概説
1970年代の当時最先端の液晶メーターを搭載したカセットデッキです。
液晶メーターが一番の特徴であるTC-K8Bですが、ほかにもコンピューターを利用したフェザータッチ方式も当時最先端の機能です。1980年代に入れば、重たい鍵盤状のレバーを押さずとも、ボタンを軽く押すだけで動作ができるデッキが当たり前になりました。
本体の色は、フェライトヘッドのような若干黒みの掛かった銀色です。他のカセットデッキと並べてみると、ひと際目立ちます。前面パネルの文字は、シルク印刷による印字ではなく文字が刻印されており、これもまた高級カセットデッキに相応しいものといえるでしょう。
当時のソニーの技術力が結集されて完成した1台だと思います。カセットデッキに興味のない方が、TC-K8Bの液晶を見てどんな反応するかが気になるところです。
TC-K8Bを分解するには。
前⇒後ろ⇒前⇒後ろの順で分解するとスムーズです。40年以上前のカセットデッキだけあって、非常に質量のあるメカニズムです。
長年の埃や汚れが溜まっていますので、手袋を着用して作業します。一つ一つの部品は比較的大きいですが、取り外した順番をしっかり管理しておく事はどのカセットデッキにおいても重要です。
長年の汚れを洗い落とします
すべての部品を外した状態でクリーナーで古い油を洗い流すと、写真のようにきれいになります。
一般的な修理というと、時間的な制約からここまでは行わないことが多いでしょう。例えばベルトが切れたらベルトの交換だけという具合です。しかし、それのみでは他の箇所が不具合を起こす可能性もあります。
音響店は元々すべての部品を取り外すことが前提のため、オーバーホールでも短時間で完了できます。
F&Fヘッド
フェライトは非常に摩耗に強い特徴のある材質で、この写真を撮影したTC-K8Bのヘッドは殆ど摩耗していませんでした。1980年代に入ると、センダストを使ったヘッドに変わるため、フェライトヘッドを使ったソニーのデッキは1970年代のものに限られます。
ベルトだけでなくゴムリングの交換も忘れずに
この部品は、早送りと巻戻しの際にテープを回すためのものです。
モーターの動力を伝達するのにゴムを使いますが、このゴムが悪くなればテープを回すことが出来なくなります。
仮にベルト交換だけの修理をした場合、次に悪くなる可能性が高いのはこの部品でしょう。交換するか否かは、分解する前に早送り/巻戻しのテストをして、巻き取る力が弱くなっていないかを確認して判断します。
いずれにせよ、40年も経てばゴムが劣化していることは必然ですので、交換が必要になるでしょう。
高性能キャプスタンモーター搭載
TC-K8Bのキャプスタンモーターは、FGサーボーモーターと呼ばれる、より安定性に優れたものを搭載しています。(写真右側のモーター)
FGサーボモーターは、回転によって発生する磁力を回転速度の信号として利用し、設定されたスピードに合うよう常に電圧を調節しています。温度変化に強く安定性が高いのが特徴です。
一見普通の形をしたモーターですが、回し方はまったく違います。
安定性を求めたフライホイール
キャプスタンは、カセットデッキの再生安定性を決める重要な部分です。
1970年代のカセットデッキでは、より安定した再生を実現するために、大きなフライホイールを使ったデッキが多く見られます。TC-K8Bも、まさにその仲間でしょう。
カセットテープ絶頂期は、小さなフライホイールでもワウフラッター0.02%台(JIS)の性能を持ったデッキが多く発売されました。このことから、TC-K8B発売当時は電子回路技術がまだ発達途中だったことが読み取れます。
クローズドループ方式も一般的ではなかったため、安定性の図るための方法が’70年代と’80年で根本的に違うのも面白いところです。