YAMAHA TC-800GLの修理・旧型デッキのメンテナンス


皆様こんにちは。西村音響店の西村です。

今回ご紹介するのは、1976年製のYAMAHA TC-800GLです。県内の方より、「長く使いたいので、ゴムベルトなどの消耗部品を交換してほしい」というご依頼を頂きました。記念すべき’70sカセットデッキの整備・第1号です。お客様から’70年代のご依頼は、今回が初になります。

 

 

会社名が現在のヤマハではなく、日本楽器製造となっていた時の製品です。歴史を感じます。家庭用電源のほか、乾電池でも動作ができる仕様となっています。

 

 

本体底面から分解を進めていきます。こういったタイプのデッキは、もちろん初めてですから、色々と手こずったり、なかなか進まなかったりもしました。デッキメカは、画像向かって右側です。

 

 

デッキメカの上にある基板が、録音用と再生用のアンプ回路です。ケーブルが乱雑に半田付けされていたりしますが、この頃はコネクタなど皆無で、配線の取り扱いにはより注意が必要です。

 

 

録再ヘッド、消去ヘッドのケーブルが半田付けされていますので、マーキングをした後、半田を吸い取って外します。必ずマーキングをしないと、どこへ接続するかが分からなくなります。写真とマーキングの二重記録が重要です。

 

 

キャプスタンホイールが見えました。ホイールの経も大きく、回転の安定性にも抜かりない設計です。シングルキャプスタン方式で、ワウ・フラッターを低減するには、このように経を大きくし、慣性力を高める必要があります。

 

 

キャプスタンを外すと、メカニズムが見えてきます。手慣れたマイコン制御ではなく、完全な機械制御なので、部品数も多く、バネの数も多いです。

 

 

一つずつ部品を取り外していきます。一つ外すごとに写真を撮りなが進めます。それでも、後で組立て出来るかどうか、終始不安も感じながらの作業です。

 

 

ひとまず、ここまで分解できました。古いグリースも落とさなければならないので、出来るだけ部品は外した方が良いです。

 

 

先ほどまで、上側のカバーを外していませんでしたが、外し方が途中で分かりました。まさか、こんな風に外れるとは思ってもいませんでした。

 

 

カウンターのギヤ部分には、少しシリコンオイルを注入して、回転時の齧(かじ)りが無くなるように処置を行っておきます。

 

鍵盤式の操作レバーです。これを押し下げると、メカ部分の機構が動きます。パーツクリーナーを吹きかけると、黒いグリスが溶けて落ちてきます。

 

回転にはゴムが使われており、ここが劣化すると摩擦力が低くなって、回転トルクが弱くなります。ベルトだけでなく、ゴムリングの交換も必要です。

 

 

機構の部品を脱脂洗浄し、元通りに組み立てていきます。入り組んだ場所が多いため、オイル潤滑をしました。

 

 

キャプスタンと新しいベルトを取り付けます。ベルトはΦ100mmの物が適合します。

 

 

製造から40年以上経過していることもあり、電解コンデンサーは、かなり劣化しています。40年前の電解コンデンサーを目にするのも、これが初めてです。

 

 

交換するコンデンサーの数も100個はありますし、配線が複雑ですので、予想以上に時間が掛かりました。また、メーターを照らす電球(麦球)も切れていましたので、新しい電球に交換しました。電圧は元々12Vですが、新品は定格が3Vなので、間に抵抗を挿入します。

 

 

フェーダーも取り外して清掃し、接点不良を無くします。写真に収めていませんが、1つ1つ基板から外して分解します。分解しないとガリが残りやすいです。

 

 

全ての作業が終わり、動作テストを行える状態にしました。画像では操作レバーを取り付けていませんが、レバーはただネジで固定するだけです。この状態で、1週間ほど再生させて確認します。

 

 

最後に上側と下側にカバーを取り付けて完成です。上側のカバーを取り付けるときは、フェーダーのつまみ部分と、可変抵抗器の突起部分が合わさるようにします。予め、フェーダーを最小位置にしてから取り付けると安全です。

 

 

録再ヘッドに凹凸が見えるので、結構使い込まれているのではないかと思います。再生音が籠ったりすることはありませんが、特に古いテープを頻繁に再生すると、このようになりやすいです。

 

有名なデザイナーが手掛けたデッキということで、日本のカセットデッキとは趣が違ったデザインです。電池駆動も可能ですので、ポータブルな使い方も出来ます。ただ重量が5kg以上ありますので、持ち運びは少し重たいかもしれません。しかし一見据え置き型のカセットデッキのように見えながら、電池も使えるという物は、なかなか珍しいのではないでしょうか。慣れないデッキで、とても刺激があった作業でした。

