西村音響店

SONY TC-WE805S

最終更新日:2023/11/07

 

概説

 

1996年(平成8年)に発売されたドルビーS搭載の低価格ダブルカセットデッキです。

ダブルカセットデッキの基本機能でもある、ダビングやリレー再生はもちろん、2本のテープに同じ音を同時に録音することもできます。そのためにノイズリダクション回路も、DECK-AとDECK-Bでそれぞれ設けられています。(2本同時再生はできません)

メカニズムはTCM-190が搭載されています。廉価機によく使われる製造コストを抑えたメカで、動作レスポンスはTCM-200と比べるとワンテンポ、ツーテンポ遅いです。壊れやすい弱点もあり、信頼性の面でも劣ってしまいます。ここは廉価モデルなので致し方ありません。しかし唯一、上位機種に付いていない機能が、60分テープを約40秒で巻き切ってしまう超高速早送り/巻戻しです。ボタンを2度押すことで超高速モードになります。

録再ヘッドはハードパーマロイです。上位機種のTC-WR965Sにはレーザーアモルファスヘッドが使われているため、ヘッドで差別化がされています。主に音質と周波数特性で差が出ますが、耐摩耗性に関してはそこまで差が無いのかもしれません。実際のところ、レーザーアモルファスでも摩耗しているヘッドを何台か見かけました。

オートキャリブレーション付きで、デッキが自動的にテープの磁気特性に合わせてバイアス調整と録音感度の補正をしてくれます。ドルビーSを使う上でキャリブレーションは欠かせないため、エントリーユーザーにも優しいです。さらに録音レベルの調整まで自動で行ってくれる機能もあり、誰でも簡単に高音質な録音を楽しめます。

ドルビーS搭載デッキは他社ですと大抵は高級機に搭載されていますが、自社でノイズリダクション用のICを作っているからか、低価格のドルビー搭載デッキをラインナップできたのかなとも思います。電子部品も大部分が表面実装部品で構成されていて、基板を表からは見るとガランとしています。

実際に管理人がメカや基板をすべて取り外した状態から組立ててみましたが、驚くほど短時間で組立てが出来てしまいます。デッキの性能はまずまずですが、製造コストを抑える面ではとても考え抜かれていると感じました。

TC-WE805の後は、TC-WE825Sに変わり、さらにTC-WE835Sという機種も存在するようです。恐らく2000年あたりまでドルビーS搭載のダブルカセットデッキを製造していたのかもしれません。

 

TC-WE805Sの構造&搭載機能

ヘッド 回転2ヘッド方式((録音/再生:ハードパーマロイ)
メカニズムの駆動 ロジック制御 (モーター+ギヤ駆動)
キャプスタンの回転 DCサーボモーター
テープの走行方式 オートリバース
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB/C/S
ドルビーHX-Pro
あり
選曲機能 あり(複数曲スキップ・プログラム再生対応)
メーター デジタルピークレベルメーター (0dB=250nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統
キャリブレーション機能 オートキャリブレーション
カウンター リニア分数カウンター
その他の機能
  • ピッチコントロール(DECK-Aのみ)
  • ダビング機能(標準速度・高速)
  • 2本同時録音
  • 自動RECレベル調整(サウンドオートフォーカス機能)
  • オートフェーダー(フェードイン・フェードアウト)
  • CDシンクロ機能
  • 超高速早送り/巻戻し

 

TC-WE805Sの特徴

◎録音の調整をほぼ全自動で行える
○2本同時に同じテープを作れる(2本同時録音)
○低価格のドルビーS搭載デッキ
○超高速の早送り/巻戻し
△メカニズムが壊れやすい

 

 

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量53.0MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【前面左側・DECK-A】
DECK-Aはピッチコントロール機能が使えます。スイッチをONにしてから、調整ツマミを動かすとスピードが変わります。

【前面中央・操作部】
プログラム再生やオートキャリブレーションもできます。また、入力された音声を2本同時に録音する機能もあります。([A+B REC]ボタン)

【前面右側・DECK-B】
DECK-Bの隣に録音レベルのボリュームがありますが、自動調整機能もあります。録音ボタンを押すと自動調整が有効の状態で待機します。手動で調整するにはARLボタンを押します。手動で調整したい人にとっては一々ボタンを押す必要があり、少々面倒です。

