西村音響店

A&D GX-Z7100 の修理(機械系オーバーホール)

 

 今回は、1988年製のA&D GX-Z7100をご紹介いたします。三重県の方より、クローズしても数秒でイジェクトしてしまうという症状で御依頼を頂きました。

 

 GX-Z7100は、先代のGX-Z7000の後継にあたるモデルで、1988年から製造・発売されました。新たにキャリブレーション機能、ダイレクト入力端子、複数曲の頭出しなど、数々の新機能を搭載して登場しました。上位にGX-Z9100がラインナップされました。

 

 作業前の状態確認です。ご指摘いただいたとおり、扉を閉めてもすぐに開いてしまいます。これは、AKAI・A&Dの3ヘッド方式のデッキに多く見られる、グリースの固着です。AKAIのメカニズム制御は他のメーカーよりも独特で、カセットを入れると、ヘッドがテープに接触した状態、ヘッドが上がった状態でスタンバイします。すると、再生時に素早く音が出せるという仕組みになっています。これが仇となって、扉がすぐ開くという現象が起きてしまいます。

 

 今回は、機械系オーバーホールをご希望ということで、メカ部分の整備を行いました。

 まずは、フロントパネルを取り外します。ボリュームやスイッチのつまみは外さなくても問題ありません。上側と下側で固定しているネジを外します。同時に、メカに繋がるケーブルのコネクタも外しておきます。

 

 次に、本体底部からの作業です。底部のパネルを外して露出させるとこのように、基板が逆さ向きについています。消去ヘッド、録再ヘッドのケーブルは、こちらに来ているので外します。ケーブルの取り回しが少し難しいですが、被覆を破らないよう慎重にほどいていきます。

 

 このようにメカを降ろすことができますが、向かって奥側へスライドさせて取り外しますので、電源回路の基板が干渉します。そのため、基板も外して避けておきます。

 

 ここからは、メカの作業です。AKAIのカセットデッキで長期にわたって採用されているメカですので、同じ方法を採れる機種も多数あります。ブロック分けの方法で作業するため、ブロックごとに①、②、③、…と番号で呼ぶことにします。

 

 まずは、カセットホルダ(扉)と周辺部品です。こちらを①とします。左右両側、それぞれパネルがネジで止まっています。カセットホルダについては、左側に開閉動作を行う部分にバネがかかっています。特に難しくなく取り外しができます。

 

 つづいてはメカの前面にある、リール台、ローラー、ヘッドなど、テープの走行に関わる部品です。こちらは②とします。

 

 リール台は、円錐状の樹脂部品が圧入されて固定されているので、小さいマイナスドライバーで抉ると外すことができます。アイドラーは、バネとラッチで固定されていますので、こちらもマイナスドライバーを使って外します。

 

 さて、問題のメカの固着ですが、ここのピンチローラーを動かす軸が固着しています。固着具合は個体によって様々ですが、今回は特に固まっていました。力ずくでも動く気配はありませんでした。そういった時は、軸にエタノールや電子部品洗浄剤など、脱脂効果のある液を染み込ませて少し時間を置きます。少し動くようになったら、上に下にと少しずつ動かしてまた液を染み込ますを繰り返します。

 

 ピンチローラーが外れました。ここまで30分くらい掛かったと思います。固まったグリースが軸に付着しているのが確認できます。

 

 先ほどは右側(巻取側)のローラーでしたが、左側(供給側)のローラーも外しました。ここで、キャプスタン、ダイレクトドライブのユニットを分離させます。前面から3か所ネジで固定されています。ヘッドもこの段階で外します。

 

 キャプスタンのほかに、カム動作用のギヤもついています。ここで綺麗に2つに分けることができましたが、メカ前面を③、キャプスタン・カムギヤ・ダイレクトドライブを④とします。

 

 ③をさらに分解します。ピンチローラーの上下を行う部品や、カセットホルダの開閉を行う部品など、④にあるカムギヤから動力を受けて動く部品があります。

 

 さらに④もすべて分解します。AKAIの3ヘッド機では、このように4つのブロックに分けることができます。全動作を1つのカムギヤで行っていることや、作動に必要な部品が多いなど、SONYのサイレントメカニズムよりは少し複雑だと思います。

