西村音響店

Nakamichi 500

ページ作成:2023/5/08

 

概説

1974年(昭和49年)に登場した、Nakamichiの水平型カセットデッキ。1000・700と共に中道研究所と名乗っていたNakamichi最初期のデッキです。

1970年代前半に他社でも主流となっていた水平型のデザインとなっています。しかしNakamichiの中では水平型はかなり少数派で、とても個性的な1台となっています。さらにブラックの本体と、若干アイボリー寄りなホワイトのサイドパネルが更に個性を引き立たせています。

構造はオーソドックスな2ヘッド方式を採用。Nakamichi独自のクリスタルパーマロイを用いたヘッドで、周波数特性~17000Hzという当時としては突出した性能を誇ります。Nakamichiの大きな特徴でもあるパッドリフターはまだ装備されていません。

他にも登場当時としては珍しい、MPXフィルターのON/OFFスイッチ、キャリブレーション機能が装備されています。

MPXフィルターは、1970年代前半の機種では常に働きっぱなしの仕様だったり、1980年代に入ってもノイズリダクション使用時は強制的にONになる仕様のデッキも少なくありません。高性能なヘッドを使っていることもあって、そのポテンシャルをMPXフィルターでスポイルさせない設計とも捉えることができます。

キャリブレーション機能は録音感度の補正のみですが、ノイズリダクションの効果を最大限に活かすためには欠かせません。この機能が無い場合は、テープとデッキの相性に委ねることになり、場合によっては逆に音が悪く可能性もあります。この当時からノイズリダクションとキャリブレーションの重要性に目を付けている点も大変興味深いです。

500は製造時期により外観に若干の差異があり、前期型・後期型と区分ができます。ここでご紹介している個体は1977年頃の製造で、後期型に区分されます。

50年前のデッキながらも、再生される音は立派なNakamichiサウンドです。一般的に録再兼用ヘッドでは、どうしても物理的に高域の再生能力を犠牲にせざるを得ませんが、それを感じさせない伸びがあって艶やかな音がします。デザイン性の良さもあって、管理人も欲しくなってしまった1台です。

 

Nakamichi 500の構造&搭載機能

ヘッド 2ヘッド方式(録再ヘッド:Focused Gapクリスタルパーマロイヘッド)
メカニズムの駆動 機械式(ガチャメカ)
キャプスタンの回転 電子制御式サーボモーター
テープの走行方式 シングルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動式
スタビライザー なし
テープセレクター
手動(BIAS・EQは別スイッチ)
ノイズリダクション
ドルビーB
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 なし
メーター 針式ピークレベルメーター(0dB=ドルビーレベル200nWb/m)
ライン入力 RCA端子・DIN端子・マイク端子(ステレオ用・モノラル用)
ライン出力 RCA端子・DIN端子(レベル可変)
キャリブレーション機能 録音感度補正(400Hzテストトーン付き・各テープポジションで可)
カウンター 機械式3デジットカウンター
その他の機能
  • メモリーストップ機能

 

Nakamichi 500の特徴・利点・欠点

◎Nakamichiではかなり少数派の2ヘッド・シングルキャプスタン 
◎黒のボディに白のサイドウッド
◎登場当時で~17000Hzの周波数特性は異常な性能
◎この時代には珍しいキャリブレーション機能を搭載(しかも2ヘッドで)
○50年前の機種なのに音質は’80年代の廉価機よりも良い
 (高域までよく伸びて非常に艶がある)
△カセットホルダや操作レバーが薄い樹脂で心許ない
△分解整備の難易度が高め
 (特にメカ部分の整備が難しい)

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量53.2MB

【ファンキーポップ】容量58.0MB


 

テープ:TDK SA (1981年型)
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量53.2MB

【ファンキーポップ】容量58.0MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【本体左上・カウンター部分】
「000」で自動的に巻戻し・早送りをストップするメモリーストップ機能付きです。この部分は製造前期/後期で少し異なるようです。今回の個体は後期型です。

【メカニズム部】
Nakamichiでは数少ないガチャメカです。ただ操作レバーが小さく若干力も要するので、操作性はあと一歩という感じです。

【カセットホルダ開】
カセットを置く部分も樹脂製で、ここは個人的に少し残念な部分です。開閉の度に衝撃が加わるため、金属製の方が安心感があると思いました。

【メーター】
針式のピークレベルメーターです。メーターは大きくて視認性はとても良好です。-5と-10の間にある赤線は、オープンリールデッキから録音する時に信号レベルを合わせるための目安です。オープンリールが0dBの時に、赤線(-7dB)を指すように合わせるそうです。