【本体背面】
RCAの入出力端子と、CDプレーヤーと同期させるためのコントロール端子があります。CDプレーヤーとの同期機能は’90年代に入ってからのデッキに多く見かけます。

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

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【DECK-Bメカ背面】
メカの背中に基板が付いています。ここは再生アンプとバイアス発振回路です。チップ部品も多数使われており、カセットデッキの末期を物語っている設計です。しかもメカ一式が、下部にあるカプラーで接続されているだけで、丸ごとごっそり外せます。

【DECK-Aメカ背面】
DECK-Aはピッチコントロールが付いている関係で、配線が1本多くなっています。それ以外は、マイコンと通信するためのフラットケーブルがあるのみです。

【操作部の裏側】
こんな太いフラットケーブルも末期にしか見られません。’80年代であれば何本ものカラフルな配線が使われることでしょう。

【DECK-A録音アンプ・モーター駆動回路】
録音アンプはメインの大きな基板の方にあります。REC用のトリマーが目印です。その隣はモーター駆動回路。ドライバーICが使われていますが、やけに放熱板が大きいです。1個しかICが無いので、1個で両側のデッキのモーターを駆動する事になり、発熱も増えるでしょう。

【電源回路】
大きなトランジスタはこれ1個しか無いようです。小さな三端子レギュレータがどこかにあるかもしれませんが、いずれにせよ電源は非常に簡素です。それでも消費電力は26Wありますので、ヒートシンクの大きさを見れば予想がつきそうです….

【ドルビーS用基板(表)】
同じ見た目の基板が2枚垂直に立っています。こちら側から見ると、ただのよく分からない基板に見えますが…

【ドルビーS用基板(裏)】
このように裏は表面実装部品でぎっしりです。そして真ん中にICが付いています。このデッキは同時に2本のテープを録音できるという事なので、基板1枚がメカ1台分ということになります。IC1個でドルビーSの回路を2ch分集積している辺り、半導体技術の進化を感じます。

【ドルビーS用基板(裏)・その2】
文字がかなり薄いですが、よく見るとドルビーマークがあります。ではこれがドルビーS用だとすると、ドルビーB/CのICは一体どこにあるのでしょうか…?



 

デッキの分解画像

 

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【TCM-190型メカ】
1990年以降、ソニーの廉価デッキによく付いているのが、このTCM-190型というメカです。随所に製造コストを抑えるための設計が見られますが、耐久性や信頼性はやはり劣ります。

【背面の基板を外した状態】
モーターは2個で、キャプスタンモーター用とリールモーター用です。2モータータイプの場合、ここからは見えませんがカムを動かすためのソレノイドがあります()

【メカの前面】
左側の駆動軸に余分にギヤが1枚あるあたり、1モータータイプのメカを想像してしまいます。実はこれがTCM-190で肝となる手掛かりです。

【モーター部分を取り外し】
分解してビックリ。2モータータイプなのにソレノイドが何処にも見当たりません。これには管理人も思わず戸惑ってしまいました。(もちろん今回が初見です)

【フライホイールを取り外した状態】
メカの中心にあるカムが結構複雑です。それもそのはず、2モーターでソレノイド無しとなると、何処かで代役を務めて貰わなくてはなりませんから、複雑になるのも仕方がありません。

【アイドラー】
このメカの最重要ポイントでもあり、最大の弱点です。実はリールモーターの回転方向で、カムを動かすかリールを回すかを切り替えます。これでソレノイドの代役をしているわけです。さらにこのギヤは〇〇タイマーでもあります。詳しくはこのページ下部に貼ってある動画で詳しく説明しています。

【メイン基板の裏側】
組立て時に最小限の工数で可能にするためか、ネジ固定すらされていません。そのために外す時も簡単です。裏はこのようにチップ部品でぎっしりです。

【ドルビーB/C用IC】
ここにありました。ドルビーNRのICは、1970年代中盤あたりに使われ始め、年月とともに小型化&高集積化され、最終的にはここまで小さくなってしまいました。約20年でここまで半導体技術が発達した事が見て取れます。両デッキ同時録音の仕様なので、つまりこのICに4回路分入っていることになります。

 

オートキャリブレーション信号音

 

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】SONY XⅡ (1993年)


【TYPEⅣ】SONY ESⅣ (1979年)


テストテープによる再生周波数特性

 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

撮影に協力してくださった方
・神奈川県「リッチー」さん (2023年10月)

 

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