A&D GX-Z9100 の修理(フルオーバーホール)

 今回は1989年製のA&D GX-Z9100のご紹介です。この少し前に入ってきましたSONY TC-K222ESGをご依頼された大阪府の方からのデッキになります。他店で購入したが不具合があり、保証期間が過ぎて再修理を受けてもらえなかった為、ご相談をいただきました。

 はじめにGX-Z9100について簡単にご紹介しますと、同機は1988年にGX-Z9000の後継にあたるモデルとして発売されたデッキです。dbxノイズリダクションは搭載されなくなりましたが、銅シャーシやアンプ回路で差を付けています。

 私自身、電気的な部分に関しては恥ずかしながらまだまだ未熟な部分もありますので、詳しい解説をするには遠いのですが、今後様々なデッキの回路を解析しながら会得したいと思っております。

 

 さて、今回のデッキの状態ですが、こちらの動画のように、動くことは動くのですが、正常には見えないような動きをしています。整備済の物を購入したと仰っていましたので、これでは流石に正常とは判断出来ません。

 

 カセットホルダの開閉も通常より速いです。その原因はこちらのモーターです。このモーターは後年に発売されるEVシリーズに使われる物です。交換自体は寸法もほぼ同一なので可能ですが、定格回転数が異なります。簡潔に説明すると、交換してきても電圧が高すぎて動きが速すぎているという状態です。対処方法としては、定格が合うものに交換する、もしくは駆動電圧を下げる、のどちらかになります。

 DCモーターは惰性回転中に端子を短絡させるとブレーキが掛かって即座に回転が止まります。このブレーキがメカの制御には重要で、回転が速すぎるとどうなるかといいますと、以下のようになります。停止状態から巻戻しをする時を例えてみます。

停止状態の位置

↓  巻戻しボタンを押す

巻戻し状態の位置までモーターが回る

↓   (ヘッド下降)

所定の位置に止まり切れず行き過ぎる

↓   (ヘッド上昇)

所定の位置まで戻るが、再び行き過ぎる

↓   (ヘッド下降)

再び所定の位置に戻るが、また行き過ぎる

↓   (ヘッド上昇)

ヘッドが上下に振動する

 私自身、鉄道も好きで電車で例えてみるならば、駅の停止位置に止まろうとするがオーバーランして、バックしたがまたオーバーラン、再び前進するがまたまたオーバーラン、の繰り返しです。もちろん実際の電車では絶対にあり得ません。

 

 フルオーバーホールをご希望ということで、メカのオーバーホールと、電子部品の交換を行いました。一部画像を割愛している部分もありますが、こちらで紹介していますGX-Z7100の整備と同じですので併せてご覧いただければと思います。

 

 早速、メカのオーバーホールから取り掛かります。本来、整備済みであればオーバーホールは行う必要はなかったのですが、このような状態ですとしっかり作業されているかが疑問です。

 

 まずはカセットホルダを取り外しました。ブロック分けの方法では①です。

 

 続いてメカ前面のリール台とアイドラーの取り外しですが、カセットホルダの開閉動作を行う部分のグリースが古いままになっていますので、この先は作業を行っていない様でした。メカ前面の部品類は②とします。

 

 続いて、ピンチローラー、ヘッドを外します。AKAIの3ヘッドデッキに多いグリースの固着は、固着があると動作が出来なくなるのでこの部分は処置を行ったと思います。

 

 メカ前面と、キャプスタンの部分を分離しました。この部分は③とします。やはりギヤには古いグリースが残っています。

 

 キャプスタンと、D.D.基板を外し、カムギヤ周辺も分解します。最低限、動作させる為だけであれば、ここまで作業を行う必要はありませんが、30年も経過したグリースは少なからず劣化していると思いますので、一度古いグリースを完全に落としてしまうのが良策でしょう。グリースの種類によって劣化の具合は異なるようです。

 

 メカの全部品です。割愛してしまいましたが、最後にカムギヤによって動力を伝達する部品は④とし、大きく4つの部分に分けることが出来ます。AKAIのメカに関しては経験も積んでいますので、比較的スムーズに作業が行えます。

