西村音響店

Pioneer CT-980

ページ作成日:2025/12/21


 

概説

 

 

CT-980の構造&搭載機能

ヘッド 回転3ヘッド方式(録音/再生:リボンセンダスト)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール(ソレノイド+キャプスタンモーター駆動)
キャプスタンの回転 クオーツPLLサーボモ・ブラシレスモーター
テープの走行方式 オートリバース
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター 自動
ノイズリダクション ドルビーB/C
ドルビーHX-Pro なし
選曲機能 あり
メーター 2色LED式(0dB=0VU・160nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統
キャリブレーション機能 オートBLE
カウンター 4ディジット表示・テープ残量表示
その他の機能
  • スキップ再生(無音状態が続くと自動で早送り)
  • ブランクサーチ(録音可能な未録部分を探す)
  • ミュージックリピート(現在再生中の1曲を繰り返し再生)
  • インデックススキャン(曲の冒頭数秒を次々に再生)

 

CT-980の特徴

◎初の3ヘッドオートリバース機
◎フルブラシレスモーター(リール駆動モーターもブラシレス)
◎リボンセンダストヘッド
◎初のドルビーB/C一体型ICを採用
○オートリバースならではの多機能
○早送り/巻戻し時もリーダーテープを検知(終端直前で停止する)
○オートキャリブレーション Auto-BLE
△メカニズムの脆弱性(壊れやすい部分が多い)
△通常の早送り/巻戻し時でも常にヘッドとテープが接触(ヘッドを余計に消耗させる懸念)
△純粋なダイレクトドライブなのは片面再生のみ(リバース再生はベルトドライブで安定性が低下する)
△録音はオートリバース使用不可(リバース走行側に消去ヘッドが無い)
△整備性は最悪(機能をふんだんに詰め込んでいてメカも回路も複雑すぎる)
△賛否の分かれるデザイン性(色は豪華に見えるが質感は安っぽい)

 

関連機種

  • AKAI GX-R88(3ヘッド+オートリバース+クローズドループデュアルキャプスタンの化物マシン)
  • TEAC R-999X(左右のキャプスタンに独立したモーターを装備してフルD.D.仕様の3ヘッドオートリバース)

 

 



 

音質サンプル

テープ:RTM
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】96kHz-24bit 容量54.3MB

—–

【フュージョン・ロック】★他機で録音したテープ 録音デッキ:TEAC C-3  48kHz-24bit 容量34.2MB

無圧縮音源ファイルのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

【前面左側】
ゴールドとグレーのツートンを意識したデザインです。窓が細長いのもデザインのポイントだと思います。CT-980の窓は一回り大きくなった方で、前作のCT-970はもっと細長い窓です。
【カセットホルダ開】
パネル全体が開くような動きで、これもデザイン性重視のギミックかと思います。しかし素材は樹脂のため、質感はかなりチープです。樹脂部品であるためにギシギシ鳴きやすいのも質感低下の要素です。(廉価機なら許せるが最上級機はちょっと…)
【前面中央】
各種の表示部と、下の方にはノイズリダクションの切替スイッチがあります。縦型のメーターを採用したり、テープの走行状態を直感的に表示するなど、かなり攻めたデザインです。オートテープセレクターも、メタル対応のものとしては当時最新の機能です。
【前面右側】
操作系は右側に集中しています。やはり如何にもデザイン性を優先した配置や形状です。再生のA/B面を切り替えるボタンがあります。リバース再生モードになっていると、録音やAuto-BLEのボタンが効かないため注意が必要です。
【カウンター・走行状態表示】
【録音状態表示・テープポジション・ドルビーNR表示】
【ヘッド部分】
回転式のリボンセンダストヘッドです。従前の物とは異なり、CT-980を製造するにあたって新開発された物になります。残念なのは早送り/巻戻し中は常にテープと接触するため、消耗の早さが懸念される点です。労わりたければ極力早送り/巻戻しをしないのが良さそうです。
【ヘッドが回転する瞬間】
消去ヘッドが向かって左側にしか付いておらず、リバース走行での録音ができません。消去ヘッドすぐ上にある透明の棒がリーダーテープの検知センサーです。クイックリバースはもちろん、早送り/巻戻しでも磁気テープとの境目で停止させる制御を行います。

