カセットデッキのいろは 第20回
こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。カセットデッキの基礎を学ぶ「カセットのいろは」シリーズ、今回は第20回目でございます。今回のテーマは、ヘッドの材質です。材質というのは、よくカタログの仕様に載っている、アモルファスヘッドとか、センダストヘッドとかって書かれていますよね。今日はこれを深掘りしてみたいと思います。
⇒前回のおはなし 《安いカセットデッキの魅力とは》
人気の無い安いモデルでも、安いからこそ出来る事があります。 |
カセットデッキは、磁気テープに記録された音の信号を、磁気ヘッドという部品で読み取り、信号をアンプで増幅して音を出す機械です。その磁気ヘッドの作りで、カセットデッキの音の良し悪しが決まるといっても過言ではありません。1962年のカセットテープ登場以来、年が進むにつれ技術は発達し、当初音声記録用の媒体が、音楽用の媒体へ進化していきました。それには、磁気ヘッドが良くなったことも欠かせない要素になるでしょう。
さて、今回は磁気ヘッドに使われている金属の材質と性能について着目していくんですが、磁気ヘッドに求められるのは何かというと、音質と耐久性です。材質によって、これらの性能に差があります。メーカーやモデルによって使われている材質が異なるので、これもカセットデッキの個性が出る要因の一つです。初めは、材質の名前を聞いただけでは何のことか分からないかもしれないので、この機会に是非勉強してみましょう。
(以降、磁気ヘッド=ヘッドと呼ぶことにします。)
カセットデッキのヘッド(厳密にはシールドケース)に使われている金属材料は、次の5種類です。まずは、名前と特徴からいってみましょう。
ヘッドに使われる材質5種類
パーマロイ
ニッケルと鉄の合金で、安いラジカセによく使われるものです。ラジカセに使われるのに、実は再生能力はとても高く、音質面でアドバンテージがあります。しかし摩耗に弱いのが弱点。クロームテープやメタルテープを使うと、すぐに擦り減ってしまいます。となると、ノーマルテープしか使わないラジカセには適しているヘッドです。交換する前提でパーマロイヘッドを使えば、デッキのパフォーマンスも上げることが出来るでしょうけど、やはり頻繁に交換する必要性が出てくることから、ちょっと現実的ではありません。
ハードパーマロイ
パーマロイに、ニオブ、チタンなどを付加して、磨り減りやすい弱点を克服したヘッドです。3~5万クラスのモデルに多く見られます。硬さを増した分、パーマロイより再生能力は劣ります。中音域がはっきりしやすく、少し丸い音質が特徴です。
YAMAHA KX-690のヘッド。これと同じものは他に、A&D GX-Z5300、TEAC V-1030にも使われている。
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センダスト
鉄+シリコン+アルミの合金で、アモルファス金属が使われる前のメイン素材でした。音質と耐摩耗性を両立しており、高級モデルにも採用されています。高音域まではっきりしていて、滑らかな音質です。
SONY TC-K75のヘッド。ソニーはセンダストを基ににフェライトも配合して、耐摩耗性をより高めている。ビクターやヤマハも、1980年代前半はセンダストを採用していた。
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フェライト
主に酸化鉄が採用されています。アモルファスヘッドが使われる前は、録音再生ヘッドへの採用も多くありました。黒い光沢が特徴で、摩耗にとても強いです。センダストと同様に高音域まではっきり音が出ますが、やや硬い音質です。また、強い磁力を扱う消去ヘッドは、100kHz以上の高周波を流してもロスが少ないことが求められるため、フェライトヘッドが多用されます。
TEAC C-3Xのヘッド。C-3Xは1980年の発売で、この頃のティアックは、フェライトヘッドを搭載したデッキが多い。
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アモルファス金属
ヘッドの新たな素材として1980年代に登場しました。先ほどご紹介した、センダスト、フェライトが元々主流だったのは、まだアモルファスヘッドが実用化されていなかったためです。アモルファス金属は、鉄、コバルト、ニッケルなどを混ぜて急激に冷やすことによって作られる非結晶の合金です。カセットデッキが求める理想に一番近い性能をもっているため、一気に主流となりました。高音域までしっかり出て、丸すぎず硬すぎず、バランスの取れた癖の少ない音です。ただし同じアモルファスヘッドでも、製造方法の違いで、全く異なった音質になっているデッキもあります。
SONY TC-K333ESAのヘッド。1991年の発売で、アモルファスヘッドが主流になっている時期である。他社もこの頃は同じヘッドが多く使われている。
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まとめると、以下のようになります。
材質 | 耐摩耗性 | 高音域 | 音質 |
---|---|---|---|
パーマロイ | 弱い | 出やすい | やわらかい |
ハードパーマロイ | 普通 | 普通 | やわらかい |
センダスト | 強い | 出やすい | やわらかい |
フェライト | とても強い | 出やすい | 硬い |
アモルファス金属 | 強い※ | 出やすい※ | 中ぐらい※ |
※使用する金属の配合率によって変わります。
まとめ
ヘッドの材質の名称は、メーカーによって呼び方が違ったりしますが、基本的にはこれら5種類です。いかがでしたでしょうか。ヘッドの材質名と特徴が一致させることができれば大丈夫です。
デッキが発売された時期も、ヘッドの材質を見分ける情報になります。アモルファスヘッドは初期のもので1982年ですから、それより前の機種であればセンダストかフェライトが殆どです。アモルファスヘッドが遅れて登場したという事も覚えておくと良いかもしれません。
ちなみに、赤井電機のカセットデッキはちょっと拘りが強いです。GXヘッドと呼ばれる自慢のヘッドを、途中で改良しつつも、1970年代から最終モデルのデッキまで採用し続けました。GXヘッドはフェライトベースなので、摩耗には非常に強いです。
A&D GX-Z9000のヘッド。これは1979年ごろに改良されて登場したスーパーGXヘッドで、1990年に再び改良されます。
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以上、今回はカセットデッキのヘッドの材質についてでした。デッキを複数台欲しいときには、違う種類のヘッドを搭載したデッキをそれぞれ用意すると、音の違いが顕著に出るので面白いです。是非お試しください。
最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
次回の記事:
第21回 カセットデッキのヘッド―5種類の材質を数値で見る。