西村音響店

A&D GX-Z9000

概説

 1987年、赤井電機の『A』と三菱ダイアトーンの『D』が手を組み、誕生したのがA&D。その第1陣のフラッグシップモデルが、このGX-Z9000です。1986年登場のGX-93の後継機種にあたります。なお、1988年登場のGX-Z9100は高さのある堅牢なボディにフルモデルチェンジされました。そのため、薄型ボディとサイドウッドの組み合わせはGX-Z9000が最後です。

 ブランドがAKAIからA&Dに変わっていますが、実態はGX-93のマイナーチェンジ版とも言えます。外観がほとんど変わっていない点で見当がつくでしょう。ワンランク下のGX-Z7000も同様です。

 ノイズリダクションは、ドルビーのBタイプ・Cタイプに加えて、ヒスノイズが皆無に近くなるdbxを搭載。フラッグシップモデルにdbxが搭載されたのはGX-93が初になるかと思います。しかし、1988年登場のGX-Z9100では再びドルビー方式のみとなりました。長らくdbxを搭載してきたTEACやヤマハと比べると、AKAIのdbx搭載デッキはやや短命となってしまったように思います。

 メカニズムは、3ヘッド方式、クローズドループデュアルキャプスタン、ダイレクトドライブといった、高級デッキに欠かせない構造を装備。GX-Z9000ではキャプスタンの回転をクォーツで制御するため、いつでも正確な再生速度で楽しむことができます。GX-Z7000ではクォーツ制御が省略されます。

 薄型ボディにサイドウッドは、個人的にも非常にかっこいいデザインだと思います。しかし、フラッグシップモデルのため中古価格も相応です。もしサイドウッド、dbx、クォーツ制御に拘りがなければ、ワンランク下のGX-Z7000もお勧めです。価格がお手頃なうえにアンプの回路は同じであるため、音質にまったく遜色ありません。

 

メカニズムの分解

(画像が自動的に変わりますので、分解の様子をご覧下さい。)
 1982年発売のGX-F71から採用され続けてきた、AKAIの3ヘッドデッキ用メカニズムです。停止状態では、常に磁気ヘッドがテープに接触した状態で待機するため、停止から再生までの時間差が少なく、機敏な動作が出来るという特徴があります。言い換えると、他社でいう一時停止の状態が常に維持されているということになります。これが、AKAI独自のメカニズム制御です。

グリースが固着して動かなくなる


 GX-Z9000に限らずAKAIの3ヘッドデッキで多い故障が、経年劣化でグリースが固まり、ピンチローラーが動かなくなってしまう症状です。このようになってしまうと、動きが鈍くなってモーターの力ではピンチローラーを上昇させることができなくなり、再生が出来ないという状態に陥ります。さらに劣化が進むと、びくともしない状態となり、扉を閉めても勝手に開いてしまうという症状が起きるようになります。

機械部品の脱脂洗浄


 元々黒いグリースが付いていますが、これを完全に落とし、新しいグリースを塗って組み立てます。樹脂部品にも優しい高性能なシリコーングリースを採用しています。

ピンチローラーの分解クリーニング


 ピンチローラーは、軸から外してクリーニングします。ピンチローラー専用のクリーニング液を使用して、表面がざらざらな状態になるまでクリーニングします。

バックテンション用フェルト


 GX-73のメカニズムには、左側(供給側)リールに抵抗を掛けるためのフェルトが付いています。このフェルトは粘着テープで固定されていますが、経年で剥がれてしまっている事例があります。無くても動かすことは可能ですが、フェルトを省略してしまうと、テープがローラーに巻き込まれてしまうなどの走行不良を引き起こしてしまうため、劣化している場合は新品のフェルトに交換します。

トルクメーターによる巻取り力のチェック


 GX-Z9000に限らず、AKAIの3ヘッドのカセットデッキは、構造上、選曲の時も同フェルトが当てられたまま動作を行うため、巻取り力が弱いとテープの終わり付近で徐々にスピードが落ちてきます。確トルクメーターを使って数値で確認することで、確実な動作確認が行えます。

スーパーGXヘッド


 AKAI独自のヘッドで、”GXヘッド=殆ど摩耗しないヘッド”という認知が広いですが、GXヘッドはフェライトをベース素材としているため、摩耗に非常に強いことが特徴です。GXヘッドのみならず、フェライトを採用しているヘッドは摩耗に強いですので、古いテープでも安心して再生できます。他社がアモルファスヘッドを採用する中、AKAIは自社開発のGXヘッドを貫き通しました。

