西村音響店

アモルファスヘッドは、アモルファスという名前の金属ではない。

カセットデッキのいろは 第22回
 

 こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。

 今回のテーマはアモルファスヘッドについて取り上げます。前回と前々回で、カセットデッキのヘッドに使われる金属の材質についてご紹介しました。パーマロイ、ハードパーマロイ、センダスト、フェライト、そしてアモルファス金属。全部で5つありました。

 その中で、アモルファス金属は単に″アモルファス”と表記せず、アモルファス金属またはアモルファス合金と表記しています。これにはちゃんと理由があるんです。まぁアモルファスと言っても全然通じちゃうんですけどね。ただ厳密にはちょっと違います。

 ですので、今回はちょっと頭の片隅に置いておく程度に読んでいただけたら嬉しいです。

 


 

アモルファスってどういう意味?

 さて、アモルファスヘッドは、1980年代に入って、カセットデッキの録音・再生ヘッドに多く使われるようになりました。僕が知っている限りですと、1982年にはアモルファスヘッドを搭載したモデルが出ていました。SONYのTC-K444が最も早いと思いますが、それよりも早く搭載したデッキがありましたらごめんなさい。

 最も早いデッキは。2ヘッドのTc-FX77だそうです。(2019/01/18訂正)

これまでヘッドの材料には、パーマロイ、センダスト、フェライト、アモルファスが使われてきて、中でもアモルファスが理想に近い素材であることから、開発が進められ主流となりました。

 カセットデッキに精通している方であれば、アモルファスヘッドという言葉を知らない方は少ないと思います。

 「アモルファスヘッドって、アモルファスが使われているヘッドのこと?」

 残念ながら違います。

 そもそもアモルファスという言葉の意味、日本語に訳すと非晶質(ひしょうしつ)。結晶構造をしていないということをいいます。難しいので身近なものを例に出して解説しましょう。

 

 例えば、10円玉。何で出来ていますか?

 銅ですよね。実際は若干、銅以外の物質が入っていますけども、ここでは100%の銅としましょう。僕たちが10円玉を手に持つことができるのは、銅という原子が円形になるように規則正しく並んで結合しているからです。この状態を、理科の授業では固体と習いましたね。

 ではもし、規則正しく並んでいなかったら…これをアモルファスと呼びます。

 

 今度は、10℃の水をゆっくり凍らせて氷にするシーンを想像してみましょうか。日光の天然氷のように綺麗な氷を作りますよ。液体である水は、原子同士の結束が弱いので、原子は自由に動けます。では、水をゆっくり冷やしていきましょう。ゆっくりゆっくり冷やすことがポイントです。0℃になると段々凍り始めます。このとき原子は、規則正しく並びながら原子同士の結束を強くしていきます。やがて、全ての原子が結束すると、固体となって綺麗な氷が出来上がります。

 ゆっくり凍らすことで、原子は綺麗に整列するので、綺麗な氷を作ることができます。ではもし、ゆっくりではなくて急に冷やすとどうなると思いますか?

 これは皆さんの家庭にある、冷蔵庫の氷になります。

 全ての原子が規則正しく整列するまでにはある程度時間がかかります。なので、一気に冷却すると、整列する前に原子が動けなくなってしまうので、綺麗な氷にはなりません。冷蔵庫で作られた氷の真ん中を見てみると、白くなっていると思います。この正体は空気で、原子が規則正しく並んでいない状態が空気となって現れます。この原子が規則正しくない状態がアモルファスです。

 

 実際に、アモルファスヘッドに使われる金属も、同じような製法で作られています。

 アモルファスはどちらかというと状態のことを指し、物体を指すには、例えば氷なら「アモルファス氷」、そして金属であればアモルファス金属またはアモルファス合金と呼ばれます。

 カセットデッキのアモルファスヘッドは、どんな材料が使われているかというと、色々あります。鉄、ケイ素、コバルト、ニッケル、モリブテン、ホウ素…
これらの金属を液体の状態で混ぜた後、先ほどの冷蔵庫の氷ように、一気に冷やします。すると、アモルファスの金属が出来上がります。金属の混ぜ具合は自由に調整できるので、配合率によって出来上がる金属の性能も変わります。

 

カセットデッキにおけるアモルファス合金

 理科のネタばっかりで恐縮ですが、さてここでカセットデッキのお話に戻しましょう。

 アモルファスヘッドは、各社名前を付けて、高性能ヘッドであることをアピールしていました。例えばTEACなら「コバルト・アモルファスヘッド」、ソニーなら「レーザーアモルファスヘッド」という名称で販売していました。カタログなどを見ると、そのように書かれています。

 TEAC のコバルト・アモルファスヘッドは、名前からするとコバルトをメインに配合したアモルファス金属ではないかと思います。実際にコバルトを配合したアモルファス合金は存在します。

 では、ソニーのレーザーアモルファスヘッドはどうでしょうか。レーザーというのは、レーザー加工のことを指していると思います。このヘッドは愛好家の中では摩耗しやすいヘッドとして知られています。同じアモルファス合金なのに、なぜでしょうか。さっきのTEACで摩耗が著しいという事例は、僕自身ではまだ見たことがありません。

SONY TC-K555ESXのレーザーアモルファスヘッド。1982年から採用されているアモルファスヘッドとしては初期のもの。

 

 となると、同じアモルファスヘッドでも、使っている金属材料が違うかもしれません。当然、材料が異なれば、音質も変わってきます。

 僕はソニーのアモルファスヘッドが音質の面で好きなので、よく使っています。音がくっきりするくらいの硬い音で、重低音がどしどし出てくるのがお気に入りです。しかし摩耗しやすい欠点もあるので、状態の悪いテープは控えるなど、労わって使うようにしています。

 大抵のカセットデッキは摩耗に対しても強いので、あまり敏感にならなくても大丈夫ですが、かなり古い(だいたい40年以上前)テープは、磁性粉が剥がれてしまっているなど劣化していることがあります。磁性粉が剥がれると、目には見えませんがテープの表面がざらざらした状態になります。そうなると、やすりで削るように、ヘッドを摩耗させやすいので気を付けましょう。

 僕がアルバイトでデジタル化の仕事をしていたときに、製造から2年も経っていないカセットデッキのヘッドに凹凸がくっきり出来ていたのを覚えています。仕事柄、毎日動かさなければならないということもあって、デッキとってはとても過酷だったと思います。なので、僕たちが出来るカセットデッキを長生きさせることは、1本1本大事に再生すること。あと、日々のお手入れをしっかり行ってあげることでしょう。

 

まとめ

 いかがでしたでしょうか。今回はアモルファス合金の作り方まで踏み込んだので、カセットデッキの話題から遠ざかった内容になったかもしれません。ただ”アモルファス”という名前の金属はないので、それだけでも覚えていただけたら、この回はOKです。

 最初、アモルファスってどれくらい硬いのか調べようとして検索してみても、あまり明確なデータが出てこないといいますか、色んな種類がありすぎて混乱しました。それで、アモルファスという言葉を調べると、そもそも金属の名前ではないということが分かって、やっと謎が解けたという次第ですね。謎解きは非常によい勉強になります。

 以上、今回はアモルファスという名前の金属は無いということについてでした。最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

 

次回の記事:第23回 【カセットデッキのグレード】安い物と高い物はここが違う!

前回の記事:第21回 カセットデッキのヘッド―5種類の材質を数値で見る。

 

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