YAMAHA KX-640 の修理(フルオーバーホール)

 

 

 今回は1992年製のヤマハKX-640のご紹介です。大阪府の方から再生ができないとの事で御依頼を頂きました。

 KX-640は1990年ごろに発売された、3ヘッド、クローズドループ・デュアルキャプスタン方式を採用したカセットデッキです。カラーが、「ブラック」とヤマハ独自の「チタン」から選択できました。高域補正がいつでも行えるプレイトリム機構が搭載されています。

 

 フルオーバーホールをご希望ということで、メカ部分のオーバーホールと、電子部品の交換を行いました。

 今回はフロントパネルを取り外した状態のところからご紹介いたします。残念ながら写真を移したハードディスクに異常が発生して、一部の画像が読み出し不可能となってしまいました。

 フロントパネルの取り外しは、まずカセットホルダのカバーを外し、パネルを固定しているネジが上側と下側にありますので外します。あとは手前に引き抜くだけです。

 

 フロントパネルを外した状態がこちらになります。操作ボタンがある基板も外しておきました。

 

 メカの取り外しです。メカは上に2か所と、中にメカの足の部分に2か所あります。メイン基板から抜くコネクタは、各ヘッドのコネクタ3つ、モータードライブ用、カム接点・検出孔スイッチ用の計5つです。

 

 KX-640に採用されているメカは、自社設計のものではなく、サードパーティのメカです。多少の差異はありますが、確認している限りでは、A&DのGX-Z5300、GX-Z6100が同型のメカを搭載しています。プリメイド品を採用することで製造コストを抑えれるメリットがあります。また、YAMAHAとA&Dのように、まったくメーカーが違っても共通部分があるので、部品流用が利きやすいという特徴もあります。

 

 メカ部分の分解に入ります。まず初めに、キャプスタンモーターとメカ駆動用のモーターの配線を外しておきます。はんだ付けですので、はんだを吸い取ります。

 

 このメカの特徴的な分解の仕方です。上半分と下半分を分割します。出来るだけ大きいまとまりで分解が出来る構造ほど、整備性が良いと思います。逆に、決まった部品を順番に分解しなくてはならないメカは整備の難易度が高いこともあります。

 

 上半分のリール台の部分です。リール台は軸にストッパーが圧入されているだけです。また検出孔スイッチが付いている基板も、はんだを吸い取って外しました。基板とリールモーターの端子が直接はんだ付けになっていますので、基板を外せばリールモーターも外すことができます。ただしネジが非常に固いです。1つは無事に外すことが出来ましたが、もう一つはビクともせず、結局ネジを壊す手段を採ることになりました。壊したネジは使えないので、代替のネジを使うことになります。すべて樹脂製で力余って破損しないように注意することと、固いネジに効果を発揮するネジザウルスが凹凸部分に干渉して使えません。

 

 

 続いては下半分の部分です。こちらはキャプスタンとテープが走行する部分になります。今回、再生できない原因はベルト切れです。このメカに使われているベルトは、劣化すると溶けてしまうタイプで、溶けたゴムがキャプスタンホイールにくっついてしまいます。酷いとゴムを完全に溶かす必要もあります。

 

 KX-640のメカをすべて分解するとこのようになります。部品点数事態はとても少なく、シンプルでコンパクトなメカに設計できることが伺えます。私が作業する上で重要なブロック分けをするには、カセットホルダ(扉)が①、上半分が②、そして下半分は③、3つのブロック分けが良いでしょう。

 

 メカの駆動に使われるモーターは小型のもので、駆動電圧は約6Vです。

 

 リールモーターを分解して清掃します。画像が暗くて申し訳ありませんが、拡大画像で見てただくと、ブラシと整流子に黒い汚れが付着しています。これをエタノールを使用して拭き取ります。綿棒の繊維を尖っている部分や隙間のある部分にひっかけないように注意します。組み立て前に、繊維が残っていないかを確認してから組み立て、電圧を与えて正常に回転するかをテストします。

