皆さん、こんにちは。こんばんは。西村音響店の西村です。
いつも音響店のブログをご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、AKAI、A&Dのカセットデッキに搭載されている『スーパーGXヘッド』についてのお話です。
ツウの方なら既にご存知かもしれませんが、スーパーGXヘッドは摩耗知らずということで知られていますよね。
僕自身も、このヘッドはお気に入りの1つです。黒色に光るヘッドがカッコイイです。
ただ、残念なことに、中には不良品が混じっているようです。
お陰様で数十台のAKAI/A&Dのカセットデッキを見ることができましたが、過去に2台遭遇したことがあります。
あまり良くないニュースをお伝えしてしまうかもしれませんが、今回はその不良品について取り上げます。
目次
録音中、音が左に偏っていたら要注意。
不良品のスーパーGXヘッドが付いたデッキは、再生は特に問題ありませんが、録音がNGです。
実際にホワイトノイズを録音してみると、右chの音が極端に小さくなっています。緑色が左ch、赤色が右chです。
右chだけ、殆ど録音されてない状態です。
この状態から、バイアス調整をしても全く改善しません。
カセットデッキのメーターも、右chだけ振れていません。
となると、電子回路の故障を疑いたいところです。僕も最初は疑いました。
しかし、電子回路の故障は確率的に低いです。今まで修理したカセットデッキで、電子回路が故障していたのは数えられるくらいでした。
そして、何気にヘッドのクリーニングをしようと綿棒を当てると、何か感触がおかしいことに気づきます。
ちょうど、画像の黄線の部分、引っかかる感触があります。
初めてこのような現象に遭遇した時は、僕の保有デッキでしたので、修理を一旦保留してしまいました。
ですが、今度はお客様のデッキで、再び同じ現象と遭遇することになります。今度という今度は、保留というわけにはいかないため、正常なヘッドに付け替えて対処しました。
取り外したヘッドを詳しく調べてみると、不可解な事が判明します。
ヘッド表面に段差がくっきり写る。
真横からマクロ撮影してみました。スマートフォンに装着するだけで接写ができる外付けレンズを使っています。
ここまで大きく写せると、ヘッド表面の状態がはっきりわかります。
これでは少し分かりにくいかもしれませんので、画像を加工しましょう。『ガウシアンフィルタ』を使って、輪郭線を抽出してみます。
さらに、先ほどの黄線の部分を拡大してみると…
なぜか、段差がくっきり写っていました。
摩耗知らずのはずのGXヘッドが、このように綺麗に摩耗するのは考えにくいです。
そして、2台の不良品に共通しているのが、過去に修理歴があるという事です。配線を束ねるタイラップが新しくなっていれば、修理の手が入っていると判断できます。
修理のときにヘッドに何か施されてしまったのか、真実はわかりませんが、何かされていると思います。
ちなみに、再生ヘッドの方は特に問題なさそうでした。
再生はイイ音が出るので、再生専用デッキとしても使えなくはありません。しかし、大事なテープの再生にはおすすめできません。
先ほどの段差があることで、テープに傷をつけてしまう恐れがあるためです。机の縁にコピー用紙を押し付けると、折り目ができると思います。
これと同じで、ヘッドの段差の部分とテープが密着されると、必ずしも生じるとは限りませんが、折り目がつく可能性があります。いくら爪を追って録音不可にしても、物理的なダメージは避けられません。
遭遇してしまったら移植しか方法はありません。
もし、表面に段差が生じているヘッドに遭遇してしまった場合は、正常なものと交換するしかありません。
研磨しようとしても、そもそも硬い素材であるフェライトを削るのは困難です。
そもそも、僕自身も皆さんも、精密研磨のスペシャリストではありませんから、素直に交換するのが無難でしょう。
お客様からご依頼をいただいたデッキに関しても、ヘッドが駄目になっていた場合は、
「大変申し訳ございませんが、他のデッキから移し替える作業が必要です。」
とご案内しています。
※ヘッド移植は『機械部品の移植』メニュー適用で、作業料金に+10,800円(税込)です。
段差の有無は、写真では判らないのが厄介。
さて、不良ヘッドに遭遇した時の対処法をご紹介しましたが、どうすれば遭遇せずに済むかも気になるところです。
今日ではインターネットで中古品を探す機会も多いため、写真を見ながら選んでいくことになると思います。しかし、残念ながら写真では段差の有無はわかりません。
例えば、よくありそうな下の画像です。テープの走行部分を写していますが、段差があるかどうかはまったく分かりません。
先ほどの真横から接写した写真なら判断できるかもしれませんが、このような写真を撮るには分解した状態にする必要があります。
ですので、判断するには下の画像のようなグラフがあると一発でわかります。
これは正常なヘッドに交換した後のものです。ホワイトノイズを録音再生(自己録再)し、スペクトラムアナライザーに表示します。左と右、両方ともしっかり高周波数まで出ていればOKです。
このようなデーターがあると、不良ヘッドに遭遇せずに済みます。
それ以外で判断する方法としては、状態説明で”録音がNG”とあったら疑う方法があります。電子回路の故障の可能性も無きにしも非ずですが、いずれにせよ確実に現品修理ができるとは確信を持てません。
販売者、出品者に質問するという方法もありますが、これは相手によります。詳しい方であれば有益な回答があるかもしれませんが、そうでなければ厳しいでしょう。
となると、最後は運掛けになってしまいます。
まとめ
今回は、AKAI、A&Dのカセットデッキがお好きな方には少し痛いテーマだったかもしれません。僕自身も、このような事情を初めて知ったときは残念でした。
さすがに2台も同じ現象が起きているとなると、何かあると推測しています。
誰かが研磨したのか、それとも使い倒して擦り減ったのか。
もう少し手掛かりが欲しいところです。
今のところ、独立懸架タイプの GX-Z9100EVとGX-Z7100EVでは確認されていません。コンビネーションタイプのGX-Z9100とGX-93で確認しました。
今回取り入れてみたガウシアンフィルタが、思いのほか状態確認に役立ったと思います。パソコンで画像編集が可能になったからこそ、可能な技です。
大学の講義で習いましたが、正直習ってもすぐ忘れてしまいます。しかし、この記事で実際に使ったので、ガウシアンフィルタだけはもう忘れません。恐らく。
これは人生においても非常に大事だと強く思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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