西村音響店

A&D GX-Z9100EXの修理―ワンオーナー品は外観から愛着が伝わってくる

A&D GX-Z9100EXの修理―ワンオーナー品は外観から愛着が伝わってくる

 

こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。

今回は広島県のうっちゃんさんからご依頼いただいたA&D GX-Z9100EXをご紹介します。

 

 

一見動作品と思わされるほど綺麗な9100EX

さて、今回のGX-Z9100EXはどのような状態か。

 ― とにかく動かない状態です。

 

再生できなければ、録音もできず。早送りもできなければ、巻戻しもできず。しまいには、ドアを閉めても暫くしたら勝手に開く。でも電源は入る。

これらの症状はGX-Z9100EXに限らず、A&DとAKAIの3ヘッド方式の機種では定番です。

いわゆる、固着による故障ですね。

長期間使用しなかったことにより、グリースが固まって動かなくなることが最大の原因です。

しかし、愛着が伝わってくるほど綺麗。このまま動かないままにしておいては、宝の持ち腐れです。復活させましょう。

 

さて、固着による故障だと分かりましたが、どのくらい強く固着してしまっているかが気になります。

そこで、軸が木製の綿棒を使ってチェックしてみましょう。

結構な頑固っぷりであります。

分解のときには、少々奮闘が必要かもしれません。

 

 

固着していてもいつも通りに分解。

メカニズムを分解していきます。固着が激しいですが、A&Dの3ヘッド方式にはよくある事です。いつも通りに行います。

まずは手早く本体の上側と下側を開けて基板を露出させます。型番に9100もしくは7100が付く機種のルーティンです。

 

 

次に、メカニズムに繋がるケーブルを基板から外し、メカニズムを固定しているネジを外します。

ネジを外すときは、下側から外す。ここがポイントです。後回しにしても問題はありませんが、作業しやすいからと言って横倒しのまま外すとメカニズムが落下します。

横倒しの状態で外せるのは今だけです。

ついでに、録再ヘッドと消去ヘッドのケーブルも、あとで上側に引っ張りだしやすいように下ごしらえしておきます。

GX-Z9100EX メカをとりり外す時は、必ず下側のネジを先に外す。

メカニズムの固定を外した後に、本体を横倒しにするとなっては危険です。

 

固定が外れると、メカニズムを手で少し動かすことができます。この状態にしたら、外しやすいようにケーブル類をまとめます。録再ヘッドと消去ヘッドのケーブルは本体の下側ですから、上手に上手に引っ張りだしてきます。

 

いよいよ、メカニズムを降ろす準備ができました。と思ったら、まだやり残しが2つもあります。

まず1つ目。このままでは電源回路の基板が干渉して外せません。ですので、一旦避けます。ケーブル類は外さなくともOKです。必要以外なものは外さないことも、分解では大事なポイントです。

2つ目はタイマースイッチ。ケーブルは右側の制御系の基板に繋がっていて、メカニズムを外そうとしても干渉してしまいます。同じく一旦避けてあげましょう。

武力で強行突破するより、外交で交渉した方が賢い選択です。

 

メカニズムを降ろしてきました。それでは、サクサク分解していきましょう。

 

 

まずは、カセットホルダーを外します。ここは難なくクリアしていきます。

 

次にメカを前後に分離します。細々分解してもよいですが、組立て順序の覚えやすさから、このように一旦大きなまとまりで外していく方が作業しやすいです。

効率よく分解していくための大事なポイント。

 

さて、問題の固着ですが、どのように攻略しましょうか。

カセットデッキの分解では力業厳禁ですが、ここばかりは少し頼らざるを得ない部分です。しかし、力任せで試みても1mmたりとも動きません。

そこで活躍するアイテムが、エタノールやパーツクリーナー。脱脂作用のあるものを使って、瞬間接着剤のように固まったグリースを柔らかくするところから始めます。

ほんの少し動かしてはパーツクリーナーを差し、再びほんの少し動かしてはパーツクリーナーを差し…を繰り返します。

数十分とかかる気の遠くなる作業ですが、少しばかり腕の筋トレになるでしょう(嘘)
今回のGX-Z9100EXは、そのくらい強く固着してしまっていました。

 

 

やっと固着を攻略し、メカニズムの前面は分解完了。

ピンチローラーが動かないくらい固着していたら、他の部品も固着している可能性大です。

後ほど、入念に脱脂洗浄を行います。

 

 

つづいて、メカニズムの後ろ側。キャプスタンと、メカニズムの動作を行うカムが付いた部分です。ここも酷く固着していると思いきや、実はこの部分は固着しません。

写真のギヤに付いている灰色の汚れがグリースです。

ただし、経年劣化で潤滑の役目は果たせなくなりますので、固着せずとも新品に塗り替えが必要です。

 

ここで1つ専用工具が登場します。スナップリングプライヤーです。

カムギヤはCリングと呼ばれる留め具で固定されています。

ちなみにスナップリングプライヤーは、カセットデッキの修理で必要とする場面は多くありません。しかし、機種によっては分解に必要なります。

時々しか使わないからといって、他の工具で代用しようとすると、そのツケが回ってきます。100円の工具で無理に外すのと、2000円の工具で確実に外す、当然ですが後者の手法を選びます。でも、工具を使ったことのある方であれば、「ケチって痛い目を食らった」という経験、ありますよね? 工具を買えば楽に解決するのに、あるモノで済まそうとしてしまうものです。

 

 