 

 キャプスタンモーターも分解します。内蔵された制御回路に電解コンデンサがありますので交換しました。制御用ICからの熱が籠りやすいので、コンデンサの劣化も他の部分よりは早いと思います。キャプスタンモーターは低速回転になることはなく常に一定の回転数で回っているため、リールモーターほど汚れの心配は要りませんが、念のため行っておきます。メカ駆動用は残念ながら分解が出来ませんが、こちらも特に低速回転になることはないため、少し負荷をかけてもトルクが低下しなければ問題ありません。

 

 脱脂洗浄を終えた部品です。グリースの固着はなく、洗浄は特に難しくなく行えました。

 

 ここからは組み立てです。分解した時と逆の手順で組み立てていきます。分解するのは比較的簡単でも、組み立ては難易度が高めになりますので、分解する前に画像に残しておくのがベストです。特に今ではデジタルカメラで、撮ったらすぐ確認できるので、フィルムカメラしかなかった頃と比べたら作業効率は格段に良くなっています。いちいち現像をしたら現像代もかかりますし、紙に書いて記録しておくことも限界があると思います。今だから可能なことですが、画像だけではなく、構造をよく理解した上で作業することが重要です。

 

 メカ下半分を組み立てました。ゴムベルトは新品に交換しました。Φ75mmの平ベルトが適合します。

 

 続いて上半分を組み立て、2つを合体させます。左側(供給側)のリールにある、バックテンション用のベルトも交換しました。Φ20mmのベルトが適合します。

 

 左側(供給側)のピンチローラーには、このようにバネがありますが、画像のように正しく取り付けます。間違うとヘッドの上下動作が阻害されてしまいます。

 

 ボタンの誤動作があったので先にタクトスイッチの交換を行いました。タクトスイッチは2つ足のタイプです。

 

 メカを取り付けて暫くの期間、動作確認を行います。1日にテープを数往復、最低でも10~20時間、再生して問題ないか確認を行います。

 

 メカの動作が正常でしたので、電子部品の交換へ移ります。

 

 電解コンデンサは全部で81個です。電解コンデンサの寿命は、色々なデータがありますが、コンデンサを製造しているルビコン株式会社の技術資料によると、15年が上限の目安と記載されています。交換しなくとも正常に動作することが殆どですが、劣化が進むとコンデンサの元々の性能が発揮できなくなります。劣化によって生じることが多い現象が、静電容量の減少や損失角の正接(tanσ)の増加が挙げられます。

 

 

 基板を取り付ける前に溜まっていた埃を取り払っておきます。

 

 

 再度組み立てて動作確認になります。今度は再生だけではなく、エージングや半導体が異常発熱していないかの確認も兼ねて、連続通電での確認も行います。

 

 以上で完了です。ヤマハのカセットデッキは、フロントに凹凸が少ない分すっきりしたデザインになっています。ただその反面、ボタンが小さかったり、ボリュームのつまみが小さくて操作しにくいという部分もあります。KX-640は高速リワインド機能があり、早送りもしくは巻戻しボタンを長押しすることで、高速モードになります。以前にもKX-640を手にしたことがありますが、高速リワインドは個人的にも便利だと思いますし、一気に巻戻る爽快感もあると思います。再生機としてはメリットの多い1台だと思います。

 

A&D GX-Z7100 の修理(機械系オーバーホール)

 

 今回は、1988年製のA&D GX-Z7100をご紹介いたします。三重県の方より、クローズしても数秒でイジェクトしてしまうという症状で御依頼を頂きました。

 

 GX-Z7100は、先代のGX-Z7000の後継にあたるモデルで、1988年から製造・発売されました。新たにキャリブレーション機能、ダイレクト入力端子、複数曲の頭出しなど、数々の新機能を搭載して登場しました。上位にGX-Z9100がラインナップされました。

