こんにちは、西村音響店です。
今回はアカイ(A&D)のデッキのお話です。アカイ最後のフラッグシップモデルと言ったら、GX-Z9100ですよね。そして、この9100には3つのモデルがある事も、この記事を読んでいる方ならきっとご存知かと思います。
1988年にGX-Z9000からフルモデルチェンジを遂げて登場したGX-Z9100に始まり、GX-Z9100EX、GX-Z9100EVと改良されていきました。
しかし、いざデッキを細かく調べていくと、人によって意見が分かれるだろうという箇所がちらほらあります。
⇒最上級モデルにサイドウッドは必須だから初期型を選ぶか?
⇒ちょっとプラスチッキーだが録音に強い最終型を選ぶか?
ということで、今回は3機種を徹底的に比べてみましょう。もちろん、カタログの劣化コピーのような比較はしません。僕が過去に撮影した写真や、採取したデータをふんだんに使ってご紹介します。
以降、3機種を次のように呼ぶことにします。
・1988年上半期発売のGX-Z9100 ⇒「無印」
・1988年下半期発売のGX-Z9100EX ⇒「EX」
・1990年発売のGX-Z9100EV ⇒「EV」
目次
比べるならまずはココ!決め手となる大きな違い。
サイドパネルの違い
無印とEXは木製。EVはマランツのような石かと思いきや、プラスチックです。皆さんなら、どちらを選びますか?
…やっぱり木ですよね。僕もそうです。
だって、「サイドウッド」とは普通に言うけど、「サイドプラスチック」とは言わないと思いますから(笑)
僕が把握している限りでは、アカイが最初にサイドウッドを装着したのは1986年のGX-93で、以降は最上級モデルのみにサイドウッドを装着するといった製品展開になっていました。
EV世代になって、プラスチック製のサイドパネルに変更されましたが、どうも安っぽい雰囲気が出ているように感じます。きっと同じように感じている方も見えるのではないでしょうか。
もう一つ惜しい点としては、EVの世代になって、ひとつ下の7100EVにもサイドパネルが装着されたことです。これまでサイドウッドは最上級モデルの証であったことから、差別化が薄れてしまった印象が否めません。
磁気ヘッドの違い
無印・EX・EV、3者ともスーパーGXヘッドを採用していますが、EVだけはちょっと違います。
EVは独立懸架型のヘッド。録音ヘッドと再生ヘッドの間にある隙間が独立懸架型である証です。
反対に無印とEXは、2つのヘッドがくっついて一体となっているコンビネーション型です。
果たして、どちらが良いヘッドなのか。
結論から言ってしまうと、EVの独立懸架型です。
理由を説明しようとすると非常に難しい話になってしまうのですが、一言で説明するならば、録音同時モニターの正確さで有利であるからです。
「えっ?同時モニターに正確さなんて、あるの?」
と疑問に思ってしまうところですが、実はあります。同時モニターが正確なほど、良い録音ができます。
(ここから少し深堀りします。完全にオタッキーな内容ですが興味ある方はぜひ。)
ヘッドの調整といえば…そうです。「アジマス調整」です。
例えば、再生ヘッドの調整は合っていても、録音ヘッドの調整がNGだと、同時モニターの際に音が籠って聞こえます。一見、「あれっ?バイアス調整がおかしいのかな?」と思ってしまいますが、実は録音ヘッドの調整が狂っていたというケースが過去にありました。
2つのヘッドの調整がきっちり合っているかどうかが、3ヘッド方式のメリットを最大限に活かすための重要ポイントになります。これを自分では「録音ヘッドと再生ヘッドの整合性」と呼んでいます。ちなみに、ナカミチ1000ZXLは自動で録音ヘッドの調整を行って常に整合性を保つので、録音能力としては最強です。
デッキとテープの性能を100%発揮させるには、100%性能を発揮していることを確認できる正確な録音同時モニターが欠かせません。
独立懸架型であれば、録音ヘッドと再生ヘッドは別々に調整することができます。結果、調整によって整合性を高めることができ、録音同時モニターの正確さもアップします。
一方、コンビネーション型は、2つのヘッドが一体になっており、別々に調整することができません。つまり、録音ヘッドと再生ヘッドの整合性は、製造の段階で決まってしまうということになります。しかし、殆どは支障なく同時モニターができるほどの整合性は保たれているので、よほどの拘りが無ければ気にする必要はありません。稀に怪しいヘッドはありますけどね。
電子回路の違い
3機種とも型番に9100が付くので、「どうせ外観だけちょこっと変えたマイナーチェンジ程度でしょ?」と思ったら、EVだけは中身も別モノです。
本体の底部を開けて比べてみると、このようなレイアウトになっています。
使われている電子部品が違ったり、ICの型番と位置が違ったりと、回路設計が両者で異なることが見て取れます。
となれば、音質も違います。
無印とEVの音源をご用意しましたので、ちょっと聴き比べてみて下さい。
【無印】
【EV】
※EXだけ音源データが見つからず、ご紹介できなくてすみません…また機会があれば収録します。
僕の感想としては、無印の方が中高音域がよく出ていて、どちらかというとアナログらしい厚みのある音だと感じます。一方、EVはこれといった癖はなく、ちょっとデジタルチックな印象です。
音質については完全に好みの問題になってしまいます。したがって、一概にどちらが良いかは決められませんが、僕であればカセットテープらしい音を出す無印に軍配を上げたいところです。
ところが、EVには再生ヘッドの配線に秘密があります。これがあるために、EVも捨てがたいなと思ってしまうところです。
比べてみると、EVの方がコネクタが大きいですね。6本の配線が1つのコネクタにまとまっています。
ところで、マイクロフォンのジャックで端子が3つ付いているのを見たことありませんか?実はこれと同じ原理がEVに使われています。
一言でいうと、ノイズに強い!
