以前にもSONY SL-F1をご依頼いただいたお客様から、もう一台同じSL-F1の修理依頼をいただきました。前回は元々RCA端子がついてないSL-F1に改造して搭載する作業を行いました。今回は、巻戻しの状態から停止を押しても直ぐに止まらず、テープが弛んでしまうとの症状です。
一見、リールの回転を止めるためのブレーキが悪そうに見えますが、カバーを開けて確認してみると、ガイドポストが1本紛失していました。
拡大して見ていただくと分かると思いますが、桃色の丸の部分はガイドポストが見えています。しかし、赤色の四角の部分にはガイドポストが無いことが見て取れると思います。このような状態になりますと、部品移植でしか手を打てません。
ここからは、メカの取り外しになります。
フロントパネルにある基板とメインの基板はフラットケーブルで接続されており、切断しないように注意します。完全に取り外すのではなく、手前に倒しておく要領です。樹脂製ですがラッチで固定されているため、力余って破損させないように注意します。
続いてカセットホルダの取り外しになります。ネジ4本のみで、簡単に取り外すことができます。外すときはオープンの状態にしておきます。クローズ時はロックが掛っていますが、ロック機構はローディングモーターをアンスレッディング方向へ一杯に回すと、ロックが解除される仕組みになっています。
映像回路を取り外しておきます。その後、メカに繋がるケーブルを全て抜きます。ケーブルの本数が多いことと、同ピン数、同色のコネクタがあるため、マーキングが必須です。
その後、メカを固定するネジを底部から外し、慎重にメカを降ろします。リールモーターもD.D.方式を採用した高信頼メカですが、後年のベータマックスのメカより重たいです。
一度、SL-HF900から破損したガイドポストを移植してみましたが、黄色の丸の部分が干渉してNGでした。従って最終手段としてギヤ丸ごと交換という形になりました。
紛失したガイドポストは、ここにありました。ガイドポストが1本でも無くなった状態では、テープが正確に走行出来なくなる他、もう一本のガイドポストにより強いテンションが掛って、こちらも折れてしまう二次被害の恐れもあるでしょう。
その後、スライダギヤ回りの部品を取り外していきます。樹脂製でも強度が脆いので、力を入れると簡単に割れます。
固定ヘッドを取り外しました。取り外したことで、再度取り付け時にヘッドアジマスの調整が必要になります。
続いて、スレッディング完了を検出するスイッチ、バックテンション用のガイドポストを取り外します。その後、ソレノイドを始めとしたピンチローラーを圧着する機構を取り外せば完了です。
SL-F1のメカを構成する部品を並べました。こちらの分解は済みましたが、部品移植のドナーとなるSL-HF77も、メカを分解する必要がありますで分解します。
修理不能で保存してあったSL-HF77です。複雑な配線を外していき、メカを降ろします。同年代の製品で共通部分が多いです。
同様にメカの分解を進めて、スライダギヤを摘出します。左が破損したSL-F1の部品です。これをSL-HF77の物と入れ替えて組み立てます。
摺動部分の清掃と潤滑を行った後、順に組み立てをしていきます。
バックテンション用のブレーキは、供給側リールを逆回転(反時計回り)の方向にトルクをかけることでテンションを得るため、フェルトの機械的なブレーキが無いことが特徴です。ただし、リール停止用のブレーキはやや弱かったため、スプリングの引力を強めて対処しました。本来、機械的なブレーキがある場合は、調整が必要になります。
残りリール台の他は、組み立てが完了しました。リール台についても、ユニットごとネジで取り付けるだけです。
本体に取り付けた後、調整と動作チェックに入ります。特にこのSL-F1はポップアップローディング式ですので、カセットホルダを閉じたときにしっかりロックするか、EJECTボタンを押したらロックが解除されるかを確認します。もし正常に出来ていなければ、スレッディング用ギヤの噛み合わせ位置が違っていることになります。
SL-F1には専用のコネクタでしか映像出力が出来ないため、回路中から信号線を分岐させてRCAケーブルを経由させ、モニターに出力させます。予め取り外しておいた、映像回路の基板も取り付けます。取り付けないまま動作させようとすると、ヘッドが回転しません。
以上でSL-F1の修理は完了です。今回のような部品の破損がある場合、部品移植という最終手段を採ることになりますが、それでも成功すれば修理可能なこともございます。万一、修理不可能の場合は料金は頂きませんので、お気軽にご依頼いただければと思います。