(前編はこちら)
分解して部品の清掃が終わった後、メカを組み上げていきます。
予めシリコーンスプレーを下塗りしておいた摺動部分に、シリコーングリースを塗ってから取り付けます。
ピンチローラーなどの軸の部分に関しても、シリコーンスプレーの下塗りをしてからグリースを塗ります。小さいワッシャーやEリングなどが幾つかあるので、取り付け忘れないように注意して組み立てます。
アイドラーについては、ゴム製からシリコーン製に交換しました。
モーターだけではなく、リールの軸も拭き掃除してから取り付けます。リールの回転部分も、エタノール+シリコーンで、グリースを薄く塗っておくことで摩擦と振動低減を図ります。
V-9000のキャプスタンモーターは、ブラシ付きのDCサーボモーターで、中に回転制御回路が内蔵されています。この中に電解コンデンサがありますが、元々のモーターでは交換できるコンデンサがありません。16V-33μFの小型品で、47μFにするとサイズが大きくなって組み立てが出来ません。
その為、保守性を考慮してV-5000から流用したモーターを整備の上、取り付けることにしました。こちらは電解コンデンサの交換が出来ました。モーター回転中は温度が上昇し且つ熱が籠りやすいので、コンデンサの寿命が短くなっていると思われます。
ヘッドを上下するレバーと、カム用のモーターを取り付けます。画像のように力点を下方向へ力を入れると、てこの原理でヘッドが上がります。モーター音が大きくなってしまっている場合は交換します。
メカの動作を確認するため、本体に搭載します。録音、再生などの基本動作が出来ることを確認してOKであれば、電気系の作業に移ります。
背面のパネルと、前のボリュームやスイッチを固定しているナット、基板を固定しているネジを外して、背面側へスライドさせるように基板を抜き取ります。
電源、システムコントロールの基板に関しても同様です。ただし、トランスも一緒に外すことになりますので、トランスを固定しているネジも外します。
FLディスプレイのある基板は、突起でロックしているだけですので、上手く突起から外してあげます。
電子部品交換後です。電解コンデンサとパワートランジスタを交換ました。再生アンプ部分に関しては高級品を使用しました。ただコンデンサによる音質変化の感じ方は個人差があります。この作業では定期的な交換の意味合いで行っています。
アンプ回路の電力を供給するパワートランジスタです。音が消えたとのことでしたので、ここが発煙したのかもしれません。こちらは新品に交換しました。
またシステムコントロール部分も、負荷が大きいレギュレータも予防のため交換しました。10V用が2つと、5V用が1つです。いずれも通電中はかなり熱くなります。
電子部品の交換が終わり、動作チェックを行います。まず、基本的な動作が行えるか、アジマスエラーやテープパスエラーで高域が下がっていないか、再生レベル・バランスが正常かなどを細かく見ます。またV-9000はキャリブレーション機能を搭載していますので、キャリブレーションを取って実際にフラットな特性で録音出来ているかをスペクトルなどで確認します。
基本動作のチェックがOKであれば、1週間程度通常に再生を行って異常が発生しないか見ます。
特に異常が発生しなければ配線処理をします。タイラップで配線が遊ばないように結束します。
さらに組み立ててテープを1往復再生が出来たら検査は完了です。あとはアジマスを記録しておくため、10kHzの信号音をテープに録音しておきます。
オーバーホールは難易度が高く、時間の掛かる作業ですが、新品により近い状態に復活させることが出来ます。機器の延命化にも貢献しますので、お持ちの機器で未だオーバーホールをされていない機器がございましたら、是非一度ご検討ください。