A&D GX-Z9000 の修理(フルオーバーホール)


 今回は1988年製のA&D GX-Z9000のご紹介です。GX-Z9000については、所有機に1987年製の機体があります。本来は所有機優先でオーバーホールすべきところではありますが、今回は入荷したジャンク品を整備しました。

 クローズしても直ぐにオープンしてしまう症状を患っていました。原因は経年で硬化してしまったグリースです。いわゆるグリースの固着で、AKAI・A&Dでは多発しています。後継のGX-Z9100も固着しているデッキがありますので、同じグリースを使用している事になるでしょう。

 

 機械的な動作が出来ないという事で、再生して音を確認することが出来ません。ただソース入力はボリュームに接点不良があるものの出力は問題ない為、電気的な不調はないと判断しました。

 

 メカに繋がるケーブルをシステムコントロール基板から抜きます。ヘッドの信号線は、上段のシステムコントロールの基板を外して、下段のアンプ基板から抜きます。タイラップで結束されているので、ニッパーで切断します。

 

 ケーブルを全て外せたらメカを固定するネジを外し、向って奥側にスライドして取り外します。

 

 ここからはメカの分解になります。AKAI・A&Dのメカについては、同じ構造のGX-Z7100でもご紹介していますので、こちらも併せてご覧下さい。

 

 先ずはカセットホルダを取り外し、メカ前面を露出させます。リールの回転はゴム式です。AKAIのリバース機は、ギヤ式が多いと思いますが、3ヘッド機に関しては構造も今回のGX-Z9000と同じメカが多くの機種に採用されています。

 

 リール台、ピンチローラー、ヘッドの順で取り外していきます。問題の固着が起こる箇所については、全く動かないほどではありませんでしたが、動作に支障が出るくらいに固着していました。

 

 左側のリールにあるバックテンション用のブレーキも外しておきました。同ブレーキは、再生時に左側リールに当てる事により、テープを引っ張ることで、弛んだままテープが走行する事を防ぎます。特にクローズドループ機については、左側のピンチローラーに弛んだままテープが入ると巻き込む原因になります。

 

 キャプスタン・D.D.モーター部分を切り離します。カムギヤを回すベルトも劣化しており、交換が必要です。切断まで発生している機体も見かけますが、切れていなくても劣化して滑り易くなっています。

 

 カム用のモーターとプーリーを外すには、背面にあるこちらの2つのネジを外します。しかし個体によっては、ドライバーで緩めようとしても全く緩まず、逆にネジ穴を舐めてしまう事もあります。そんなときは、ネジザウルスを使って緩めます。ネジ穴をなめる前にネジザウルスを使うのが推奨です。

 

 

 キャプスタンの部分を分解します。カムギヤを留めている金属製のストッパーが硬く外れにくい他は、特に難しいところはありません。ただ、それぞれの部品を外す際に、長さの違うネジがありますので、どのネジがどこにあったかを記録しておくとよいでしょう。

 

 ヘッドの上下、ピンチローラーの上下に使うレバー類を外しました。イジェクト動作を行う黒色のプラスチックの部品も忘れず取り外します。

 

全分解後の部品です。左上がカセットホルダー、右上がリールとヘッド関係、左下がキャプスタン関係、右下がカム関係、順に①、②、③、④と分けました。

 

 リール用モーターについては、ブラシと整流子の清掃をします。回転によって発生した汚れを拭き取ります。また軸の摺動部分にはシリコンオイルを塗る事で、スムーズ且つ静かな回転になります。

 

 古いグリースが付着した地板と部品はパーツクリーナーにより脱脂洗浄を行いました。埃と混ざったグリースは硬化しているため、一度完全に落とします。

 

 各摺動部分にシリコーングリースを塗っていきます。オイルでも潤滑が出来ますが、万一油切れを起こした場合、動きが悪くなるだけでなく部品を磨耗させてしまう恐れもあります。

 

 各部分ごとに組み立てたら手で動かし、グリースを馴染ませます。

 

 

 続いてはキャプスタンとカムギヤの部分です。特にギヤには黒色の古いグリースも完全に落とし、綺麗な状態です。

 

