今回は1981年製のトリオKX-70のご紹介です。トリオのデッキは今までに経験した事がなく、今回はジャンク品からの復活に挑戦しました。
KX-70は、3万円クラスの廉価機種で、シングルキャプスタン・2ヘッド方式というシンプルな構造です。ポジション切替は手動式で、ノイズリダクションはドルビーBのみです。3万円クラスですが、頭だし機能が搭載されています。
早速、キャビネットを開けて状態を調べます。再生、早送り、巻戻しと、機械的な動作は完全に不可能な状態です。
メカの部分を調べるとキャプスタンベルトが切れているのを発見しました。キャプスタンベルト切れで、機械動作が出来ないということであれば、メカの動力はキャプスタンの回転から貰っているという構造をしています。
外部入力は正常に出来ていますので、電気的な故障の確率は低いようでした。2ヘッド機ですので、録音モードにしないとソースの音声が聞こえません。
フロントパネルを外します。外側の大きいパネルと、ボタン周辺の小さいパネル、メーターの文字盤があります。廉価機ということもあってFLディスプレイは採用されていないようです。1981年ですと高級機種はFLディスプレイが使われています。
基板の構成は、大きい基板がアンプ、本体左側に縦になっているのがシステムコントロールです。メカと繋がっている配線を抜く前に、どれがどこに接続されていたか、マーキングを忘れずにします。
こちらはリールの回転を検知するセンサー部分です。右側のリールからベルトでこのプーリーを回します。すると取り付けられたマグネットが回転し、回転した時の磁場の変化をホール素子が検知して回転しているかどうかを判断しています。この時期のカセットデッキは、まだアナログ式のカウンターを採用している機種もあり、このような構造をしている機種も多くあると思いますが、残念ながらKX-70はカウンターも非搭載です。
半田付けされているケーブルを外さないとメカが外せませんので、半田を吸い取ります。
ケーブルを全て抜けたらメカを固定しているネジを外します。廉価機の割にはサイズの大きいメカです。
先程の回転センサーの部分のアップです。赤丸の部分に磁場の変化を電気信号に変換するホール素子があります。90年代になると赤外線の反射で検知するタイプが主流になりました。
メカの背面はこのようになっています。リールモーターと、キャプスタンモーターからなる2モータータイプです。
ヘッドを上昇させるための機構はここにあります。赤丸の部分にある白い歯車はキャプスタンホイールと一体になっていて常時回転しています。再生モードにするときは、ソレノイドが白い歯車から隣の歯車に動力を繋ぐことで、ヘッドが上昇します。
ここからはメカの分解です。まずはカセットホルダから取り外します。
取り外しはネジを外すだけで難しくありません。しかしカセットホルダを更に分解するとなると難易度がぐっとあがります。
ヘッド周りの様子です。3ヘッド機と比べると、かなりすっきりしています。リールを回すアイドラーはゴム式ですので、交換が必要になります。ブレーキも同じくゴム式で交換が必要です。
次にキャプスタンモーターを外します。メカの下側にもネジがあります。
キャプスタンホイールは、径も大きくなかなか立派なものです。キャプスタンを外しますが、溶け切れたベルトが溶着しているので、注意して取り外します。
キャプスタンを外すと、カムギヤが表れます。ここがメカを動作させる部分です。黒いギヤがブレーキの動作、白いギヤがヘッドの動作を行います。2モーター構成のタイプのメカでは、大抵はソレノイドとセットになっていると思います。
リールモーターとソレノイドを外しました。次にギヤを外していきますが、伝達をすべてギヤで行うタイプは、噛み合わせが違うと動作がおかしくなったりしますので、一番注意したいところです。
メカ前面の部品の取り外しです。リール台は他のデッキと異なって軸も外れますので、軸ごと引き抜いてしまいます。
全部の部品を外すとこのようになります。部品点数がかなり少ないです。やはり2モーター構成のメカはシンプルで整備性も良いです。ただソレノイドを使用するため、動作音が大きいという欠点もあります。でも動作音がかえって良かったりもします。ここもカセットデッキが持つ個性の1つでしょう。
ピンチローラーは、シンプルグリーン洗剤で綺麗にします。
問題はベルトがこべりついたキャプスタンホイールと、モーターのプーリーです。剥がして取れないか試みましたが、全く駄目でした。かなりくっついている様子でした。
剥がす事が難しいのであれば、完全に溶かしてしまう手段に出ます。エタノールに漬けてゴムを軟らかくしていきます。エタノールは溶けたゴムで真っ黒になりますので、衣服に付着してしまうと大変なことになるかもしれません。
無事に綺麗になりました。
カセットホルダも分解しました。SONYのスリーセブンも、似たような構造をしています。80年代後半以降のデッキでしたら、こんな複雑な構造をしたカセットホルダは少ないと思います。
特に厄介なのが、X字に組まれたこちらの部分です。部品と部品が接する部分にはグリースが塗られているため、ここが固着してしまうと開かなくなってしまうという問題があります。しかも同部分が多くあるので、少しグリースが固まるだけで開きにくくなる可能性もあると思います。開閉は問題ありませんでしたが、録音防止が掛かっているかを検知する部分が固着していました。ここも脱脂洗浄が必要です。
脱脂洗浄を行った部品です。完全に古いグリースを落としました。既に製造から36年も経っているのにも関わらず、固着は少なかったです。もっと若い機種でも強固に固着している機種もありますので、やはり保存環境も影響しているのではと思っています。
部品を順に取り付けていきます。ギヤの取付けの時は、噛み合わせに注意です。ギヤに目印となる小さい穴があったりすることもありますが、不安であれば自分で分かるようにマーキングしてしまう方が良いです。
メカ前面を組み立てます。リール用のアイドラーゴムは新品のシリコンゴム製へ交換しました。ブレーキもウレタンゴムを切り出して製作したものを取り付けました。
再びメカの背面に回って、ソレノイドを取り付けます。同じソレノイドでも、配線が違うので間違えて取り付けないように注意します。
続いて、リールモーター、キャプスタンホイール、キャプスタンモーターの順で取り付けます。キャプスタン用のベルトは、φ70mmの物が適合します。ホイールの径が大きい分、ベルトも長めです。
最後にカセットホルダを取り付けて完了です。
メカを接続し、動作確認を行います。キャプスタンが回転したことによって、メカの動作が出来るようになりました。
最後に配線をタイラップで結束します。
機能も必要ものに絞られていますので、少し物足りない部分もあるかもしれません。頭出し機能は搭載していることで、KX-70に価値を持たせていると思います。もし非搭載ならただ再生と録音が出来るだけという、魅力の少ないデッキになってしまう事になります。どの機能に絞っているかを調べると、メーカーのラインナップ戦略が読み取れます。頭だし機能だけ残しているというのがKX-70の大きな特徴だと思います。