 

 作業前の状態確認です。ご指摘いただいたとおり、扉を閉めてもすぐに開いてしまいます。これは、AKAI・A&Dの3ヘッド方式のデッキに多く見られる、グリースの固着です。AKAIのメカニズム制御は他のメーカーよりも独特で、カセットを入れると、ヘッドがテープに接触した状態、ヘッドが上がった状態でスタンバイします。すると、再生時に素早く音が出せるという仕組みになっています。これが仇となって、扉がすぐ開くという現象が起きてしまいます。

 

 今回は、機械系オーバーホールをご希望ということで、メカ部分の整備を行いました。

 まずは、フロントパネルを取り外します。ボリュームやスイッチのつまみは外さなくても問題ありません。上側と下側で固定しているネジを外します。同時に、メカに繋がるケーブルのコネクタも外しておきます。

 

 次に、本体底部からの作業です。底部のパネルを外して露出させるとこのように、基板が逆さ向きについています。消去ヘッド、録再ヘッドのケーブルは、こちらに来ているので外します。ケーブルの取り回しが少し難しいですが、被覆を破らないよう慎重にほどいていきます。

 

 このようにメカを降ろすことができますが、向かって奥側へスライドさせて取り外しますので、電源回路の基板が干渉します。そのため、基板も外して避けておきます。

 

 ここからは、メカの作業です。AKAIのカセットデッキで長期にわたって採用されているメカですので、同じ方法を採れる機種も多数あります。ブロック分けの方法で作業するため、ブロックごとに①、②、③、…と番号で呼ぶことにします。

 

 まずは、カセットホルダ(扉)と周辺部品です。こちらを①とします。左右両側、それぞれパネルがネジで止まっています。カセットホルダについては、左側に開閉動作を行う部分にバネがかかっています。特に難しくなく取り外しができます。

 

 つづいてはメカの前面にある、リール台、ローラー、ヘッドなど、テープの走行に関わる部品です。こちらは②とします。

 

 リール台は、円錐状の樹脂部品が圧入されて固定されているので、小さいマイナスドライバーで抉ると外すことができます。アイドラーは、バネとラッチで固定されていますので、こちらもマイナスドライバーを使って外します。

 

 さて、問題のメカの固着ですが、ここのピンチローラーを動かす軸が固着しています。固着具合は個体によって様々ですが、今回は特に固まっていました。力ずくでも動く気配はありませんでした。そういった時は、軸にエタノールや電子部品洗浄剤など、脱脂効果のある液を染み込ませて少し時間を置きます。少し動くようになったら、上に下にと少しずつ動かしてまた液を染み込ますを繰り返します。

 

 ピンチローラーが外れました。ここまで30分くらい掛かったと思います。固まったグリースが軸に付着しているのが確認できます。

 

 先ほどは右側(巻取側)のローラーでしたが、左側(供給側)のローラーも外しました。ここで、キャプスタン、ダイレクトドライブのユニットを分離させます。前面から3か所ネジで固定されています。ヘッドもこの段階で外します。

 

 キャプスタンのほかに、カム動作用のギヤもついています。ここで綺麗に2つに分けることができましたが、メカ前面を③、キャプスタン・カムギヤ・ダイレクトドライブを④とします。

 

 ③をさらに分解します。ピンチローラーの上下を行う部品や、カセットホルダの開閉を行う部品など、④にあるカムギヤから動力を受けて動く部品があります。

 

 さらに④もすべて分解します。AKAIの3ヘッド機では、このように4つのブロックに分けることができます。全動作を1つのカムギヤで行っていることや、作動に必要な部品が多いなど、SONYのサイレントメカニズムよりは少し複雑だと思います。

 

 こういった部品にも古いグリースが付着しており、そのまま取り付けると潤滑の効果が弱まるので脱脂洗浄します。使っているのは綿棒が入っているケースの蓋ですが、ここに部品を入れてパーツクリーナーに浸します。

