概説
1982年に登場した3ヘッド方式のカセットデッキです。
TC-K777ES、TC-K666ESと数えて、上から3番目のモデルにあたります。シルバー色をした一世代前のTC-K555から変わって、ブラックのボディに変わりました。
外観だけでなく、中身もTC-K555から進化した部分があります。一番大きな変化は、録音/再生ヘッドの変更です。
センダストとフェライトを使ったS&Fヘッドから、アモルファスヘッドへ変わりました。実は‘70年代では、アモルファス合金を使ったカセットデッキの磁気ヘッドが実用化されていなかったのです。’80年代に入り、ようやく実用化に至りました。カセットデッキの技術がまた一歩前進したことを感じさせます。
また、素材が変わったことにより新旧のヘッドで音質も違いますので、比べてみるのも面白いでしょう。シルバーのTC-K555、ブラックのTC-K555ES、両者ならではの楽しみ方です。
ほかにも変わった部分があります。ノーマル、ハイポジ、フェリクロームともに、録音バイアスの調整ができるようになりました。シルバーのTC-K555では、ノーマルテープだけしか調整できませんでしたので、録音もこなせるデッキになったことでしょう。
ところが、メタルテープだけは調整ができません。最上級モデルのTC-K777ESではすべて調整できますので、差別化の1つなのではないかと思います。
お値段は少し張りますが、TC-K777ESとTC-K555ESで、価格の差で音がどう違うかを比べてみるのも面白そうです。
よくある故障 <ヘッドが上がらず再生できない>
TC-K555ESでよくある故障は、再生できないというものです。原因は矢印の部分で、分解してメンテナンスをしてあげれば、十分に復活できます。
ここには、動きを良くするための油(グリース)が塗られています。しかし、年数がたつと徐々にグリースが固まります。やがて、動きを良くするものから、動きを悪くしてしまうものに変わってしまうのです。
スプレーなどの油を差せば動くようになりますが、一時的な処置でしかなく、再び固まってしまう可能性があります。そのため、分解して洗い落としてあげることが重要です。
洗浄を終えた部品です。組立て始めるまで時間が空いてしまうときは、きれいな状態を保っておきたいので、このように袋に入れて保管します。
よくある不具合 <ボタンを押すと扉が飛び出てくる>
これは、開く勢いを抑えるゴムが劣化したことによる不具合です。新品のゴムに交換することで解決できます。
TC-K555ESに限らず、1988年の機種でも一緒の構造ですので、同じ症状が起きます。扉をゆっくり開けさせるには、勢いを抑えなくてはならないので、画像のようなゴムを使ってゆっくりと開くようにしています。このゴムが悪くなって滑りやすくなると、役割を果たせなくなって勢いよく「ドカン!」と爆弾のように開いてしまうのです。
電気を消したらダメです。
カセットテープを入れたときに、真ん中の部分が光っているデッキはご存知かと思います。安いモデルだと、ただ塗ってあるだけかシールが貼ってあるだけのもありますが、光っているとテープの残量が分かりやすくて便利です。
TC-K555ESにも付いています。まだLEDではなく電球が使われているので、もし球切れになったら必ず交換です。必ず交換しましょう。
理由は、電球の明かりを、リールの回転を検知するセンサーに使っているためです。光が無いとセンサーが反応せずリールが回っていないとデッキが判断できません。すると、再生ボタンや早送りボタンを押しても数秒後に止まってしまう症状がでてしまいます。
もし、中古品で再生OKと謳っているデッキを見かけても、ここの電球が切れていたら要注意です。再生しても数秒で勝手に止まるので、さすがに壊れていると判断できると思いますが、 中古品を探す際にはご参考ください。ちなみに最上位モデルのTC-K777ESは、センサーの種類が違うので、球切れしていても問題なく使えます。
メカニズムをぜんぶ分解するとこうなります。
再生ボタンを押すと「ガチャン!」と大きな音がします。30年以上前に作られた古いカセットデッキには多いタイプです。
なぜそのような音がするかというと、ヘッドが瞬間的に上がるためです。ゆっくりではなく素早く動作するので、大きな音を発します。ボタンを押すと即座に動く反応力の良さが特徴です。
ヘッドだけ新しくなっているほかは、シルバー色のTC-K555と同じ構造です。ほかの機種でも採用されており、TC-K555のS&Fヘッドを移し替えてどんな音質になるのかという、面白い実験ができそうです。
こんなこともできます。
