カセットデッキのいろは 第31回
こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。
音響店のブログをお読みくださり、ありがとうございます。
今回は、キャプスタンモーターの分類についてのお話です。
実は、キャプスタンモーターの話題は以前に取り上げました。全部で4種類あるという内容で、DCサーボモーター、ガバナーモーター、ダイレクトドライブモーター、BSLモーターをご紹介しました。
第24回 【カセットデッキ】キャプスタンモーターは1種類じゃない。4種類もある。
カセットデッキによく使われるのが以上の4種類ですが、今回はさらに深堀りしてみます。あまり使われないマイナーなモーターも登場します。
キャプスタンモーターの分類表
さて、早速ですが以下のようにキャプスタンモーターを分類してみました。主に据え置き型のカセットデッキで使われるものです。
分類ポイントは3つです。
- ブラシ・整流子の有無
- 駆動方式
- 制御方式
ブラシ・整流子の有無
キャプスタンの回転に使われるモーターは、基本的には直流電源で動作するモーターです。最初期のカセットデッキでは、交流電源のものがありました。
いわゆるDCモーターの中でも、ブラシ付きのものと、ブラシが無いものに分かれます。
ブラシ付きモーター
電子工作でよく使われるような一般的なモーターを思い浮かべていただければと思います。ブラシと整流子によってコイルに流す電流の向きを変え、回転させるというものが一般的なDCモーターです。
(撮影機種:ビクター KD-W5)
ブラシレスDCモーター
その名の通りブラシの無いDCモーターです。ブラシが無い代わりに、トランジスタが電流の向きを変えます。駆動用の電子回路を備えている点が大きな特徴です。
後者の方がコストは掛かりますが、安定性が高いため、上級クラスのカセットデッキに多く採用されています。
(撮影機種:SONY TC-K222ESG)
寿命の違いについては、両者とも製造から30年以上経過しても動くものが殆どですので、さほど気にする必要はありません。
強いて故障する原因を挙げるとなれば、回転制御用の電子回路が壊れることが考えられます。しかし、これは稀です。故障するのは次にご紹介する、ゴムベルトが切れることによるものが多くを占めます。
駆動方式
キャプスタンの回し方の分類です。
ゴムベルトを使う方式と、ゴムベルトを使わない直接駆動方式があります。実はもう一つ、携帯型のデッキに多いリム駆動方式がありますが、据え置き型のデッキには採用されないので今回は割愛します。
ベルト駆動方式
カセットデッキの基本形ともあって多く採用されており、このタイプはベルトが切れて再生できなくなる故障が起きます。
安価なデッキだけかと思いきや、高級デッキまでにも採用されているメジャーな駆動方式です。直接駆動方式が主流になるまでは、キャプスタンのフライホイールを大型にして慣性力を高め、安定性を図っているデッキが多くみられます。
直接駆動方式
その名の通りベルトを使わずキャプスタンを直接回す方式で、略してD.D.とも言います。
1980年以降になると、高級デッキを中心に採用されるようになります。特徴は何といっても回転の安定性で、音揺れ(ワウ・フラッター)に敏感なピアノ系の曲でも安心して聴くことができます。
ただし、直接駆動方式は低速回転での安定性が求められるため、ブラシ付きモーターと直接駆動方式の組み合わせはされません。
故障のしやすさの面からみると、ベルト駆動のほうが故障率が高いです。ベルトが切れてしまうとキャプスタンが回らないので、再生ができなくなってしまいます。
制御方式
モーターの回転をどのようにコントロールするかを分類したものです。
キャプスタンの回転がテープの再生速度を決めるため、常に同じ回転速度を保っていられることが求められます。
ガバナー方式
1980年代前半までに多くみられる方式で、回転速度を調整するためのコイルが余分に1つ付いている点がポイントです。
このコイルに電流を流して磁界を発生させます。すると、回転にブレーキが掛かります。ブレーキ力を常にコントロールすれば、同じ回転速度を維持できるいう仕組みです。
(撮影機種:YAMAHA K-1B)
DCサーボ方式
モーターの電圧をコントロールする方式です。
ガバナー方式が磁界でコントロールするのに対し、DCサーボ方式はモーターの電圧を直接コントロールします。何らかの負荷がモーターにかかったときは、電圧を上げて回転トルクを強め、回転速度を維持しようと働きます。
(撮影機種:TEAC V-R1)
FGサーボ方式
FGサーボ方式は、モーターに速度を検出するための発電機を取り付けている点がポイントです。