 

 

今後も、年式・機種問わず、新しい機種にも積極的に挑戦していきますので、是非古すぎるデッキでも、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

SONY TC-K555ESXの修理(フルオーバーホール)


今回は1987年製のSONY TC-K555ESXのご紹介です。東京都の方より「扉を破損してしまった」との事で、ご依頼を頂きました。

TC-K555ESXは、前作のTC-K555ESⅡのデザインから大きく変わり、メカが中央に配置されたデザインとなっています。新たにキャリブレーション機能が搭載されました。逆に廃止された機能としては、フェリクローム(TypeⅢ)モードが無くなりました。

既にメタルテープに代替されていたためですが、1986年ごろに生産終了するの555ESⅡまで、TypeⅢ対応デッキが製造されていたことになります。他のメーカーでは、TypeⅢ対応のデッキとなると70年代~80年代初期で現存台数も少ないですが、SONYでは長いことTypeⅢ対応のデッキを製造していた事には関心があります。やはりDUADカセットを販売していただけに、拘りがあったようにも感じます。

 

今回ご依頼いただいた555ESXは扉が既に外れている状態からスタートです。フルオーバーホールをご希望という事で、メカの整備から電子部品の交換まで行います。

 

カセットホルダは外れていますが、このようにカセットを手でセットすることで、動作は行えます。機械的な動作に関しては、最近まで使用していたとの事ですので、特に異常なく動作しています。

 

メカの作業から行っていきます。まずケーブルを基板から抜きます。こちらは本体左側、システムコントロールです。ここから3つのコネクタを抜きます。ドライブ用・スイッチ信号用・D.D.モーター用の3つあります。

 

続いてこちらは右側の再生アンプと録音アンプです。上段の再生アンプに再生ヘッドのケーブル、下段の録音アンプに録音ヘッドと消去ヘッドのケーブルが接続されています。

 

メカを固定するネジを外し、奥側へスライドさせて外します。この時、ヘッドが下がった状態では干渉して上手く外れないため、ヘッドを手で上げた状態にしておきます。

 

分解をする前に、カセットホルダの補修を行っておきます。本来はこのように、閉めた時はロックされます。

 

破損していたのは右側の部分で、本来は突起がありますが、折れて無くなっています。

 

そこでカセットホルダの元々突起のある部分に、小さいドリルで穴を開け、そこに切断したアルミ棒を接着させて対処しました。左側は破損していないため、左側の寸法に合わせて長い分をミニルーターで削りました。

 

カセットホルダのオープン時に、ゆっくり開くようにするのが、こちらのゴムダンパーです。劣化すると減速することなく勢いよく開きます。そうすると、衝撃で物理的な破損を起こす恐れもあります。定期的なゴムの交換が必要な箇所です。

 

カセットホルダ自体も少し歪んでいたため、金属部分を真っ直ぐになるように補修しました。歪んだままでは、しっかりカセットがセット出来ず、走行不良を起こす恐れもあります。

カセットホルダの開閉確認を行った後、メカの分解へ入ります。

 

まず左右のピンチローラーを外します。引きバネが1本ずつ掛かっています。また左側にはテープパス調整用の押しバネが1本ありますので、無くさないように管理します。

 

続いてヘッドを外します。中央にある金属板でベアリングと挟む事で固定しています。ベアリングは紛失し易いため、早めにチャック付の袋へ入れます。

 

背面に回ってD.D.モーターを外します。外すと回転数を検知するコイルが見えてきます。コイルと外したD.D.モーターの基板がケーブルで繋がっているため、断線に注意します。

 

回転数センサーのコイル、スイッチ類のある基板を外しました。同基板にリールモーター、2つのソレノイド、リールセンサー用のランプの配線が半田付けされていますので、基板を取り外す前にケーブルを外しておきます。

 

リールモーターと、ヘッド用のソレノイドを外しました。リールブレーキ用のソレノイドも外すことが出来ますが、コイルの細線が接着されているため完全に取り外すことが困難ですのでそのままにします。

 

最後にリール台の取り外しですが、555ESXのリール台は回転の慣性を高めるため、軸に金属製の錘(おもり)が圧入されています。555ESⅡまでは樹脂製で爪で固定されていますので、取り外し方も検討が付きやすいですが、555ESXと555ESRでは圧入に変わっているため注意が必要です。下位グレードの333ESX、333ESRも同様です。

