西村音響店

SONY TC-FX7

ページ作成:2024/08/11

 

概説

1980年に発売された高さ約8cmの薄型カセットデッキです。

このデッキの最大の特徴は、カセットを縦に入れる正立透視型ながら、筐体の高さはたった8cmであること。ソニーでは、フルサイズコンポで8cmの高さを実現したデッキは3機種あるようで、うち2機種はリニアスケーティングメカのTC-K88とTC-FX606Rです。

正立透視型ながら高さ8cmを実現できたのは、高さを低くした専用の録再ヘッド。当時のソニーは、メタルテープに対応するためS&Fヘッドを採用していましたが、それをベースにFX7専用にヘッドを開発したという事になると思います。

音質は以外にも素直です。低域から高域まで癖なく表現してくれます。F&Fと比べると音の硬さは和らいでいますが、他社の純粋なセンダストヘッドや、パーマロイとの複合ヘッドと比べると少し硬さを感じます。ただ音の線は適度に太く力強さもあります。

これだけ薄型ながら、キャプスタンの回転はクォーツロック付きのダイレクトドライブで、0.05%(WRMS)という優秀な安定性を誇っています。フライホイールが、ポータブル型の生録機並みという事を考えれば、かなり優秀と言えると思います。

機能に関しては質素で、バイアス調整の機構も無く、シンプルに録再するだけのデッキです。テープセレクターだけは手動切替で、フェリクロームテープや、検出孔の無い最初期のメタルテープにも対応します。

他にこのようなデッキは見当たらないソニーの特色が濃い1台ではありますが、メカやヘッドが専用品のため、万が一の際に部品取りで延命する事が難しいのが難点です。また当時の売れ行きが芳しくなかったのか、中古で出回っている個体も少ないです。

正立透視型で薄型を極めたユニークなデッキですが、ソニーのデッキの中の異端児的存在でもあろうデッキです。

 

TC-FX7の構造&搭載機能

ヘッド 2ヘッド方式(S&Fタイニーヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール・ソレノイド駆動
キャプスタンの回転 ダイレクトドライブ(BSLグリーンモーター・クォーツロック制御付き)
テープの走行方式 シングルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター
手動
ノイズリダクション
ドルビーB
ドルビーHX-Pro
非搭載
選曲機能 なし
メーター デジタルピークレベルメーター(0dB=250nWb/m)
キャリブレーション機能 なし
カウンター リニア分数
その他の機能
  • メモリーストップ機能

 

TC-FX7の特徴

◎正立透視型ながら高さ約8cmの極薄ボディ
◎クォーツロック制御ダイレクトドライブ
○フェリクロームテープ対応
○意外と素直な音質。D5Mデンスケに少し近い感じ。
△バイアス調整機能は無し
△専用ヘッドのため交換が効かない

 



 

音質参考動画

テープ:RTM C-60
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量52.5MB

【エレクトロ系】容量57.2MB

※96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【カセットホルダ】
操作ボタンと一体になっており、このように一緒になって開きます。正立透視型で8cmの筐体でも、スムーズに開閉するように工夫がされています。

【リッド取り外し】
リッドも外すことができるので、ヘッド掃除も不便はありません。

【テープセレクターとカウンター】
テープセレクターは手動式です。カウンターはFL管によるリニア分数表示です。

【メーターとRECボリューム】
2色LEDのメーターでK75の世代に近い雰囲気です。RECボリュームは背の低いデッキには多いスライド式となっています。

【ヘッド部分】
ここがFX7最大の特徴でもあります。同じS&Fヘッドでも、FX7は薄型の特別仕様です。耐久性はまずまずですが、特殊な上部品取りが利かない欠点があります。移植交換するにしてもFX7同士でないとダメで、共食いになってしまいます。
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デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

本体底部

 

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【電源トランスと電源回路】
電源トランスは底面のパネルに直付けされており、デッキ底部を開ける際にやや面倒です。しかし筐体の高さを極限まで薄くするためには、やむを得ない設計だと思います。

