西村音響店

A&D GX-Z9000

最終更新日:2023/10/11

 

この機種はレンタルサービスで貸出も行っています。詳細はこちら

 

概説

1987年、赤井電機の『A』と三菱ダイアトーンの『D』が手を組み、誕生したのがA&D。その第1陣のフラッグシップモデルが、このGX-Z9000です。1986年登場のGX-93の後継機種にあたります。

ブランドがAKAIからA&Dに変わっていますが、実態はGX-93のマイナーチェンジ版とも言えます。外観がほとんど変わっていない点で見当が付くでしょう。下位機種のGX-Z7000とGX-73、さらにはオートリバース機のGX-R75CXとGX-R70も同様です。

メカニズムは、3ヘッド方式+クローズドループデュアルキャプスタン+ダイレクトドライブ。キャプスタンの回転制御はクォーツロックとなっており、テープスピードの誤差や狂いの心配がありません。しかしながら、他社のハイエンドモデルに多く搭載されているキャリブレーション機能は無く、バイアス調整のみとなっています。ここは最上位機種として寂しい部分です。

ノイズリダクションは、ドルビーのBタイプ・Cタイプに加えて、100dB以上のSN比を確保できるdbxを搭載。AKAIのdbx搭載は1984年頃のGX-R66から始まりますが、最上位機種に搭載されるのはGX-93が初になるかと思います。GX-9やGX-R99には搭載されませんでした。

音質はドンシャリ傾向が強めに感じられます。ドンシャリだけでなく音も硬いので、癖は強めかもしれません。スーパーGXヘッドは元々硬い音を出しますが、そこに硬い音を出すオペアンプを組み合わせているため、AKAIのデッキの中でも音がかなり硬いように思います。また残念な点として、再生アンプ回路の位置や電源回路の設計が問題であるためか、外部からのノイズ混入に弱いようです。

薄型のボディにサイドウッド付きという外観が特徴で、機能が少ない分、操作部も少ないために割と質素な雰囲気です。しかし高級感は他社のハイエンドモデルと比べると一歩二歩及ばずです。

この後フルモデルチェンジして登場するGX-Z9100では、高さのある筐体になって雰囲気が一気に変わります。dbxは無くなりますが、キャリブレーションが機能されてより高級機らしいデッキに変わります。それを考えると、GX-Z9000は色々と至らない部分が多いかもしれません。

なお下位機種のGX-Z7000では、dbx非搭載、キャプスタンの回転がFGサーボ制御、サイドウッド無しといった違いがあります。その他の部分は全く同じです。逆に言えば、これらが不要であればGX-Z7000でも十分とも言えます。9000よりも価格も安いため、是非7000もお勧めしたいと思います。

 

GX-Z9000の構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(スーパーGXヘッド)
メカニズムの駆動 ロジック制御 (カムモーター+ベルト駆動)
キャプスタンの回転 ダイレクトドライブ (クォーツロックPLL方式)
テープの走行方式 クローズドループ・デュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 パワーローディング(弛み取り機能あり)
スタビライザー なし
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB/C,dbx
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 あり(IPLS機能・1曲ずつのみ)
メーター デジタルピークレベルメーター (0dB=250nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統(固定レベル出力)
キャリブレーション機能 なし (バイアス調整のみ)
カウンター 4デジット,再生経過時間表示,テープ残量表示
その他の機能
  • イントロスキャン機能
    (曲の始めだけ次々に再生・再生を押しながら早送りを押す)
  • RECキャンセル(ボタン一つで録音を開始した位置に戻る)

 

GX-Z9000の特徴

◎耐摩耗性に優れるスーパーGXヘッド 
◎薄型ボディにサイドウッドの外観
○dbxノイズリダクション搭載
○クォーツロック制御のダイレクトドライブ
○音質はドンシャリ気味、硬めの音
△最上位モデルにしては機能が少ない(キャリブレーションも無い)
△外部からのノイズに弱い(再生ヘッドからアンプ回路まで遠い,電源回路が弱い)
△dbxが不要であれば下位機種のGX-Z7000で十分(性能は全く同じ)

 

GX-Z9000の関連機種

 



 

録音サンプル

 

無圧縮音源はこちら

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量52.9MB

【テクノポップ】容量58.5MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【前面左側・カセットホルダ】
スタビライザーが無いのでテープがよく見えます。開閉速度は他社よりも速く素早いです。ただ、開閉機構にある金属部分が疲労で歪むと閉まりにくくなってきます。

【前面中央・メーターとボリューム】
dbxのため目盛は+12dBまでと広範囲です。0~+4dBまでは目盛が1dBずつなので、RECレベルの調整は比較的しやすいと思います。キャリブレーション機能は無く、BIASの調整ボリュームのみです。

【前面右側・操作ボタン/N.R.スイッチ】
テープ操作ボタンは大きくて、非常に操作性が良いです。テープを入れるとヘッドが接触した状態で待機するため、ポーズボタンはありません。モニターのTAPE/SOURCE切替えで若干のタイムラグがある点が少し気になります。

【メーターの表示変化】

【ヘッド部分】
赤井自慢のスーパーGXヘッドを搭載しています。摩耗知らずの強いヘッドですが、音が硬いために人によって好みが分かれます。ピンチローラーは交換してあります。

【製造番号と電源コードの西暦】
製造番号が20000番台ですと後期ロッドに該当するようです。電源コードの西暦も1988となっており、後継のGX-Z9100が発売される同じ年でもあります。

 

デッキ内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【制御系回路基板】
基板が2枚重なっている構造になっており、上段に制御系の回路があります。

【ダイレクトドライブ用回路】
GX-Z9000はクォーツロック仕様、下位機種のGX-Z7000はFGサーボ仕様の違いがあります。基板は9000/7000共用の物で、電子部品の配置が変わります。