圧入された錘を外すと、その中に軸に小さなストッパーが付いているのが見えてきます。これが分からないまま、無理やり力技をしてしまうと取り返しの付かないことになります。私自身、過去にやってしまった経験があります。錘を外すときは、かなり固いのでコツが必要です。私の場合、ネジザウルスを使用しますが、直接掴んでしまうと傷がつくため、ウェスを何重か噛ませた上で挟み、ねじり取りました。

 


メカの分解が終わりました。確認している限りでは、この構造は1981年のTC-K555から受け継がれています。従って部品の流用も利きやすいと思います。1989年からのESGシリーズは新型のメカニズムに変更されたため、それ以降のモデルとは部品流用は殆ど出来ません。

 

ヘッドの可動部分にあるベアリングは、パーツクリーナーに浸してグリースを溶かした後、ウェスで拭き取ります。

 

 

ベアリングが接触するヘッドの裏側にもグリースが付着しています。ここも拭き取るなどして落としておきます。

今回の555ESXは、オリジナルの独立懸架型のヘッドです。表面の状態も良いです。磨耗しやすいと言われていますが、比較的新しいテープなら問題ありません。1981年以前のSONYのデッキは、センダスト・フェライトヘッドで硬く磨耗しにくいヘッドを搭載していました。ですので、目安として1982年以降のテープなら、磨耗の心配は少ないと考えています。

 

リール用のモーターは分解して、ブラシと整流子を掃除します。

 

リールストップ用のブレーキも摩耗していたため、ウレタン製の新しいものへ交換します。このブレーキは、早送り・巻戻し状態から、停止ボタンを押したら即座に回転を停止させるための役割があります。

 

脱脂洗浄を終えたメカの部品です。摺動部分には黄色のグリスが付いていましたが、完全に落とすことが出来ました。

 

まず先に、カセットの検出スイッチを操作する部分から取り付けます。

 

リール台の取り付けですが、こちらのスプリングを忘れてはいけません。画像の様に、正しく軸に入れます。

 

先ほどのスプリングがしっかりと入った状態から、リール台を差し込み、ストッパーで固定します。その上に、慣性用の錘を差し込みます。硬いので、少しずつ叩きながら差し込んでいきます。

 

 

次にメカの背面にある部品を取り付けます。リールモーター、カセット検出孔のスイッチをはじめとした部品です。

 

リールブレーキ、ブレーキ操作用のレバー、ヘッド操作用のレバーという順に取り付けて行きます。この時に、リールブレーキにあるバネを忘れると、この部分からやり直しになりますので、気をつけたいところです。

 

次にリールモーターを取り付けます。モーターを取り付けたら、一度回してみて、違和感なくリール台が回るか確認しておきます。

 

検出孔スイッチのある基板を取り付けました。リールモーターからの配線と、2つのソレノイドの線を半田付けします。モーターはもちろん極性がありますが、基板に何色のコードを接続すべきか印字されていますので、間違えにくいと思います。ソレノイドは、電磁石の一種なので極性はありません。

 

キャプスタンモーターの基板には、表面実装型の電解コンデンサーがあります。経年劣化で電解液が漏れ出し、基板を腐食させる危険がありますので、ラジアルリード型へ交換します。画像では、直径5mm・高さ11mmの一般的なサイズのコンデンサに交換していますが、後にフライホイールと干渉することが分かり、小型品に変更しました。

キャプスタンを取り付ける前に、回転数検出用のコイルを忘れずに取り付けます。仮に忘れて無しの状態ですと、回転数が0回転のままとICが判断するため、キャプスタンが猛スピードで回転します。

 

小型のコンデンサに変更しても、外側に向けると干渉する恐れがありますので、出来るだけ中心部分に収めておくようにします。

 

 

メカ背面の組み立てが終わりました。キャプスタンモーターの駆動コイルと、回転制御回路が1枚の基板にまとめられて、コンパクトになっています。先代のTC-K555ESⅡでは、駆動コイルと制御回路が別々になっており、ケーブルの本数が増えるという難点があります。

 

再び、前面からの作業です。次はヘッド周りの部品を取り付けて行きます。

 

ヘッドを固定しつつ、上下方向の運動をスムーズにするためには、3つの鋼球が欠かせません。グリスを塗布したうえで鋼球を乗せます。

 

ヘッドを乗せたあと、さらにこの上から金属板で固定します。その間にもう一つ、鋼球があります。こちらも忘れずに入れます。

 

ヘッド下降時に作用するキックバネを取り付けて、ヘッドの取り付けはOKです。手で動かすことができますので、滑らかに動くか確認します。

 