 

 少し時間をおいてから、上からウェスを押さえつけると、溶けだした油分を拭き取ることができます。必要に応じて乾拭きをします。

 

 カセット検出孔用のスイッチですが、こちらは電子部品洗浄剤を使います。それでも接点不良がある場合はペーパー等で少し研磨をします。ここの接点不良もよく見られます。

 

 ヘッドの裏にも古いグリースが付着していますので、こちらも落とします。電子部品洗浄剤でグリースを溶かしてから、ウェスで拭き取ります。

 

 ローラーの回転軸も念のため脱脂洗浄をしました。脱脂洗浄の後、シリコーンスプレイを軸に塗りました。ピンチローラーが回らなくなってしまうと、テープを痛めたり絡めたりするなど大変な事になります。

 

 リールモーターの清掃です。GX-Z7000以前ではマブチモーター製が採用されていましたが、GX-Z7100からはメーカーは分かりませんが、SONYのサイレントメカに使われているものと同じモーターが採用されています。

 

 部品を脱脂洗浄しました。元々はギヤに黒いグリースがついていましたが、完全に落としました。黒いグリースはおそらくモリブテングリースで間違いないと思いますが、経年劣化でざらざらとした物質に変化しています。

 

 ④の組み立てです。ギヤにはシリコーングリースを塗布します。シリコーングリースは他のグリースと比べて効果ですが、ゴムや樹脂にも影響が少なく、化学変化も少ない特徴を持っています。ベルト類も新品に交換しました。カム動作用にはバンコードを使用しましたが、AKAIのメカは他のメカと比べて、動作にトルクが必要なのでベルトも少し強めに張ります。しかしベルトを強く張ると通常のゴムベルトでは劣化を早めてしまう恐れがあるので、伸縮に強いウレタン製のバンコードを使用するメリットを活かすことができます。

 

 ③も組み立てます。摺動部分には同様にシリコーングリースを塗布します。部品を取り付ける都度に、手で動かして問題なく動くことを確認しつつ、グリースを浸透させます。固着していたピンチローラーの可動軸は、シリコーンスプレーを下塗りした後、シリコーングリースを塗布します。

 

 ③と④を合体させます。

 

 ピンチローラー、ヘッドを取り付けました。ここで忘れがちになるのが、停止時にリールをロックするリールストッパーです。取り付け忘れると、早巻きの状態から停止をするとテープが弛みます。

 

 リール台、アイドラー、リールの回転を検知するセンサーを取り付けて②の組み立ては完了です。アイドラーは摩擦力が強く静粛性がよいシリコーンゴム製に交換しました。

 

 最後に①を取り付けて完了です。電源装置から、メカ動作用のモーターに電圧を与えて手動でメカの動作を確認します。ヘッドの上下、ピンチローラーの上下、カセットホルダの開閉等、問題ないことを確認したら本体へ搭載させます。

 

 メカを搭載し、動作チェックへ入ります。1週間ほどの確認で、テープの走行に異常がないか、電気系統に異常がないかを再生しながら確認します。

 

 動作がOKであれば、今回はメカ部分の整備のみですので、内部の埃などを清掃した後、タイラップでケーブルを結束します。当方では配線処理と呼んでいます。

 

 内部の清掃の後、外装部品を清掃し、本体に取り付けて完了です。傷が少なかったため、拭き掃除した後はさらに綺麗な状態になりました。以前にGX-Z7100EVも整備しましたが、EVは後年に登場しディスクリートヘッドの仕様になりました。無印の7100は従来のコンビネーション型ですが、EVとの価格差はこのヘッドの差異にあると思います。

 まだGX-Z7100EX(9100EX)の方は手を付けていませんが、構造自体は殆ど同一ですので、EXシリーズも整備を承ります。メカが動かなくなっただけで廃棄せず、ぜひ当店で貴重なデッキを復活させてみませんか。