西村音響店

SONY TC-K777ES

最終更新日:2023/10/11

 

この機種はレンタルサービスで貸出を行っています。詳しくはこちら

 

概説

これぞSONYのカセットデッキ最高峰。スリーセブンファミリーの二代目であるTC-K777ESです。1982年(昭和57年)に発売されました。

初代777に用いられた技術を更にブラッシュアップし、ブラックボディとなって登場。奇しくも初代では内蔵できなかったドルビーCも標準搭載されました。

録再ヘッドはS&Fからレーザーアモルファスに変更され、一新された音となりました。超低域から超高域まで力強い表現力を持ち、低域は初代よりも力強く、高域は解像度やスピード感のある音となっています。録音ヘッドと再生ヘッドの独立懸架型は変わらず、微調整によって録再時のアジマスエラーを限りなく少なくすることができます。ただし耐久性に関してはS&Fヘッドより劣っており、レーザーアモルファスヘッドを搭載した機種で摩耗している個体が少なくありません。

777ESの音を生み出すのに要となる再生EQアンプ回路は、こちらも初代で採用された、ソニー内製のデュアルFETを使用したツインモノラル&DCアンプ。さらに777ESでは、ノイズリダクションを使用しない時には同回路を通さず、直接ライン出力用のバッファー回路に送る設計となっています。音の純度をより保つための設計と言えそうです。

メカニズム部分は初代777から引き続き、スリーセブン専用のユニットを搭載しています。モーターはブラシレスDCモーターのみ。再生中はトルクを調整するクラッチ機構と合わせて安定した巻取り、早送り/巻戻し時は静粛かつ高速に回転します。キャプスタンの回転は、常に正確な速度を維持できるクォーツロックサーボです。しかし、駆動用トランジスタからの発熱が多い問題は初代と変わらず、夏場の連続使用は過熱してしまうため心配です。

後継のTC-K777ESⅡの登場が1986年頃ですから、少なくとも4年ほどは製造されたことになります。スリーセブンファミリーの中で最も長い期間です。(初代777は1年余り・777ESⅡは1.5~2年ほど)この長い生産期間が完成度の高さの表れと言ってもよいでしょうか。

スリーセブンファミリーは、どの機種にも違った良し悪しがあり、一概にこれが一番とは決めがたいです。ただ、強いて完成度の高さで言えばこの777ESではないかと思います。ソニーの全カセットデッキの中でも、完成度の高さは1位2位を争うと言っても差し支えありません。

 

TC-K777ESの構造&搭載機能

ヘッド 3ヘッド方式(録音/再生:独立懸架型レーザーアモルファスヘッド)
メカニズムの駆動 ロジック制御 (ソレノイド駆動)
キャプスタンの回転 ダイレクトドライブ (クォーツロック方式)
テープの走行方式 クローズドループ・デュアルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター
手動 (FeCrテープ対応)
ノイズリダクション
ドルビーB/C
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 なし
メーター デジタルピークレベルメーター (0dB=250nWb/m,MANUALピークホールド機能付き)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子2系統(固定レベル出力・可変レベル出力)
キャリブレーション機能 バイアス調整,録音感度補正(左右独立) テストトーン周波数:400Hz,8kHz
カウンター リニア分数カウンター
その他の機能
  • メモリーストップ機能(カウンター0000の位置で巻戻しを自動停止)
  • オートプレイ機能(巻戻し終了後にすぐ再生を開始)

 

TC-K777ESの特徴

◎ソニーの最高峰・音に一切の妥協がないフラッグシップ 
◎再生アンプは内製デュアルFETによる増幅・ツインモノラル・DCアンプ回路
◎徹底的に拘り抜かれた音。超低域から超高域まで全ての音を力強く表現
◎メーターの目盛が細かい(40セグメント)
◎モーターはすべてブラシレスタイプ。 (ブラシ付きモーターのような寿命がない)
○録音感度補正が左右独立で可能
○独立懸架ヘッドのため同時録再時のアジマスエラーを少なくできる(調整も別々に追い込める)
△ヘッドの耐久性が弱い
△本体からの発熱が異常に多い(夏場の連続使用は避けた方がよいレベル)
△電気系統のトラブルが起きやすい(はんだクラックによるグランド不良・リレーの不具合など)
△ヘッドホン端子が不便(アッテネータによる5段階調整しかできない。音量もかなり大きい。)