 ギヤにもシリコーングリースを塗ります。多く塗る分には問題ありませんので、たっぷり塗ってしまって大丈夫です。

 

 キャプスタンベルト、カムベルトとも新品に交換しました。AKAI・A&Dのカムベルトに関してはバンコードを使用しています。所有機のGX-Z9000もバンコードを使用しており、交換してから1年と少しですがベルトが滑る症状は発生しておらず、スムーズに動作しています。カム用の小さいモーターは、動作音が大きくっている個体が多く、新品に交換して動作音も静かになるようにしています。

 

 先程の2つの部分を合体しました。続いてはメカ前面の部品を取り付けます。

 

 ヘッドを取り付けるときは、取り付け方に注意が必要です。特にバネをつけることと、突起部分を元通りの位置にしっかり取り付けることを忘れないようにします。

 

 残り、ピンチローラーと、リール関係の部品を取り付けます。この時、忘れやすい部品が停止時にリールをロックするストッパーです。これを忘れると、早送り・巻戻しから停止するとテープが弛みます。

 

 本体には接続せず、電源装置でモーターを駆動してテストを行います。リールの回転、メカの動作がスムーズに行えているかの確認で、これを行わず本体に接続すると、万一取り付けミスをしていたときに手間が掛かる他、強い力が掛かって部品を破損させるリスクもあります。そのために低い電圧でゆっくり動作させてのチェックが重要になります。

 

 電源装置でのチェックがOKであれば本体へ接続し、正常な動作が出来るかの確認になります。通電をする前は、コネクタが正しい場所へ接続されているか、しっかり確認します。誤接続した場合、過電流・過電圧による電子部品の破損や、最悪の場合は異常発熱・発煙の危険もありますので、一番気をつけなくてはならない場面です。

 調整と基本的な動作の確認が済んだら、実際にテープを再生して確認します。

 

 今回は電子部品の交換も行うため、再度メカの取り外しに加えて、基板も外します。

 

 全ての部品を取り外したら、先に外装部品の清掃を行っておきます。キャビネットや、フロントパネルなどの部品をまとめて外装部品と呼んでいます。

 始めに空っぽになった本体内部を清掃します。

 放熱のためにキャビネットに穴が開いているため、そこから埃が入って中が埃まみれになることも珍しくありません。

 

 

 続いてフロントパネルも、埃と汚れを綺麗に拭き取り、光沢を出します。色落ちに関しては手が打てませんが、埃は油分もあると思うので、薄めた洗剤で拭くことにより艶が出ます。

 

 パネルの裏に関しても同様です。裏側はパネルを外さない限り掃除は出来ないと思いますから、どうしても埃をかぶってしまいます。しかし新品の購入当初は、こんな状態だったはずです。

 

 外装部品の掃除の次は電子部品交換です。交換するのは、電解コンデンサーとタクトスイッチ(ボタン)です。この時に、新しい作業台へ交換したため、画像の背景が変わっていますが、同じ個体のGX-Z9000です。

 

 システムコントロール基板です。電解コンデンサは標準品をメインに使用しました。1986年製造開始のGX-93と殆ど同じです。メーターに使用する信号線が、L・GND・Rの3本になっている事が違うだけです。

 

 こちらは一次電源やアンプ、ドルビーが実装されているメインの基板です。前作のGX-93と大きく違う所は、一番右上の再生アンプの部分で、GX-Z9000では銅製のシールドが追加されました。両極性の電解コンデンサも多く使用されています。特に再生アンプにあるコンデンサは、50V-220uFと両極性と大きいものです。

 

 ボリュームの洗浄は、電子部品洗浄剤を噴射して行います。噴射、ボリューム回し、ブロアーで乾燥のサイクルを3回くらい行います。特にボリュームの最小と最大の位置でガリが残りやすいです。

 

 電子部品交換後の動作確認です。やはりこちらも通電の時は緊張するものです。特に電解コンデンサーは極性があるため、一箇所でも間違えたりすれば、回路にダメージを与えかねませんので、交換中も気が抜けません。