ピンチローラーを取り付けました。残りはカセットホルダになりますが、555ESXはテープパスの調整のため、まだ取り付けません。

 

カセットホルダを取り付けて一旦完成には持っていくことができましたが、ポーズ状態で完全にヘッドが下がってしまう症状がありました。その原因が、こちらの画像の真ん中の部分です。

ポーズ状態では、ヘッドから伸びる突起が、ブレーキ操作用のレバーにあるL字形の窪みに引っかかって、少しだけ下がった状態になります。これが正常なポーズ状態です。しかし、窪みに引っかからなかった場合は、停止状態と同じく、完全にヘッドが下りてしまいます。動作には何ら問題はありませんが、正常になるよう少し窪みを削って、引っかかりやすくなるように加工しました。

 

カセットホルダが無い状態で、動作確認を行います。テープパスの調整は、ここで行いますが、先ほどの段階で取り付けてしまうと、調整用のネジが回せなくなるため、調整が出来なくなってしまいます。(後にメカの下側からネジを回す方法を立案しましたので、この状態にする必要はなくなりました)

テープパス、アジマスの調整は、クローズドループ方式ですので、左(供給)側のピンチローラーを下げて、シングルキャプスタンの状態にさせます。その状態でアジマスを決めたら、次に左側のピンチローラーを、密着させたときに音が変化しない位置を狙って設定します。もし音が籠ったり、テープが巻きこんだりした場合は、正確な位置になっていません。

 

先程はカセットホルダを外していましたが、再生しながらの動作確認の際はもちろん取り付けます。

メカ部分の作業が完了したら、1回目の動作確認を行い、電子部品交換へ移ります。画像では既に、メーターを取り外しています。

 

真ん中に電源があるレイアウトは、ESRシリーズ以降、KAシリーズまで受け継がれています。

 

画像が少し見にくくて恐縮ですが、こちらは再生アンプの基板です。耐圧63Vのコンデンサが採用されており、音質への拘りを感じます。そもそも63Vのコンデンサがされているのは、確認している限りではSONYのみです。

 

新しいコンデンサは、ニチコン製のmuse-KZを採用しました。元々高価なコンデンサが使われていることもあり、それに相応するものを取り付けました。

 

こちらは録音回路ですが、やはりヘッドアンプと、ドルビー用ICには、63Vのコンデンサだったため、同様にmuse-KZを使用しました。その他の部分は、FineGoldを使用しました。

KZ、FineGoldは、どちらも音響用ですが、部品の価格は2倍くらい差があります。

 

ボタンは劣化すると、間違った動作をするようになる事もあります。今回は誤動作はありませんでしたが、予防で交換しました。

 

システムコントロールの基板と、ドルビーやイコライザーの切替スイッチがある基板です。カウンター表示用のディスプレイが大きいのが、ESX・ESRシリーズの特徴です。ESGシリーズからは、サイズの小さいものになりましたが、皆様はどちらがお好きでしょうか。

 

枠組みも完全に外しました。この状態で汚れを掃除しますので、中まで綺麗な状態に仕上げることができます。

 

部品交換と内部の清掃が完了したら、組み立てて通電します。ここで配線抜けなどがあると、動作が変になることもあるため、注意したいところです。アンプ回路はグランドをしっかり取らないと、音が出ないという事もあります。グランド用のネジは、しっかり締めるようにします。

 

キャビネットに通気孔がありますので、埃が溜まります。底板にも積りますので、しっかり埃を拭き取ります。

 

再生確認では、120分テープでのテストも行います。クローズドループ方式での使用は推奨出来ませんが、テープの走行が安定しているかを確認するには丁度良いテストです。120分が無事に再生できれば、90分以下のテープも安定した走行が出来ます。

 

フロントパネルの裏側も忘れずに拭きしょう。

 

2回目の動作確認は、主に通電確認です。コンデンサも新品ですので、慣らし運転の意味合いもあります。

 

以上で完成です。SONYのロゴも中央に配置されているのも、ESXシリーズの特徴です。独立懸架型のヘッドを搭載していることもあって、再生能力は非常に高いと思います。キャリブレーション機能も搭載されたので、再生から録音まで十分にこなせる一台です。

他社のデッキが、メカの制御にモーターを使用して静音性を高めた構造が多用される1987年ごろですが、この555ESXは変わらずソレノイドだけで制御を行うタイプで、再生ボタンを押した時の「ダンッ!」という音がお好きな方には、是非お勧めです。