 

 こういった部品にも古いグリースが付着しており、そのまま取り付けると潤滑の効果が弱まるので脱脂洗浄します。使っているのは綿棒が入っているケースの蓋ですが、ここに部品を入れてパーツクリーナーに浸します。

 

 少し時間をおいてから、上からウェスを押さえつけると、溶けだした油分を拭き取ることができます。必要に応じて乾拭きをします。

 

 カセット検出孔用のスイッチですが、こちらは電子部品洗浄剤を使います。それでも接点不良がある場合はペーパー等で少し研磨をします。ここの接点不良もよく見られます。

 

 ヘッドの裏にも古いグリースが付着していますので、こちらも落とします。電子部品洗浄剤でグリースを溶かしてから、ウェスで拭き取ります。

 

 ローラーの回転軸も念のため脱脂洗浄をしました。脱脂洗浄の後、シリコーンスプレイを軸に塗りました。ピンチローラーが回らなくなってしまうと、テープを痛めたり絡めたりするなど大変な事になります。

 

 リールモーターの清掃です。GX-Z7000以前ではマブチモーター製が採用されていましたが、GX-Z7100からはメーカーは分かりませんが、SONYのサイレントメカに使われているものと同じモーターが採用されています。

 

 部品を脱脂洗浄しました。元々はギヤに黒いグリースがついていましたが、完全に落としました。黒いグリースはおそらくモリブテングリースで間違いないと思いますが、経年劣化でざらざらとした物質に変化しています。

 

 ④の組み立てです。ギヤにはシリコーングリースを塗布します。シリコーングリースは他のグリースと比べて効果ですが、ゴムや樹脂にも影響が少なく、化学変化も少ない特徴を持っています。ベルト類も新品に交換しました。カム動作用にはバンコードを使用しましたが、AKAIのメカは他のメカと比べて、動作にトルクが必要なのでベルトも少し強めに張ります。しかしベルトを強く張ると通常のゴムベルトでは劣化を早めてしまう恐れがあるので、伸縮に強いウレタン製のバンコードを使用するメリットを活かすことができます。

 

 ③も組み立てます。摺動部分には同様にシリコーングリースを塗布します。部品を取り付ける都度に、手で動かして問題なく動くことを確認しつつ、グリースを浸透させます。固着していたピンチローラーの可動軸は、シリコーンスプレーを下塗りした後、シリコーングリースを塗布します。

 

 ③と④を合体させます。

 

 ピンチローラー、ヘッドを取り付けました。ここで忘れがちになるのが、停止時にリールをロックするリールストッパーです。取り付け忘れると、早巻きの状態から停止をするとテープが弛みます。

 

 リール台、アイドラー、リールの回転を検知するセンサーを取り付けて②の組み立ては完了です。アイドラーは摩擦力が強く静粛性がよいシリコーンゴム製に交換しました。

 

 最後に①を取り付けて完了です。電源装置から、メカ動作用のモーターに電圧を与えて手動でメカの動作を確認します。ヘッドの上下、ピンチローラーの上下、カセットホルダの開閉等、問題ないことを確認したら本体へ搭載させます。

 

 メカを搭載し、動作チェックへ入ります。1週間ほどの確認で、テープの走行に異常がないか、電気系統に異常がないかを再生しながら確認します。

 

 動作がOKであれば、今回はメカ部分の整備のみですので、内部の埃などを清掃した後、タイラップでケーブルを結束します。当方では配線処理と呼んでいます。

 

 内部の清掃の後、外装部品を清掃し、本体に取り付けて完了です。傷が少なかったため、拭き掃除した後はさらに綺麗な状態になりました。以前にGX-Z7100EVも整備しましたが、EVは後年に登場しディスクリートヘッドの仕様になりました。無印の7100は従来のコンビネーション型ですが、EVとの価格差はこのヘッドの差異にあると思います。

 まだGX-Z7100EX(9100EX)の方は手を付けていませんが、構造自体は殆ど同一ですので、EXシリーズも整備を承ります。メカが動かなくなっただけで廃棄せず、ぜひ当店で貴重なデッキを復活させてみませんか。

 

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