概説
1984年登場の3ヘッドカセットデッキで、フェリクロームテープ(※)が使えるデッキでは最後のモデルです。
一世代前のTC-K555ESから改良された部分の1つに、キャプスタン用のモーターがあります。ベルトを介してキャプスタンを回していた方式から、最上位モデルのTC-K777ESと同じダイレクトドライブ(※)に変わりました。これにより、音揺れ(ワウフラッター)がさらに少なくなり、特に音揺れが目立ちやすいピアノの曲も安心して聴けます。
音質は、ズカズカ迫ってくる低音と、きらびやかな高音が合わさって、楽器の音がきれいに聞こえてくるように感じます。重低音の強い曲をヘッドホンで聞くと、場合によっては耳が疲れるくらいかもしれません。
フェリクロームテープを使えるようにするため、テープポジションの切り替えは手動式です。フェリクロームテープは自動では認識できないので、手動式にせざるを得ません。‘80年代半ばに入って、自動で切り替えるデッキが多くなる中で、手動式というアナログさを残しつづけた1台だと思います。
よくある故障 <ヘッドが上がらず再生できない
TC-K555ESⅡでよくある故障は、再生できないというものです。原因は矢印の部分で、分解してメンテナンスをしてあげれば、十分に復活できます。
ここには、動きを良くするための油(グリース)が塗られています。しかし、年数がたつと徐々にグリースが固まります。やがて、動きを良くする油から、動きを悪くしてしまう油に変わってしまうのです。
スプレーなどの油を差せば動くようになりますが、一時的な処置でしかなく、再び古いグリースが固まってしまう可能性があります。そのため、分解してきれいに洗い落としてあげることが大切です。
取り出しを押すと、扉が飛び出してくる。
取り出しボタンを押すと「ドカン!」と勢いよく開いてしまう症状があります。原因は、勢いを抑えるためのゴムが劣化したためです。
扉がゆっくり開くのは、ゴムの滑りにくさを利用してスピードを抑えてくれているからです。ところが、ゴムが劣化すると滑りやすくなってしまい、スピードを抑えきれません。すると、バネの勢いによって全力で「ドカン!」と開くようになります。TC-K555ESⅡに限らず他のメーカーのデッキでも、このような構造をしていれば同じ症状が出ます。
空っぽになったTC-K555ESⅡ
古くなった電解コンデンサーを交換するため、基板をすべて取り外した状態です。
この状態であれば、普段は見えない部分も掃除することができます。外だけでなく、中もきれいな状態にしてお客様へお返しします。
後ろに飛び出した電源トランス
TC-K555ESⅡの後ろを見ると、大きな出っ張りがあります。
ここは電源トランスで、デッキの中に収まりきらないためか、外に配置する方法がとられています。3辺100cmの段ボール箱でも、トランスの出っ張り部分が少し厳しそうですが、しっかり入れれば100cmの送料で送ることができます。先代のTC-K555ESでは、デッキの中に入っているので出っ張りはありませんでした。
メカをぜんぶ分解します。
キャプスタンがダイレクトドライブになっても、基本的な構造は、TC-K555、TC-K555ESと大きな変わりはありません。
この構造は2代先のTC-K555ESRまで受け継がれていきます。1989年に登場するTC-K555ESGからは少しモーター音が聞こえるくらいの静かなメカになりました。俗にサイレントメカニズムと呼ばれます。
TC-K555ESⅡのアンプ基板
ずらっと赤色の電解コンデンサーが並んでいます。見るからに高そうなコンデンサーです。
一般的には黒色をしていることが多いのですが、黒色以外の派手な色をしたものはオーディオに特化した物であることが多いです。中には「FOR AUDIO」と印字されているものもあります。電子部品屋ではオーディオ用として販売されています。
TC-K555ESⅡではアンプも改良されて、特にノイズリダクションの進化が大きいです。ドルビーのBタイプとCタイプを搭載していますが、回路が大きく変わりました。
いままでのドルビーC、ドルビーB回路を2つ連結していました。一世代前のTC-K555ESがそうでした。これがいわゆる初期型のドルビーCです。TC-K555ESⅡでは1つの集積回路にBタイプとCタイプを組み込んだ形に変わりました。電子回路の技術が上がるとともに、コンパクトな回路に変わっていっていることがうかがえます。