GX-Z9100EXのメカニズムがバラバラになりました。部品を机上に並べてみます。

悪い部分を修理するという対症療法ではなく、全分解してオールリセットする根治療法が僕の考え方です。

 

洗浄を行う前に、部品の状態を見てみましょう。

少し黄土色っぽい汚れのようなものが、今回のGX-Z9100EXを固着させた犯人です。このグリースは、経年劣化で固まるので本当に厄介ですね。早いうちに洗い流した方が安全です。

 

今度はカムギヤとその周辺です。こちらは黒いグリース。固まらないものの、潤滑能力は落ちています。

 

 

部品を眺め終わったところで、いよいよ洗浄に移ります。

パーツクリーナーを噴射してグリースを落としていきます。
ただし、パーツクリーナーはあまり強力なものは使えません。特に樹脂部品は傷める可能性があります。
必ず、「プラスチックOK、ゴムOK」と書かれたものを。となると、一番洗浄力が弱いモノになると思います。

 

グリースが落ちたら、エアーダスターとウェスを使って、パーツクリーナーを取り除きます。
エアーダスターは、メカニズムを本体に取り付けた後は絶対に使ってはいけません。

爆発しますよ。

※噴射したガスが空気より重く、デッキの内部に溜まります。その状態で通電すると、火花によって引火してしまいます。

 

組立ては、基本的に分解と逆の手順でOKです。

新品のグリースを摺動部分にたっぷり塗りながら組み立てていきます。

組立て終了です。メカニズムを本体に取り付けて、動作確認しましょう。

いきなりですが、MA-XGを再生。

もちろん、再生前に走行部分のクリーニングや、テープパス等の諸々の調整を行っています。本当にいきなり再生したら、MA-XGがワカメになってしまいます。

一回、MA-XGを絡ませたことがありますが、全身から冷や汗が噴き出してきました。

 

今回は電子部品の劣化対策で、電解コンデンサー、ボタン、モーターの交換も行いました。

電解コンデンサーは、寿命とされている10年をとうに過ぎていますので交換が必要です。

また、このGX-Z9100EXは、モーターが劣化して動作音が大きくなっていたため、未使用品のモーターに交換しました。分解修理で動くようになっただけでも十分かもしれませんが、操作するたびに「ヴィーン!」と音がするのは少し気になるところです。ましてやGX-Z9100は高級デッキですから。

 

 

きっちりキャリブレーションを取るには。

最後に再生レベルやバイアスなど、電気系の調整を行います。

テストテープはもちろんですが、厳しく見るのに欠かせないのがホワイトノイズです。

実際にホワイトノイズを録音して、スペクトルアナライザーで確認してみると、

高い周波数になるにつれ、レベルが下がっています。つまり、バイアス量が多いということです。

…ということであれば、普通にバイアスのつまみを反時計回りに回せば問題ないでしょう。

 

しかし一番問題なのは、下の画像のようにしっかり調整が合っている状態でも、実際は調整が合っていないことです。

例えば、キャリブレーションを取っても、先ほどのグラフのようにバイアス量が多い状態であれば、録音した音が籠った感じになります。ドルビー録音をすれば、さらに顕著になります。

 

ちょうどよいバイアスに調整すると、このようなグラフになります。左から右に向かって途中まではレベルが平衡、ある周波数からは下がっていればOKです。

※機種によって録音EQの設定により、グラフの傾向は多少異なります。

この状態で、キャリブレーションのメーターが▼印に合うことが理想です。

 

さらに、左chと右chのバイアス量が同じなるように調整します。

※測定ソフトの画面をキャプチャ

残念ながら、キャリブレーションのメーターだけでは、左右のバイアス量までは分かりません。ですので、気が付かないうちに調整がずれていることもあります。これまで100台以上手掛けた中で、無調整で済んだデッキは数台です。

 

まだ終わりではありません。

調整を追い込むために、ドルビー録音のチェックをします。

先ほど少しご紹介しましたが、バイアスが多いとドルビー録音をしたときに音が籠ります。

本当にキャリブレーションが取れていれば、ドルビーCを使ってもCDの音と遜色なく録音できるはずです。

ドルビーCを使うと、調整の変化にシビアに反応しますので、調整作業では最適です。

 

キャリブレーションは、再生レベル、録音レベル、バイアス等々、総合的に調整がされていてこそ威力を発揮するものです。デッキの調整状態はキャリブレーションで分かってしまうと言っても過言ではありません。

 

 

GX-Z9100EX × スーパーメタルマスター

以上で完成です。

最後にスーパーメタルマスターを再生して、パソコンに音を取り込みます。

同テープには電子楽器が多めのエレクトリック系の曲が入っています。

EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)をカセットテープに録音するのは場違いかもしれません。重低音も超高音も大レベル。本来、低~中音を得意とするカセットテープにとっては非常に難しい曲です。それだからこそ、実力チェックには有効です。

音源『D’elf Overcome Difficulties』

 

MA-XG × オーケストラのバージョン。【ドルビーB】
音源『魔王魂 シンフォニア第1番』

※所々「プツッ」というノイズが入りますが、取り込み時のサンプリングエラーです。

 

 

今回ご紹介したGX-Z9100EXで最も驚いたのは、なんといっても外観の美しさ。たとえ壊れていても大事に保管されていると、デッキから愛着が伝わってきます。

当時、頑張ってお金を貯めて買ったとなると尚更ですね。

蘇ったGX-Z9100EXで、ぜひ青春の頃のテープを楽しんでもらえたらと思います。

青春時代のデッキと青春時代のテープで、バブルの頃にタイムスリップしましょう。

 

 

 

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