こんにちは、西村音響店でございます。
中古のカセットデッキを買ってこんな経験をしたことはありますか?
「なんか…音が低いなぁ…」
そうです。デッキを買ったら再生スピードが狂っていたという状況、中古品にはよくあります。
今回は、カセットテープの再生スピードのお話です。
調整してもまた狂うアナログの宿命。
カセットテープを正しい音程で再生するには、テープを送るスピードが正確でなくてはなりません。しかし、アナログプレーヤーであるが故、非常に難しいです。
モーターの調整だけかと思いきや、部屋の温度や経年による影響など、様々な要因で再生スピードに誤差が生じます。例えば、10℃以下に冷え切った部屋でデッキを再生すると音が低くなることがよくあります。
さらに恐ろしいのは、調整して誤差がゼロになったからと言って、気が付かないうちにスピードがずれていくことです。調整しても再び狂います。もうこれはアナログの宿命です。
そのために、規格で許容誤差が定められています。
その誤差は、
IEC(国際電気標準会議)規格で定められています。しかし、1.5%スピードがずれている状態の音って、どんな風に聞こえてくるのでしょうか。言葉だけでは想像が難しいと思います。
そこで、誤差ゼロ、1.5%遅い、1.5%速い、3つの音を比べてみましょう。
20秒程度のピアノ曲を再生します。曲の前に「ラ」の音(440Hz)を入れています。この音を周波数を測る機械やソフトウェアに入力すると、誤差がしっかり分かります。
【正常(誤差なし)】
【遅い(-1.5%)】
【速い(+1.5%)】
1.5%の誤差でどれくらい周波数に差が出るかといいますと、「ラ(440Hz)」を基準にした場合±6Hzです。
隣の鍵盤である「♭ラ」は415.305Hz、「♯ラ」は466.164Hz。つまり半音の半音の半音です。音楽用語を使うと「ピッチが低い」「ピッチが高い」といった具合です。微妙に音程がずれています。
ちなみに半音変わると用語が変わって「転調」といいます。わかりやすい例が、曲の終盤でキーが上がるアレです。
再生スピードを調整するにはどこを弄ればよい?
この記事を読んでくださっているということは、「自分で再生スピードを調整してみたい」と考えていらっしゃるかもしれません。
調整の方法は簡単です。ドライバーでボリューム(半固定抵抗)を回すだけです。もちろん、デッキの機種によって調整方法は異なりますが、今回は最も多いパターンの調整方法をご紹介します。
キャプスタンを回しているモーターには、画像のように小さな穴が開いていることが多いです。
この穴に細いマイナスドライバーを突っ込んで、中にある半固定抵抗を回すとスピードが変わります。
恐らく初めて調整にチャレンジする場合だと、回ってるのか回っていないのか手応えが判らず苦戦すると思います。一体キャプスタンモーターの中身はどうなっているのか、確認しておきましょう。
分解するとこのようになっています。
小さな基板が内蔵されています。矢印の部品が、スピード調整用の半固定抵抗です。
ドライバーを突っ込むと、ちょうどここに先端が来るように穴が開いているわけです。外からでも調整できるようになっています。
カセットデッキの再生スピードを調整するには、まずキャプスタン用モーターの後ろ側に小さな穴がないか確認してください。
ただし、穴が開いていてもフェイクである場合があります。このようなパターンは、別の場所にスピード調整用の半固定抵抗があります。倍速ダビングの機能を持ったデッキに多いです。
もちろん、その他にも特殊なパターンがありますが、今回は割愛です。
音感のみではどこまで正確に調整できるのか?
再生スピードの調整をする際、基準となるテープが必要です。
このようなテストテープを使います。これには3000Hzの信号音が収録されており、実際に再生される周波数を見ながら、3000Hzに合うように調整します。
しかし!
このテストテープ、下手すれば1本10,000円超えます。
もちろん使った方が正確に調整できますが、趣味でカセットデッキを弄るには高すぎると思います。
そこで代替品となるのが、音感です。絶対音感までは必要ありませんが。
もちろん音感には個人差がありますが、ふと「人間の音感だけでどこまで正確に調整できるのか?」という疑問が浮かびました。
では実際に、どこまで誤差を聴き分けられるか実験してみましょう。
A・B・C、3つの音を聴いて、正確なスピードで再生されている音を選んでください。徐々に難易度が上がります。
まずは許容誤差いっぱいまでスピードがずれた状態です。楽器をやっている方からすれば論外だと思いますが、カセットテープでは一応許容範囲です。
A
B
C
これくらいの誤差であればギリギリセーフ?かもしれません。人によってセーフかアウトか割れるところでしょうか。
A
B
C
実はミュージックテープの許容誤差が0.5%です。これもIECの規格で定められています。テストテープじゃなきゃダメ!という方もいると思いますが、個人的にはミュージックテープを再生スピードの調整に使っても差し支えないです。
A
B
C
ここまで誤差を無くしたいのであれば、流石テストテープに頼るしかありません。周波数の差は±0.88Hzです。判るでしょうか?
A
B
C
お疲れ様でした。
±1.0%までは比較的簡単だと思いますが、いかがでしたでしょうか。±0.5%が判った方は、きっと良い音感をお持ちです。
±0.2%が判った方はいらっしゃいますか?もし判ったら貴方は神の耳をお持ちです。ぜひ調律師を目指してください(笑)
聴き比べだけでなく、問題作成のために0.2%スピードをずらして再生するのもまた難しいですね。ちょっと時間が経ったりすると変わってしまいますし、テープの始めと終わりでもスピードに差がでます。
僕の音感ですと、±0.5%以内になると厳しいですね。ですので、マイルールでの許容誤差は±0.5%としています。さすがに±1.5%では音に違和感を覚えてしまいます。
皆さんは何%以内なら許容できますか?
まとめ
カセットデッキに限らずアナログプレーヤーは、正確な音程で、正確なスピードで再生することがとても難しいです。
もう既に「再生スピードがずれる」というフレーズが死語になっていると思います。携帯電話に取り込んだ音楽の再生スピードがずれるなんて、あり得ませんからね。
対してアナログプレーヤーは、クォーツを使ったりするなど、各メーカーが工夫を凝らして凝らして凝らしてやっと正確な再生スピードを実現しています。設計技術が結集しているといっても過言ではありません。
デジタルとアナログを比べると、アナログできちんとした音で再生するのは苦労が要るということを強く感じます。
聞き比べに使った曲:
『魔王魂』https://maoudamashii.jokersounds.com/archives/game_maoudamashii_8_piano06.html(少しアレンジ済み)
【±1.5%】 正解 C
遅い:B 早い:A
【±1.0%】 正解 B
遅い:A 早い:C
【±0.5%】 正解 C
遅い:A 早い:B
【±0.2%】 正解 B
遅い:A 早い:C
動画バージョン
動画では音感だけでどこまで正確にスピード調整が出来るか、僕自身が実験しています。果たして何%まで追い込めるのか?