磁気テープ特有のヒスノイズはどうしようもないですが、外部からのノイズ混入に対しては強いと考えられます。正直なところ、あまり実感はないですが…
詳しくは「バランス伝送」と検索してみてください。
カセットデッキでは滅多にみられません。殆どは無印のように4本のタイプです。カセットデッキの神的存在であるナカミチですら、普通の4本のタイプです。
ちなみにEXの電子回路は、無印と殆ど変わりません。音質も無印と同じ傾向です。若干の違いとして、電源の取り回し方法が変更されているくらいです。矢印で示した、横に細長い基板がEXで新たに追加されました。
僕の感想としては、再生音質を重視するならEXを選びたいところです。無印とEXは殆ど同じですが、些細な改良点でも無いよりはあった方が良いと思います。気休め程度ですけどね。
ただ、録音を重視するのであればEVの方が有利です。次にご紹介する録音の周波数特性に大きな差があります。
録音の周波数特性の違い
録音にこだわりがある方なら是非チェックしておきたいポイントです。デッキの録音特性をチェックするには、キャリブーレションを完了した状態でホワイトノイズ(砂嵐)を録音してみると簡単です。
ホワイトノイズを録音し、再生された音をスペクトルアナライザーで解析します。すると、概ね次の3パターンの結果が出てきます。(特殊なパターンもあります)
グラフの線の形にご注目ください。①は山のような円弧を、③は谷のような円弧を描いたようなグラフになっています。②は平坦に一直線のグラフです。
最も理想的なグラフは②です。いわゆるフラットな周波数特性です。
①は中高音域が強調されますが、10kHz以上の超高音域が弱くなってドルビー録音では音の違和感(息継ぎ現象)が強まります。
③はいわゆるドンシャリな音です。低音域と高音域が強い状態です。こちらはドルビー録音への影響は①より少ないですが、録音バイアスが不足気味になりがちです。バイアスが不足した状態では、大レベルの音で歪みやすくなります。
さて、先ほど少し述べましたが、録音を最重視するならEV一択です。どのような差があるのか、ホワイトノイズを録音した時の周波数特性を、ノーマル・ハイポジ・メタルと順番に見ていきましょう。
まずはノーマルテープです。使用したテープは、1990年のマクセルUDⅠ。EXだけデータを採取していなかったようで、ご紹介できなくて恐縮です。
ノーマルテープに関しては、無印もEVも大きな差は無いように見て取れます。無印の方が少し①の形に近いですが、実際にドルビーONで録音したところ、音の違和感はありませんでした。
説明書にも推奨テープとして記載されているくらいですから、しっかり録音できるのは半ば当然でしょう。
続いてハイポジを比べてみましょう。使用したテープは1990年のTDK SAです。
ハイポジでは特性に大きな差が出ました。無印とEXは完全に①の形をしていますが、EVはほぼ②の形です。
同年代のデッキとテープなのに、なぜか無印とEXは相性がイマイチのようです。何台か実機を見てきましたが、どれもこのような特性を表していました。ドルビーをOFFして録音すれば問題ないのですが、ONにすると特にハイハットの音に違和感が出ます。
ハイポジの録音は、EVを使ったほうが良さそうです。
最後はメタルです。使用テープは1990年のTDK MA。
結果は、無印とEXは②に近いグラフに、EVは②と③の中間くらいのグラフになりました。3者とも良い特性を示しています。実際に録音してみても、MAなら9100が一番!というくらい相性が非常に良いです。
EVは、どのポジションでも理想に近い周波数特性となっています。独立懸架型のヘッドと相まって、EVの録音能力が非常に強いことを感じさせられます。
無印とEXも決して悪くありませんが、ハイポジの録音がとても惜しいところです。なぜこのような特性になっているのか、僕も未だ謎のままです。何台かデッキを見てきましたが、どれもこの特性を表します。
どーでもいい細かな違い。