カムモーターの交換


 ヘッドの上昇動作、扉の開閉動作など、メカニズムの動作全般を行うのが小型のモーターで、カムモーターと呼ばれます。このモーターが経年劣化で動作音が大きくなってしまう事があります。元々動作音が静かなAKAIのメカニズムが、うるさいAKAIのメカニズムに変化してしまいますので、新品のモーターに交換して静粛性を取り戻します。

アイドラーゴムの劣化で巻取り力が低下する


 GX-73では、リールの回転にゴムを使用しています。このゴムが劣化すると、滑って回転力が伝達できなくなって巻き取る力が弱くなります。ゴムを新品に交換することで巻取り力を取り戻します。

テープポジション検出スイッチ


 テープの種類を自動的に検出するためのスイッチですが、ここの接点が汚れたり埃が混入すると、接触不良を起こして誤認識してしまうことがあります。接点を清掃することにより、正常に認識できるようにします。接点が銀色に光っている状態であれば正常に機能します。

本体内部


 左側にメカニズム、右側に基板がレイアウトされています。基盤は3枚の構成で、2階建て構造の下段に電源とアンプ回路があるメインの基盤、上段に動作の制御を行うシステムコントロール回路(通称シスコン)、さらにGX-Z9000は中央あたりにdbx回路の基盤が縦向きに取り付けられています。下位機種であるGX-Z7000も構成は殆ど共通ですが、dbx用の基盤が省略されています。

再生ヘッドアンプ


 GX-Z9000の再生ヘッドアンプは、三菱の”M5240P”という、高性能のJ-FETオペアンプが採用されています。スルーレートの値では、高性能なオペアンプが約20V/μsであるのに対し、M5240Pは40V/μsと、忠実な再生に特化したオペアンプです。
※スルーレートについて・・・オペアンプの動作速度を表すパラメーターで、値が高いほど高調波成分を歪ませることなく音を出すことができますので、高音質が期待できます。単位は〔V/μs〕ボルト毎マイクロセカンドです。

システムコントロール


 GX-Z9000の動作を制御する回路です。画像の手前側に写っている大きいICが制御の中枢であるマイコンです。中央付近には、メカ動作用とリール回転用2つのDCモーターを駆動回路があります。クォーツロックD.D.と示した部分はキャプスタンの回転を制御する回路で、GX-Z9000は水晶発振器(クォーツ)によって速度を制御する方式が採用されています。常に正確な速度でキャプスタンを回すことができるので、スピードずれによって音が低くor高く聞こえたりする心配がありません。クォーツは下位機種のGX-Z7000には採用されておらず、音程が合っていない場合は調整が必要です。

dbx回路基板


 GX-Z9000のdbx回路は、コネクタで接続されているだけで簡単に脱着ができます。ちなみに、この基盤を取り外したままデッキを動かすこともできます。もちろんdbxは使用できなくなりますが、動作の制御自体はGX-Z7000と共通なので問題ありません。GX-Z7000では、dbx用の切替スイッチを無くして無効にしています。

電解コンデンサの交換


 フルメンテナンスのコースでは、寿命の短い電解コンデンサを新品に交換します。音を扱う部分については、音質を重視したコンデンサを選定しています。

 ご希望に応じて、お好みのコンデンサに交換することも可能です。高級コンデンサも、料金+αで交換できます。同じGX-Z9000でも、電解コンデンサーを異なるものにして音の違いを見つけてみたりなど、奥深い楽しみ方もございます。

ボリューム・スイッチの清掃


 経年でボリュームやスイッチの中が埃が混入したり、接点となる部分にカーボンが付いて黒くなったりすると、接触不良を起こしてボリュームを回すと「ガリガリ」と音を発したり、ノイズリダクションのモードが上手く切り替えられなくなったりする症状が出ます。これを解決するには、エターノルや電子部品用の洗浄剤を使って、溜まった埃や汚れを流し出します。埃が汚れが多い場合は洗浄しきれないこともありますが、この方法で改善します。

内部の清掃


 GX-Z9000のキャビネットには、放熱のための通気口があります。そのため、内部に埃がどうしても溜まってしまいます。フルメンテナンスでは、メカニズム、電源トランス、基板、全て取り外した状態で清掃を行います。外側は普段から綺麗にしておくことは難しくないと思いますが、内側は感電の危険もあってなかなか綺麗にすることができないものです。

 

 


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