 

 細かい部品に付着しているグリースは、小皿にパーツクリーナを浸して溶かします。摺動部分にある小さな部品は、少しでも硬化したグリースがあると動作が重たくなってしまう原因になります。

 

 ピンチローラーの清掃には、米国製のシンプルグリーン洗剤を使用します。濃度は汚れ具合によって2~5倍程度に調整します。ゴム自体はエタノールも使用できますが、現在のところではエタノールよりも、このシンプルグリーンの方がゴムのグリップ力がより回復していると思います。

 予備知識ですが、エタノールが使えないのはウレタンゴムとアクリルゴムで、それ以外は問題なく使えます。ゴムの種類についての詳しい解説は、ゴム製品を製造している企業などのホームページに沢山あります。

 

 ヘッド部分に付着していたグリースも落としました。パーツクリーナーで落としますが、ヘッドに液が掛かってしまうのは少し不安ですので、ウェスにクリーナーを吹き付けてから、拭き取る要領で行いました。

 

 リールモーターについては、整流子とブラシの清掃をします。軸も一度脱脂をすると回転音が小さくなり、スムーズな回転になります。

 

 メカの動作を行うモーターは、新品に交換しました。12V定格のモーターですが、遅く回転する分には問題ありません。仮に3V定格のモーターを使うと、動作がとんでもなく高速になってしまいます。そういった場合は、駆動電圧を下げることで対処できます。ただし、あまりにも定格が違いすぎると電力損失が増えるなどして回路に負担を掛ける恐れがあります。

 

 部品の脱脂洗浄を終えて、古いグリースは無くなりました。新しいシリコーングリスを塗布します。

 

 キャプスタンの取り付けです。キャプスタンホイールは、エタノールで清掃しました。しっかり清掃を行うと、光沢が出るようになります。

 

 キャプスタン用のベルトも新品に交換し、D.D.基板を取り付けました。これで③が組み立て出来ました。

 

 ④の部品も、洗浄によって綺麗になりました。汚いグリースが無くなって、ピカピカの状態に戻りました。

 

 ②の部品を取り付け、メカ前面の組み立ては完了です。

 

 ③と合体させます。ネジ3本で固定するだけですので簡単に分離が出来ます。メカ駆動用のベルトはポリウレタン製のバンコードに交換しました。先程のゴムについて少し解説をしましたが、ウレタン製のゴムは機械的な強度はとても強い利点を持っています。反面、薬品や水にあまり強くない弱点もあります。そういった性質があることから、強度を活かして少し強めに張る事でベルトのスリップを抑えることが出来ます。

 

 最後に、カセットホルダを取り付けて、メカの作業は終了です。

 

 本体に接続して、動作を確認します。動作確認の第1段階で、メカの動作を重点的に検査します。長時間音出ししながらの確認ですので、もし何か異常があれば即座に発見できます。再生するテープも様々で、ハイグレードの物から、ローグレードの物まで、多種多様のテープで確認していきます。

 

 

 メカ部分のテストが終了し、電子部品の交換へ入ります。システムコントロール基板(通称:シスコン)を外した状態です。シスコンの真下にアンプ基板がありますが、その隔たりにGX-Z9100では銅シャーシが使われています。

 

 シスコンにある電解コンデンサ、タクトスイッチを交換しました。

 

 

 プリアンプ回路も交換をしました。下位のGX-Z7100では、もう少し簡素な回路になっています。特に再生アンプの部分に差があります。

 

 参考までにGX-Z7100のレイアウトは、このようになっています。

 

 空っぽになった本体は、さらに分解を進めるとシャーシまでバラバラにすることができます。ばらすほど、より綺麗に清掃ができます。

 

 電源トランスは、ハムノイズの対策として完全に密閉されています。

 

 汚れで曇ったディスプレイ部分のアクリルですが、ここの部分に関してはエタノールを使用します。他の部分はエタノールは使ってはいけません。塗装にダメージを与えるためです。綺麗にすると、光沢がしっかり出ます。

