西村音響店

AKAI GX-9 の修理・オーバーホール

 

 先月に作業を行ったものになりますが、東京都の方より1985年製のAKAI GX-9のオーバーホールのご依頼を頂きました。

 不具合として「再生が不安定。OUTPUTボリュームを回すと片方の音が出なくなる。」といった症状もあるとの事でした。

 

 機器が到着し状態診断を行ったところ、ご指摘の通りボリュームが接点不良を起こしており、回すとガリガリと音がします。また、再生に関しても本来の音を出し切れていない様子でした。動作も少し固着気味であり、何故か供給側(左側)のピンチローラーがキャプスタンに密着していませんでした。いわゆるシングルキャプスタンの状態で走行しているといった状態です。

 今回はフルオーバーホールをご希望ということで、メカ部分のメンテナンスと電子部品の交換を行いました。

 

 早速メカ部分の作業から入ります。まず始めにフロントパネルを取り外しました。樹脂製のため、破損には十分注意します。

 

 システムコントロール基板に繋がるメカの配線です。同じピン数のコネクタが複数あるためマーキングを行います。

 

 システムコントロールの下に、アンプ基板があります。ここにはヘッドの配線がありますので、こちらも抜きます。タイラップが結束してあっても余分な部分を切断していない事が少し気がかりでした。

 

 配線が全て抜けたらメカの取り外しになります。外し方は上側2つと下側2つのネジを外し奥側へスライドさせます。長らく採用されていたAKAI独自のメカで、同じ方法を採れる機種も多くあります。

 

 メカの取り外しに成功しました。AKAI,A&Dのカセットデッキではお馴染みのメカです。確認している限りでは1982年頃のGX-F71から、最終型のGX-Z○100EVまで共通している部分が多く、部品の流用も容易です。

 

 カセットホルダを取り外しましたが少し破損があり、そのためガタつきもありました。リール台の部分を確認してみますと、アイドラーのゴムが換えられていました。

 

 リール台も外しますと、供給側にあるバックテンション用ブレーキのフェルトが接着が弱くなって取れていました。

 

 しかし異常箇所はまたも見つかり、供給側のピンチローラーにあるテープガイドが破損していました。破損かつテープが走行する部分のため、無理に補修を行うと走行に影響が出る恐れがあります。従ってこちらは流用でしか対処出来ません。

 

 ピンチローラーを取り外しました。完全な固着ではなかったため、取り外しは容易に行えました。

 

 続いてご覧のように2つに分離させました。

 

 ヘッド、リールモーターを取り外しました。小さいベアリングがありますので紛失しないよう注意します。

 

 さらにリールブレーキ、ピンチローラーやヘッドを作動させるレバーを外し、フロント部分に何も部品が付いていない状態になりました。

 

 キャプスタン・カムの部分も完全に分解し、全ての部品を取り外した状態になりました。大きく分けて4つのブロックに分けました。

 ここで部品の脱脂洗浄を行い、古いグリース、汚れなどを完全に落としてしまいます。

 脱脂洗浄後です。部品一つ一つに光沢が出ました。パーツクリーナー、電子部品洗浄剤、simple green、マイペット、エタノールの5種類を使い分けながら綺麗にしていきます。

 

 リールモーターは分解して、ブラシと整流子に付着した汚れを拭き取ります。特に整流子にある隙間に汚れが溜まり易く、念入りな清掃が必要です。

 

 カム動作用の小さいモーターは新品に交換しました。そのままでも問題はありませんが、新品に交換することで動作音の低減を図りました。

 

 組み立てを行っていきます。先にフロント側から、レバー類、ヘッド、ブレーキを取り付けました。

 

 続いてカム用ギヤ、キャプスタン、D.D.回路を組み立てました。ベルトは新品に交換しました。カム用の細いベルトは、伸縮に強いバンコードを使用しました。ギヤにはシリコーングリースを塗布しました。

 

 破損のあった供給側のピンチローラーは、同じAKAIのメカから流用しました。しかし、ローラーがキャプスタンに密着しない状態は変わりません。

 

 そこで矢印の部分を少し削り、密着するようにしました。研削作業にはミニルーターを使用しています。こういった不可逆的な方法は、どんな調整手段も効かない場合に行いますが、一度研削量を多くしてしまうと元に戻せないリスクがありますので、少々難度が高くなります。