 ここでは主に長時間通電の確認と、信号レベルの確認と調整を行います。特に再生レベルと録音レベルの調整は、ノイズリダクションをより正確に処理させるため、繰り返し微調整をします。

 もし、両方のレベルがあっていなければ、録音モニターをしても音に違和感が出ますので、OFF・Bタイプ・Cタイプとも同じ音で、ソースとテープも同じ音になるよう、様々な音源で試します。dbxは処理方式がドルビーと大きく異なりますが、エンコード量とデコード量に差があれば音に違和感が出ます。

 

 

 以上で完了です。GX-Z9000は薄型ボディにサイドウッドがチャームポイントです。対して後継のGX-Z9100は、高さがありごついボディとなっています。個人的には所有していることもあって9000の方がお気に入りですが、9100に搭載されているキャリブレーション機能が搭載されていません。しかし、dbxを搭載している点では大きな強みを持っていると言えます。

 GX-Z9100のレポートもしていますので、併せてこちらもご覧下さい。

 

TRIO KX-70 の修理(メカオーバーホール)


 今回は1981年製のトリオKX-70のご紹介です。トリオのデッキは今までに経験した事がなく、今回はジャンク品からの復活に挑戦しました。

 KX-70は、3万円クラスの廉価機種で、シングルキャプスタン・2ヘッド方式というシンプルな構造です。ポジション切替は手動式で、ノイズリダクションはドルビーBのみです。3万円クラスですが、頭だし機能が搭載されています。

 

 早速、キャビネットを開けて状態を調べます。再生、早送り、巻戻しと、機械的な動作は完全に不可能な状態です。

 

 メカの部分を調べるとキャプスタンベルトが切れているのを発見しました。キャプスタンベルト切れで、機械動作が出来ないということであれば、メカの動力はキャプスタンの回転から貰っているという構造をしています。

 

 外部入力は正常に出来ていますので、電気的な故障の確率は低いようでした。2ヘッド機ですので、録音モードにしないとソースの音声が聞こえません。

 

 フロントパネルを外します。外側の大きいパネルと、ボタン周辺の小さいパネル、メーターの文字盤があります。廉価機ということもあってFLディスプレイは採用されていないようです。1981年ですと高級機種はFLディスプレイが使われています。

 

 基板の構成は、大きい基板がアンプ、本体左側に縦になっているのがシステムコントロールです。メカと繋がっている配線を抜く前に、どれがどこに接続されていたか、マーキングを忘れずにします。

 


 こちらはリールの回転を検知するセンサー部分です。右側のリールからベルトでこのプーリーを回します。すると取り付けられたマグネットが回転し、回転した時の磁場の変化をホール素子が検知して回転しているかどうかを判断しています。この時期のカセットデッキは、まだアナログ式のカウンターを採用している機種もあり、このような構造をしている機種も多くあると思いますが、残念ながらKX-70はカウンターも非搭載です。

 半田付けされているケーブルを外さないとメカが外せませんので、半田を吸い取ります。

 

 ケーブルを全て抜けたらメカを固定しているネジを外します。廉価機の割にはサイズの大きいメカです。

 

 先程の回転センサーの部分のアップです。赤丸の部分に磁場の変化を電気信号に変換するホール素子があります。90年代になると赤外線の反射で検知するタイプが主流になりました。

 

 メカの背面はこのようになっています。リールモーターと、キャプスタンモーターからなる2モータータイプです。

 

 ヘッドを上昇させるための機構はここにあります。赤丸の部分にある白い歯車はキャプスタンホイールと一体になっていて常時回転しています。再生モードにするときは、ソレノイドが白い歯車から隣の歯車に動力を繋ぐことで、ヘッドが上昇します。

 

 ここからはメカの分解です。まずはカセットホルダから取り外します。
 

 取り外しはネジを外すだけで難しくありません。しかしカセットホルダを更に分解するとなると難易度がぐっとあがります。

 

 ヘッド周りの様子です。3ヘッド機と比べると、かなりすっきりしています。リールを回すアイドラーはゴム式ですので、交換が必要になります。ブレーキも同じくゴム式で交換が必要です。