 

 各基板を取り付け、結束バンドで配線処理をします。本体を少し揺らしても、ケーブルが遊ばないように結束します。

 

 上側のメカ、シスコンも同様に行います。シャーシも清掃したので、ピカピカな状態です。

 

 綺麗になったフロントパネルを取り付けたら、動作チェックとエージングを行い、完成です。

 

 先代のGX-Z9000ではスリムなボディでしたが、9100では反対に重厚感のあるボディになりました。平成に入ると、各社ともこのようなスタイルのデッキが多く発売されました。
 
 昭和のスリムボディか。それとも平成の重厚ボディか。カセットデッキは性能だけでなく、デザインも欠かせない要素の一つです。

 

YAMAHA KX-640 の修理(フルオーバーホール)

 

 

 今回は1992年製のヤマハKX-640のご紹介です。大阪府の方から再生ができないとの事で御依頼を頂きました。

 KX-640は1990年ごろに発売された、3ヘッド、クローズドループ・デュアルキャプスタン方式を採用したカセットデッキです。カラーが、「ブラック」とヤマハ独自の「チタン」から選択できました。高域補正がいつでも行えるプレイトリム機構が搭載されています。

 

 フルオーバーホールをご希望ということで、メカ部分のオーバーホールと、電子部品の交換を行いました。

 今回はフロントパネルを取り外した状態のところからご紹介いたします。残念ながら写真を移したハードディスクに異常が発生して、一部の画像が読み出し不可能となってしまいました。

 フロントパネルの取り外しは、まずカセットホルダのカバーを外し、パネルを固定しているネジが上側と下側にありますので外します。あとは手前に引き抜くだけです。

 

 フロントパネルを外した状態がこちらになります。操作ボタンがある基板も外しておきました。

 

 メカの取り外しです。メカは上に2か所と、中にメカの足の部分に2か所あります。メイン基板から抜くコネクタは、各ヘッドのコネクタ3つ、モータードライブ用、カム接点・検出孔スイッチ用の計5つです。

 

 KX-640に採用されているメカは、自社設計のものではなく、サードパーティのメカです。多少の差異はありますが、確認している限りでは、A&DのGX-Z5300、GX-Z6100が同型のメカを搭載しています。プリメイド品を採用することで製造コストを抑えれるメリットがあります。また、YAMAHAとA&Dのように、まったくメーカーが違っても共通部分があるので、部品流用が利きやすいという特徴もあります。

 

 メカ部分の分解に入ります。まず初めに、キャプスタンモーターとメカ駆動用のモーターの配線を外しておきます。はんだ付けですので、はんだを吸い取ります。

 

 このメカの特徴的な分解の仕方です。上半分と下半分を分割します。出来るだけ大きいまとまりで分解が出来る構造ほど、整備性が良いと思います。逆に、決まった部品を順番に分解しなくてはならないメカは整備の難易度が高いこともあります。

 

 上半分のリール台の部分です。リール台は軸にストッパーが圧入されているだけです。また検出孔スイッチが付いている基板も、はんだを吸い取って外しました。基板とリールモーターの端子が直接はんだ付けになっていますので、基板を外せばリールモーターも外すことができます。ただしネジが非常に固いです。1つは無事に外すことが出来ましたが、もう一つはビクともせず、結局ネジを壊す手段を採ることになりました。壊したネジは使えないので、代替のネジを使うことになります。すべて樹脂製で力余って破損しないように注意することと、固いネジに効果を発揮するネジザウルスが凹凸部分に干渉して使えません。

 

 

 続いては下半分の部分です。こちらはキャプスタンとテープが走行する部分になります。今回、再生できない原因はベルト切れです。このメカに使われているベルトは、劣化すると溶けてしまうタイプで、溶けたゴムがキャプスタンホイールにくっついてしまいます。酷いとゴムを完全に溶かす必要もあります。

 

