西村音響店

SONY TC-K222ESJ

ページ作成:2023/03/14

 

概説

1993年(平成4年)にソニーから発売された、3ヘッド方式としては標準グレードにあたるカセットデッキです。型番にESJが付くこの代から、ソニーでは初めてドルビーSを搭載しました。

上級機種のTC-K555ESJ・TC-K333ESJの機能を簡素にまとめあげて、低価格を実現したデッキとなっています。(当時の定価65,000円)また、ソニーの高級カセットデッキの特徴的な設計でもある「ミッドシップドライブメカ(中央にメカニズムを配置する設計)」が、このTC-K222ESJから222クラスでも採用されました。

回路設計も先代の222ESAからは大きく変わっています。基板は222ESG以来の2枚の構成になり、電源および制御系で1枚、アンプで1枚という構成に変わりました。アンプの回路もドルビーS搭載のためか大きく変わっています。特に再生アンプは、オペアンプ1個のみを使用した非常に簡素な回路となっています。

ドルビーS以外にもESJ代の共通点に、ダイレクト入力端子が省略された事があります。しかしこの222ESJはダイレクト入力に切り替えるスイッチが装備されています。上位機種には装備されておらず、若干不思議な装備とも見て取れます。ONにすることで、バランス調整ボリュームをバイパスさせる設計のようです。

それ以外の機能については先代から変わらず、キャリブレーション機能、録音EQの3段階切替えスイッチは引き続き搭載されています。メカニズムの配置が変わったことでデザインの印象は大きく変わりましたが、録音レベルボリュームつまみが大型であるあたり、なんとなく先代の222ESAをフィーチャーしている雰囲気を感じます。

TC-K222ESJは1994年まで生産され、後継機種のTC-KA3ESにモデルチェンジします。同じ定価のまま、より高級感を増したデザインとなり、キャリブレーション機能もさらに進化したものとなりました。

 

関連機種

【上位機種】TC-K555ESJ、TC-K333ESJ
【下位機種】TC-K700S

 

TC-K222ESJの構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(録音/再生コンビネーション型・レーザーアモルファスヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール・カムモーター駆動
キャプスタンの回転 クォーツロック・ダイレクトドライブモーター
テープの走行方式 クローズドループデュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 パワーローディング
スタビライザー あり
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB・C・S
ドルビーHX-Pro
ON/OFF切替可
選曲機能 あり
ライン入力 RCA端子1系統(ダイレクト入力スイッチ付き)
ライン出力 RCA端子1系統(固定レベル)
メーター ピークレベルメーター(-4dB=0VU)
キャリブレーション機能 あり(録音EQ切替付き) 400Hz・8kHz
カウンター リニア分数
その他の機能
  • クリーニングモード
    (開閉ボタンを押しながら電源を入れると、カセットホルダーが開いた状態でピンチローラーが上昇する)

 

TC-K222ESJの利点&欠点

◎ドルビーSを搭載
◎キャリブレーションは録音EQも調整できる
○ソニーの222クラスで初のミッドシップドライブメカ
○上位機種にはないダイレクト入力の切替えスイッチ搭載
△メカの動作を細いベルトで行うため信頼性が少々劣る
△ドルビーNR、MPXフィルター、HX-Proのインジケーターが無い

 



 

音質参考動画

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

無圧縮音源はこちら

【フュージョン・ロック】容量53.5MB

【ファンキーポップ】容量59.7MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【前面左側・テープ操作ボタン・メーター】
メカが中央に配置されたことにより、FLディスプレイは左側に変わりました。多くのデッキは右側にメーターが配置されており、最初は少し違和感を覚えます。テープ操作ボタンのレイアウトは従来と同じです。

【前面中央・カセットホルダ】
ESA代と同じ、窓が横に細長いタイプのリッドです。

【前面右側・録音関係の操作部】
録音レベルとバランスのボリュームは222ESA、ドルビーやキャリブレーション関係のスイッチは333ESJといった、ミックス感のあるレイアウトです。ただしDIRECTスイッチは222ESJ独自のものとなっています。

【カセットホルダ本体とリッド】
ESJ代のカセットホルダは灰色です。ESA代のセラミックらしい白色からの変更点です。

【FLディスプレイの表示変化】
ESJ代で共通する欠点は、FLディスプレイに表示される情報の少なさ。ドルビーNRのモード、MPXフィルター、HX-Proといった特に録音に重要なインジケーターがありません。切替え忘れを誘発してしまいそうで、やや不満なポイントです。

【ヘッド部分】
録再ヘッドはESA代と変わりません。パッドプレッシャーリダクション付き(青い点粒)のヘッドです。画像はピンチローラー交換後に撮影したものです。

【本体背面】
ESJ代になってCDダイレクト入力の端子は省略されましたが、222ESJに関しては前面右側にあるDIRECTスイッチがその代役となっています。今回の個体は電源コードの印字から1994年製と思われます。

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。


 

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【電源およびロジック部】
ESG代以来のロジックとアンプを別の基板に実装する構成が採用されました。後継のKA3ESもマイコンが小型化される以外は殆ど同じです。