発電機から生み出された信号電圧と、回転速度の基準となる信号電圧を比較し、差があればモーターの回転トルクを調整します。
安定性が高く、中級クラス以上のカセットデッキに採用されていることが多いです。多くは直接駆動方式と組み合わせていますが、ブラシ付きモーターと組み合わせいているものも一部のデッキにあります。
(撮影機種:A&D GX-Z7000)
(撮影機種:A&D GX-Z7000)
(撮影機種:SONY TC-K555ES)
(撮影機種:SONY K-8B)
PLL方式
PLLはPhase Locked Loopの略で、日本語では位相制御方式と言います。信号の周波数を使ってコントロールする方式です。
多くの場合はクォーツ(水晶振動子)を使うことが多いため、クォーツロックという呼び方もあります。
クォーツは温度変化に影響されることなく常に決まった周波数の信号を出す特徴を持っています。これをキャプスタンの回転に活かし、回転速度の正確さを求めたものがクォーツロックです。
高級デッキを中心に採用されていますが、1990年代になると中級クラスのデッキにも採用されています。FG方式と同じく直接駆動方式と組み合わせることが殆どです。ごく一部ですが、ブラシ付きモーターと組み合わせているデッキもあります。
(撮影機種:SONY TC-K222ESJ)
(撮影機種:ナカミチ 581Z)
それぞれのモーターを比較してみましょう
続いて、ご紹介したモーターを、安定性・速度変化・故障率の面で比較してみましょう。
再生安定性
音揺れ(ワウ・フラッター)が少ないほど◎です。
直接駆動方式はやはり安定が高く、音揺れに敏感なピアノ系の曲でも安心して録音再生ができます。ベルト駆動になると少し安定性が落ちますが、音揺れは目立たないレベルです。
ガバナーもしくはDCサーボになると、さすがに安定性は劣ってきます。しかし、キャプスタンのフライホイールが大きければ安定性は確保できます。定価3~4万円クラスになると、フライホイールが小型で軽量なので、人によっては音揺れが気になるかもしれません。
速度変化
気温の変化によってモーターの回転速度が若干変化します。言い換えると、再生スピード・音程(ピッチ)がほんの僅かにずれるという事です。
再生する分にはそれほど影響しませんが、録音をするときには僅かな速度変化でも影響を受けます。速度がずれて録音されてしまうと、他のデッキでは音程が高く聞こえたり、逆に低く聞こえたりする可能性があります。
カセットデッキの規格上の許容誤差は±1.5%とされていますが、録音するときは極力誤差の少ないデッキを使う方が理想的です。となると、録音用のカセットデッキは、PLL方式を採用したデッキが一番強いことになります。
ガバナー、DCサーボが△となっているのは、回転制御用の回路がモーター本体に内蔵されており、気温に加えてモーターやトランジスタからの発熱の影響も受けやすいためです。カセットデッキ本体が冷えている状態と温まった状態で、人によっては音程の変化が一発でわかります。
対策としては、1時間程度電源をONの状態にしておくことです。とあるカセットデッキの技術資料に、調整の前には「1時間程度待つ」と記されていますので、長いですが1時間が理想だと思います。録音するときは、しっかり暖機運転をしましょう。
また、大型のフライホイールを使っているデッキであれば速度変化は少なくなりますので、高級デッキになるほど速度変化に強くなるという傾向もあります。
故障率
ゴムベルトを使うと、やはり故障率は高くなります。当然ながらゴムは徐々に劣化していき、最終的には切れてしまうので長くはもちません。
一方、直接駆動方式はキャプスタンのフライホイールに取り付けられた磁石を使って駆動するので、ベルトは必要ありません。その分、故障率も低くなります。ただし、必然的にブラシレスモーターになりますので、駆動用の回路が故障する確率はあります。しかし、その確率は非常に低いです。
まとめ
まとめると、キャプスタンモーターで総合的に安定性が一番強いのはPLL方式のデッキです。ただ、安定性で一番強いのがクォーツPLLであって、音質は別な問題です。多少安定性は劣っても、再生ヘッドやアンプの良さで勝負しているカセットデッキも多くあります。
最初は、モーターの名前を聞いただけではさっぱり分からないと思います。今回取り上げたお話を少し頭の片隅に置いていただければ、カセットデッキの良し悪しを判断しやすくなると思います。ぜひ、ご参考にしてください。
長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
前回の記事:
第30回 カセットデッキの録音を質を決めるイコライザー調整