 KX-640のメカをすべて分解するとこのようになります。部品点数事態はとても少なく、シンプルでコンパクトなメカに設計できることが伺えます。私が作業する上で重要なブロック分けをするには、カセットホルダ(扉)が①、上半分が②、そして下半分は③、3つのブロック分けが良いでしょう。

 

 メカの駆動に使われるモーターは小型のもので、駆動電圧は約6Vです。

 

 リールモーターを分解して清掃します。画像が暗くて申し訳ありませんが、拡大画像で見てただくと、ブラシと整流子に黒い汚れが付着しています。これをエタノールを使用して拭き取ります。綿棒の繊維を尖っている部分や隙間のある部分にひっかけないように注意します。組み立て前に、繊維が残っていないかを確認してから組み立て、電圧を与えて正常に回転するかをテストします。

 

 キャプスタンモーターも分解します。内蔵された制御回路に電解コンデンサがありますので交換しました。制御用ICからの熱が籠りやすいので、コンデンサの劣化も他の部分よりは早いと思います。キャプスタンモーターは低速回転になることはなく常に一定の回転数で回っているため、リールモーターほど汚れの心配は要りませんが、念のため行っておきます。メカ駆動用は残念ながら分解が出来ませんが、こちらも特に低速回転になることはないため、少し負荷をかけてもトルクが低下しなければ問題ありません。

 

 脱脂洗浄を終えた部品です。グリースの固着はなく、洗浄は特に難しくなく行えました。

 

 ここからは組み立てです。分解した時と逆の手順で組み立てていきます。分解するのは比較的簡単でも、組み立ては難易度が高めになりますので、分解する前に画像に残しておくのがベストです。特に今ではデジタルカメラで、撮ったらすぐ確認できるので、フィルムカメラしかなかった頃と比べたら作業効率は格段に良くなっています。いちいち現像をしたら現像代もかかりますし、紙に書いて記録しておくことも限界があると思います。今だから可能なことですが、画像だけではなく、構造をよく理解した上で作業することが重要です。

 

 メカ下半分を組み立てました。ゴムベルトは新品に交換しました。Φ75mmの平ベルトが適合します。

 

 続いて上半分を組み立て、2つを合体させます。左側(供給側)のリールにある、バックテンション用のベルトも交換しました。Φ20mmのベルトが適合します。

 

 左側(供給側)のピンチローラーには、このようにバネがありますが、画像のように正しく取り付けます。間違うとヘッドの上下動作が阻害されてしまいます。

 

 ボタンの誤動作があったので先にタクトスイッチの交換を行いました。タクトスイッチは2つ足のタイプです。

 

 メカを取り付けて暫くの期間、動作確認を行います。1日にテープを数往復、最低でも10~20時間、再生して問題ないか確認を行います。

 

 メカの動作が正常でしたので、電子部品の交換へ移ります。

 

 電解コンデンサは全部で81個です。電解コンデンサの寿命は、色々なデータがありますが、コンデンサを製造しているルビコン株式会社の技術資料によると、15年が上限の目安と記載されています。交換しなくとも正常に動作することが殆どですが、劣化が進むとコンデンサの元々の性能が発揮できなくなります。劣化によって生じることが多い現象が、静電容量の減少や損失角の正接(tanσ)の増加が挙げられます。

 

 

 基板を取り付ける前に溜まっていた埃を取り払っておきます。

 

 

 再度組み立てて動作確認になります。今度は再生だけではなく、エージングや半導体が異常発熱していないかの確認も兼ねて、連続通電での確認も行います。

 

 以上で完了です。ヤマハのカセットデッキは、フロントに凹凸が少ない分すっきりしたデザインになっています。ただその反面、ボタンが小さかったり、ボリュームのつまみが小さくて操作しにくいという部分もあります。KX-640は高速リワインド機能があり、早送りもしくは巻戻しボタンを長押しすることで、高速モードになります。以前にもKX-640を手にしたことがありますが、高速リワインドは個人的にも便利だと思いますし、一気に巻戻る爽快感もあると思います。再生機としてはメリットの多い1台だと思います。