【メカの配線類】
半固定抵抗はメーターの調整用です。基板に穴が4つ空いていますが、バイアス調整する際にここにドライバーを突っ込み、下段の基板にあるバイアス調整用の半固定抵抗を回します。

【dbx回路基板】
GX-Z9000のみに装備される基板です。コネクタで差し込まれているだけで簡単に脱着ができます。同じ回路が2組のように見えますが、3ヘッドデッキですので再生用と録音用でそれぞれ2チャネル分あります。

【電源/アンプ回路基板】
メカを脱着する際、ヘッドの配線にアクセスするために、上段の制御系回路を退ける必要があります。この手間がやや面倒です。

【電源回路】
4700μFが整流回路のコンデンサ、2200μFがアンプ用電源の定電圧回路にあるコンデンサです。最上位機にしてはやや貧相な電源で、環境によりハムノイズも載りやすい傾向があります。

【電源回路・別アングル】
定電圧回路のトランジスタが見えます。2SA1209と2SC2911のコンプリメンタリです。ここから+7.5Vと-7.5Vが供給されます。

【ヘッドホンアンプ】
電源回路の後ろにあります。オペアンプは三菱のM5218Lです。他社ではヘッドホン端子の直近にアンプ回路を配置する設計もありますが、果たしてどちらの方が優れているのでしょうか。

【再生ヘッド用オペアンプ】
三菱のM5240Pで、高スルーレート(40V/μs)のオペアンプです。このオペアンプは音が硬く、元々音が硬いGXヘッドを更に音を硬くしている感じがします。GX-93の時には無かった銅メッキシールドが追加されます。

【ノイズリダクション回路】
ICは日立製のHA12090NTで、再生用と録音用の回路がセットになっているICです。同じ回路が2組セットになっているソニー製とは構造が大きく異なり、3ヘッド専用のドルビーICだと思われます。四角い緑色の部品はカップリング用のメタライズドフィルムコンデンサです。ここは良い部品が使われています。

【録音用アンプ・イコライザー回路】
入力端子から入った信号は、RECボリュームとバランスボリュームを通ってここに来ます。オペアンプは三菱のM5238のJ-FET入力タイプです。三菱の資本が入っているだけに三菱の半導体がふんだんに使われている…?

【バイアス発振回路】
半固定抵抗の真上に、先ほど上段の基板に空いていた穴が来ます。バイアスはノーマルポジションで左右別々に、更にハイポジとメタルを個別に調整することができます。発振周波数は105Hzです。

 



 

メカニズムの分解画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【メカの取り外し】
先述のとおり、ヘッドの配線にアクセスするために上段の基板を退けています。メカを脱着するのに基板を退かす必要のある機種は、やはりメンテナンス性がイマイチです。

【メカを2つに分離】
このメカはこのように分離させた方がやりやすいです。カムモーターだけダイレクトドライブの方に付いていますので、これだけ外せば完全に2つに分離できます。

【ヘッドブロック取り外し】
ヘッドブロックの裏に機構を動かす部品が通っています。茶色くなっている部分は、古いグリスが付いています。経年で硬化したグリスが動きを鈍らせたり、採取的には頑固に固着させてしまったりする原因になります。グリスの経年劣化はどのデッキにも該当する事です。

【メカ部品洗浄】
古いグリスをパーツクリーナーで完全に洗い流します。(クリーナーは樹脂やゴムに対応している物です)残っていると再び固着する原因にもなるので、根本を潰すためにしっかり洗います。

【洗浄が終わった部品】
ウェスで拭いたりエアーで吹き飛ばしたりしてから乾燥させます。ピカピカな状態にしてからメカを組み立てていく事で、グリスの潤滑性能をより高めます。

【ピンチローラー・アイドラーゴム交換】
このメカのピンチローラーはEリングで留まっているだけで交換が非常に楽です。アイドラーゴムは他のデッキと比べると消耗が少し早めです。モーターのトルクが強めになっている事も影響しているかもしれません。

【ダイレクトドライブ部分・組立後】
新しいグリースは透明で飴色をしている万能グリスです。シリコングリースは以前使っていましたが、発生するガスが電気接点を汚す可能性があるとの事なので使っていません。

【メカ前面・組立後】

【カセットホルダ取付後】

【ミラーカセット走行中】
ガイドにテープの縁が触れず、左側のピンチローラーを離して、シングルキャプスタン状態にしてもテープパスが変わらない調整が理想です。AKAIのメカはヘッドとガイドが別々であるため、調整の難易度がやや上がります。

【調整治具を使用】
治具でヘッドの水平を確認しています。傾いているとテープが奥側か手前側に寄ってくる上、再生や録音での信号レベルも変わってしまいます。特にAKAIは顕著に出るので注意が必要です。

【ボリュームとノイズリダクションスイッチ】
ガリオームになっていて洗浄のために外している状態です。混入した埃を洗浄剤で洗い流してあげれば、大抵良くなります。埃を外へ洗い流すことが重要だと思います。

 

その他の画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【絡まったカセットテープの救出】
キャプスタンに張り付いて、そこからぐるぐる巻きに絡みついてしまう、よくあるパターンの絡み方です。フライホイールを手で逆回転させ、少しずつほどいて救出します。

【整備前の特性が滅茶苦茶】
パソコンの画面に映っているスペクトルを見ると、思いっきりカマボコの特性になっていました。再生EQのトリマーが高域を強める方向にかなり回されていました。

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1987年型)


【TYPEⅣ】TDK MA (1988年型)


 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

作業をご依頼、撮影にご協力してくださった方
・福井県 サカイ様(2023年9月)

 



Return Top