こんにちは。西村音響店でございます。
今回は、カセットテープの録音に焦点を当てましょう。特に、録音イコライザーの調整ができるデッキのお持ちの方は必見です。
バイアス調整が可能なデッキは多く存在しますが、イコライザー調整が可能ななデッキは少数派です。
録音前には、レベルを調整して…バイアスで高音域を調整して…という要領で準備すると思います。そこにイコライザー調整が加わると煩わしくなるかもしれませんが、上手く活用すればメタルテープに最強の音で録音できるようなります。
そこで今回は、イコライザー調整の活用法のお話です。
使用するデッキは、SONY TC-K333ESJ(1993年製)。「LOW・NORMAL・HIGH」と切り替えができるデッキです。
この他にも、3段階で切り替えが可能なデッキをお持ちでしたら、ぜひご参考にいただければ嬉しいです。
※以降、「イコライザー=EQ」と略します。
バイアスは高音域。録音EQは何音域?
まずは、バイアスとEQの違いについて触れておきましょう。
カセットテープに録音する前に、諸々調整を行うと思います。バイアスを浅くすると高音域が強くなることは、お話するまでもないかもしれません。
では、録音EQは、どの音域を調整するものでしょうか?
正解は『中~高音域』です。
周波数で言うと、1kHz以上です。
ちなみに、バイアス調整は10kHz以上の音域に影響を与えます。
スペクトルアナライザーで確認してみと、調整の違いがわかります。グラフの傾き方にご注目ください。
▽バイアス調整▽
▽EQ調整▽
※333ESJ貸出のため、TC-KA3ESでデータを取っています
バイアス調整は、グラフの傾斜が大きくなっていくのに対し、EQ調整は平行を保ったままです。
表現を変えると、
バイアス:
高い周波数ほど、調整に対する変化が大きくなる。
EQ:
周波数に関わらず、変化量は同じ。
まずは、両者で音質の変化のしかたが違うことを押さえておきましょう。
録音EQでどう音が変わるのか
さて、録音の準備に欠かせないものといえばキャリブレーションです。
同機能が付いているデッキをお持ちであれば、メーターの▼に合わせる作業を欠かさず行っていると思います。
ところが、今回のデッキは録音EQの切換えができます。なおかつ、LOW・NORMAL・HIGH、どれに設定しても▼に調整が合います。
答えは、半分「はい」、半分「いいえ」です。
メータ上ではどの設定でも合っていたので、上手く調整できているように見えますが、実は音も変わっています。
ここで、ご覧のあなたに聴き比べをお願いしたいと思います。どの設定で録音すると、最もイイ音になるか確認してみてください。
いずれもキャリブレーションを取ってから録音しています。テープはSONY HF-S、ドルビーはOFFです。
【LOW】で録音
【NORMAL】で録音
【HIGH】で録音
微々たる差ですが、高音域に違いが出ます。聴いてみて、どれが最もイイ音でしたか?
僕はLOWが最もバランスが取れているように感じます。超高音域までクリアで、透明感があると思います。
逆に高音域がぼやけていたのは、HIGHで録音した時です。なぜ、イコライザーが一番高い設定なのに、透明感が少なくなってしまうのでしょうか。
先ほどの写真で気づいていた方もいらっしゃるかもしれませんが、バイアスのつまみが違う位置になっていました。
イコライザーで高音域が強くなってしまった分、バイアスを深くして落とさなれば、▼に合わせることができません。
ここで、バイアスとイコライザーがどの音域に影響を及ぼすかを思い出してください。
イコライザーで1kHz以上を強めて、バイアスで10kHz以上を落とす。となれば、このような特性になります。
1~10kHzの音域だけが強くなりました。逆を言えば、バイアスとイコライザーの組み合わせで、中音域の調整ができるというわけです。
そして、透明感が失われた原因は、10kHz以上の音域が相対的に弱くなってしまったからである事が、このグラフから読み取れます。
必ずしもEQを高くすればよいというわけではありません。バイアスとの釣り合いがポイントです。
どれを使えばよいか迷ったとき
さて、LOW・NORMAL・HIGH、どれに設定すればよいのか、迷うところでもあります。そこで、設定の選び方を考えてみましょう。
選び方とは言えども、非常にシンプルです。
もちろん、これでも正解です。
ただ、もう少し賢い方法があります。それが、バイアスの過不足を見る方法です。
ここでカセットテープの録音の仕組みを簡単に抑えておきましょう。
録音するとき、録音ヘッドには音声信号とは別に、テープを磁化するため電流を流す必要があります。磁化するためのエネルギーです。これをバイアスと呼ぶのはご存知かと思います。
ところで、バイアスを浅くしすぎるとどうなるでしょうか? 逆に深くしすぎるとどうなりますか?