 

 D.D.の部分とフロント部分の合体は研削の前に済ませておきました。トライ・アンド・エラーを繰り返しながら研削での調整を行い、リール台を取り付けて回転の確認を行いました。アイドラーのゴムはシリコーンゴム製に交換しました。

 

 カセットホルダはこのように破損していました。こちらは強力な瞬間接着剤で補修しておきました。

 

 カセットホルダを取り付けて完成です。

 

 こちらは交換前のアイドラーです。自作感が強く、自己修理の痕跡かと思います。恐らく再生が不安定であったのは、こちらも原因の一つであったことでしょう。

 

 メカを取り付けて正常に動作出来るかを確認しました。研削でて調整した分、本来より密着力が少し弱いですが、元々のクローズドループ方式に復元できました。

 しかしまたしてもここで、メタルテープでは消去しきれない症状がありました。どうやらヘッドアジマスも手が入れられているようで、録再ヘッドだけでなく消去ヘッドの調整も行いました。

 正常な動作を確認できたら、続いて電子部品の交換に移ります。

 

 まずはタクトスイッチの交換です。この機種は、信号線が各々のボタンにあるため、違うボタンが反応することは構造上ありませんが、ボタンが劣化すれば反応しにくくなる事もあります。

 

 システムコントロール基板の電解コンデンサーを新品に交換しました。

 

 アンプ基板にはオーディオ用を使用しますが、再生アンプ、ヘッドホンアンプには最高級グレードのコンデンサーを使用しました。

 

 電力用のトランジスタは、ここに4つと反対側にもう1つの計5個です。交換後は端子同士が接触して短絡していないか、テスターを使用して確認します。0Ωを指さなければOKです。万一、短絡していると過電圧が印加されて非常に危険です。

 

 OUTPUTボリュームは電子部品洗浄剤を使って処置をしておきました。洗浄剤を吹きかけ、つまみを右へ左へ回します。洗浄剤は速乾性ですぐに乾きます。

 

 基板を取り付ける前に、底部のパネルを清掃しておきました。電源トランスまでも取り外して清掃を行いますので、中まで綺麗な状態にすることができます。

 

 基板、メカを取り付けます。この状態で1週間動作確認を行うため、仮付けの状態にとどめておきます。この状態にしておくのは、もしも途中で異常が発生した場合に素早く対処が行えるようにするためです。

 

 ヘッドの調整、信号レベルの確認と補正をしています。パソコン上のアナライザーに出力信号を表示させながら調整を行います。複数のデッキと互換性を図って調整する方法で行っています。10kHzの正弦波信号と、ホワイトノイズを使用します。

 ホワイトノイズをノーマルテープに録音させて、スペクトルに表示させると20kHzまでフラットに録音出来ていました。録音機としても優秀なスペックです。

 調整が完了したら、実際に再生させての動作確認になります。再生中にも気になる点があれば微調整をします。他のデッキを作業している間、GX-9を再生して常に音が正常かを確認しています。

 

 再生に異常がなければ、いよいよ外装部品の組み立てです。フロントパネルにあるボタンの部分は埃が溜まりやすいですが、残さず綺麗にします。完全に綺麗にした状態で本体へ取り付けます。

 

 配線もタイラップで結束します。先ほど仮付けで結束していなかったのは、何らか異常が発生して例えばメカを再び降ろすことになった場合に、すぐにケーブルを抜き差し出来るとスムーズに取り外しできます。

 

 以上で作業は完了です。GX-9の最大の特徴は、最速3秒で自動でキャリブレーションを行う機能で、録音ボタンを押すと直ちにキャリブレーションを行い、終了すると元の位置まで戻るという当時では最先端の技術を盛り込んだ1台です。この頃までのAKAIのデッキは、積極的にマイコンを使って煩わしい操作を自動化していた事が他社と差をつけるポイントだったと思います。古さを感じさせないデザインも非常に魅力です。

 GX-9のオーバーホールは、メカ部分のみで15,000円、フルコースで22,000円で行っております。今回のような破損が複数箇所がある場合でも、部品を移植することで修復出来る場合もございます。修理が不可能な場合は料金は頂きませんので、お気軽にお問い合わせください。

 

Return Top