こんにちは、西村音響店でございます。
今回はカセットデッキの故障について、深堀りしてみたいと思います。
カセットデッキは、メカトロニクス(機械)とエレクトロニクス(電気)が融合した製品です。よって壊れ方も2種類あります。
大抵は機械の部分が壊れますが、稀に電気の部分が壊れている状態を見かけます。逆をいうと電気の部分があまり壊れないので、ブログやYouTubeで紹介でもあまり紹介する機会がありません。
ただ、電気部分の故障の中でも、実はラッキーな故障があります。要となるのは、橙色のフィルムコンデンサです。
目次
(復習)カセットデッキの壊れ方は2種類。
まずはカセットデッキの壊れ方を整理しておきましょう。大きく分類して以下の2種類に分けることができます。
①機械的な故障
②電気的な故障
壊れ方として多いのは圧倒的に前者です。ベルトが伸びたり切れたり、グリース(潤滑油)が接着剤のように固まって動かなくなったり、といった故障がカセットデッキではメジャーです。
9割方は①の故障を患います。テープが回らない故障が殆どです。
一方、②の故障は残りの1割。稀に遭遇する程度です。しかし稀とはいえど、この手の故障はテスターで回路を調べる必要があるなど、修理が一筋縄ではいかないことが多々あります。
場合によっては原因が分からず、断念せざるを得ないことも。電子回路の故障は複雑であるゆえに直る確率も低くなります。
でも、ちょっと待ってください!
簡単に直るチャンスがあります。
それが今回の記事タイトルにある、橙色のコンデンサ。こちらの電子部品です。
一見普通のフィルムコンデンサですが、実は厄介者。なぜかよく壊れます。これまでに3回も壊れているところに遭遇しています。
でも壊れやすいことの逆を言えば、とりあえず交換したら直ってしまう可能性があります。今まで見てきたデッキを振り返ると、1980年代前半のデッキによく使われています。これからご紹介する事例も、すべて同年代のデッキです。
お持ちのデッキで、テープは回っていても音が出ない、音がおかしいという症状が出ていたら、ぜひ参考にしてみてください。コンデンサを交換するだけなら、自分で修理出来てしまうかもしれません。
事例1:ノイズリダクションで音に違和感が出る
機種:Nakamichi 581Z
ノイズリダクションの回路にある橙色のフィルムコンデンサが原因でした。コンデンサが劣化して、ノイズリダクションの処理が上手くできなくなってしまったことが原因です。
黄色で〇を付けた部品が、故障したフィルムコンデンサです。最終的には全部が故障したわけではなく、いずれかのコンデンサが故障していた形です。
ただ、一々どこが壊れているかを調べるのは手間がかかるので、一気に全て交換しました。
あいにく当時の状態で再生した音がなく、実際の音を聞いてもらうことが難しいですが、イメージとしてはドルビーBなのにドルビーCが掛かっているような感じです。いわゆる息継ぎ現象が強く出てしまっている状態でした。
コンデンサが悪くなるというと電解コンデンサの劣化が思いついてしまうところですが、交換しても効果はなし。交換した直後は、プラシーボ効果の影響かわかりませんが、「良くなった」と錯覚します。
しかし、違うデッキで録音したテープを再生したり、581Zで録音したテープを違うデッキで再生してみたところ、何度聞いても違和感が拭えません。多少の違和感はデッキの相性によってどうしても発生してしまいますが、この時は許容範囲をオーバーしていました。
そこでフィルムコンデンサをすべて交換したところ、無事に正常になりました。
この時に初めてフィルムコンデンサによる故障を知ることになります。
事例2:録音が不可能になる(アンプが原因)
機種:TEAC C-3X
こちらは片方の音しか録音されないという症状です。
モニター切換えを「ソース」にした状態では、しっかりステレオで聞こえてきます。しかし、いざ録音してみると左側しか録音されていない!
録音同時モニターで確認しても、音が聞えるのは左側だけ。右側のスピーカーからはテープのヒスノイズ以外聞こえてきません。
ふと、先ほど紹介した、581Zのフィルムコンデンサの故障を思い出します。そこで、フィルムコンデンサを疑って録音に関係する回路を調べました。
音声が通る回路ということで、テスターの代わりにスピーカーを使って音が流れているかチェックしていったところ、予感が的中します。
こいつか。
橙色のフィルムコンデンサでした。
ここはすぐ近くにあるIC(オペアンプ)から出力された信号が通る道になっています。その道の途中に例のフィルムコンデンサがあるわけですが、壊れて完全に断線している状態になっていました。断線していては音が出ないのも仕方ありません。
交換するとあっさり直ってしまいました。
はじめはオペアンプの故障を疑いました。オペアンプも幾度か壊れているところに遭遇するので、壊れやすい部類に入ると思います。しかし交換しても改善せず…
ということで、橙色のフィルムコンデンサを要注意部品としてマークするようになります。
事例3:録音が不可能になる(バイアスが原因)
機種:TEAC C-2X
事例2と同じく録音ができないという故障ですが、こちらは原因が違います。バイアスが全く掛からなくなってしまったことにより、何も録音されないという症状です。
またもう1つ、消去が全くできないという現象も発生していました。
録音も消去もできない。
困りましたね。
では、ここでシンキングタイム。なぜ、録音も消去も出来ない状態になっているのでしょうか?
実は、消去ヘッドに流れているのはバイアスそのもの。バイアスが掛からなくなると、テープの音も消せなくなってしまいます。
この記事を読んでいる方ならバイアス調整はお馴染みだと思いますが、そのバイアスと同じ電流が消去ヘッドにも流れています。
バイアスの正体は、100~200kHzという高周波の電流です。これを交流バイアスと呼びます。録音には欠かせないバイアスですが、実は消去作用も兼ね備えています。
どうやって役割を変えているかというと、バイアスの電流量です。録音ヘッドよりも強いバイアス電流を消去ヘッドに流すことで、テープの音を消しています。
ちょっと話が逸れましたが、戻りましょう。
バイアスが全く掛かっていないとなれば、バイアスを作り出す回路が疑われます。「BIAS OSC UNIT」と書かれた部分が怪しいです。
特にこの銀色のシールドの中。シールドははんだ付けされているだけですので、外してみました。
またこいつか!
やはり居ました。橙色のフィルムコンデンサ。
3度も同じコンデンサの故障に出くわすとなれば、もう指名手配犯としてマークしておきましょう。
交換すると正常に録音と消去が出来るようになりました。
まとめ
対策方法は、これしかありません。
「見つけたら早く交換」
今回は僕が遭遇した事例を3つ紹介しましたが、さすがに3回も遭遇していると壊れる確率も高いと感じます。もし他のデッキでも橙色フィルムコンデンサが使われていたら、何かしらの故障が起きるかもしれません。
もし今回ご紹介した症状がみられたときは、橙色のフィルムコンデンサを全部交換してみると直るかもしれません。電子工作の経験がある方は、ぜひ自分で修理に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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