西村音響店

TEAC C-2Xの修理―中身もC-3Xと同じと思ったら×。

TEAC C-2Xの修理―中身もC-3Xと同じと思ったら×。

こんにちは、こんばんは。
西村音響店の西村です。

今回は、修理レポートと題して、茨城県の方からご依頼いただきました、TEAC C-2Xをご紹介いたします。3台目のご依頼ということもあり、本当にありがとうございます。

ご依頼いただいたC-2Xは、特に故障はなく動きます。再生も問題ありません。ただ、少し再生レベルが低い気がするとのことでした。

 

 

初っ端から録音不良を発見する

早速、C-2Xを診ていきましょう。

TEAC C-2X 修理開始

過去にC-3Xは3台ほど手掛けていますが、C-2Xは今回が初めてです。外観のデザインはC-3Xに似てますね。ただ、C-2Xは中身が別物です。後ほど、詳しく分解していきます。

今回のC-2Xは、整備済みのデッキということですが、整備済みを整備するという形で進めていきます。ベルトなどのゴム製部品は交換して動作はする状態に整備したものの、メカニズムの完全分解と電子部品の交換は行っていない状態です。

 

C-2Xの特徴的なモノとしては、このバイアス/イコライザーの設定を記録しておくカードですね。左右にあるネジを緩めて、手前に引っ張ると取り外せます。ファミコンのカセットが差せそうな雰囲気です。

TEAC C-2X バイアス/イコライザーのカード(CX-8X)

 

さて、特に故障はしてない状態ということで、いきなり分解はせず、まずは色々動作させてみます。

再生、早送り、巻戻し、…と基本的なガチャガチャと動作させて、動作音に耳を傾けながら異常がないかチェックしていきます。

僅かにですが、動作する時の「ガシャン!」という金属音が甲高いですね。グリースが古くなっているようです。

 

さらにチェックを進めていくと、

「あれっ、右チャンネルが録れてないんだけど…」

 

少し厄介な故障が出てきました。右チャンネルだけ録音されず、まったくの無音です。ライン入力のモニターは正常なので、録音イコライザーの回路で異常がありそう。ということで、録音ヘッドのコネクターから順に信号が来ているか辿ります。

 

行き着いた先はここです。

TEAC C-2X 片側が録音できない原因である橙色のフィルムコンデンサ。

ここのオレンジ色のフィルムコンデンサが犯人です。

始めはオペアンプも疑いましたが、交換しても改善せず。またしてもこいつか…と呟きながら新品に取り換えます。というのも、C-3Xでも同じ現象が起こっており、この手のフィルムコンデンサは厄介者の可能性大です。

TEAC C-2X 故障したフィルムコンデンサを交換し、無事に録音機能が正常になった。

 

メカニズムの分解

正常にできるようになり、基本動作はすべて行えるようになりました。問題はここからです。いよいよメカニズムを降ろして、完全分解に着手します。

 

過去にC-3Xは経験済だからC-2Xも余裕、というわけにはいきません。両者で大きく違うところの1つ、それが走行方式です。C-2Xはクローズドループデュアルキャプスタン、C-3Xはシングルキャプスタンです。

ただ、ボタンやスイッチの配置がC-2XもC-3Xも同じレイアウトだと、中身も大体同じだろうと錯覚してしまいますね。

TEAC C-2X メカニズムを取り外す前にネジの位置を確認する。ネジを外したら、メカニズムを揺らして固定が完全に外れたかを確認する。

取り外し前に、まずはメカニズムを固定しているネジの位置を確認します。普通は、上側2か所と下側2か所のことが多いですが、どうもC-2Xは違います。上、横、下の3方向からがっちり固定されています。かといってネジは小さいですが…

デュアルキャプスタンということもあって、メカニズムは非常に重いです。片手で持つのは少々危険かも。

 

取り外しに特段注意すべきところは、操作ボタンのパネルも一緒に外すことです。もう1つは、電源スイッチのレバーを外しておくくらいでしょうか。配線のはんだを1カ所1カ所外すようなことは必要ありません。メカが重いので、慎重に両手で天井方向に引き上げて外します。