【ボリューム類】
縦型のスライドボリュームです。ふと並びに注目すると1000ZXLと同じです。’70年代前半の水平型デッキはスライドボリュームが多いですが、個人的にはこの方が操作しやすいです。

【BIAS・EQ・NR・リミッタースイッチ】
「normal」はLNグレード用のポジションです。「120」が2つありますが録音時には録音EQが切り替わります。「tone」はキャリブレーション機能で400Hzのテストトーンを発出します。

【本体前面】
ヘッドホン端子とマイク端子があります。blend micは簡単に言えばモノラルのマイク端子です。

【本体背面】

【電圧切替スイッチ?】
海外での使用にも考慮して電圧を切り替えられるようです。左側に動かすと200V以上の地域(主にヨーロッパ圏)で使えるのでしょうか。もちろん不用意に動かせぬようカバーで封印してあります。

【銘板・MPXフィルタースイッチ】
使用可能な電圧が複数記載されています。元々からグローバルな設計になっているようです。左にあるのはMPXフィルターのスイッチ。つまりは回路を切ることができ、~17000Hzという周波数特性が実現できています。NAKAMICHI RESERCHの表記にも注目。

【入出力端子】
RCA端子とDIN端子を装備しています。

【電源コードの西暦】
この個体は「1977」とありました。発売自体は1974年で、生産終了は1978年という情報があり、生産期間としては長い方になります。途中でマイナーチェンジがされているようで、製造前期と後期に区分されます。

【キャリブレーション用トリマー】
銘板の裏に隠れています。管理人も最初は分かりませんでした。もちろん装備している理由はノイズリダクションのためです。この当時からキャリブレーションの重要性を意識している事がここに表れています。

【ヘッド周り】
オーソドックスなシングルキャプスタンで2ヘッド方式。Nakamichiのヘッドで特徴的なパッドリフターはありませんが、ヘッドの先端部分が少し尖った形状により、安定したテープタッチを実現していると思います。

 

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【アンプ基板取り外し中】
メカニズムはアンプ基板の下に隠れています。コツが分かれば比較的容易ですが、初見ではなかなか戸惑います。

【アンプ基板】
表はこのようになっています。本来は中心部分に金属のシールドがありますが、コンデン交換のために外しています。再生アンプの回路は、この画像でいると右下のエリアです。

【メカニズム部分①】
アンプ基板を外すとこのようにメカが見えてきます。さらに金属のパネルで覆われています。

【メカニズム部分②】
金属のパネルを外すとようやくベルトが姿を現します。自動車部品でいうテンショナーのようなプーリーが付いており、回転を安定させる工夫がされています。

【ノイズリダクション回路基板①】
フルディスクリートで組まれた回路です。’70年代後半から専用のICが使われるようになりますが、500はディスクリート回路で生産を継続していたようです。

【ノイズリダクション回路基板②】
どでかいスチロールコンデンサが印象的です。0.027μFのスチコンになるとこんなにも大きくなるようです。

【電源回路①】
デッキ内部を見てさらに驚いたのは、この時代からNakamichiではお馴染みの水色の電解コンデンサが使われていることです。Nakamichiの末期まで採用されていることもあって、相当なロングセラー製品です。

【電源回路②】

【テストトーン発振回路】
ここから400Hzの信号が発出されます。半固定抵抗で出力レベルを調整します。

【モーター用サーボ回路】
唯一ここにICが一つだけ使われています。直流モーターなので、近くにある半固定抵抗でスピードを調整します。

【メーター用アンプ回路】
なぜかこの回路だけ後付けの小さな基板になっています。調整用のトリマーはメインの基板にあります。

【メーター用アンプ回路(裏)】

【電解コンデンサ交換後】
今回の個体は電解コンデンサ交換でお預かりしました。流石に45年も経過しているので劣化は必然です。特に電源部分には、封口ゴムが外へ少し出てきている物もありました。
【】

 



 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1981年型)


※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

 

撮影に協力してくださった方
・静岡県 ミズノ様(2023年1月撮影)

 

 

Return Top