【カセットテープの録音】バイアスとは何か?書道に例える。

 

こんにちは、西村音響店でございます。

カセットテープの録音を楽しまれている方なら、もうバイアスの調整には慣れているのではないでしょうか。このように調整しますよね。

 

バイアスを少なくすれば高音域が強くなる。

逆にバイアスを多くすれば高音域が弱くなる。

 

では、ここで皆さんに質問です。

そもそもバイアスって、一体何者なんでしょうか?

カセットデッキの説明書を見ると、バイアス調整のやり方は載っています。しかし、バイアスについての解説までされているものは殆ど無いのではないかなと思います。

今回はバイアスについて解説したいと思います。ところが、如何せん電気は目に見えない世界ですので、仕組みを理解するのはちょっと難しいかもしれません。ならば、目に見えるものに無理やり例えてみましょう。

 

 

録音にはなぜバイアスが必要か?

本題に入る前に、まずはカセットテープの録音の仕組みを簡単に紹介します。

カセットテープの録音に欠かせない部品といえば、磁気ヘッドです。

磁気ヘッドに電流を流すことで表面に磁力が発生します。発生した磁力を用いて、ヘッドに接しているテープに音を記録する仕組みです。

ここでポイントとなるのが、録音中、磁気ヘッドにどんな電流が流れているか?

なんとなく、音の信号が流れていると想像するかと思います。…半分正解です。

確かに音の信号は磁気ヘッドに流れています。しかし、実は音の信号だけ流してもテープに記録できません。

音の信号は電流がとても弱く、そのまま磁気ヘッドに流しただけではテープに記録できる磁力が発生しません。カセットテープに限らず磁気テープは、一定以上の磁力を掛けてあげないと記録できないという性質を持っています。

そこで登場するのが、バイアスです。

簡単に言うと、磁力を強くするための電流です。テープに記録するためのエネルギー源とも表現できます。バイアスと音の信号を一緒に磁気ヘッドに流してあげることで、電流の量も多くなります。

すると、どうなるか?

電流が多くなるので、発生する磁力も強くなります。そのおかげで、テープに音が記録できるというわけです。

 

まずここまでのポイントは、録音するには音の信号とバイアスを一緒に磁気ヘッドへ流すことです。

 

 

「バイアス=墨」と例える。

さて、今回の本題です。記事タイトルに「書道に例える」とあります。カセットテープと書道、一見まったく無関係な存在と思いきや、実は本質が少し似ている部分があります。ということで、新たな視点からカセットテープの録音を詳しく見ていくことにしましょう。

まずは、このように例えます。


・カセットテープ ⇒ 半紙
・音の信号(波形)⇒ 筆の動き
・録音レベル ⇒ 筆圧
・バイアス ⇒ 墨

 

それでは『音』という漢字を書いてみます。

いきなり変な質問で申し訳ないのですが、筆に墨を付けずに書くことはできるでしょうか?

 

当然ですが、書けませんよね。これが、カセットテープで言うバイアス無しの状態。バイアスがなければ録音ができません。

 

それでは実際に書いてみましょう。

 


まずは1枚書いてみました。なんだか線がかすれていますね。何故かすれてしまったのでしょう?

これは墨が少なかったことが原因です。カセットテープで言えば、バイアスが足りない状態です。

バイアスを少なくすると高音域は強くなりますが、過度に少なくするとバイアス不足の状態に陥ります。バイアスが不足した状態、つまりテープに記録するためのエネルギーが足りない状態では、音の信号を記録しきれず、記録できなかった分が音の歪みとして表れます。

バイアスが少なすぎると、音がかすれます。

 


2枚目です。今度はものすごく太い線になりました。一画一画の線をよく見てみると、なんだか墨が滲んで丸みをもってしまっています。

今度は墨が多すぎです。カセットテープで言えば、バイアスが多すぎる状態。バイアスを多くすると高音域が弱くなって、音が丸くなりますよね。書道でも同じように表れます。キレがありません。

バイアスが多すぎると、音の輪郭がぼやけます。

 


最後の1枚です。まぁまぁイイ感じで書けました。

丁度よい墨の量で書けば、きれいな字で書くことができます。カセットテープでも、丁度よいバイアスの量に調整したときが最も良い音で録音できます。

もちろん、多少墨の量を調整する分には全く問題ありません。ちょっとだけ少なくすれば、僅かな字のかすれ具合がキレのある感じを出してくれますし、逆にちょっとだけ多くすれば線が太くなって力強い感じが出ます。

 

 

なぜバイアスツマミを左に回すと高音が強くなる?

既にご存知の方もいらっしゃるかもしれません。アンプについている高音域を調整するツマミ(TREBLE)と、バイアスを調整するツマミは、回し方が逆です。

なぜなのでしょうか?

由来が解説されている資料が見つからず、僕の考察になってしまいますが、ポイントはバイアスの量を調整する点です。

左に回すと、量が減る。

右に回すと、量が増える。

ツマミを回すとバイアスの量が変わります。

バイアス調整の一番の目的は、音質を調整することではなく、テープに記録するためのエネルギー量を調整することです。

実際に、使うテープによって最適なエネルギー量は異なります。イイ音で録音するためには、最適なバイアス量に調整することが先決です。

もし、音質調整が一番の目的になっていたら、アンプのTREBLEと同じ回し方になっているでしょう。でも実は、1台だけTREBLEと同じ回し方をするカセットデッキがあります。その1台とは、ナカミチのDRAGONです。これだけは何故か、バイアス調整つまみの動かし方が逆です。初めてDRAGONで録音しようとすると一瞬混乱します。

 

 

まとめ

今回はカセットテープの録音の仕組みを見える化するために、書道に例えてみました。よく考えてみると、カセットテープと書道で共通する点が2つあります。

 

1つは、バイアスと墨の量、両者ともに適量があること。

多すぎても少なすぎても、綺麗な音、綺麗な字で書くことができません。先ほどの繰り返しになりますが、バイアス調整の本来の目的は、テープに記録するためのエネルギー量を調整することです。音質が変わるのはおまけのような効果です。(もちろん音質が変わる理由もありますが、難しいので今回は割愛です)

 

もう一つは、一発勝負であること。

録音し始めたら、書き始めたら、途中変更はできません。しようと思えばできますけど、曲の途中にバイアスや録音レベルは変えませんよね。(特にアレンジしないのであれば)

書道では二度書きはご法度。字の見た目は素晴らしいのに金賞マークが無いという悲しい作品になります。

ちなみにイコライザーはいつでも音質を変えることができますよね。一方でバイアス調整が効くのは、テープに音が記録される瞬間だけです。一回記録されてしまうと、デジタルデータのように後から編集することはできません。

 

記録する媒体は違えど、アナログ記録という点では同じ類です。

 

無理やり感があったかもしれませんが、少しでもカセットテープの録音の仕組みを理解してもらえたら嬉しいです。もちろん、使っているだけでもカセットテープは面白いですが、仕組みを理解してから使うと面白さがまた増えますよ♪

 

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