 

TC-K777ESの関連機種

 

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量53.1MB

【テクノポップ】容量58.1MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

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【前面左側・カセットホルダ】
オイルダンパーにより、ゆっくり且つ滑らかに開きます。高級デッキに相応しい厳かな開き方です。ゴムダンパー式のような劣化をすることは無く、いわゆるロケットオープンになる事もありません。

【カセットホルダ開】

【前面中央・メーターと操作ボタン】
操作ボタンは下位機種のTC-K555ESと概ね同じですが、押した時の感触が少し違います。ノイズリダクションの切替は、777ESのみ録音/再生中は操作ができない仕様となっています。

【前面右側】
キャリブレーション関係、テープセレクター、RECボリュームがあります。TAPE/SOURCEの切替はトグルスイッチで、信号の切替ラグもありません。アッテネータは音質劣化を避けるためだと思われますが、お世辞にも使い勝手が良いとは言えません。

【電照式の操作ボタン】

【FLディスプレイの変化】

【キャリブレーション時の表示】
バイアス調整モードと録音感度補正モードがあります。先にバイアスを調整して高域と低域のバランスを取ってから、録音感度を目安のレベルに合わせる流れで行います。メーターの目盛が細かいだけに調整も細かく行えます。

【ヘッド部分】
独立懸架型のレーザーアモルファスヘッドです。このヘッドはアジマス調整を録音側と再生側で別々に行えるようになっており、コンビネーションヘッドの欠点である両ヘッド間でのアジマスエラーを防ぐことができます。この個体は非常に状態が良かったですが、摩耗には弱いので注意が必要です。

【入出力端子】
出力端子はFIXEDとVALIABLEの2組。VALIABLE端子は前面右側にあるアッテネータで出力レベルを調節できます。滅多に操作しないかもしれないMPXフィルターのスイッチがここにあります。初代777と同じです。

【電源トランス】
シャーシの外に飛び出す形で付いています。こちらも初代777と同じです。このようにすることで電源トランスから発せられるハムノイズの防止につながっていると思います。初代777にあったLINE FILTERスイッチは廃止されています。

 

デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

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【メカニズム部分】
スリーセブン専用のメカ。普通のDCモーターを一切使っていない点が大きな特徴です。扇形のギヤがある部分が、カセットホルダのオイルダンパーです。この部品によって上品な開き方をします。

【モーター駆動回路】
殆どディスクリートの回路で構成されており、モーター駆動だけでこれだけの規模となっています。回路自体は初代と同じですが、777ESではコンデンサが変わっています。分厚い放熱板があるように、ここから相当発熱します。モーターの調整にはオシロスコープが必要です。

【電源回路】
回路自体は初代777と変わりませんが、平滑用のコンデンサがアップグレードされています。黒色の大きな電解コンデンサが平滑用で、ELNA製のオーディオ用電解です。ここにも分厚い放熱板があるとおり、ヒーターの如くかなり発熱します。

【制御系回路】
配線で隠れて見えませんが、その下の辺にマイコンがあります。この基板も初代777と殆ど同じのように見えますが、ドルビーCが新たに搭載されているなど、777ESで追加された新機能もあって制御が若干違うのかもしれません。

【アンプ用電源回路】
先ほどの平滑回路からここの定電圧回路に電流が流れてきます。入力側には25V-1000μF、出力側には63V-330μFのコンデンサが付いています。どちらもELNA製のオーディオ用電解で、初代777でも使われていました。

