西村音響店

【カセットデッキのグレード】安い物と高い物はここが違う!

カセットデッキのいろは 第23回

 

 こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。

 今回のテーマは、カセットデッキのグレード分けです。グレード分けというのは、同じ洗濯機でも値段が高いものと安いものがありますよね。高い洗濯機は沢山機能がついていたり省エネだったりしますが、安い洗濯機は必要最低限の機能しかついていないという様に、価格に比例して機能や性能で差別化することをいいます。

 他にも、自動車、カメラ、楽器、エアコン、テレビ、アパレル系だと靴とかもそうですね。まだまだあるでしょう。ぱっと僕が思いついたのが、残念ながらこれだけ。急に「原(はら)」が付く駅名を挙げろと言われても、なぜか有名な秋葉原駅が出てこないものです。

 さて今回は、カセットデッキと価格帯に注目してみたいと思います。カセットデッキも高い物と安い物があって、機能や性能で差別化を図っている物の1つです。

 

どうやってカセットデッキを差別化する?

 家電製品のグレードというのは、価格が高くなるほど性能が良くなったり多機能になったりします。カセットデッキも同じです。値段が高くなるほど、音が良くなる、あるいは便利な機能が付けられます。

 では、一体カセットデッキのグレード分けは、どのようになっているのか見ていきましょう。人によりグレードの分け方に好みがあると思いますが、僕であれば次のように分けます。

  • 3~6万円  初級機・エントリーモデル
  • 6~9万円  中級機・ミドルモデル
  • 9~16万円 上級機・フラッグシップモデル

 例えば1990年ごろのA&Dなら、初級機にGX-Z6300EV、中級機にGX-Z7100EV、フラッグシップにGX-Z9100EVという展開がされていました。ただ、初級機にはもう一つGX-Z5300というモデルもあり、エントリーモデルの中でも更にグレード分けがされています。

 SONYではどうでしょうか。スリーヘッドデッキでお馴染みの222、333、555であれば、初級機に222、中級機に333、フラッグシップに555という位置づけでしょう。

 ただし、発売時期で価格が異なるなどもあって、一概に先ほどの分け方が合う限りではありません。

A&Dの中級機にあたるGX-Z7100EV。動作可能な状態の物で、だいたい2~3万円くらいで取引されている。

 

 では、これら3つのグレードで、どのような差があるのか、掘り下げていきましょう。デッキ選びの際に参考にしていだければ嬉しいです。

 まず共通点として押さえておきたいポイントがあります。それは、フラッグシップモデルを基準にして、機能を省略したり性能を抑制したりして、ミドルクラス、エントリークラスを作っていること。もちろん、特殊な場合もありますが、傾向としてこの点を押さえておきたいところです。

 いくつかメーカーを例に挙げてみます。1つ目は先ほど挙げた1990年ごろのA&D。差がある部分は何カ所かありますが、ここではキャプスタン用のモーターに着目してみましょう。フラッグシップのGX-Z9100EVは、再生速度をより正確にするためにクォーツが使われています。クォーツというのは水晶で、よくクォーツ時計って売ってますよね。時間を正確に刻むために必要なものです。(電波時計には敵いませんが…)カセットデッキではクォーツを使うことで、再生速度を正確に設定することができます。

 クォーツを省略すると中級機のGX-Z7100EVになります。クォーツが無い場合、コンデンサと抵抗を組み合わせた電気回路で回転数を制御します。コンデンサや抵抗は、温度変化によって僅かではありますが設定がずれます。また電子部品が劣化した場合も、再生速度がずれる原因となってしまいます。したがって再生速度の調整が必要になってきます。ただし、回転ムラはクォーツを使っているGX-Z9100EVと同じくらい少ないですので、再生安定性は高いです。

 回転さらにもっと省略して通常のDCモーターにすると初級機のGX-Z6300EVになります。モーターの他に、キャプスタンも軽量のものが使われていますので、回転ムラが多くなってしまいます。回転ムラが多くなるといっても、ピアノソロのような繊細な曲でなければ気にならないです。クラシックやジャズなど、楽器中心の曲をよく聴くのでしたら、高級モデルを使ったほうが良い音で聴けます。

GX-Z9100EV GX-Z7100EV GX-Z6300EV
クォーツを使っているので、常に速度が正確。調整も不要。 クォーツが無いので、スピードの調整が必要になる。再生の安定性は引けを取らない。 ブラシ付きのモーターなので、再生安定性は劣る。スピードの調整がも必要。

 再生安定性というのは、例えば安定性が悪いとピアノの音が波打って細かくビブラートしているように聞こえたりします。これを詳しくはワウ・フラッターと呼びますが、再生安定性が高いほどワウ・フラッターが発生しにくくなります。高級モデルは再生安定性を高めるためにキャプスタンを重くするなど、部品にコストを掛けるなどをして対策しています。

