西村音響店

SONY TC-K5

ページ作成:2023/06/29

 

概説

1977年(昭和52年)ごろのソニーのカセットデッキ。TC-K(一桁)の世代のデッキで、K2~K8まで存在する中の真ん中のクラスに位置する機種です。また、当時の定価が59,800円で、いわゆる「598クラス」のデッキでもあります。

K(一桁)のデッキは、メタリック感の強いフロントフェイスに、1個1個の質感が高いスイッチ・ボリュームのつまみなど、次の世代のデッキよりも高級感では勝るような外観が特徴です。このTC-K5は、上位機種に近い外観としながらも、特にメカニズム部分のグレードを落として低価格でラインナップされた機種です。

キャプスタンの回転に使われているのは、磁気センサーでスピードを検出し制御を行うFGサーボモーターです。速度検出用のコイルから発生する信号を利用して制御するため、温度による速度偏差も起きにくいのが強みです。冷間時でも正確なスピードで回転します。なお、上位機種にも同じモーターが使われていますが、TC-K5は1モータータイプのメカのため、早送り/巻戻しも同モーターで行います。

ヘッドも上位機種で採用されている物と同じ、全体が黒光りしているタイプのF&Fヘッドです。録音再生兼用ヘッドではありますが、再生では実測で18kHz程度まで信号を拾える能力があり、TC-K5よりも新しいデッキで録音したテープでも比較的良い音で再生してくれます。フェライトヘッドということで、耐久性にも優れている点も見逃せません。

TC-K6以上の機種では、ロジックコントロールが採用されています。後年になるとロジックコントロールが標準装備になりますが、1970年代後半はデッキのグレードで、メカの構造も選択できた時代だったのではと思います。

実際に使用したところ、性能面ではK5と上位機種の差はそれほど感じませんでした。モーターの数が1個になった影も殆ど感じられません。見方を変えれば、ガチャメカの利点を得られるのはK5の大きなポイントだと思います。

上位機種のスペックとガチャメカの利点を得られるのが、TC-K5のセールスポイントになると思います。

 

TC-K5の構造&搭載機能

ヘッド 2ヘッド方式(録再ヘッド:F&Fヘッド)
メカニズムの駆動 機械式(ガチャメカ)
キャプスタンの回転 FGサーボモーター
テープの走行方式 シングルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター
手動(フェリクローム対応,メタル非対応)
ノイズリダクション
ドルビーB
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 なし
メーター 針式VUメーター(ピークインジケータ付き)
ライン入力 RCA端子1系統・マイク端子
ライン出力 RCA端子2系統(固定レベル出力・可変レベル出力)
キャリブレーション機能 なし
カウンター 機械式3デジット
その他の機能
  • メモリーストップ機能
  • オートプレイ機能(最初まで巻き戻った後自動的に再生を開始)

 

TC-K5の利点&欠点

◎安定性に優れる周波数制御式FGサーボモーター採用 
◎上位機種に近い外観と質感(コストパフォーマンスが高い)
○機械式メカ(早送り/巻戻しがギヤ駆動でゴムの劣化がない)
○上位機種と同じF&Fヘッド(全体がフェライトになっているタイプ)
○出力端子が2系統ある(固定レベル出力と可変レベル出力)
○3レベルのピークインジケータが便利(VUメーターが追従できない信号を的確に表示)
△操作レバーの感触に若干チープ感がある(レバーをロックする機構部品が樹脂製のため)

 


 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library
※BIAS設定:HIGH

【フュージョン・ロック】容量53.4MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【カセットホルダ・操作レバー】
上位機種に近い高級感のある外観でありながら、ガチャメカである点がK5の特徴です。

【前面右側・メーター,スイッチ,ボリューム等】
メーターは針が下を向いているタイプのVUメーターです。ピークインジケータは、0dB(0VU),+4dB,+8dBの3段階で、VUメーターとの併用では非常に心強い存在です。

【削り出しのスイッチとボリュームのつまみ】
K一桁世代のデッキといえば、この金属削り出しのつまみです。最も高級感のある部分だと思います。実際に外して手に取ってみると質量だけでなく生産コストの重さも感じます。

【本体背面・入出力端子】
この頃はまだDIN端子を搭載している機種もありますが、K5はRCA端子のみです。また出力端子は、固定レベル出力端子(FIXED)と可変レベル端子(VARIABLE)があります。

【製造番号と電源コード】
電源コードには「1977」と西暦が印字されていました。

【ヘッド周り】
F&Fヘッドです。しかも上位機種K7やK8に搭載されている物と同じ、全体が黒光りしているタイプのF&Fヘッドです。個人的な感想ですが、真ん中だけ黒いタイプのF&Fヘッドとは音質が違うように感じます。

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。


 

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【メカニズム部分①】
FGサーボモーター1個のみで駆動するメカです。モーターには2本のゴムベルトが掛かっていますが、細い方は再生用のアイドラーとオートシャットオフ機構を作動させるベルトです。

【メカニズム部分②】

【メイン基板】
基板は逆さ向きに取り付けられており、こちら側からは電子部品は見えません。ただ、録再ヘッドおよび消去ヘッドの配線は、こちら側から直接ランドにハンダ付けされているので、メカの脱着は比較的楽です。