 

 次にキャプスタンモーターを外します。メカの下側にもネジがあります。

 

 キャプスタンホイールは、径も大きくなかなか立派なものです。キャプスタンを外しますが、溶け切れたベルトが溶着しているので、注意して取り外します。

 

 キャプスタンを外すと、カムギヤが表れます。ここがメカを動作させる部分です。黒いギヤがブレーキの動作、白いギヤがヘッドの動作を行います。2モーター構成のタイプのメカでは、大抵はソレノイドとセットになっていると思います。

 

 リールモーターとソレノイドを外しました。次にギヤを外していきますが、伝達をすべてギヤで行うタイプは、噛み合わせが違うと動作がおかしくなったりしますので、一番注意したいところです。

 

 メカ前面の部品の取り外しです。リール台は他のデッキと異なって軸も外れますので、軸ごと引き抜いてしまいます。

 

 全部の部品を外すとこのようになります。部品点数がかなり少ないです。やはり2モーター構成のメカはシンプルで整備性も良いです。ただソレノイドを使用するため、動作音が大きいという欠点もあります。でも動作音がかえって良かったりもします。ここもカセットデッキが持つ個性の1つでしょう。

 

 ピンチローラーは、シンプルグリーン洗剤で綺麗にします。

 

 問題はベルトがこべりついたキャプスタンホイールと、モーターのプーリーです。剥がして取れないか試みましたが、全く駄目でした。かなりくっついている様子でした。

 

 剥がす事が難しいのであれば、完全に溶かしてしまう手段に出ます。エタノールに漬けてゴムを軟らかくしていきます。エタノールは溶けたゴムで真っ黒になりますので、衣服に付着してしまうと大変なことになるかもしれません。

 

 無事に綺麗になりました。

 

 カセットホルダも分解しました。SONYのスリーセブンも、似たような構造をしています。80年代後半以降のデッキでしたら、こんな複雑な構造をしたカセットホルダは少ないと思います。
 


 特に厄介なのが、X字に組まれたこちらの部分です。部品と部品が接する部分にはグリースが塗られているため、ここが固着してしまうと開かなくなってしまうという問題があります。しかも同部分が多くあるので、少しグリースが固まるだけで開きにくくなる可能性もあると思います。開閉は問題ありませんでしたが、録音防止が掛かっているかを検知する部分が固着していました。ここも脱脂洗浄が必要です。

 

 脱脂洗浄を行った部品です。完全に古いグリースを落としました。既に製造から36年も経っているのにも関わらず、固着は少なかったです。もっと若い機種でも強固に固着している機種もありますので、やはり保存環境も影響しているのではと思っています。

 

 部品を順に取り付けていきます。ギヤの取付けの時は、噛み合わせに注意です。ギヤに目印となる小さい穴があったりすることもありますが、不安であれば自分で分かるようにマーキングしてしまう方が良いです。

 

 メカ前面を組み立てます。リール用のアイドラーゴムは新品のシリコンゴム製へ交換しました。ブレーキもウレタンゴムを切り出して製作したものを取り付けました。

 

 再びメカの背面に回って、ソレノイドを取り付けます。同じソレノイドでも、配線が違うので間違えて取り付けないように注意します。

 

 続いて、リールモーター、キャプスタンホイール、キャプスタンモーターの順で取り付けます。キャプスタン用のベルトは、φ70mmの物が適合します。ホイールの径が大きい分、ベルトも長めです。

 

 最後にカセットホルダを取り付けて完了です。

 

 メカを接続し、動作確認を行います。キャプスタンが回転したことによって、メカの動作が出来るようになりました。

 

 最後に配線をタイラップで結束します。

 


 機能も必要ものに絞られていますので、少し物足りない部分もあるかもしれません。頭出し機能は搭載していることで、KX-70に価値を持たせていると思います。もし非搭載ならただ再生と録音が出来るだけという、魅力の少ないデッキになってしまう事になります。どの機能に絞っているかを調べると、メーカーのラインナップ戦略が読み取れます。頭だし機能だけ残しているというのがKX-70の大きな特徴だと思います。