西村音響店

SONY TC-K555ESX

 

概説

 1986年に、TC-K555ESⅡの後継モデルとして登場した、3ヘッド方式のカセットデッキです。

 この頃は、最上位モデルにTC-K777ESⅡが展開されていましたので、TC-K555ESXは上から2番目のモデルにあたります。上から2番目とはいえども、これまでからデザインや仕様が大きく変わり、録音、再生ともに有能なデッキとなりました。

 TC-K555ESXで特徴的な機能が、録音イコライザーの切り替え機能です。低・中・高と3段階の切り替えができます。これを使うと、さまざまなテープにある音の癖(磁気特性の差)を補い、テープが持っている性能をより引き出せます。例えば、ほかのメーカーのカセットデッキでは、+4dBの音でひずむところ、TC-K555ESXでは+6dBの音でもひずまず録音できることあります。バイアスの調整だけでは足りないというときの強い味方です。

 さらに、メーターで低音と高音のバランスを見ながら調整できる、キャリブレーション機能も付いています。この機能と、録音イコライザーの切り替えを合わせれば万全です。

 一つ下のモデルに、TC-K333ESXというモデルがあります。こちらは残念ながら、キャリブレーション機能はありませんが、そのほかは殆ど同じで、音質も大きな差はありません。テープの再生が中心でしたら、この1台で十分楽しめます。しかし、録音を極めたい方はTC-K555ESXで決まりです。

 

 

 

よくある故障 <ヘッドが上がらず再生できない>


 TC-K555ESXは、再生できないという故障が多くあります。原因は、ここのレバーが固まって動かなくなってしまうものです。

 レバーの軸の部分には、動きを良くするための油(グリース)が塗られています。これが年月が経つと徐々に固まってしまい、最後は接着剤のようになってしまいます。


 これを解決するには、いったん周りの部品も全部取り外して、古くなったグリースをしっかり落とします。

 そのあとに新しいグリースを塗ると、新品のような元気な動作を取り戻すことができます。スプレーの油を差しても動くようになると思いますが、その場しのぎの処置になってしまうので、音響店では行いません。

 

扉が勢いよく開いてしまう原因。


 取り出しボタンを押すと、扉(カセットホルダー)が「ドンッ!」と、まるでロケットのように勢いよく開くデッキがあります。

 これは、勢いを抑えるためにあるゴムが原因で、ダンパーと呼ばれる部品です。正常な状態では、ゴムの滑りにくさを利用して、開くスピードをゆっくりにしてくれています。どころが、ゴムが悪くなると滑りやすくなって勢いを抑えれなくなり、バネが力いっぱい扉を開けてしまうのです。

 ゴムを新品に交換することで、この症状が直ります。

 

 ダンパーは矢印で差した穴に差し込まれています。写真では分解のためにメカを取り外していますが、ダンパーのゴムだけ交換するのでしたら、別にメカを取り外さなくとも交換できます。もちろん、ご依頼のデッキはすべてダンパーのゴムを交換します。

 

摩耗しやすいのが少々弱点だが、音質は一流のヘッド。


 TC-K555ESXの録音/再生ヘッドは、録音用と再生用が分離している、独立懸架構造のレーザーアモルファスヘッドです。

 愛好家の中では摩耗しやすいという評判で有名なヘッドですが、音質は非常に良く、20kHzまで鋭い音で鳴ってくれます。画像はお客様のTC-K555ESXですが、とても状態が良いです。もしこのような綺麗な状態でしたら、ぜひ大事にしていきましょう。

メカをぜんぶ分解するとこうなります。


 1981年のTC-K555から採用されている構造です。特に‘80年前半の機種には多く、再生などの操作時に「ガチャン!」などという大きな動作音を発するのが特徴です。

 また、1981年から同じ構造になっていることを利用すれば、修理の可能性も高くなります。万が一、部品が壊れていて、このままでは修理が難しいという場合には、同じ構造のデッキを準備します。そして、使える部品を移し替えれば再び動かせる状態にできるという、人間の臓器移植のようなイメージで修理ができます。カセットデッキを長生きさせるうえで、移植ができるかどうかは重要なポイントです。

 

2つのソレノイド


 昭和に作られたカセットデッキは、このようなソレノイドを使った構造が多いです。「ガチャン!」という大きな動作音の正体はここにあります。

 ソレノイドは電磁石を利用した部品で、電流を流すと穴に差し込まれた鉄の棒を吸引します。その鉄の棒には、ヘッドなどの部品がレバーを介してつながっており、棒が吸引されると同時に部品が動く仕組みです。TC-K555ESXは、2つ使われています。1つ目が、テープのたるみを防止するためのブレーキを動かすもので、写真の左側―緑のソレノイドです。2つ目が、ヘッドやピンチローラーを上げるためのもので、右側の赤で囲んだ大きいソレノイドです。

 ’90年代のデッキでは歯車やベルトを使った構造が多くなり、動作音も静かになりました。俗にサイレントメカニズムと呼んだりもします。しかし、動作音が良いという方にとっては少し物足りないかもしれません。

 

ミッドシップ構造は後の世代に受け継がれていきます。


 TC-K555ESXからは、メカが中央に配置される構造に変わりました。左側に機械の動作を行う制御系、右側に音を扱うアンプ、電源は中央というレイアウトは、後輩のTC-K555ESR、ESG、ESL…へと引き継がれていきます。ソニーのミッドシップ構造の親は、このTC-K555ESXと言ってもよいでしょう。

 

 



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