まったく意味のない遊びみたいなものですが、ドア無し・カセットホルダー無しの状態でも動かせます。
再生するときは、手でカセットをはめ込みます。カセットデッキにとって、カセットホルダーがあるのは常識だと思いますが、実はそれが無いデッキも存在します。
その1台がこれです。ヤマハのK-6です。しっかり装着できたかを確認できるので安心という方には長所になるでしょう。
電解コンデンサーを交換する時は要注意。
電解コンデンサーは、+(プラス)と-(マイナス)の極性があります。
もちろん、極性に注意して古くなったコンデンサーを交換していくのですが、実はTC-K555ESで一カ所だけさらに要注意な箇所があります。それが画像の部分です。
基板にはどちらの方向がマイナスかが書かれていて、TC-K555ESでは白い●印がマイナス側を示しています。電解コンデンサーの根元の部分をご覧いただくと、●印が見えます。しかし、矢印で差したコンデンサーだけは、逆向きが正解です。交換する前にに逆向きで取り付けられていたので、それにならって交換します。これを基板の印どおりに取り付けてしまうと、メーターが正しく動きません。
いずれにしても、1個1個、取り付る向きを確認しながら、コツコツ交換していくのが安全です。ましてや、はんだの付け忘れや容量違いなどで不具合が発生すれば、余計に時間が掛かってしまいます。
キャプスタン用のBSLモーター。
キャプスタンの回転には、ブラシレスモーターを使っています。原理は、棒磁石のN極とN極を近づけたときに反発しあう現象です。
矢印で差した大きい円形の部品がそのモーターです。この中に、電磁石となるコイルと、マグネットの付いた円盤が入っています。コイルに電流を流すと磁石による反発力を発生させ、円盤が回転する仕組みです。
モーター本体の下には、回転をコントロールする回路があります。過去に1台、ここの回路に不具合のあるTC-K555ESを見ました。回転が不安定になってしまい、曲がときどき遅くなる症状があったほか、モーターからは「ガリガリ」と異音を発していました。原因は、回転速度の速さを比較するためのオペアンプという半導体の故障で、新品に交換して対処しました。
メカを外すのにも一苦労?
TC-K555ESのメカを取り外すには、底部からの作業も必要です。
基板の裏面が天井に向いているので、配線を外すには底部の板を外して、メカとつながっている配線を外していきます。上から行う方法もありますが、基板をひっくり返さなくてはならず、ケーブルを引っ張ってしまう恐れがあるので、この段階で抜けるケーブルは抜いておきます。
録音ヘッドと消去ヘッドのケーブルが何処にあるかが少し分かりにくいです。向かって左側にある制御系回路の基板をひっくり返すと奥に見えてきます。画像の丸の部分にあるコネクタです。
分解する前のTC-K555ESです。上蓋を開けると、基板がぎっしり詰まっている光景が現れます。左側に制御系の基板、右側に再生アンプと録音アンプの基板が2層構造で配置されています。
ドルビーCの初期型!?
’80年代のカセットデッキは標準装備となっているドルビーCですが、実はドルビーCが出たばかりの頃は少し違います。画像はTC-K555ESの再生用アンプ回路で、〇で囲んだ部品がドルビー用のICです。左用に2つ、右用2つあります。
それでは、こちらはいかがでしょうか。1984年登場のTC-K555ESⅡです。画像は録音用アンプの回路になりますが、左と右でICが1つずつしかありません。再生用アンプの回路も同様に、左右で1つずつの構成になっています。
初期のドルビーCは、ドルビーB用のICを2つ連結して使っているようで、’90年代のカセットデッキよりも回路が大きくなっていました。TC-K555ESのほか、アカイのGX-F71も同じように2つのICを連結した回路になっています。ナカミチの581Zも同じくICを連結した回路でした。
しかし、後輩のTC-K555ESⅡからは、ドルビーBとCを1つにまとめた新しいICを搭載して、いよいよドルビーCも標準装備となっていきます。ちなみにこのドルビー用ICはソニー製ですが、ソニーのデッキに限らず他のメーカーでも採用されるので、この新しいICがドルビーCを普及させていったとも言えると思います。
同じ1982年に登場したアカイのGX-F71です。ドルビー用のICを○で囲んでみました。全部で8個ですので、再生の左用と右用、録音の左用と右用、それぞれ2個ずつある計算です。TC-K555ESと同じような回路構成で、ドルビーCの初期型です。
通な人であれば分かるこの状態
なんの変哲もないTC-K555ESのメカですが、詳しい方なら一発で気づくと思います。「このデッキ、修理受けてるな」と。