西村音響店

AIWA XK-S9000

ページ作成:2023/6/13

 

概説

1991年(平成3年)に登場、アイワのカセットデッキ史にフィナーレを飾ったフラッグシップ機です。先代モデルのXK-009ではEXCELIAブランドとして登場しましたが、再びアイワブランドを冠して展開する形となりました。

外観はまさにフィナーレを飾るに相応しい、華やかなシャンパンゴールドのボディに、側面と底面に装着された重厚なウッド。重量は14kgにも及びます。本体背面から飛び出した2基の電源トランスも只物ではありません。

メカニズムは先代の基本設計を踏襲しつつ、スタビライザー機構は新型に。Super Anti Modulation Tape Stabilizer(SAMTS)と称され、モーターとカムの機構によってカセットを静音かつ強力にホールドします。録音/再生ヘッドは、6N巻線を用いたピュアアモルファスヘッド。最上位機種なのにダイレクトドライブを採用していない点も、誇らしげなポイントです。その代わりに大型のフライホイールと再生専用アイドラーを使って、安定性を確保しています。

アイワのカセットデッキといえば、数々のユニークな機能で先陣を切ってきた機種が多くあります。いわば「変態要素」を多分に含むデッキに富んでいるのもアイワの特徴です。最後のXK-S9000もそのポリシーを貫き通していることが、デッキの設計から伝わってきます。

1つは新品テープ専用のB-RECモード。消去ヘッドに高周波電流を一切流さず録音するもので、過去に類を見ない機能です。消去ヘッドを文房具に例えるなら消しゴム。カセットデッキは通常、録音中は常に消去ヘッドに電流が流れ、例え新品テープでも消しゴムで1度擦ってから文字を書くようなイメージです。その消しゴムを使わず録音するのが、アイワのB-RECモードです。

もう1つはDAコンバータの内蔵です。これも類を見ない装備で、CDデッキなどからデジタル信号(同軸または光)で伝送し、XK-S9000自前のDAコンバータで変換するという使い方ができます。この頃のデッキによく装備されていた、CDダイレクト入力に相当する装備といっても良さそうです。しかし、わざわざDAコンバータを搭載するとは流石はアイワです。PioneerでもDAコンバータを搭載したデッキをカセットテープ衰退期にラインナップしますが、先陣を切るのはやはりアイワです。

1991年と言えば各社からドルビーSを搭載したデッキが数々登場する年でもあります。アイワも親会社のソニーよりも先を越して搭載しました。(ソニーは1993年のESJ代から)

他にも録音では欠かせないキャリブレーション機能は、録音EQを3段階で切替えできる機能まで装備して万全です。ソニーのデッキではお馴染みの機能ですが、親会社だから参考にしたかどうかはわかりませんが、録音EQ切替えはテープの性能を引き出すのに欠かせません。

こうして、最終世代のデッキにも類を見ない機能を装備し、最後の最後までアイワのポリシーを貫き通したフラッグシップデッキとなりました。

下位機種としてXK-S7000もラインナップされました。外観はサイドウッドを省略したブラックボディ。機構の違いとしては、マイク端子、録音EQ調整機能、再生専用のアイドラーが省略されているのが主な違いです。そのため回路基板にも違いがあります。しかし2基の電源トランス、DAコンバータを装備している点は変わりません。

 

XK-S9000の構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(録再ヘッド:6N巻線ピュアアモルファスヘッド)
メカニズムの駆動 ロジックコントロールキャプスタンモーター+ソレノイド駆動
キャプスタンの回転 DCサーボモーター
テープの走行方式 クローズドループデュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 パワーローディング(たるみ取り機能あり・カセット挿入後自動クローズ)
スタビライザー あり(スーパーAMTS機構)
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB/C/S
ドルビーHX-Pro
あり(ON/OFF切替可)
選曲機能 なし(キューイング機能は有り)
メーター デジタルピークレベルメーター(0dB=0VU +4dB=250nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統,デジタル入力(同軸・光),マイク端子
ライン出力 RCA端子1系統(レベル固定)
キャリブレーション機能 あり(400Hz,10kHz 録音EQ切替付き)
カウンター リニア分数カウンター(録音中にテープ残量が少なくなると点滅してお知らせ)
その他の機能
  • メモリーストップ機能
  • キューイング機能(音を流しながら早送りor巻戻しを行う)
  • B-RECモード(消去ヘッドに電流を流さない状態で録音する生テープ専用機能)
  • ディスプレイ消灯機能(カウンターのみ表示,全消灯)

 