【カウンター表示回路】
SONY製のICが付いています。実際1980年頃はまだまだ機械式のカウンターを採用しているデッキも多くあり、リニア分数カウンターは先進的な装備だったと言えそうです。

【メカニズム部】
メカの動作はソレノイドで行うタイプで、動作音はやや大きめです。こちらも高さの制約のためか、ソレノイドが横向きに取り付けられているのがポイントです。

【ダイレクトドライブ基板】
メカの背中にはDDモーター用の基板です。超薄型デッキながら、ダイレクトドライブを搭載、しかもクォーツロック制御です。

【メカを下から見る①】
ヘッドの配線は普通なら縦に伸びていくところ、FX7は横方向に伸びていきます。フライホイールも随分小型ですが、ワウフラッター0.05%の性能があります。随所に薄型化のための工夫が見られます。

【メカを下から見る②】
クォーツロック制御を行っている証である、水晶振動子がしっかりと付いています。実装されている部品からして、TC-K777に近い回路もしくはほぼ同じ駆動回路と思われます。

【バイアス発振器・再生アンプ】
銀色のシールドの中がバイアス発振器です。再生アンプはオペアンプ増幅によるもので、新日本無線の中でもカセットデッキ用に特化したNJM4562が使われています。カップリング、デカップリング用のコンデンサもオーディオ用で、抜かりの無い部品選定となっています。

【メーター表示回路】

【録音EQ回路・アンプ用電源】
インダクタ・キャパシタ・抵抗のセットが、合計8つあります。TypeⅠからTypeⅣまでのEQ回路です。画像上の方に少し見えているのが、アンプ用の電源回路です。

【マイクアンプ回路】

【ドルビーNR回路】
ドルビーNRはSONY内製のICが使われています。実装されている部品や回路構成的に見てもTC-K777に近い感じです。ドルビーNRのICに銅のシールドを掛けてノイズ対策しているのは、恐らくソニーのこの時期だけだと思います。
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デッキの分解画像

 

 

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【前面パネルを外した状態】
メカニズムを脱着するには、前面パネルを外す必要があります。整備性に関しては可もなく不可もなくと言う感じです。

【メカニズム脱着】
メカの配線は、制御系がコネクタ接続、ヘッドがハンダ付けで、コネクタ接続が徐々に採用されるようになる頃に多い接続方法です。ただし1つ、ハウジングランプの電球の配線がワイヤラッピングで少々面倒です。

【DD基板取り外し】
画像右の方、回転速度を検知するコイルの細い配線が、DD基板の裏側に直接はんだ付けされています。少し引っ張っただけで切れそうで、注意を払う必要があります。

【リールモーター部分】
リールの回転はゴムアイドラーよる駆動です。このデッキはベルトを使っていないため、分解して交換が必要な部品はアイドラーだけです。ただ、ここまで分解するのにやや手間が掛かりそうです。

【メカ駆動用ソレノイドを外した状態】
ヘッドを動かすソレノイドと、リールのブレーキを解除するソレノイドです。直接ソレノイドとロッドで駆動するタイプにしては小さめですが、動作音はそこそこ大きいです。

【動力部品を外した状態】
メカを動かすロッドが見えてきます。メカの構造自体はシンプルです。今回はここが固着して動かなくなっていたのをオーバーホールして修理しました。フライホイールを外すと、回転速度を検出するコイルが見えてきます。

【ヘッドブロック取り外し】
録再ヘッド直下の基板が非常に薄いので、取扱いには気を遣います。
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メカ動作音

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RTM (現行テープ)


【TYPEⅡ】SONY ROCK (1981年)


※ROCKはJHFと同じ磁性体のため同じ特性が出ます。

【TYPEⅢ】SONY DUAD (1978年)


【TYPEⅣ】SONY METALLIC (1979年)


※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

 

これまでの作業実績

2024年6月 近藤様

 

 

 

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