さて、ここからは別に比べても仕方ないけど一応違う部分をご紹介します。もし違いをすべてご存知でしたら、オタクと認定しても差し支えないです(笑)
つまみの形が微妙に違う
プラスチック製のサイドパネルに合わせるためか、EVは若干丸みのあるデザインとなっています。試しに無印のつまみをEVに取り付けてみましたが、どこか違和感を覚えます。
先ほどのサイドパネルの違いもそうですが、全体的に丸みのあるデザインになっているのがEVの特徴です。ちなみに、操作ボタンの形状もEVの方が丸っこいデザインになっています。
カセットスタビライザーの凸凹の有無
再生中、振動でカセットが動かないように押さえつける部品です。どちらも役割は同じなので細かい違いとして分類しましたが、強いて言うならば、EX・EVのデコボコ状の方がスタビライザーの効果は高いです。
面よりも点で押さえつける方が、より強い力で押さえることができます。足つぼマッサージが良い例です。
モーターの違い
EVになってモーターが新しいものに変わりましたが、メカニズムを動かす役割は変わりません。ただ、人によっては気になるポイントかもしれませんが、EVの方が動作音が非常に静かです。
これまた非常にオタッキーな話ですが、1994年製造のEVでは再びモーターが新しくなっています。どうやら自動車でいう初期型・後期型のような、製造ロットよる差もあるようです。
巻取り軸の違い
EVには、右側の巻取り軸に、トルクむらを吸収するための機構が搭載されています。しかし、正直なところ効果はよく分かりません。強いて言うならば、テープの巻きむらが少なくなるくらいでしょうか。
ワウフラッターに差があるかと思ったら、そうでもなさそうです。あっても微々たる差でしょう。
ネジの違い
EXとEVは銅メッキのネジが使われています。銅メッキのネジに変えたからノイズが減る…なんてことは考えにくいでしょう。実際に音を聴いてもわかりません。ただ、銅メッキのネジは高級感がありますね。
メカニズムの背後にある基板
最も分かりやすい部品が電解コンデンサーです。EVでは使われておらず、取り付け場所を示す印字が基板にあるだけです。ちなみに無印やEXの基板をEVに移植しても、問題なく動作します。じゃあ、わざわざ回路を変更したのはなぜでしょうか…
電源トランスの「A&D」
無印とEXは、電源トランスにA&Dのシールが貼られていますが、EVは真っ黒です。見えないからと言って省略した…わけではないと思いますが、EVにはありません。
まとめ
今回は、無印・EX・EVを比較して、どのような差があるかを取り上げてみました。分解して細かく調べていくと何カ所も違いがあったりして、アカイのカセットデッキが好きな方には興味深い内容だったかもしれません。
まぁ、最終的には好みの問題になってしまうと思いますけどね。いくらEVがプラスチッキーで丸っこくても、「こっちの方が好き」という方もいらっしゃるかもしれません。再生の音質については、完全に好みの問題となるでしょう。
ただ、これだけは重要ポイントです。
録音を最重視するならEV!
3機種を僕の感想で評価を付けると、このようになります。
デザイン | 再生音質 | 録音音質 | |
---|---|---|---|
無印 | ○ | ◎ | ○ |
EX | ◎ | ◎ | ○ |
EV | △ | ○ | ◎ |
デザインの評価で無印とEXに差を付けたのは、カセットホルダーのカバーです。(この記事のサムネイルを参照)EXの方がフロントパネルとの一体感があって、◎としました。
ということで、僕はEXを推したいと思います。音質も大事ですが、やっぱり部屋に設置する以上はデザインも欠かせない要素です。特にサイドウッドの有無でカッコ良さが違いますからね。
改めて、皆さんならどれを選びますか?
ちなみに、3機種の間で部品を入れ替えたりすることも可能です。3機種共通で使える部品が多くあります。でもEVがカッコ悪いからといってサイドウッドを移植してくるのはナシですよ(笑)