XK-S9000の特徴&利点&欠点

◎アイワ最後のフラッグシップ機
◎3面にウッドを装着する超重厚なボディ
◎強力なカセットスタビライザー装備
◎DAコンバータを内蔵しデジタル入力に対応
◎生テープ専用のB-RECモード
○アンプと制御系で独立したツイントランス仕様
○録音EQの切替えが可能(LOW/NORMAL/HIGHの3段階)
○ドルビーS搭載
○マイク端子装備(-10dBアッテネータ付き)
△選曲機能がない(代わりにキューイング機能)
△ピンチローラーの清掃が大変(カセットホルダの構造が原因)
△メンテナンスの難易度が高い(メカ構造が複雑で整備が大変)
△ヘッドの耐久性が弱い
(特にテープを擦らせながら高速走行するキューイング機能は危険)

 

XK-S9000の関連機種

 



 

動作デモンストレーション動画

 

 

外観の詳細画像

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【カセットホルダ】
平成に入るとメカニズムを中央に配置するデッキが多くなりますが、アイワはオーソドックスな左側配置が基本です。SAMTSのバッジが誇らしげです。

【カセットホルダ・開】
カセットを挿入すると自動的にクローズする面白い機能もあります。しかしこの機能とスタビライザー機構が仇となって、カセット未挿入で再生状態にすることが難しく、ピンチローラーの清掃が大変です。

【メーター・操作部】
メーターは消灯することもできます。0dB=0VUのスケールで親会社のソニーとは異なります。録音ボタンが2つある時点でもう普通のデッキではありません。

【録音関係のボリューム】
キャリブレーション用の録音感度補正・バイアス調整に、録音EQ切替のスイッチも装備されています。感度・バイアス・EQの3点セットはソニーではお馴染みです。なおXK-S7000では録音EQ切替機能が省略されます。

【入出力端子】
マイク端子は1970年代のデッキには必ずと言ってよいほど付いていました。生演奏のレコーディングにも対応するためと思われますが、1990年代のデッキでは珍しい装備です。

【電気用品取締法に基づく表示・注意書き】

【デジタル入力端子・電源トランス】
シャーシから飛び出した2基の電源トランスで、ロジック用とアンプ用で電源系統が完全に独立しています。トランスの近くにデジタル入力用の端子があります。DAコンバータの電源を入り切りできるスイッチもあります。

【製造番号と電源コード】

【ヘッド周り】
6N巻線を採用したアモルファスヘッドですが、耐久性の弱さが悩ましい欠点です。この個体は摩耗はさほど多くなかったものの、内部の巻線またはギャップの劣化が原因とみられる性能低下がありました。ピンチローラーは代替新品に交換済みです。
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デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

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【ドルビーS回路基板】
ソニー以外の他社でも共通していますが、ドルビーSだけでかなりの面積を必要とします。キャビネットを開けるとまず姿を現すのはドルビーSの基板です。一方ソニーは、表面実装部品を使って手のひらサイズ以下にまで小型した回路を開発しました。

【アンプ回路基板の全体】

【アンプ用電源・再生ヘッドアンプ】
ソニーの333や555に似たような電子部品の配置となっています。この個体はヘッドの劣化が大きく、かなり強めの高域補正が必要な状態でした。画像は高域補正後の撮影です。黒色の大きなフィルムコンデンサはXK-S9000のみの部品だそうです。

【再生ヘッドアンプ・ノイズリダクション回路】
再生ヘッドの信号はM5220型のオペアンプで増幅しているようで、最上位機種にしては簡素な印象です。空中配線で隠れていますが、ノイズリダクション用のICはソニー製CX20188です。

【録音用イコライザアンプ】
少し見えている半固定抵抗が録音レベルの調整用です。

【バイアス発振回路】
スイッチのロッドで隠れていますが、画像で映っているエリアがバイアス発振回路です。録音ヘッドと消去ヘッドの配線はここに来ています。

【録音用ノイズリダクション回路】

【テストトーン発振回路】
キャリブレーション用に400Hzと10kHzの信号を生成します。半固定抵抗はテストトーンの出力調節用です。

【制御系回路】
制御系も概ね9000と7000は同じですが、モーターが1個多く付いている関係で少し異なります。三洋製のマイコンも7000と同じですが、こちらもモーターの数が異なることから、書き込まれている命令文も異なるかもしれません。

【アンプ電源用平滑コンデンサ】
コンデンサの後ろから伸びている青・黒・赤の配線がアンプ基板の電源部分に行っています。アンプ基板に整流回路がなく、ここで整流を行っているようです。右奥の4700μFのコンデンサが制御用の電源だと思います。

【再生専用リールモーターの駆動回路】
この部分はXK-S7000にはありません。モーターが1個多く付いているXK-S9000は、それを駆動する回路も必要です。回転方向は常に一定なので、こんなシンプルな回路でも事足りると思います。