TEAC C-2X メカニズムを本体から取り外した。

 

さて、ここからは分解の工程です。
C-3Xとどこが違うかを見つけながら分解していきましょう。

 

まずは前側から、操作パネルとボタン、そしてカセットホルダを外します。ここはネジや留め具を外すだけで、特に難しくはありません。

TEAC C-2Xのメカニズム分解 まずは操作パネル、カセットホルダを外す。

 

次に後側に回って、基板やら、モーターやら、ソレノイドやら、片っ端から外していきます。

デュアルキャプスタンなので、フライホイールは2つですし、巨大とは言いすぎるかもしれませんが、大きなソレノイドが付いています。部品が多い分、メカも重いです。これが10年経つと、手で摘まんで持てるくらいコンパクトになるのですが、この頃はどれもこれも部品が重くてデカいです。

 

TEAC C-2Xのメカニズム 下の方に付いているのがブレーキ操作用のソレノイド。

後側の分解はあともう少し。

下の方にあるソレノイドはブレーキ操作用です。早送り、巻戻しをすると、ここが動いてブレーキを解除します。

再生時は?― 再生のときは、巨大?なソレノイドに別なレバーが付いていて、ヘッドの上昇と同時にブレーキも解除されます。

また、ベルトが1本かかっているのが確認できますが、これはカウンター用のベルトです。

このベルトを交換するには、後側を結構分解しないといけません。ちなみにC-3Xのカウンター用ベルトは前側にあるので、ちょちょいのちょいで交換できます。(言い過ぎました)

構造が複雑になると、修理の難易度も高くなります。

 

後側の部品をすべて外すとこのようになります。

TEAC C-2Xのメカニズム分解。後ろ側の部品をすべて取り外し完了。

このあと、パーツクリーナーを使った脱脂洗浄があるため、ここまで綺麗に部品を無くす必要があります。

実はここにもC-3Xとの違いがあります。細かい部分になってしまいますが…

回転を検出するためのマグネットの場所が違います。C-2では巻取り軸に、C-3Xではカウンターのプーリーに付いています。

 

それでは再び前側に戻りましょう。

TEAC C-2Xのメカニズムの分解。残り前面についている部品を外していく。

巻取り軸、ピンチローラー、ヘッド、カウンター、その他諸々小さな部品が付いています。さくさく外していきます。部品を外すだけなら簡単かもしれませんが、外すときこそ慎重に。

C-2Xのような複雑な構造をしているものは、元の組付けを暗記してから…じゃなくて写真やマーカーなどで記録してから外します。分解する前の鉄則です。組付け方をぜんぶ一発で暗記できたら天才。残念ながら僕は凡人なのでできません(笑)

TEAC C-2X メカニズムの前面の部品をすべて取り外し完了。

 

 

分解完了

外した部品をテーブルに並べます。

TEAC C-2X メカニズムを完全に分解し終わり、机上にすべての部品を並べる。

部品点数で多いか少ないかを言うのであれば、多いです。ネジや留め具の数が少々多いように感じます。

これも’80年代初期のころのカセットデッキでは定番のカタチです。樹脂製部品の多い’90年以降とどっちが難しいですか?と訊かれると、実はどっちも難しいです。

’80sは構造が複雑で組付けが難しく、’90sは力業で部品を破損するリスクがあって難しいのです。

 

 

外した部品をよーく見ていきましょう。

部品に灰色の汚れが付いている。これが劣化した古いグリース。

灰色の汚れのような物が部品に付着していますが、これが古くなったグリースです。試しに手で(素手はダメ。)触ってみると、ぬるっとした油特有の感触はありません。

さて、この古いグリースを脱脂洗浄します。完全分解をするのは、これを行うためです。動かない状態から動くようにするだけの修理であれば、まったくこの作業は必要ありません。しかし、少しでもデッキの状態を新品に近づけるには、手間も必要です。

 

