皆さま、こんにちは。こんばんは。西村音響店の西村です。
いつも音響店のブログをご覧くださり、ありがとうございます。
カセットデッキは、オーディオ機器の中でも、機械的な部分を多く持っているコンポーネントの1つです。
機械的な部分が多いと、その分故障する確率も高まります。故障したら、当然ながら修理が必要です。
さて、今回のテーマは、カセットデッキを修理した後の試運転の重要性についてです。
ご自身で修理に挑戦されている方や、これからカセットデッキの修理を頼もうか悩んでいる方へ向けて、お話ししてみたいと思います。
もし、あなたが自分で修理しているのでしたら、修理して動くようになったら嬉しいですよね。
カセットデッキを使っていく上で、ジャンク品を修理する技術があると非常に有利です。
しかし、問題は修理した後です。
こつこつご自身で身に着けた修理技術をお持ちなら、多少不具合が起こっても容易に直せてしまうと思います。
でも、自分で修理が難しい方にとっては、ちょっとした不具合でも対処することも難しいです。例えば、再生スピードの調整だって、デッキのカバーを開ける必要があります。
修理を経験したことのある人にとっては日常茶飯事ですが、そうでない方はカバーを開ける事が出来ません。
ですから、お客様に引き渡す前に入念なチェックが必要なのです。
「修理して動くようになった」だけでは合格になりません。
今回は、音響店の修理で行っている3つのチェック項目をご紹介しながら、試運転の重要性をお話ししていきます。
テスト1:120分テープを繰り返し再生させる
テープの再生が安定しているかどうかを確認します。薄い120分テープという好ましくない条件でテストするのがポイントです。
オートリバースのデッキでしたら、ずっとリピート再生させます。
3ヘッドなど、片方向のみのワンウェイデッキは、片面が終わったら裏面を再生するという工程を繰り返します。
最初の2~3回は音の有無は関係なしに再生させます。テープが突然止まらないかを確認するテストです。
万が一、モーターが寿命だったり、巻取り力が弱くて、途中で止まれば不合格です。
また、なにか整備不良があると、動作が不安定になったりしますので、これもまた不合格です。百発百中で動かないと駄目なのです。
次に、実際に音出しをして1~2往復させます。同じく120分テープで、今度は音を聞きながら、ワウ・フラッターやテープの蛇行が無いかを確認します。
もし、ワウ・フラッターが多ければ音が揺れますし、テープが蛇行すれば音が周期的に籠ります。あまりにも蛇行が多い場合は、テープパスの調整が不十分で、テープが真っ直ぐ送られていない事を疑います。
特に重点的にチェックするのは、テープの序盤、中盤、終盤の3カ所です。場合によっては、ずっと聞きっぱなしということもあります。
カセットテープは沢山テープを巻き取っていくと、リールが重たくなります。
例えば、テープの終盤であれば、右側のリールが重たくなります。
再生中は右側のリールを駆動していますが、もし駆動力が少ないとモーター側が負けて、ストップしてしまいます。こうなってしまった場合は、巻取りトルクが不足しているという事が分かります。
巻取りトルクの不足を確認する以外にも、リールの重量が増減しても再生が安定しているかどうかの確認も大事なチェック項目です。
決して、「少し再生して問題ないからOK」という判断は下しません。
何回往復させるかは、デッキの状態を見ながら決定します。ゴム製の部品点数が多いデッキは、ゴムの馴染み具合を診るために、回数を+1~2回多くすることもあります。
テスト1は、
『テープの再生が安定しているか』
を確認するチェックです。
テスト2:ホワイトノイズの周波数特性を診る
「ザー」という、いわゆるテレビの砂嵐の音を使ったテストです。
0~48000Hzのホワイトノイズを録音し、実際に再生される周波数特性を確認します。デッキの録音性能がどのくらいかがハッキリ出ます。
合格となるのは、このようなグラフです。
もし、片方のチャンネルのグラフが下がっていたりした場合は、録音レベルやバイアスの調整がずれている可能性があります。
また、テープパスやヘッドのアジマス調整がずれていても、きれいなグラフになりません。
修理をご依頼いただいたお客様には、動画でこのグラフをお見せしています。もし、動画撮影中にグラフに異常が見つかれば再調整です。
例えば不合格となるのは、このようなグラフです。
この状態は、左チャンネルの高音域が不足していることを表しています。このまま録音すると、少しだけ右に偏って録音されます。
でも実際に聴いてみると、そこまで偏って聞こえることはありません。バランス調整で誤魔化せてしまう程です。
先ほど、0~48000Hzのホワイトノイズを使うとご紹介しました。この理由は、カセットデッキは22050Hz以上の音声も記録できるためです。
22050Hzというのは、CDが記録可能な一番高い音の周波数です。機種にもよりますが、カセットデッキはそれ以上の高い音を記録できるため、0~22050Hzのホワイトノイズでは足りません。
ですので、このテストではハイレゾ対応の機器の力を借りて行います。
テスト2は
『録音性能がしっかり出ているか』
を確認するチェックです。
テスト3:デッキの再生音源を採取する
デッキの音質を確認する意味合いもありますが、最大の目的は正しく再生できるかどうかの最終確認です。
単に聴いて確認するのではなく、カセットデッキから再生された音をパソコンに取り込みます。
取り込んだ音源が、こちらの音源です。
このようにすることで、お客様のほかに、音響店のWebページをご覧になっている皆さんにご紹介することができます。
2019年2月に受付したお客様に、試験的に動画での確認に加えて、音質チェックも行いました。
動画ですと、カメラ越しの音でしか確認できないため、音質のチェックが難しい問題がありました。お客様にもしっかり確認していただけましたので、今後も行っていきます。
さて、音源を取り込むときには、出来るだけ良い音で取り込みたいものです。特に再生スピードの調整ずれは避けなくてはなりません。
音源を取り込む時に、例えば、もし再生スピードが少し速かったりすれば、少しだけ音が高くなります。となると再生スピードの調整が不十分ということで再調整です。もう一度、再生スピード調整用のテストテープを掛けて、補正を行うことになります。
音が少し籠っていれば、ヘッドのアジマス調整に不足がある可能性があるため、もう一度確認を行います。テストテープはもちろんですが、市販されたミュージックテープ、僕自身が録音したテープ等々で、誤差が最も少なくなる調整位置を探します。
いかに良い音質でパソコンに取り込むかを考えると、自ずと調整を厳密に行うことが求められます。
テスト3は
『テープの再生が総合的に良好か』
を確認するチェックです。
まとめ
以上のチェックを行う目的をまとめると、
『安心してカセットデッキが使えるかを確認するため』
です。
音響店の修理メニューは、機種によっては早くて1日で終了してしまうこともあります。
でも、なぜ1か月という長い期間を頂戴しているかというと、実際に使う側の立場になって確認することが必要であるからです。
実は修理の中で最も時間がかかる作業が、試運転です。
修理はもちろんですが、音響店は試運転も修理に付随する大事な作業の1つだと考えています。
他にもカセットデッキの修理を行っている店は幾つかあります。もし、これからカセットデッキの修理を検討されているのでしたら、比較検討して安心して頼めるお店を選びましょう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。