【再生ヘッドの配線】
再生ヘッドは基板に直付けです。メカニズムを脱着するためにはこの配線を外す必要があるため、重たいデッキ本体を持ち上げて底部の分厚いパネルを開けなくてはなりません。なかなかの力仕事になります。

【メカニズム部分】
メカの動作に関係する配線は、フラットケーブル1本にまとめられていて非常にすっきりしています。見ての通り、ダイレクトドライブは使われていません。下の方に見える橙色のギヤが、カセットホルダとスタビライザーの機構を動かします。

【再生専用モーター】
XK-S9000のほか、先代のXK-009にも搭載されています。下位機種の7000や007では省略され、ここの部分は空洞になります。

【DAコンバータ回路】
PCM61Pと書かれたICが、バーブラウン製のDAコンバータ用ICです。LchとRchで1個ずつ使われている形となっています。パイオニアのマークが付いたICは、光信号を電気信号に変換するICと思われます。

【DAコンバータ回路(裏)】



 

メカニズムの分解画像

 

 

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【腐食しきって無くなったゴムベルト①】
この個体はかなりの湿気に晒されていたようで、ゴムベルトが完全に無くなってしまっていました。

【基板に直付けされている配線】
カセット挿入を検知するスイッチ配線(茶黒)、ハウジングランプの配線(灰白)、メカのカム位置を検知するスイッチの配線(紫)です。

【腐食しきって無くなったゴムベルト②】
メカの底部を見ると、フライホイールに頑固に癒着している様子も見られました。白い模様はカビでしょうか。ここまでになると強く磨かなければ除去できないレベルです。

【キャプスタンモーター取り外し】
ダイレクトドライブ非採用ということで、フライホイールはかなり大型です。TEACのV-9000と同じように、左右で段違いの形にしているスタガー方式のフライホイールです。


【腐食しきって無くなったゴムベルト③】
加水分解してドロドロに溶けたベルトはよく見かけますが、ここまで粉々になってしまったゴムベルトは初めてかもしれません。分解中も辺りに飛散して大変でした。

【ヘッド周り・ハブ駆動部分】
ヘッドブロックはかなり堅牢になっています。早送り・巻戻し用のアイドラーがヘッドブロックの後ろにあり、部品交換で泣かせられる部分の一つです。

【カム部分】
カム部分も他社と比べると複雑です。ギヤが小さいうえ、リールのブレーキ作動もソレノイド+カムギヤを使って行うためにこのような機構となっています。

【モーター&センサー基板取り外し】
ソレノイドや、カセットの検出孔用のリーフスイッチはハンダ直付けです。分解にあたってハンダを外す部分が多いのもアイワのメカの厄介なポイントです。

【再生専用モーター&アイドラー】
手に持っている部品です。モーターからアイドラーを介して黒色のプーリを回します。プーリーと巻取側のハブ駆動軸はゴムベルトで繋がっており、最終的にはゴムベルトでハブを駆動させるというユニークな機構となっています。

【ヘッドブロック取り外し】
これにはコツが要ります。コツを使えばスムーズに外せますが、初見で分解するとかなり戸惑います。しかしアイドラーのゴムを交換するには、この難関をクリアしなくてはなりません。

【早巻用アイドラー】
XK-S7000では再生時もこのアイドラーを使用します。モーターの軸に押し当てるバネが非常に小さく、一度何処かへ飛んで行ってしまうと見つけるは困難を極めます。ピンセットで掴んでいますが、取扱いには厳重に警戒したいバネです。

【スタビライザー機構の整備】
画像は新しいベルトを取り付けた時です。ここにあったゴムベルトは加水分解して、ヘドロになっていました。グリスの塗り替えも行い、ここの整備だけでも時間を要します。

【カセットホルダ組立中】
このようにカセットホルダとスタビライザー機構が分離します。先ほど紹介した再生専用アイドラーとハブ駆動軸の間は、写っている様にゴムベルトが掛かります。
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その他の画像

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【オーバーホール後の試運転】
時間はかなり要しましたが、無事にメカニズムを組み立てることができました。フライホイールが傷んでいた事もあり、ワウフラッター0.018%は厳しかったですが、0.04%台はなんとか出ました。

【音楽が入ったテープを再生中】
20kHzまでしっかり録音されているテープを再生していますが、10kHzを超えると急激に減衰しています。実は高域補正を試みた後ですが、これ以上高域を持ち上げることは困難でした。アジマスを調整して位相を合わせても、これ以上高域が出ません。

【ホワイトノイズの自己録再で確認】
特にLchは17kHz付近で謎のフィルターが掛けられたようなスペクトルです。このような特性が出た場合、ヘッド内部に大きな異常がある可能性が高いと考えています。個人的にはこの現象がカセットデッキで最も恐ろしいと思っています。
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撮影に協力してくださった方
・愛知県 サミットさん(2023年6月撮影)

 

 

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