西村音響店

KENWOOD KX-880G

最終更新日:2023/11/07

概説

1982年(昭和57年)に初代が発売されたTIRO/KENWOODの880シリーズ。1985年(昭和60年)に4代目となるKX-880Gが発売されました。1年ごとに小改良を重ね進化してきた880シリーズですが、880Gから大きく進化しました。

特にバイアス調整と録音感度の補正が880Gから可能になった点。2ヘッドなのに、マニュアルキャリブレーションが可能になりました。この機能の追加は、880シリーズにさらに磨きをかけた進化となったと思います。普通、録音同時モニターが可能な3ヘッドにか搭載されませんし、2ヘッドでもバイアス調整のみ可能といったデッキが多いです。2ヘッドでバイアスと録音感度の両方を調整できるのは珍しい部類に入ります。

2ヘッドというと安いカセットデッキという潜在的なイメージがありますが、880シリーズは違います。見た目はお世辞も高級感があるとは言えませんが、超実力派です。ダイレクトドライブ搭載でワウフラッター0.027(WRMS)、周波数特性はメタル使用時で20~22000Hz±3dBと、本当に定価¥69,800の2ヘッドなのか?と疑ってしまう性能を有しています。

テープの録音再生に関する機能も充実しています。選曲機能やリピート再生機能は、まとめてDPSS(Direct Program Search System)再生と呼びます。録音関連では、録音ボタンを1回押すだけでスタートする点が他社と少し違います。さらに再び録音ボタンを押すと他社で言うRECミュートや、録音を失敗した時に開始した時点にすぐ戻る機能もあります。

ポイントはボタンの押し方で様々な機能が使える事で、ぜひ説明書を見ながら1度試して欲しい機能です。(ただし多用するとヘッドの消耗を早めるので注意)

1つ懸念されるのは、アモルファスヘッドということで状態の個体差が大きい事です。極度に劣化したハズレの個体では、まったく高域が出ず、もっこりした音になります。逆に良い状態のヘッドであれば880Gの化け物スペックを体験することが出来ると思います。880シリーズは割と個体数も多いので、何台か数を当たれば比較的探しやすいかもしれません。

この後880シリーズは、880D、880GR、880HXと進化を遂げていきます。TRIO/KENWOODの気合が一層入った880シリーズ。2ヘッドの真の実力を実感していただけると思います。

 

KX-880Gの構造&搭載機能

ヘッド 2ヘッド方式(録音/再生:アモルファスアロイ)
メカニズムの駆動 ロジック制御 (モーター+ギヤ駆動)
キャプスタンの回転 ダイレクトドライブ (FGサーボ方式)
テープの走行方式 ワンウェイ・シングルキャプスタン
カセットホルダの開閉 手動
スタビライザー なし
テープセレクター
自動
ノイズリダクション
ドルビーB/C
ドルビーHX-Pro
なし
選曲機能 あり(複数曲スキップ可)
メーター デジタルピークレベルメーター (0dB=160nWb/m)
ライン入力 RCA端子1系統
ライン出力 RCA端子1系統(固定レベル出力)
キャリブレーション機能 バイアス調整,録音感度補正(テストトーンは無し)
カウンター リニア分数カウンター
その他の機能
  • リピート再生(1曲リピート、フルリピート)
  • ゼロストップ機能(カウンター00で早送り/巻戻しを自動停止)
  • リワインドプレイ(テープ始めまで巻戻しした後自動再生)
  • リレックスタンバイ(その録音を開始した地点にワンタッチで戻る)

 

KX-880Gの特徴

◎3ヘッド機顔負けのスペック
◎2ヘッド+シングルキャプスタン+ダイレクトドライブ
◎2ヘッドながら手動キャリブレーション可
○操作ボタンの押し方で多彩なテープ機能を使える
○バッファーアンプ搭載で出力インピーダンスが低い
△アモルファスヘッドの個体差(極端に劣化していると全く高域が出ない事も)
△DCモーターの耐久性(サンキョー製メカ共通の弱点)