【アンプ用電源回路・別アングル】

【再生EQアンプ回路】
777ESの最も要となる部分です。内製デュアルFET(2SK245)による初段増幅、左ch右chが完全に分離されたツインモノラル構成、DCアンプ回路…いずれも初代777で採用された回路です。

【再生EQアンプ回路・ライン出力用バッファ】
マイカコンデンサで0.027μFの容量になるとこんなにも大きくなります。元々高価なマイカのうえにこの容量になれば、相当高価であることでしょう。それだけ一切妥協していないという事が、回路の雰囲気から伝わってきます。右端に映っているオペアンプがある回路がライン出力用バッファーです。

【ライン入力用アンプ・テストトーン発振回路】
入力端子から入った信号は、まずここを通ります。出力用のバッファー回路と同じくNE5532のオペアンプを使った回路です。またキャリブレーション用のテストトーンもここで生成され、同機能使用時に回路が切り替わります。トリマーはテストトーンの出力調整です。

【録音EQアンプ回路】
ノイズリダクション使用時は、後述する回路を通ってから再びこの基板に信号が戻ってきます。(ノイズリダクション不使用時は同回路を通りません)

【録音EQアンプ・別アングル】
カップリングに使われている両極性電解コンデンサは、すべて100V耐圧の物です。もちろん音質を考慮しての選定だと思いますが、音の解像度やスピード感に影響するのでしょうか。耐圧に比例して寸法も大きくなるので、他社ではこれほど高耐圧の電解は見かけません。

【バイアス発振回路】
可変コンデンサーでバイアス電流を調整する方式です。(右下の銀色の部品)この頃のソニーのデッキではよく見られます。その手前にある青のコネクタが、録音ヘッドと消去ヘッドの配線です。

【メーター回路】
40セグメントもあるメーターという事で調整も少し複雑です。トリマーが小レベル側と大レベル側に分かれており、さらにその境目を調整するオフセット用トリマーがあります。右端には録音感度キャリブレーションで使用するメーターの調整トリマーが付いています。

【アンプ回路基板・全景】
一切妥協していない熱意は音質だけでなく、回路のレイアウトにも表れている気がします。非常に綺麗にまとめられた部品のレイアウトで、様々なデッキを分解して研究している管理人にとっては、こちらも推したいポイントです。

【本体底部を開けた状態】
再生ヘッドの配線はアンプ基板に直接はんだ付けされているため、底部からもアクセスする必要があります。さらに777ESはノイズリダクション回路基板もあるため、初代に比べるとメカの脱着に手間を要します。

【ノイズリダクション回路】
ドルビーBとドルビーCが一体になったICです。IC1個で1ch分、3ヘッドのため再生用と録音用で2個ずつ、計4個の構成です。ノイズリダクションを使わない時は、この回路を通さず直接次の回路に信号を流します。



 

デッキの分解画像

 

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【メカのベース】
部品をすべて取り外して、ベースの板だけの状態です。厚さは5mmほどはあるでしょうか。かなり堅牢なベースとなっています。

【ヘッドブロック・ピンチローラー取付け】
きれいに洗浄したベースに、部品を取り付けて組み立てていきます。ヘッドブロックは真ん中1カ所で押さえることが多いですが、777一族は左と右の2カ所で押さえる構造です。(ヘッドブロックのすぐ横の細い金属板)

【メカのベース・裏側】

【ヘッドブロック作動レバー・キャプスタン軸受け】
左側に取り付けるソレノイドがレバーを動かして、ヘッドの上昇を行います。このレバーの支点もグリスがよく固着するポイントで、完全に硬化するとパーツクリーナーでもなかなか落ちません。

【フライホイール・キャプスタン用DD基板】

【リール回転センサー】
ホール素子(磁気センサー)を使った方式です。下位機種はフォトセンサーを利用した方式で、ここも差別化されています。

【リールモーター分解】
ブラシレスモーターなので、キャプスタンモーターと同じ構造です。ただ、こちらにはサーボ機能はなく、一定の回転速度を維持する制御は行いません。(サーボ機能は無いが回転速度の調整は可能)