共通する現象は、録音レベルが下がることです。
・浅くすると、磁化しきれず録音レベルが下がります。
・深くすると、消去作用が強まって録音レベルが下がります。
(全力でバイアスかけると音が消えます。消去ヘッドはこの原理です。)
このような性質の中間を狙うのがこの方法です。
それでは、デッキを使って詳しく確認してみましょう。テープは、TDK MA-Rです。
現在、バイアスつまみ・レベルつまみは±0で、EQはLOWの設定です。低音域のメーターに注目していただくと、▼から1目盛下を指しています。
ここから、バイアスを目一杯まで深くすると…
低音域が1目盛減りました。
一旦、つまみを±0に戻して、今度は目一杯浅くしてみましょう。
▼から2目盛下を指しました。
このことから、バイアスは多すぎても少なくすぎても駄目ということが分かります。
では、丁度よいバイアス量は?というと、低音域のメーターが最も振れるときです。MA-Rでは、つまみを±0にセットした時に録音レベルが最も大きくなりました。
ただこのままでは、高音域が少し足りません。バイアスを浅くして強めたいところですが、録音レベルが下がってしまいます。バイアスが不足してまうので、不可能です。
そこで、EQ設定をNORMALに変えます。
変えると高音域のメーターが上がって、低音域と揃いました。
最後に録音レベルを少し上げると▼に合います。
カセットテープの録音の仕組みを勉強しておくと、このような調整の仕方もできます。
手順をまとめると、
①キャリブレーション機能にする。
②まずは、バイアスつまみを目一杯回してみる。
③録音レベルが変化するかを見る。
(浅めor深めで低音域のメーターが減るかどうか)
④バイアスつまみを回して、低音域が最も振れる位置にセット。
⑤高音域の過不足があればEQで調整。
⑥レベルとバイアスを補正して▼に合わせる。
磁気テープの理屈に基づいた方法ですので、慣れるとサササッと素早く調整できてしまいます。せっかちな方にはお勧めです。僕もどちらかと言えばせっかちな方です。
テープによっては、「NORMAL選ぶかHIGHを選ぶか微妙…」という状況になって、二者択一の判断で迷うこともあります。このような時は、高い方の設定を選んでください。バイアスを浅くして音を歪ませるより、深めに調整するほうが安全です。
実は、最初の写真が悪い例です。バイアスは±0で丁度良かったのに、「ちょっとくらい浅くしても問題ないでしょっ!」とやってしまうと、このような音になってしまいます。
録音レベルは+5dBが最大になるように設定しました。ゆとりを持たせたつもりが、曲の中盤でバスドラムが歪んでしまいました。
メタルテープはバイアスが最優先です。
まとめ
バイアス調整で音質を好みに調整できることは有名なテクニックですが、メタルテープでは話が変わります。
少しばかりバイアスを変えても音質が変わらないどころか、音が歪みやすくなってしまいます。そこにEQ調整が加わると、強力な助っ人になるわけです。
極端なことを言えば、メタルテープの録音のためにあると言ってもよいと思います。メタルテープはバイアス命です。だからEQ調整が必要なのです。
最後に、調整の優先順位を挙げると、
録音レベル > バイアス > イコライザー
です。
応用すれば、自由自在に音に味付けできます。
ぜひ、バイアスとEQの関係を理解して、録音の腕を上げてください。