西村音響店

TEAC V-8000S

ページ作成:2022/09/04
  • V-8000S

 

概説

1989年に登場したV-9000から型番が4ケタになり、V―4ケタ世代と括れる新たな世代のカセットデッキのラインナップが始まりました。その後、メカ部分を中央にレイアウトしたデザインに一新して、V-7000をはじめとした新たなVシリーズが展開されることになります。

少し遅れて1991年、ドルビーSを搭載しV―4ケタ世代のハイエンドモデルとしてV-8000Sが登場しました。当時の標準価格は105,000円。V-7000とは3万円の差です。この3万円の差はドルビーSの有無…だけではなく、実はV-8000Sのキャビネットには防振対策が施されており、重量がV-7000と比べて少し重くなっています。カラーはゴールド1色のみです。

TEACのカセットデッキの魅力である、左右独立調整ができるキャリブレーション機能は、相も変わらず顕在です。そのため必然的にツマミが多くなってしまうのも、TEACのデッキではよくある事だと思います。V-8000Sはハイエンドの民生機とはいえ、ツマミやボタンの数が増えると、どこかTASCAM(業務用)の雰囲気が漂ってきそうです。1990年代になってモダンな外観になりましたが、昔からのTEACのごつい雰囲気は引き継がれているように思います。

ハイエンドモデルではありますが、音質はとても真面目です。これといった特徴がない音が特徴、良く言えば、非常にフラットな特性で癖のない忠実な音であると言えます。また、デッキ側の癖が少ない分、テープ側の癖が出やすいという一面もあります。現行品のRECORDING THE MASTERSでは高音域がクリアに。基準テープであるTDK SAになると、今度はフラットすぎて逆に少し驚きました。そしてSONYのテープなら、きっとドンシャリな音になるでしょう…

管理人自身も素直な音質が好きで、Vー4ケタ世代のTEACもお気に入りのシリーズです。V-8000Sをこれらのデッキで録音したテープを他のデッキで再生すると、そのデッキの特性や音質の癖が分かって非常に面白いです。色々なデッキやテープの癖をはっきり理解できるくらい、比較の基準にはもってこいなデッキだと思います。管理人の個人的な感想では、1990年代のザ・リファレンスデッキと思っている1台です。

1992年になると、型番に10が足されたV-7010、V-5010、V-3010が発売されました。カセットホルダリッドの形から、愛好家の中では鉄仮面と呼ばれるデッキです。しかしV-8000Sはマイナーチェンジが行われないまま、鉄仮面に変化することなく併売されました。V-8000Sのモデルチェンジは、1994年のV-8030Sまで待つことになります。

 

V-8000Sの構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(録音/再生コンビネーション型・コバルトアモルファスヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロール・カムモーター駆動
キャプスタンの回転 クォーツロック・ダイレクトドライブモーター
テープの走行方式 クローズドループデュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 パワーローディング
スタビライザー あり
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB・C・S
ドルビーHX-Pro
常にON
選曲機能 あり(複数曲スキップ可)
メーター ピークレベルメーター(-1dB=ドルビーレベル)・デジタル表示機能付き
キャリブレーション機能 あり(左右独立調整可) 400Hz・10kHz
カウンター リニア分数
その他の機能
  • RTZ機能(ワンタッチでカウンター00m00sの位置に戻る)
  • CDレベルチェック機能

 

V-8000Sの利点&欠点

◎左右独立調整可能なキャリブレーション機能
◎ドルビーSを搭載
◎スタビライザー付きなのにカセットのリールがよく見える
○音質の味付けや癖がない
○防振対策された重量キャビネットを装備
○RTZ機能が便利
△同時期の高級機と比べると音のレンジが少し狭く感じる
△高級機にしては少し平凡な音質
△サイドウッドではない
△カセットホルダリッドが樹脂で少し安っぽい

 



 

音質参考動画

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

無圧縮音源はこちら

【フュージョン・ロック】容量53.5MB

【ファンキーポップ】容量58.8MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

操作ボタン
【テープ操作ボタン・カウンター】
横一列に並ぶ操作ボタン。良いデザインですが、ボタンが割れやすいという話を聞きます。カウンターはリニア分数で、[TAPE LENGTH]ボタンで分数を選択することにより、より正確な時間を表示させることができます。ワンタッチで00m00sに戻るReturn To Zero機能も装備。
カセットホルダ
【カセットホルダ】
リッドの窓は大きく、カセットが回る様子もしっかり見えます。カセットスタビライザーを装備しながらも、リールが見える点が特徴です。小さい面積でカセットを押さえる方がホールド性が良い、という考え方が生んだ副産物とも言えそうです。
メーター、ボリューム
【メーター・ボリューム類】
メーターのドットは大きく、動きも俊敏で非常に使いやすいです。録音レベルボリュームの大きなツマミもポイントです。そしてTEACといったら左右独立調整可能なキャリブレーション。これぞ録音機という如何にもTASCAMからインスパイアされたような雰囲気です。
入出力端子
【入出力端子】
CDダイレクト入力を装備しています。出力端子が少し離れた位置にある点もこのデッキの特徴です。