 

 

 



 

録音サンプル

テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library

【フュージョン・ロック】容量53.1MB

【テクノポップ】容量58.1MB

96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。

 

外観の詳細画像

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【前面左側・カセットホルダ】
開閉は手動式です。閉じる時のクリック感が他のデッキより少し硬く感じます。割と大きな音を立ててガチッっと閉まります。

【カセットホルダのリッド】
全面透明のリッドです。スタビライザーも無いので、カセットをセットした時にリールがよく見えます。

【前面中央】
880Gからカウンターとインジケーターが1つの表示管にまとまりました。さらにキャリブレーション機能も880Gから付きました。

【前面右側・メーターとボリューム】
縦型のメーターは初代から続く880のチャームポイントとなる装備です。サイズは小さめですが、17セグメントで使い勝手不満はありません。

【ヘッド部分】
特徴は特徴のない2ヘッド&シングルキャプスタンです。しかしダイレクトドライブなので走行安定性はかなり優秀です。録再ヘッドはアモルファスで、初代から変わっていません。
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デッキの内部

オープン・ザ・キャビネット

画像にマウスオン(タップ)してください。

 

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【メカニズム】
色々なメーカーのデッキで採用されているサンキョー製のメカです。880はシングルキャプスタンなので、アシストモーターの位置が下の方に付いている点に注目。

【ダイレクトドライブ】
FGサーボ方式のダイレクトドライブです。シングルキャプスタンのD.D.なので、ゴムベルトを1本も使っていない点が大きな特徴です。

【電源トランス】

【バイアス発振回路・電源回路①】
電源用の4700μFのコンデンサより奥側一帯がバイアス発振回路です。灰色の細い配線が消去ヘッドの配線です。カラフルなフラットケーブルが電源トランスから延びてきて、隣にある4つのダイオードで整流されます。

【電源回路②】
各セクションで独立した定電圧回路を持っており、そのためか電源回路にしては電子部品が乱立しています。各セクションの傍に定電圧回路を配置するのではなく、ここに集中されているようです。

【再生ヘッドアンプ】
増幅には三菱製のM5220Pオペアンプが使われています。’80年代後半以降のカセットデッキでよく使われている部品です。回路は非常にシンプルで、他のデッキでもこのオペアンプのみで回路を組んでいる事も多いです。

【録音ヘッドアンプ】
KENWOODと印字されたICがありますが、カタログに解説されている定電流駆動アンプが、ひょっとするとこのICの可能性があります。回路図が見つかっておらず確証は持てませんが、可能性としては考えられそうです。

【ノイズリダクション回路・メーター回路】
ドルビーNR用のICはSONY製20187です。BタイプとCタイプの回路が2組入っており、2ヘッドのため録音と再生を1個のICで兼用しています。手前にある基板がメーター回路です。

【操作ボタン、カウンター表示管からの配線】
フラットケーブルですが、ハンダ直付けのため基板を下ろすとなると結構大変です。ケーブルで繋がったまま、メインの大きな基板とセットで下ろす形になります。

【ボリュームからの配線】



 

デッキの分解画像

 

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【カムモーター交換】
このメカの持病で、モーターが回らなくなります。少し衝撃を与えれば回る程度であれば、直接電源を繋いでしばらく回すと回復することがあります。ただし微動だにしない状態では交換した方が確実です。ピンチローラーは代替品に交換済みです。
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参考周波数特性

画像にマウスオン(タップ)すると周波数軸が線形に変わります。

【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)


【TYPEⅡ】TDK SA (1984年)


【TYPEⅣ】TDK MA (1988年)


テストテープによる再生周波数特性

 

※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。

 

YouTube動画でも紹介しました

撮影に協力してくださった方
・兵庫県「デンスケ」さん (2023年10月)

 

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