概説
1987年ごろの3ヘッド方式のカセットデッキです。当時は、ビクターの中で最上位モデルとして発売されました。
1987年というと昭和62年ですから、まだ平成に入る前です。平成になると、デザインが大きく変わって、「薄型でシンプル」から「分厚くてごつい」、という構想に変わっていくものが多数あります。TD-V711も、一見すると平成生まれのデッキに見えるようなデザインです。ですが、実は昭和生まれです。
録音再生ヘッドは、録音用と再生用が完全に分離している「ディスクリートヘッド」です。分離していることで、各々で100%に近い性能を発揮させることができ、特に録音では威力を発揮します。3ヘッド方式での理想は、録音した音を100%拾うことです。そのためには、両ヘッドを別々に調整が可能なディスクリートヘッドが欠かせません。
さらに高音質のための工夫として「ノイズリダクション・デフィート機能」があります。これはノイズリダクションを使わないときに回路の一部を切り離す機能です。これにより、音の信号を余計な回路に通さず、最短距離でスピーカーなどに出力できます。余計な道を通さないことで、ノイズの混入を防止するほか、必要のない音質の変化を防ぎます。
本体の底に大きな木製の板が取り付けられています。重心が下がり、置いたときにも非常に安定する堅牢なボディです。
ほかのメーカーと聞き比べてみると、特に低音域の響き方が違います。単なる重低音ではなく、上品な重低音だと感じます。ビクターの個性を存分に発揮している1台でしょう。
ビクターのメカニズムを分解してみる。
分解のしかたは、部品1つ1つではなく、ある程度のまとまりで取り外していくことはポイントです。
まとまりのことを専門用語でアッシー(略さずにいうとアセンブリー)と呼びます。似た言葉だと「ユニット」という呼び方があります。分解するときもアッシー単位で分解できた方が、より簡単です。
修理する時には、アッシーごと丸々交換するという方法もあります。小型化が進んだ今日では、1つ1つの部品は修理がむつかしいので、アッシー単位での修理が多いと聞きます。死語となったエアチェックのように、修理という言葉も影が薄くなっていくかもしれません。
まずここではキャプスタンのアッシーを取り外しています。ただネジ4本を外すだけで、ごっそり外れます。このように大きく外すことが先決です。ここから細かく分解していきます。このような段取りにすると、組み立て手順の整理も容易です。どのカセットデッキでも分解するときは、まずはアッシー単位で外せないかを考えましょう。
こちらが、リール台やヘッドの上下を行う歯車、そしてモーターが付いているブロックです。
ブロックという言い方もよいでしょう。カセットデッキでは、磁気ヘッドと取り付けられている台座をまとめて「ヘッドブロック」と呼ぶ方もいるそうです。
TD-V711を下から覗いてみる。
画像の上側がアンプ、下側がデッキの動作をコントロールする制御系の回路です。
TD-V711は、カセットの扉(カセットホルダー)がフロントパネルと一体になっています。この場合は、メカを本体の底部から取り出すことがポイントです。それよりも、制御系の基板が逆さまになっていますので、デッキの底を開けないとケーブルが外せません。
写ってはいませんが、このカバーの下に、重たい木製の板が取り付けられています。振動対策として本体の重心を下げることにより、置いたときの安定性を高めているそうです。カセットデッキはCDのように揺らすと音が飛ぶということはありません。しかし、実際に揺らしてみると音揺れが発生することがあります。音は飛ばなくとも振動対策はきちんと行わなければいけません。録音中に揺らされたら、その瞬間の部分がビブラートするテープが出来上がります。