【バックテンション機構の中身】
黒い部品には銀色のプレートが付いています。このプレートと、もう一方の部品に付いているマグネットによって、磁力による回転抵抗を得ます。しかしこのプレートは接着されているだけで、接着剤が劣化すると剥がれます。剥がれるとバックテンションが効かなくなります。

【リールモーター・ハブ駆動軸】
ハブ駆動軸には回転センサー用にマグネットが付いているほか、送出し側にはバックテンション機構が付いています。バックテンションも磁力による方式で、安定したテンションを得られるほか、厳密なトルク調整ができます。

【モーターとハブ駆動軸を合体】
これで1つのアッセンブリとして扱えます。分解するときも、まずこの状態のまま外してきて、そこから細かく分解する形をとります。777のメカは部品点数は多いですが、アッセンブリ単位での分解がしやすくなっているところが特徴です。

【再生専用アイドラー】
ちょうど真ん中に映っている、真鍮の軸に付いている黒いゴムが再生専用アイドラーです。直結されているプーリーにはマグネットを利用したクラッチ機構が入っています。ここで巻取りトルクが管理され、バックテンション機構と同様に調整が出来るようになっています。

【リールモーターASSY・上部視点】
2つのハブ駆動軸の間に、早巻用のアイドラーがあります。このアイドラーは普段はモーターから切り離されており、早巻時にはソレノイドが作動してモードを切り替えます。

【カセットホルダ以外を組立てた状態】

【カセットホルダ以外を組立てた状態・背面】

【カセットホルダ】
地味に整備が大変なのがカセットホルダです。アームの支点が固着してしまい、最終的に開かなくなります。やはりグリスの硬化によるものです。

【カセットホルダの分解①】
まずはこの4つの部位に分解します。グリスが強力に固着していると、この状態にするまでで数十分かかる場合もあります。力任せに行うのは怪我をしたりするなどして危険ですので、時間をかけてゆっくり外していくのが無難です。

【カセットホルダの分解②】
アームを更に分解しました。ここまで分解してから、ようやくパーツクリーナーで固着したグリスを完全に洗い流します。カセットホルダの整備だけでも、恐らく1時間くらいは要すると思います。
【】

【メーター基板とEQ基板を取り外し】
ボリュームにガリがあるために、外して清掃をするところです。この部分はメーター本体と一体になっており、全体を少し手前に出してきてから基板を1枚1枚外していきます。ここでもアッセンブリ単位で分解する事をベースに作業を進めるのがポイントです。

【ボリュームやスイッチを基板から外す】
少し映っているのが録音用のイコライザー回路です。ここまで分解するのであれば、TAPE/SOURCEを切り替えるスイッチやアッテネータも一緒にメンテナンスした方が効率がよいです。

 

その他の画像

サムネイル画像をクリックすると拡大画像をご覧いただけます。


【メカ部品洗浄①】

【メカ部品洗浄②】

【メカ部品洗浄③】

【フライホイール清掃】
フライホイールに指紋を付けたくないので、ポリ手袋を活用します。グローブの上から重ねて装着すれば尚安全です。

【治具によるヘッド調整】

【ミラーテープ走行中】

【はんだクラック補修】
クランドを取っている銅板のはんだがクラックしやすく、TAPE/SOURCE切替時にノイズが盛大に入ったり、音がおかしくなったりする現象が出ます。この個体でも現象が出ていました。これで2回目の遭遇ですのですぐに判断できました。
【】

 

参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】SONY UCX (1984年・二代目)


【TYPEⅢ】SONY DUAD (1978年・二代目)


【TYPEⅣ】SONY METALLIC (1979年)


テストテープによる再生周波数特性

 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

撮影に協力してくださった方
・愛知県 「とらきち」さん (2023年7月)

 

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