【電源回路拡大】
手前にある放熱板付きのトランジスタと電解コンデンサが、ロジック回路に供給する電源回路です。奥に見える3300μFの電解コンデンサは、全波整流の平滑用コンデンサです。

【電源トランス】

【アンプ部・電源】
アンプに供給するレギュレータ回路です。ニチコン製のMUSEコンデンサも222ESG以来の採用です。

【再生EQアンプ】
信号増幅は単純なオペアンプ1個のみの構成となり、三菱製のM5220Pというオペアンプが使われています。カセットデッキに特化した超低ノイズのオペアンプです。

【ドルビーNR回路(再生用)】
B/Cタイプ用にはお馴染みCX20188型のICが使われています。その隣に垂直に立っている2枚の基板がドルビーS用の回路です。

【ドルビーS用の基板】
ソニー製のデッキにしか搭載されていない、表面実装部品で構成されたコンパクトな回路基板です。

【キャリブレーション用回路】
ここにあるトリマーは、キャリブレーションモード時のメーターを調整するものです。ちなみに後継のKA3ESになると信号レベルの測定がデジタル式になり、調整用トリマーが無くなります。

【テストトーン発振回路】
ここにもトリマーがありますが、こちらはテストトーンの出力を調整するものです。222ESJは低域と高域の2種類ですが、後継のKA3ESでは中域も加わり、トリマーが3つに増えます。

【ドルビーNR回路(録音用)】
前述の再生用とほぼ同じ構成ですが、録音用の回路には付近にMPXフィルター用のインダクタがあります。3ヘッドデッキの場合は、このインダクタの有無で再生用or録音用の見分けがつきます。(例外もあり)

【録音EQ回路・バイアス発振回路】
左側のごちゃごちゃしているエリアがバイアス発振回路です。赤色のコネクタ付近にあるインダクタで、交流バイアスの電流が右側の録音EQ回路に侵入を防ぎます。(バイアストラップ)カセットデッキの回路の見本にしてもよいくらい、分かりやすいレイアウトです。

【メカニズム部】
ESG代から採用されているサイレントメカ(TCM-200D型)です。222のデッキはメカニズムの脱着が非常にしやすく、早ければ5分以内で脱着ができると思います。

【FLディスプレイ基板の裏側】
タクトスイッチを交換する際は、ここの基板をごっそり外す必要があります。この年代のソニーのデッキは、経年劣化によるタクトスイッチの誤動作も発症するため、交換が必要となると少し手間がかかります。555/333の方が少し楽です。

【切替スイッチ基板の裏側】
ボリュームがすぐそこに見えています。222ESJのキャビネットには通風孔があるため、埃によるガリの発生が心配なところです。ただ取り外しがさほど面倒ではなく、メンテナンスしやすい点が幸いです。

 



 

デッキの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【修理前のメカ】
今回お預かりしたデッキは、モードベルトの伸びによる動作不良。ソニーのサイレントメカでは定番の故障です。

【カセットホルダを取り外した状態】

【アイドラーとピンチローラーを外す】
このメカで厄介なのは、たった1本の細くて小さなベルトを交換するのに、ピンチローラーを外す必要があること。デュアルキャプスタン方式なので、交換の度にテープパスを確認しなければなりません。

【ダイレクトドライブのASSYを外す】
ここまでで全体の50%は分解した形になるでしょうか。これでもまだ交換はできません。なかなか遠い道のりです。

【カム部分が見える】
アクセスしなければならないのが、いくつものギヤがあるカムの部分です。さらにモーターを外します。

【モーターASSYを外す】
ここまで分解してやっと問題のゴムベルトを交換することができます。70%くらいは分解が必要に思います。ちなみにゴムベルトは完全に弾力を失って、引っ張ったら千切れそうな状態でした。(画像奥のトレイにあるのが劣化したベルト)

【劣化したピンチローラー】
ピンチローラーの劣化も定番です。特に送り出し側は硬化して表面に光沢が出るほか、酷いには樹脂製の軸が腐食してしまうことも。巻取り側のローラーも亀裂が見られ、この時は両方交換しました。

【キャプスタンベルトも交換】
この個体はキャプスタンベルトまでゴムが柔らかくなっていました。このメカに関してはゴムが硬化する現象の方が多いように思いますが、柔らかくなってしまう事もあるようです。

【テープパス確認中】
細くて小さいゴムベルト(通称モードベルト)を交換する度にこの作業が必要です。厳密に行うにはミラーカセットが必要になるため、簡単そうに見えてなかなか気軽にはできない修理かもしれません。

【専用治具による調整】
2022年の暮れに新たに導入した調整用の治具です。このツールとミラーカセットを併用によって、調整作業を効率よく行うことができます。もちろんヘッドの調整にも欠かせないツールですが、入手が難しい中でなんとか入手することができました。

【ヘッドのあおりを確認中】

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】SONY CDixⅡ


【TYPEⅣ】TDK MA (1990年)


【-20dBテストテープによる再生周波数特性】

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

 

撮影に協力してくださった方
・愛知県 カワカミ様(2023年2月撮影)

 

 

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