概説
1982年に登場した、面白い設計を取り入れている3ヘッド方式のカセットデッキです。
外から見れば普通のカセットデッキですが、ここまでこだわるのか?と思わされる設計が盛り込まれています。
TC-K666ESの一番の特徴は、ブラシ付きのDCモーターが使われていないことです。すべて、ブラシレスモーターが使われています。それだけではなく、左側のリールと右側のリールは、別々のモーターを使っています。
ふつうは、巻き戻し用のモーターは1つしかなく、歯車などを介して回すことが殆どです。歯車があると、どうしても巻き戻し中、早送り中は音がします。しかし、TC-K666ESはそれが無いため、とても静かに速く早送りや巻戻しをすることができるのです。
ただ巻戻しが速いだけではありません。テープの終わりが近づくと、テープに強い力を与えて傷めないよう、スピードを落とします。また、テープの途中に止めたいときにも安心です。だんだんとスピードを落として停止するので、急停止でテープが伸びてしまう心配もありません。
ほかにも、高級モデルのカセットデッキには欠かせない機能をしっかり押さえています。再生スピードの調整にはクォーツ、クローズドループ・デュアルキャプスタン、ノイズリダクションはドルビーのBタイプとCタイプなど、録音と再生するには十分間に合います。テープのポジション切替えは手動式で、フェリクロームテープ(TypeⅢ)も使えます。
ただの高級カセットデッキではなく、カセットテープを傷めない配慮までできる賢い1台です。
TC-K666ES最大の武器。
TC-K666ESの強力な武器は、左右別々になっている巻取り用のモーター(リールモーター)です。
モーターをコントロールするための基板が、メカの背中に付いています。ほかでは見ないような大きなの基板が背中に付いているので、物々しい雰囲気があります。
ここに、キャプスタンを回転させるモーター、左側用のモーター、右側用のモーター、それぞれをコントロールする回路が入っています。銅色の部品が3つ確認できると思いますが、これらがモーターを回すための専用のICです。
TC-K666ESの一番の特徴であるリール台です。裏面はマグネットになっていています。
後ろ側に銅色のコイルが少し見えるものが、リール台をまわすコイルです。これに電流を流すと電磁石となり、マグネットとの間に反発力が生まれます。電流をコントロールして、N極とS極を素早く切り替えれば、スピードのある巻戻しと早送りができるのです。ふつうはリール台の縁を使ってゴムや歯車で回しますが、TC-K666ESは特殊です。
参考として、一つ下の機種であるTC-K555ESの画像をお持ちしました。
ほとんどのカセットデッキはこの構造です。矢印の歯車と、歯車状になっているリール台がかみ合って回転します。難しい言い方をすると、アイドラーを介して回転させると言います。
リール台を取り外してみる。
TC-K666ESのリール台は、上に引き抜くだけで簡単に外れます。多くはストッパーなどで固定していて、外すのに少し時間が掛かります。
外してみると、立派な回転用のコイルが姿を現します。このように、左と右で別々に付いているのです。
画像の奥の方写っている黒色の小さい部品が、停止中にテープが動かないようにするためのブレーキです。完全に停止した状態では、物理的にブレーキを掛ける必要があります。ハイブリッド車では、スピードを落とすときにモーターを発電機に変えてブレーキを掛けます。いわゆる回生ブレーキです。しかし時速0kmのときは、発電できません。
これと似ていて、TC-K666ESも停止中はサイドブレーキが必要です。巻き戻し中にスピードを落とすときは、モーターを逆回転する力を与えてブレーキを掛けます。
メカニズムをぜんぶ分解するとこうなります。
かなり複雑ではないだろうかと、初めて分解に挑戦した時は心配になりました。しかし、実際に分解してみると、意外にも複雑ではなさそうです。
ある程度のまとまりで部品を外せるので、どちらかというと分解しやすい方でしょう。巻戻しと早送りのスピードまで調整するというハイテクな機能が付いているので、分解を始める前は少し緊張しました。
音質ぴか一のレーザーアモルファスヘッド
録音再生ヘッドは、1981年から使われ始めた、新しいレーザーアモルファスヘッドです。
音の輪郭をはっきり出してくれる特徴があり、カセットデッキの音をまた一歩進化させたヘッドとも言えるでしょう。ただ、新しいレーザーアモルファスヘッドには弱点が一つ、磨耗に少し弱いところがあります。同じ種類のヘッドでも、表面に凹凸がはっきり見える程、すり減ってしまっている中古品も見かけます。逆に、画像のような綺麗な状態のものもあります。もしきれいな状態でしたら、ぜひ大事に使っていきましょう。