【メーターの後ろ側】
メーターの針を動かす配線と、電球を光らせる配線があります。外したら元に戻す際、誤接続には注意です。

【メカニズム・底部】
底板を開けて下から覗いた時のメカニズムです。

【電源回路・バイアス発振回路】
銀色のシールドの中がバイアス発振回路です。

【電源回路】
電解コンデンサを見ると、最も大きなもので1000μFです。ニチコン製で、頭部にある防爆弁が変わった形をしています。

【録音スイッチ用ロッド】
録音レバーを押下すると、ここにある大きなロッドが動き、2つあるスライドスイッチを押します。

【再生EQアンプ】
2SC1345のトランジスタを使用した増幅回路です。ネットの情報を見ると、劣化してノイズが増すという話があるようです。実際このK5もLchだけノイズが大きく聴こえる状態です。

【ノイズリダクション回路・ラインアンプ】
ノイズリダクションは全て単体部品で構成された回路です。最初期の回路と比べると幾分コンパクトになっています。奥に小さなトランスが見えるのがラインアンプと思われます。

【ボリュームとスイッチの後側・マイクアンプ】
橙色の電解コンデンサが集まっている辺りがマイクアンプと思われます。ノイズ対策や音質改善のためでしょうか、良い電解コンデンサが使われているように見えます。
【】



 

メカニズムの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【メカニズムの分離①】
K5のメカを完全分解するのは、まずメカを大きく3つに分離させます。これはハブ駆動軸やアイドラーがある部分を切り離した状態です。

【メカニズムの分離②】
さらにヘッドが付いている部分と、カセットホルダを分離しました。メカの地板が2枚1セットになっているような構造です。そしてカセットホルダの取り外しがなかなか大変です。その理由は後ほど。

【カセットホルダと操作レバー】
カセットホルダの支点が、操作レバーの支点と同じ場所です。これを一度バラバラにすると組立てはなかなか苦労します。しかしこの時はオーバーホールでグリスを打ち替えるため、すべて分解しました。

【フライホイール】
この時代の設計でよくある、シングルキャプスタンに大型のフライホイールの組み合わせです。

【フライホイール取り外し】
フライホイールを外すと、このようにアイドラーギヤが見えてきます。早送り/巻戻しではこのギヤを、フライホイールの内側にあるギヤと嚙合わせて回転させます。

【アイドラー・フライホイール組付け前】
これは組立時に撮影した画像です。モーターだけ取り付けています。ゴムベルトを交換するだけであれば、画像中でぶら下がっている、フライホイールの真後ろにある部品を外すだけでよいです。

【メカニズム前側】
カセットホルダとフライホイールを外すと、ヘッドが付いている前側と、アイドラーやハブ駆動軸が付いている後ろ側に分割します。既にこの時点で複雑を感じる構造となっています。

【ヘッドを外した状態】
部品点数は少ないですが、取り付け方が複雑なのがこのメカの難しい点です。

【アイドラーギヤ部分】
再生用と早巻用で別々のアイドラーです。早送り/巻戻しはギヤで、再生はゴムで行います。巻戻しで回転方向を逆にするには、下のギヤをフライホイールに当てることで、噛み合うギヤが1枚増えて回転方向が変わります。

【ハブ駆動軸】
先ほどの上側のギヤは、ここのギヤと直結しています。早送り/巻戻しはギヤ駆動なので、ゴムの劣化によるトルク低下の心配はありません。右側の駆動軸の周りにはゴムが付いており、再生時は中央に見える細い真鍮軸を押し当てて回転させます。

【リール台部分の地板】
ハブ駆動軸やギヤの部品を全て外した状態です。

【メカ後側・部品の配置】
意外と構造が複雑です。難しいのは、何か部品を取り付け忘れると、取り付けた部品を全部外さなければならない事です。組立てが進めば進むほど、後戻りが大変になります。

【操作レバー】
金属製に見えますが樹脂製です。磨く前はこのようにかなりくすんだ状態でした。

【フライホイール】
早送り/巻戻しはフライホイールの回転を使うため、大きなギヤが付いています。また、テープ終端で極端にトルクが掛からないよう、クラッチ機構が付いています。

【ピンチローラー交換中】
表面に光沢が出ていているのは劣化のサインです。再生中にテープが少しふらつく現象もありました。

【早巻用アイドラーギヤ】
ギヤが2個あります。奥のギヤがフライホイールから動力を受ける部分、手前のギヤがハブを駆動する部分です。ハブ駆動用のギヤの歯が細かいので、ギヤの摩耗が少し心配です。

【ツマミ類取り外し】
ボリュームとスイッチの洗浄のため、前面パネルを外します。ツマミはただ差し込まれているだけ、引っ張るだけで簡単に取り外せます。

【ボリューム・スイッチ取り外し】
メインの基板に直付けされているため、前面パネルの他に基板も固定を緩めて、位置をずらす必要があります。

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】SONY JHF


【TYPEⅢ】SONY DUAD (二代目)


 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。
※Lch(緑線)の低域だけ大きく振れているのは、トランジスタの不調による物です。廃番品のため入手困難。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

撮影に協力してくださった方
・千葉県 バンナイ様(2023年6月撮影)

 

 

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