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

【電源部】
トランスのさらに奥側に付いている小さな基板は、リールモーターの駆動回路です。設置する場所が無かったので、ここに付けちゃいました感のある取り付け方です。
【メカニズム】
【ドルビーNR基板(裏面)】
向かって右側の部屋に制御系とアンプ系の回路が集中しており、部屋に蓋をするように付いているのがドルビー基板です。
【ドルビーNR基板(表面)】
ドルビーB/CがセットになったICを4個使っています。B/Cが1パッケージになったICはCT-980が初だそうです。(当時の雑誌広告より)当時最先端のドルビー回路になります。
【再生アンプ】
デッキ内部の右奥にあります。普遍的なバイポーラトランジスタを使用した増幅回路です。
【録音アンプ】
再生アンプの傍にあります。小さな基板モジュールが付いている辺りのエリアです。見えづらいですが、ここにはオペアンプが使われています。
【Auto-BLE用マイコン】
画像の真ん中に移っている2つのICがAuto-BLEの制御を行うマイコンです。そして大きい方のすぐ近くに、イコライザ定数選択用のコンデンサが並んでいるのが見えます。
【システムコントロール回路】
また一つマイコンが見えますが、こちらはメカを制御するマイコンです。マイコンの右の方にあるエリアが、リーダーテープセンサーの制御回路です。シスコン用のマイコンと連携しています。
【ボリューム基板】
ボリュームのほか、ヘッドホンアンプもこの基板に実装されています。ヘッドホンアンプ回路はまさかのディスクリート構成です。他の箇所でオペアンプを使っているのに、わざわざディスクリートで組んでいるようです。
【メーター回路・テープカウンター用マイコン】
2つの調整トリマーがメーターレベルの調整です。右の方にある大きなコネクタの陰に、テープカウンター用のマイコンがあります。特にテープ残量表示は演算が必要なため、マイコンを活用しているという形でしょうか。
【バイアス発振回路】
シャーシの下の奥の方にあって、修理の際にかなり手が届きにくい場所です。この個体では同回路のトランジスタが故障していたため交換しましたが、狭すぎて非常に苦労しました。
【】



 

デッキの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

【ハウジングランプ取り外し】
外すとリール駆動用モーターが見えます。ヘッドが回転途中のままですが、修理前は回転機構が故障していました。
【メカ脱着】
電源トランスの近くについていた小さい基板も一緒に外します。リール駆動モーターの配線が直付けされています。メカの脱着はPioneerの中ではしやすい方かもしれませんが、それでも簡単ではありません。
【メカ前側(修理後)】
【メカ後側】
キャプスタンモーターの基板で覆われていて、中の機構が見えません。基板も大きく物々しい雰囲気です。
【メカ下側】
フライホイールとヘッドの回転機構が見えます。さらにダイレクトドライブなのにゴムベルトが見えます。この正体は…
【キャプスタンモーター基板】
メカ後側の基板を外すと、ブラシレスモーターの駆動コイルが見えますが、片側にしかありません。そしてゴムベルトが6の字状に付いているということは、純粋にダイレクトドライブなのは片面の再生のみという事になります。そのためA/B面で走行安定性に差が出る要因となっています。
【メカ後側を分解】
フライホイールを外すと、メカを動作させるカムギヤが見えます。この2つのギヤだけで、CT-980の多彩な動作を行っています。しかし少ない部品数で多種類の動作を行おうとすると、機構が無理な設計になりやすく、壊れやすいメカになってしまう傾向があります。CT-980がその一例です。
【ヘッドブロック取り外し】
ヘッド回転機構が付いており、ヘッドの根元から非常に細い配線が出ているため大変デリケートな部分です。今回、大きな故障の1つとして回転機構の固着がありました。固着してヘッドが回転しにくくなるとメカの機構にさらに負担が増え、故障が重症化していく脆弱性を孕んでいるのがCT-980のメカです。
【ヘッドブロックの動作機構】
ヘッドブロックを外すと、ヘッドやピンチローラーを上昇させたりする機構が表れます。オートリバースデッキはヘッドを回転させるだけでなく、A/B面でピンチローラーも左右切り替える必要があります。そのため必然的に機構が複雑になりますが、CT-980はそれを凌駕する複雑さです。
【メカニズム完全分解】
今回はメカが全体的に不調だったため、オーバーホールを行いました。複雑な機構であるほど中途半端な修理が効かないため、潔くオーバーホールしてしまうのが得策です。

 

 

動作音

【メカニズム動作音】再生→停止→早送り→停止→巻戻し→停止→ヘッド回転×2→イジェクト

【Auto-BLE信号音】

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RTM


【TYPEⅠ】マクセル UR(現行モデル)


【TYPEⅡ】TDK SA (1981年)


【TYPEⅣ】TDK MA (1981年)


テストテープによる再生周波数特性

 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

 

これまでの作業実績

2025年10月 京都府 カトウ様

 

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