カセットデッキのいろは 第38回
こんにちは、こんばんは。西村音響店の西村です。
音響店のブログをお読みくださり、ありがとうございます。
今回は、「カセットデッキの中で最もノイズリダクション効果が強いのは『dbx』。しかし、dbxが必ずしも良いとは限りません。」という話題でお送りします。
皆さんは『dbx』をご存知ですか?
カセットデッキのノイズリダクションには何種類かある中で、ノイズ低減効果が最も強いのが『dbx』です。
カセットテープのノイズを殆ど皆無の状態にして録音・再生が出来る優れものですが、実は弱点もあります。
残念ながら、ピアノソロの曲には相性が良くないようです。
そもそもdbxの仕組みとは。
dbxは、ドルビー方式と処理の仕方が根本的に違います。
簡単に説明すると、音量の差を少なくしてから録音するのがdbxです。小さい音は大きくして、大きい音は小さくして録音します。専門用語だと『ノーマライゼーション』に近いです。
図に表すと、このようになります。
例えば、+20dB~-80dBまで、合計100dBの範囲があるとします。これを半分の50dBに圧縮します。オーディオ用語を使えば、ダイナミックレンジを2分の1にすると表現できます。
具体的には、+20dBの音は+10dBに、-80dBの音は-40dBの音量にするという処理です。
基準となる0dBよりも大きいほど、あるいは小さいほど、音量の変化量が多くなる点がdbxの特徴的な部分です。
少し難しくすると、dbxはノイズリダクションの中でも対数圧縮方式という分類に分けられます。
例えば、0dBから+10dBにレベルを上げると、電圧は3.162倍になります。デシベルが対数の関係になっていることから、対数圧縮方式と呼ばれる由来なのではないかと思います。
対数圧縮方式は他にも、東芝のアドレス(adres)があります。dbxと仕組みは似ていますが、アドレスは圧縮量が3分の2です。圧縮量を少し減らすことで、dbxの欠点を解消したものになっています。
マニアックなものですと、ハイコムⅡ、スーパーD、Lo-Dコンパンダーがありますが、僕はまだ目にしたことがありません。
dbxとピアノソロは息継ぎ現象が起きます
『息継ぎ現象』は、例えばピアノソロの曲でしたら、ピアノの音が鳴る度にノイズまで大きく再生されてしまうことです。
dbxやアドレスのような対数圧縮方式は、基準の0dBから離れるほど音質の変化に敏感になります。
例えば、-50dBの音がdbxによって-25dBで録音されていたとしましょう。これが何らかで-20dBで再生されてしまった場合、―40dBで再生されることになります。
音量に10dBもの差が出来てしまい、場合によっては音質が変化してしまうかもしれません。
ピアノソロがなぜ息継ぎ減少が目立つのか、原理はまだ詳しくわかりませんが、ピアノの音にヒスノイズに近い成分が混ざっているのではないかと考察しています。
「シー」というヒスノイズやバイアスノイズが、ピアノの音と同時に大きくなるので、一緒に増幅されてしまっているのかもしれません。
ドルビー・dbx・adresを聴き比べてみましょう
それでは、ピアノソロの曲にはどのノイズリダクションが適しているか、実際に聴いてみましょう。
0:00~ ノイズリダクションOFF
1:17~ ドルビーB
2:34~ ドルビーC
3:52~ dbX
5:09~ ドルビーS
6:24~ 東芝・adres
まとめ
今回は、最強のノイズリダクションであるdbxの弱点を洗い出すようなテーマになってしまいました。確かにdbxは最強です。磁気テープのノイズを皆無に近づけることができます。
しかし、効果を強めた代償として、今回ご紹介したような副作用が発生することになります。
ノイズリダクションを使う上で大事なことは、曲のジャンルによって種類を使い分けることです。
さて、ピアノソロはどれを使えばよいと思いましたでしょうか?
恐らく一番良かったのはドルビーS、次にドルビーCだと思います。
では、ドルビーSかドルビーC、どちらが良いでしょうか。
これは人により好みがあると思います。
僕はドルビーCを主に使います。色々なカセットデッキで聴きたいとすると、ドルビーCの方が対応しているデッキが多いためです。1982年以降に製造されたデッキなら殆ど対応しているので、汎用性が高い利点を持っています。
ドルビーSは確かに強いですが、対応しているデッキが比較的新しめの機種に限られてしまいます。ただ、dbxには届かないものの、ノイズも無いに近いくらいまでに減らすことができます。
dbxはピアノソロが苦手だったのに対し、ドルビーSは問題ありません。オールラウンドに使えるノイズリダクションだと思います。
本当にカセットテープの音を素直に楽しみたい方は、ぜひノイズリダクションは『OFF』で行きましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。