脱脂洗浄で完全にグリースを落とすことができれば、汚れ1つない部品に蘇ります。

部品を脱脂洗浄すると、古いグリースが落ち、汚れ1つない状態になる。

 

 

録再ヘッドをマクロレンズでチェック

組立ての前に大事なチェック項目の1つあります。それがヘッドの表面のチェック。

このように接写すれば、些細な汚れやほこりも見逃すことはできません。

この写真で白い粒のようなものが写っていますが、これが埃です。肉眼では見にくいような埃です。

TEAC C-2Xの録再ヘッドをマクロレンズで接写。

C-2Xの場合、フェライト系の素材をベースにしているため摩耗の心配はありません。C-3Xも同じヘッドが使われています。

 

 

組立へ

脱脂洗浄のあと、いよいよ元通りに組み立てていきます。分解のときに記録した写真を基に、正しく組付けます。

TEAC C-2X メカニズム組立て中。録再ヘッド、ピンチローラー、巻き取り軸まで取付完了。

巻取り軸の部分や、キャプスタンの軸受け部分には1滴油を垂らし、回転を滑らかにさせます。ワウ・フラッターや変調ノイズを少しでも減らすためには、小さな部分への配慮も欠かせません。

 

キャプスタン用モーターの中には、一定速度に保つための基板があります。そこに電解コンデンサーが3つありますので、新品と交換です。

TEAC C-2Xのキャプスタンモーターの中身 基板に電解コンデンサーが3つある。

 

組立てが終わりました。デッキにメカを取り付けて試運転です。

良好に動作するようになりました。が、ここからが問題です。いくら動くようになっても、このままでは良い音で録音再生ができません。調整作業が必要です。

調整作業で最も難関なのは、ホワイトノイズを使った調整。バランスの偏りや、ヘッドの調整など、あらゆる調整箇所の総合バランスが画面に出てきます。

もちろん、このステップに至る前にテストテープでの調整がありますが、そこから更にホワイトノイズで追い込むという形です。

 

調整する前のグラフです。赤い線(右ch)だけ右肩下がりのグラフが出ました。右chのバイアスが過剰であることが読み取れます。

TEAC C-2X バイアス調整前のホワイトノイズのスペクトル

ですので、右chのバイアスを浅くしていくと、

TEAC C-2X バイアス調整後のホワイトノイズのスペクトル

このように緑と赤の線が重なりました。左右のバイアス量が同じ量である状態です。さらに、適正なバイアス量に調整できれば18kHz程度まで平坦なグラフになります。平坦なグラフを目指してバイアスの調整を追い込むことがポイントです。

 

ただ、これで安心するのは時期尚早。ここでドルビーをONにして録音してみます。すると、なんだかハイハットの音が籠って聞こえたりします。

これは録音レベルの調整不足。バイアスも大事ですが、録音レベルの追い込みも忘れず行います。この追い込みで便利な方法がドルビー録音です。

さらにさらに、C-2XはドルビーHXも付いており、HXを有効にした状態でも確認が必要です。

 

 

作業完了

TEAC C-2X 再生状態で本体を撮影 

C-2Xの修理で最も手ごたえを感じたのは、やはりごっついメカニズムでしょうか。

構造が複雑ですから、取り外す前に繰り返し動作させて、動きの仕組みを予習しました。複雑とっても、初めてだから複雑に感じるだけですけどね。1回か2回実践すればコツが掴めます。

 

C-2Xはテープ速度を2倍にする機能もあります。倍速にしたら音質はオープンリール並みです。これだから型番がCの世代は面白い。カセットテープなのに、25000Hzまで録音できてしまいます。CDをも勝るパフォーマンスです。

TTEAC C-2X 倍速で録音したときのホワイトノイズを録音スペクトル倍速(9.5cm/s)でホワイトノイズを録音したときのスペクトル – クリックで拡大します

 

まだ実機は見たことありませんが、C-1も気になるところです。

 

 

スーパーメタルマスターをC-2Xで再生する。

1000ZXLで録音したスーパーメタルマスターをC-2Xで再生する

 

 

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