掛かりがあり、同じZXシリーズにしては質感が劣るポイントの1つです。テープセレクターは相変わらずの手動式。

【カセットホルダのリッド】
リッドは金属製で質感もあります。正方形の窓がTEACのV-8000SやV-7000に似ていますが、こちらは樹脂製リッドで質感は少し劣ります。

【デッキ背面】
製造番号が40000番台以降ということで、このZX-5は製造後期の個体である可能性が濃厚です。
【ヘッド部分】
Nakamichiお馴染みのクリスタロイヘッドですが、従来とは若干異なるヘッドが搭載されています。ギャップ部分(再生ヘッドの表面)の模様が違うほか、型番もP-8LからP2H-3Lに変わっています。

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。


 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【電源部】電源トランスは背面パネルにマウントされています。そのすぐ隣には電源回路です。平滑用の大きな電解コンデンサが少なく、「こんなので大丈夫か…?」と一瞬思ってしまいます。

【アンプ部】
ノイズリダクション用ICが4個実装されています。録音用と再生用で左右のチャンネル1個ずつという構成です。

【再生アンプ】
オペアンプはJ-FET入力のNJM072シリーズが使われています。また、電解コンデンサにもオーディオ用が使われるなど、上位グレードの電子部品が実装されています。

【再生アンプ②●】
別個体で1984年製のZX-5です。電解コンデンサが違います。ニチコン製オーディオ用電解である『MUSE』の初期型でしょうか。1985年製には次期のMUSEとエルナー製の電解が併用されています。製造ロッドにより、前期型・後期型が分かれている可能性があります。

【ノイズリダクション用IC】
TEA0652というドルビーBとドルビーCが一体になったICです。ドルビーC初期型のようにICを2個連結する必要がなくなり、回路もコンパクトになっています。

【ノイズリダクション用IC②●】
1984年製のZX-5です。ICソケットが装着されています。基板のはんだの状態から察するに、後付けではなく製造時から付いているものと思われます。

【バイアス発振回路】
本体内部の一番右側に垂直に設置されています。消去ヘッドの配線もここに来ています。少し顔を出しているトリマーはバイアス調整用です。各ポジション左右独立で調整可能です。バイアスの周波数は105kHz。

【録音アンプ】
6個のトリマーは録音レベルの調整用です。こちらもバイアスと同様、各ポジション左右独立で調整できる設計になっています。しかし、ここには録音ヘッドの配線は来ていません。

【メーター基板】
ちょうどスライドボリュームの後ろ側です。トリマーが2個見えていますが、こちらはメーター調整用です。録音ヘッドの配線が来ているだけに少し紛らわしいです。青いコネクタが録音ヘッドの配線です。

【録音アンプ・その2●】
ここにもオーディオ用の電解コンデンサが実装されています。画像は1984年製のZX-5です。

【操作ボタンの基板】
前面パネルにマウントされています。メカを脱着する時に前面パネルを少しだけ外した状態にしますが、やはり基板がマウントされていると配線に阻まれて少し大変です。

【メカニズム部分】
新世代のNakamichiメカである、サンキョー製の社外メカです。メカの固定が甘い点も気になります。上部からは1本の小さなネジでしか固定されていません。(底部からは2本)

 



 

メカニズムの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【開閉検出スイッチ●】
丸で囲んだスイッチです。カセットホルダが閉まっていれば、カセットが未挿入でもテープの操作ができます。

【リール駆動軸周辺●】
リールの回転にはゴムアイドラーを使います。左側の軸から伸びているのは、バックテンション機構のゴムベルトで、こちらもサンキョー製メカの特徴です。画像はゴム類の部品を交換した後です。

【DDモーター取り外し】
クォーツロック仕様ではありませんが、フライホイールから回路までTEACのV-8000SやV-7000Sと殆ど同じです。

【リールモーターとカムモーター●】
この辺りもサンキョー製メカではお馴染みの構造です。同じメカであれば、YAMAHAもKENWOODもTEACも分解の仕方は殆ど同じです。

【カム検出スイッチ●】
サンキョー製のメカはここも弱点です。接点が黒くなって接触が悪くなると、メカの制御が効かなくなります。電子部品洗浄剤を噴射し、暫くした後に綿棒で拭えば簡単にきれいになります。

【アイドラーゴム交換●】
ゴムが劣化すると徐々に回転が弱くなり、やがて回らなくなります。このZX-5は既に手が入っていたためか、Oリングに交換されていました。代用はできなくはないですが…

【バックテンション機構●】
こちらもサンキョー製メカの特徴的な機構です。十字型のバネも長年掛けてゆがんでしまい、バックテンションが効かなくなります。ラジオペンチなどで真っすぐに直してから組立てます。

 


 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1987年)


【TYPEⅣ】TDK MA (1988年)


測定データは1984年製のZX-5です。1985年製は回路のチューニングが若干異なるためか、少し異なる結果が出ました。1985年製の測定データは、YouTube動画の中で紹介しています。

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

撮影に協力してくださった方
・山形県 cote211さん(2022年8月~10月撮影)※外観の画像
・愛知県 カトウ様(2022年8月~10月撮影)※説明に●印が付いている画像、周波数特性、分解画像、録音サンプル

 

 

Return Top