 

 2つ目はSONY。1989年だと、フラッグシップのTC-K555ESGは銅メッキのシャーシを採用して音を阻害する磁気の抑制を狙っています。その銅メッキを省略すると、TC-K333ESGに。さらに、アンプの回路を簡素にすると初級機のTC-K222ESGになります。

 

 最後に1990年ごろのTEACを例にしてみましょう。フラッグシップには、V-8000Sというモデルがあります。このモデルは、ノイズリダクションの中でも効果が高いドルビーSが使えるので、カセットテープ特有の「シー」というヒスノイズが殆ど無い状態で録音・再生できます。

 そのドルビーSを省略すると、中の上クラスであるV-7000になります。ドルビーSが省略されても、キャプスタンの回転にはクォーツが使われていて再生能力はとても高いです。そこから、キャプスタン用モーターを通常のDCモーターにすると、中の下クラスであるV-5000になります。モーターが通常のモーターになったとはいえ、アンプの部分は実はV-7000とV-5000は同じで、音質的にはどちらも申し分ありません。

 ここまでは3台とも、音揺れの少ないクローズドループ・デュアルキャプスタン方式を採用しています。あと、録音の調整で便利なキャリブレーション機能もついています。しかし、これらを省略してシングルキャプスタン方式、キャリブレーション機能無しにすると、今度は初級機のV-3000になります。

 TEACの面白いのは、グレードが細かくても分かりやすいところで、1993年になると全7種類のバリエーションになります。

エントリークラス V-1010  
V-2020S ドルビーS搭載
V-3010
ミドルクラス V-5010  
V-7010 クォーツ採用
フラッグシップ V-8000S クォーツ採用・ドルビーS搭載

 

 3社とも、グレードが下がるにつれて再生能力も比例して抑えられている傾向にあります。しかし、いくら安いグレードだからといって落胆する必要は全くありません。高級モデルの場合、現在でも人気が高くて中古でも高値で取引されやすく、なかなか安く手に入れることは難しいです。

 特にカセットデッキを最近始めた方や、これから始めたいと考えている方であれば、最初から高価なデッキに手を伸ばすことに抵抗感を覚えるかもしれません。そういった方には、是非エントリークラスから始めてみるのがおすすめです。エントリークラスでも、音質の良い3ヘッド方式のモデルがあるので、高級機でなくとも良い音を楽しむことができます。もし余裕があれば中級機にしていただくと、録音や再生に便利な機能が付いていたりしますので面白いですよ。

 

まとめ

 いかがでしたでしょうか。余裕のある方はいきなり高級機に行ってもOKですが、安いカセットデッキをしっかり堪能してから高級機にシフトすると、安いデッキと高いデッキの差が良く分かると思いますし、カセットデッキの世界の奥深さがより感じられるはずと思います。まずエントリークラスで基本を勉強して使いこなせるようになると、恐らく何か不満が出てきますから、そうなったら買い増しや買い替えを検討しましょう。

 僕が初めて本格的なカセットデッキを買ったのは初級機のTEAC V-1030で、使い始めはすっごく満足してました。

「カセットって、すんげーいい音出るじゃん」って。音質を堪能するわけです。

 でもですね、3カ月くらいか経ってキャリブレーション機能というのを知ると、新しいデッキが欲しくなってしまいます。キャリブレーション機能を搭載しているモデルは、だいたい中級機くらいなので、当時5,000円の買い物も高いと思ってしまう高校生の僕は、なかなか手が出せませんでした。小遣いを貯めて貯めてやっと買ったのがSONYのTC-K222ESGでしたね。

 カメラでも一緒だと思います。初めての一眼レフでエントリーモデルを買うと、最初は一眼レフの高画質ぶりに満足するんですが、暫く経つと「連写おっせーなー…」って不満が出ています。するとワンランク上のカメラが欲しくなってしまうわけですね。連写じゃなくても、レンズが物足りなくて「望遠足りねーじゃんか…」と不満になって、でっかい望遠レンズを買い増したくなると思います。

 こうやって、徐々にステップアップしていくと、数十万するカメラも自由自在に使えるようになるんですね。レベルアップには練習練習です。

 今回ご紹介した各モデルは、オーディオの足跡さんのサイトに詳しいデータが掲載されているので、見るだけでも勉強になります。是非一度、グレードでどんな違いがあるか色々探してみて下さい。

 長々となりましたが、最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

 

次回の記事:
第24回 【カセットデッキ】キャプスタンモーターは1種類じゃない。4種類もある。

前回の記事:
第22回 アモルファスヘッドは、アモルファスという名前の金属ではない。

 

Return Top