【製造番号と電源コード】
電源コードには「1991」の印字がありました。同世代同世代のV-7000やV-5000から少し遅れての登場だったそうです。

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。


 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。

電源トランス
【電源トランス】
高級機種にしてはやや小ぶりな電源トランスです。すぐ右にあるのが平滑用の電解コンデンサー。
特注電解コンデンサ
【平滑用電解コンデンサ】
エルナー製のオーディオ用6800μFが使われています。このコンデンサーが実装されているのはV-8000Sのみです。下位モデルになるほど、コンデンサーのランクも下がります。
制御系(ロジック)基板
【制御系回路基板】
向かって左手前側にレイアウトされています。デッキを制御するマイコンと、モーターを駆動する回路がここにあります。操作ボタンの基板とは画像の下の方に写っている3つのカプラーで連結されています。


【メカニズム部分①】
メカの上部には黒い鉄板が付いています。電磁波ノイズ対策という風にも見えますが、さらに重要なのはメカのアース(接地)を取っている

【メカニズム部分②】
左から覗くとパワーローディングの機構が見えます。

【メカニズム部分③】
社外製(サンキョー製)のメカを搭載、この世代は最上級モデルも社外製メカになりました。サンキョー製メカは、1980年代中盤に既に採用している他メーカーもありますが、TEACはやや遅れての採用となった形です。

【メカニズム部分④】
メカを後ろ側から見ます。V-8000Sはクローズドループデュアルキャプスタン・ダイレクトドライブ仕様です。アンセンブリー単位でいかようにも簡単に仕様変更できてしまうのがサンキョー製メカの凄いところです。(例:V-5000の部品を移植して非ダイレクトドライブ化も不可能ではない)
ドルビーS基板
【ドルビーS回路基板】
V-8000S最大の要所であるドルビーSの基板です。ドルビーC以上に良いノイズ低減効果は得られますが、ご覧のように回路がかなり大きく、V-7000との価格差3万円を考えると、コストも相応に掛かっている様子が伺えます。
アンプ基板
【アンプ回路基板】
ドルビーSの基板を退けると見えてきます。この部分はV-3000以上のクラスであれば概ね同じです。ただ8000SはドルビーS基板と信号をやり取りする関係で、何本もの配線が空中を漂っています。
再生アンプ
【再生アンプ】
再生ヘッドで拾われた信号は、まずFETによって増幅され、オペアンプと再生EQ回路を通って出力されていきます。ドルビーB/CのICはソニー製で小型化されたCXA1332S型が使われています。

 



 

デッキの分解画像

V-8000Sメカニズム分解

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【土台とダイレクトドライブを分離】
巻取り軸を回転させるアイドラーはギヤ式です。ギヤの径も大きめで、早送り/巻戻し時の動作音はやや大きめです。なお他メーカーでは、同じサンキョー製メカでもゴムタイヤ式にしている機種もあります。

【ダイレクトドライブ部分】
V-8000Sのダイレクトドライブはクォーツロック仕様です。(V-7000Sも同じ)左下に写っている銀色で楕円形の部品がクォーツです。駆動用のコイルがやや小ぶりな点が少し気になりますが…

【モーター取り外し】
部品点数が少なく、分解メンテナンスも容易である点もサンキョー製メカの特徴です。しかしながら、配線が所々のれん分けのような形になっており、部品の取り外しで少々厄介になります。その影響でモーターの他、センサーの基板なども配線で繋がれたまま分解することになります。

【メカ組立ての途中】
左側の巻取り軸に付いているのはバックテンション用のベルト。左端にあるプーリーにクラッチ機構が付いており、再生時はこの機構の摩擦により回転に抵抗を掛けてテープの走行を安定させます。しかし純正のベルトは劣化でよく切れます。

 

その他の画像

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1992年)


【TYPEⅣ】TDK MA (1990年)


※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

撮影に協力してくださった方
・大阪府 ワタナベ様(2022年4月撮影)

 

 

Return Top